日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。

2024.09.09

【対談】 国内外のイマージョン教育と比較した「豊橋版イマージョン教育」のユニークさとは? 〜早稲田大学 原田 哲男教授×UCLA林(高倉)あさこ博士〜

【対談】 国内外のイマージョン教育と比較した「豊橋版イマージョン教育」のユニークさとは? 〜早稲田大学 原田 哲男教授×UCLA林(高倉)あさこ博士〜

2024年6月24日(月)、豊橋市立八町小学校(愛知県)は、5年生が英語を使って社会科を学ぶイマージョン授業の研究会を実施。当研究所(以下、IBS)は、早稲田大学 原田哲男教授およびカリフォルニア大学ロサンゼルス校 林(高倉)あさこ博士とともに、授業視察と授業研究協議会に参加しました。今回はさらに、原田教授と林博士による対談を7月1日(月)に実施。国内外のイマージョン教育に精通する研究者2名による意見交換について、八町小の授業や協議会の様子とともにご紹介します。

著者:佐藤 有里

 

まとめ

● 国内外のイマージョン教育では、学習対象の言語を自発的に使うよう促すことが課題になっている。一方、八町小では、日本語使用を尊重しながら英語を使って教科学習を深めるトランスランゲージングの効果が見られる。

● 八町小児童の英語使用をさらに促すためには、英語を使えるようなコンテクストやタスクを効果的につくり出すことが不可欠。言語習得や異文化理解の観点から、日本語のほうが強い児童と英語のほうが強い児童が一緒に学ぶ米国の双方向イマージョン教育は理想的である。

● 認知能力が高くなってくる3・4年生以降は、英語力が自分の知的レベルまで上がっていなくて「できない」という気持ちになった児童をどのようにサポートするかが課題。八町小は、高学年の児童も授業に引きつけられている様子が見られるため、公立学校のイマージョン教育にとって多くの知見を提供すると考えられる。

 

■対談者プロフィール

・原田 哲男 教授(以下、原田)

早稲田大学 教育・総合科学学術院 教授。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)にて博士号(応用言語学)を取得。その後、オレゴン大学で教鞭を執り、2005年より現職。専門は、第二言語習得、外国語の音声習得、英語教育、バイリンガル教育など。ワールド・ファミリー バイリンガルサイエンス研究所の学術アドバイザーも務める。

 

・林(高倉)あさこ 博士(以下、林)

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)上級講師(Senior Lecturer)。コロンビア大学日本語教育法修士号を取得し、ボストン大学言語教育学博士号を取得。ハーバード大学日本語科講師を経て、2001年よりUCLAのDepartment of Asian Languages and Culturesにて日本語プログラム講師を務める。また、ロサンゼルスの公立小学校における日本語イマージョンプログラムのスーパーバイザーも長年務めている。主な研究分野は、日本語・英語バイリンガルの言語発達、日本語継承語話者を対象としたカリキュラム開発、コンピュータ学習教材の開発。

 

【目次】

 

はじめに:視察・対談の経緯

八町小学校(以下、八町小)は、2020年度より、国語と道徳以外の教科は主に英語を使って学ぶイマージョン学級を開設。公立小学校による英語イマージョン教育(※1)の導入は、国内初の取り組みであり、今年度(2024年度)で5年目を迎えます。

IBSは、イマージョン教育の研究を行う原田哲男教授(早稲田大学教育・総合科学学術院/IBS学術アドバイザー)とともに、研究活動および社会貢献活動の一環として、2021年度から計8回の授業視察や同校教員との意見交換などを実施しています(※2)

現在の5年生は、1年生のときからイマージョン授業を受けてきた児童たちであることから、「豊橋版イマージョン教育」の成果を確認する指標の一つです。今回は、この5年生の社会科授業を対象に授業研究が開催されました。

IBSは、昨年に引き続き、今後の課題設定について支援するべく、全学年の授業視察および授業研究協議会における原田教授の講演、意見交換を行いました。

さらに、原田教授の共同研究者であり、特にアメリカの日本語イマージョンプログラムの状況に精通する林(高倉)あさこ博士が同行。八町小の授業視察から1週間後、原田教授と林博士による意見交換会をオンラインで実施しました。

 

自然な言語使用を促すことは、イマージョン教育の共通課題

―教科学習を深めるために母語使用を許容しながらも、英語での発話をいかに促すか、という点は、八町小が精力的に取り組んでいる課題の一つです。国内外のイマージョン教育でもやはり同じ課題がありますか?

原田:
米国のスペイン語イマージョン・プログラムに関する研究論文では、授業中のグループ・ディスカッションは、スペイン語力がかなり高い子どもであっても、やはり周りの子どもが英語を話していると英語になってしまうことが報告されています。

休み時間の会話も、当然、社会の多数派言語である英語に支配されてしまうようです。イマージョンプログラムには、そういう現実がありますよね。

 

林:
そうですね。子どもたちが自発的に目標言語で話すレベルに持っていくことは、難しいですよね。アメリカの日本語イマージョンプログラム(詳細は、佐藤, 2021a; 佐藤, 2021b参照)でも、日本語で話すように促すことはなかなか難しいです。

アメリカの日本語補習校でさえ、日本の教科書を使って日本語で教えていても、親が両親とも日本人の子どもや家では日本語を使っている子どもであっても、普段の会話では英語のほうが楽なので、英語になってしまいます。

 

原田:
日本のある私立学校の英語イマージョン・プログラムでは、先生たちが生徒の言語使用を一生懸命コントロールしていた、と聞いたことがあります。休み時間に日本語を使っていると、「英語で話しなさい」と言われることもあるようです。

ただ、英語だけしか許されないがために教科学習が深まらない、という考え方もあるはずです。

八町小では、児童の日本語使用を尊重するトランスランゲージング(※3)が教科学習における理解力や深い認知的思考の促進につながっていると思います(詳細は、佐藤, 2023)。

一方で、アメリカの日本語イマージョンプログラムでは、トランスランゲージングが効果的だと聞いていてもなかなか実践できない先生もいるようです。

何人かの先生に聞いたところ、「英語(母語)使用を認めたら、すべての発話が英語になってしまってコントロールが難しくなる」と話していましたね。

ですから、「目標言語をうまく使わせながら教科学習を深めるためのトランスランゲージング」という意識が不可欠だと思います。

 

林:
私も、八町小のトランスランゲージングはとても良いと思いました。

ですから、「今は絶対に英語しか話してはいけない」というふうにしないほうが良いですよね。

 

子どもたちの母語を尊重しながら英語使用を促すためにできること

林:
アメリカの日本語イマージョン・プログラムでは、その学年やクラスに、日本語を使って授業や活動をリードする子どもや、絶対に日本語しか話さないようにしている子どもが1人でもいたりすると、自然とコミュニケーションの言語が日本語になる場面はあります。

八町小は、前回の視察時にもそういうクラスづくりやグループづくりがとてもうまくいっているように見えたので、もっとできると良いかもしれませんね。

 

原田:
林先生がおっしゃるように、目標言語を使えるようなコンテクストやタスクをうまく作り出すことは不可欠ですよね。

イマージョン教育で英語使用を促すタスクには、1)コミュニケーション・ギャップがあること、2)言語学習だけではなく教科学習としても意味があること、3)他教科も含めた既習の知識・技能などを使って達成できること、4)言語学習だけではなく教科学習の観点からも成果を評価できることが大切です(Ellis, 2009の定義を基礎にイマージョン教育でのタスクを原田が定義) 。

今回の研究授業では、グループワークを中心としたタスクによって英語使用が促進されていましたが(資料1・2)、この4つの観点から見ても、良いタスクだと思いました。

また、教師の発問に答えさせるだけではなく、発表した児童に対して質問させることで、児童同士のやりとりで英語を使う機会につながっていた点(資料3)は素晴らしかったと思います。

いまの5年生が卒業するまでの1年半で、日本語の使用を尊重しながらも、目標言語である英語のインプットとアウトプット、インタラクションを最大限にする授業案をつくっていくことが目標になるのではないでしょうか。

 

八町小の研究授業の様子を示す写真

資料1:八町小の研究授業:5年生の社会科「米づくりのさかんな地域」

今回は、米農家のMr. I(ミスターアイ)が米づくりを継続できるようにするためのアドバイスを考えて表現する授業。調べ学習をもとに英語で書いた自分の考えをグループで共有し、一つひとつの困りごとに対する解決策を整理してまとめていく。

 

グループワーク学習の様子

資料2:グループワークにおける生徒同士のやりとり

“We will talk about〜.(〜について話しましょう)”、“Who has ideas for this?(これについて意見がある人はいますか?)”など、ファシリテーター役の児童が英語を使って進行することで、ほかの児童も、できる限り英語で発話しようとする姿が観察された。また、どの問題に対する解決策なのかを整理する必要があるため、お互いの発話に耳を傾けて思考している様子も見られた。

 

八町小の授業の様子|英語のグループ発表に英語で質問する生徒

資料3:グループ発表に対する質疑応答

教師は、発表を聞いた児童たちに対して質問があるかどうかを確認していた。何名かの児童が手を挙げ、例えば下記の質問が出た。

児童A:えっとYou mentioned that you. . .あ. . . you increase the number of people. But did you change. . . how. . . did you change how to work?(人数を増やす、という話が出ましたが、作業のやり方は変えましたか?)

これまでの授業観察から、特に積極的に英語を使おうとする児童の一人だと考えられるが、その場で自分が伝えたいことを即興的に英語で表現しようとする姿勢がさらに養われている様子が伺えた。

 

八町小における双方向イマージョンの可能性

林:
子どもたち同士で授業中にいろいろと発話するようになる3、4年生くらいには、「今、先生は何て言ったんだっけ?」というようなちょっとした会話でも英語を使うようになると、イマージョン・プログラムの効果がさらに出てくるような気がします。

また、授業中だけではなく、休み時間や給食の時間、行き帰りの時間などでも英語を自然にコミュニケーションのツールとして使う、ということがもっと定着してくると良いのではないかと感じました。

 

原田:
子どもたち同士が授業外でも自然と英語を使うような環境をつくる、という意味では、Two-wayイマージョン(双方向イマージョン)(詳細は、佐藤, 2021cを参照)は理想的だと思います。

アメリカ国内のバイリンガル教育(Dual Language Program)では、Two-wayイマージョンの歴史も長いですよね。

フロリダ州でキューバからの移民(スペイン語話者)が増えてきた1960年代、現地の子どもたちもスペイン語を学んでお互いに理解し合うことが必要、ということで、公立小学校でスペイン語を話す移民の子どもたちと英語を話す現地の子どもたちが同じクラスで英語とスペイン語を使って学ぶTwo-wayイマージョンが始まりました。

アメリカの日本語イマージョン・プログラムは、Two-wayイマージョンを含めて40校以上だと思いますが、徐々に増えてきています。

 

林:
Two-wayイマージョンは、子どもたちが目標言語(八町小であれば英語)を使ってもっと自発的に話せるようになることが良いですよね。

 

原田:
そうですよね。もし英語のTwo-wayイマージョンであれば、半分が日本語話者(英語が第二言語)で、もう半分は英語話者(英語が第一言語)、というクラス構成になります。

英語話者というのは、必ずしもネイティブ・スピーカーである必要はなく、日本語よりも英語を多く使う生徒、というイメージです。

その生徒たちが同じクラスで日本語または英語で教科を学ぶ、同じクラスやグループに日本語話者もいるし英語話者もいる、という状況は、子ども同士のやりとりで目標言語を使うことを促すうえでとても良いですよね。

八町小のイマージョン学級には、海外から帰国した児童や外国籍の児童などが特別枠として6名まで入級できるようになっていますが、その中には、英語のほうが強くて日本語を学びたい子どももいるわけです。

これはTwo-wayイマージョンの考え方に近いですし、このような子どもの割合が増えれば、「日本語を話す子どもたちの英語教育」という枠を超えて、帰国児童や外国籍児童の日本語学習と英語力維持をサポートする教育にもなると思います。

 

林:
言語習得の面で非常に理想的ですね。ただ、アメリカの日本語イマージョン・プログラムでTwo-wayが成り立っている学校はとても少ないと思います。

八町小の子どもたちとオンライン交流をしている日本語イマージョンの小学校は、ロサンゼルス近郊の中では日本語の母語話者や日本語のほうが強い子どもが多く在籍しているのですが、それでもクラスの50%に満たない学年は多いです。

先日、日本語イマージョン・プログラムのディレクターの方とお話しする機会があったのですが、子どもが入学する時点で日本語と英語のどちらが強いのかを判断することはなかなか難しいようです。

親御さんが「うちの子は日本語のほうが強いです」と申告していても、実際にはそうでないこともあります。

 

原田:
そうですね。Two-wayイマージョンにするために、日本語と英語のどちらかが教科学習を行えるレベルになっている子どもを探す、ということはとても難しいですよね。

なかなか英語話者50%、日本語話者50%、というふうにはならない、という話は、私も周りから聞きますから、この点はTwo-wayイマージョンの課題です。

ただ、帰り道でも休み時間でも、二つの言語を適切に使っていくような人間関係ができれば、お互いの言語を習得するだけでなく、異文化理解など、言語以上に重要なものを身につけることに繋がるのではないかと思います。

 

One-wayイマージョンとTwo-wayイマージョンの違いを表す図

出典:原田(2024)

資料4:豊橋版イマージョン教育における双方向イマージョンの可能性
八町小の授業研究協議会では、原田教授が八町小教員を対象に講話を実施。八町小イマージョン学級のクラス構成に注目し、日本語のほうが強い児童と英語のほうが強い児童がお互いに学び合える可能性についても解説された。

 

いまの1年生が卒業する時点での成果にも注目

原田:
稲田先生(元八町小教頭 ※4)によると、いまの1年生の授業も、イマージョン学級が始まった当初の1年生の授業と比べると、とても良いものになってきているようです。

豊橋版イマージョン教育に対する親御さんの理解も先生たちの授業力も5年間で高まってきて、この1年生が卒業する時点でも八町小の取り組みを評価してもらいたい、ということでした。

私も八町小には何度もお邪魔していますが、今回、どの学年の授業でも一人のひとりの子どもから「授業に食いついていこう」という雰囲気がとても伝わってきました。

 

林先生:
5年間で取り組んできたことが蓄積されて、すべての学年で成果が出てきたいま、卒業時点で「これが思い描いていた子どもたちの姿だ」というところに持っていけるかどうかがとても重要ですよね。

いろいろなイマージョン・プログラムを見させていただいた経験からすると、低学年の授業では、子どもたちが授業に食いついていて「すごい!」と思うことは多いです。でも、高学年の授業となると、子どもたちが受け身の姿勢で先生の話を聞いているだけ、というような状況も見られます。

子どもの認知能力は、当然だんだん高くなっていくわけですよね。ですから、言語習得でもよく「9歳の壁」(※5)と言いますが、3年生や4年生くらいになると、自分の頭で考えている言語と違う言語を使う場合に、「この言語でならこれができるのに、こっちの言語ではできない」ということが自分でわかるようになります。

そのときに、「できない」とあきらめてしまうのか、それとも、もう一方の言語も自分の認知能力のレベルまで引き上げようとするのか、という個人差が3・4年生くらいから出始めて、5・6年生になるとどちらかに分かれてしまうのだと思います。

これには、先生たちの指導力も関わってきますよね。

 

原田:
そういう意味では、八町小の5・6年生の授業を見て「すごい」と思われる方は多いと思います。今回も、よくここまで英語を使って教科学習の内容を聞いたり読んだりできるようになり、さらに発表できるようにまでなったなと驚きました。

本当に八町小の先生たちによる努力の賜物だと思います。先生たちが時間をかけて準備して授業に臨んで、その授業に子どもたちが惹きつけられてがんばっている。そういう様子を拝見できて本当にうれしくなりました。

 

林:
そうですね。学びたい気持ちや知的好奇心はあるのに、英語のレベルが自分の知的レベルまで上がっていなくて「できない」という気持ちになったとき、その悔しさや自己肯定感の低下を乗り越えて英語力を上げようとする、というところが子どもたちにとってはチャレンジですよね。

自分の強いほうの言語(日本語)に引っ張られることは、決して悪いことではないですし、世界中の人々が全員バイリンガルにならなくてはいけないわけでもありません。

ただ、イマージョン・プログラムで教育を受けている以上、本人が「できない」と心を閉ざしてしまうと、本人もつらいでしょうし、教えている先生も大変になってくるのかなという気はします。

 

原田:
たしかに、アメリカの一部の日本語イマージョン・プログラムを見ると、4年生や5年生の授業は大変ですよね。

ただ、日本の英語イマージョンは、ある意味ではアメリカの日本語イマージョンよりも成功しているとも言えます。

日本における英語は、アメリカにおける日本語よりもそのステータスや学習動機が高いこと、また多くの英語イマージョン教育が私立学校で実施されていることなど、いろいろな要因があると思いますが、そのため日本の英語イマージョン教育がより良い成果をあげているのかもしれません。

また、日本の私立学校は、中学校や高校、場合によっては大学まで、日本語と英語を使いながら学習するような教育を受け続けられる、という継続性があります。国際バカロレアのプログラムとうまく融合させている学校もありますから、子どもも親も、学習の目的意識や意義を見失わないんです。

八町小の場合はこの継続性がまだないので、その成果を評価するうえで未知数の部分は多いですが、日本語も尊重しながら英語を使って学習するトランスランゲージングの取り組みがどれくらいうまくいくか、という点にとても注目しています。

公立学校におけるイマージョン教育にとって、多くの知見を提供してくれるはずです。

 

八町小の授業研究協議会の様子

2024年6月24日に行われた八町小の授業研究協議会
八町小の研究授業では、日本人教員(イマージョン授業を担当しない通常学級の教員も含む)やNET(※6)が複数人で授業観察を行う。児童たちの発話や教師とのやりとりを記録し、言語学習(日本語と英語の発達)だけではなく、学習指導要領に沿った教科学習の観点から授業の改善点を協議している。

 

(※1)イマージョン教育は、バイリンガル教育の一つの形態。学校の教科を二つの言語(母語ともう一つの言語)で指導し、両方の言語を読み書きのレベルまで育て、さらに二つの社会文化を受容できることを目的とする。どの授業をどちらの言語で教えるか、それぞれの言語使用をどれくらいの割合にするかは、各学校のプログラムや学年によって異なるが、幼稚園(5歳)から高校卒業までの間(少なくとも5年間)、全学年で授業プログラムの50%以上を外国語や第二言語で指導することがイマージョン教育の特徴とされる(Center for Applied Linguistics, n.d.)。また、日本では、文部科学省の学習指導要領に基づいた教育課程が編成される。イマージョン教育や過去の視察についての詳細は、関連記事(本ページの下部を参照)をご覧ください。

(※2)くわしくは、過去に掲載した八町小の視察レポート記事をご覧ください。

(※3)バイリンガルやマルチリンガルは、複数の言語資源を流動的に交差させながら統制し、異なる言語間の境界線(文字や音韻、構造、語彙、社会文化的背景などのあらゆる違い)を超越して言語を理解し使用する、という考え方(Wei, 2018)。このような二言語使用は、近年、効果的にコミュニケーションを図ろうとするバイリンガル特有の能力として肯定的に捉えられている。

(※4)八町小の教頭としてイマージョン学級の立ち上げに尽力した稲田 恒久教諭。現在、豊橋市磯部小学校校長および豊橋市小中学校英語企画委員会 委員長。中部地域の教育現場における功績を評価され、「第54回中日教育賞」を受賞(中日新聞, 2023)。

(※5)ここで述べられた「9歳の壁」は、主に、聴覚障害児の教育において「小学生の高学年(9歳くらい)の段階で、抽象的な語彙の習得や抽象的な思考が難しいために、読み書きや学力の面で伸びなやむ(停滞する)状態」を意味する(国立特別支援教育総合研究所, 2016, p.3)。この現象は聴覚障害のない子どもにも見られ、「生活言語」から「学習言語」への移行につまずく現象として解釈する研究もある(脇中, 2013)。この研究では、「生活言語」と「学習言語」がバイリンガル教育の理論である「BICS(Basic Interpersonal Communicative Skills)」と「CALP(Cognitive Academic Language Proficiency)」と結びつけられており、海外在住の子どもの日本語教育に当てはめて考えられることがある。BICSは対人的な会話能力、CALPは抽象的な概念や考えを理解したり表現したりする言語能力であり、このBICS からCALP への移行が必ずしも容易でなく、母語でも第二言語でも9歳前後にやってくる子供にとっての挑戦とされる(Cummins, 2008)。

(※6)NET(ネイティブ・イングリッシュ・ティーチャー)は、英語を母語として話す教員。豊橋市で長年ALTとしての指導経験を積み、市の教員として採用されている。

 

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【協力】

豊橋市立八町小学校

豊橋市教育委員会

 

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日本語OKのイマージョン授業でも、子どもたちは英語を使おうとする? 〜豊橋市立八町小学校の授業観察より〜

 

参考文献

Cummins, J. (2008). BICS and CALP: Empirical and Theoretical Status of the Distinction. In Hornberger, N.H. (Eds.), Encyclopedia of Language and Education. Springer.

https://doi.org/10.1007/978-0-387-30424-3_36

 

Ellis, R. (2009). Task-based language teaching: sorting out the misunderstandings. International Journal of Applied Linguistics, 19(3), 221-246.

https://doi.org/10.1111/j.1473-4192.2009.00231.x

 

Wei L. Translanguaging as a Practical Theory of Language. Appl Linguist. 2018 Feb; 39(1): 9-30.

https://doi.org/10.1093/applin/amx039

 

国立特別支援教育総合研究所(2016). 聴覚障害教育Q&A 50 〜聴覚に障害のある子どもの指導・支援〜」. Retrieved from https://www.nise.go.jp/cms/resources/content/9317/20160414-215751.pdf

 

佐藤有里(2021a). アメリカで実践されている日本語イマージョン教育 〜UCLA林(高倉)あさこ講師インタビュー(前編). ワールド・ファミリー バイリンガルサイエンス研究所.

https://bilingualscience.com/english/%e3%82%a2%e3%83%a1%e3%83%aa%e3%82%ab%e3%81%a7%e5%ae%9f%e8%b7%b5%e3%81%95%e3%82%8c%e3%81%a6%e3%81%84%e3%82%8b%e6%97%a5%e6%9c%ac%e8%aa%9e%e3%82%a4%e3%83%9e%e3%83%bc%e3%82%b8%e3%83%a7%e3%83%b3%e6%95%99/

 

佐藤有里(2021b). アメリカで実践されている日本語イマージョン教育 〜UCLA林(高倉)あさこ講師インタビュー(後編). ワールド・ファミリー バイリンガルサイエンス研究所.

https://bilingualscience.com/english/%e3%82%a2%e3%83%a1%e3%83%aa%e3%82%ab%e3%81%a7%e5%ae%9f%e8%b7%b5%e3%81%95%e3%82%8c%e3%81%a6%e3%81%84%e3%82%8b%e6%97%a5%e6%9c%ac%e8%aa%9e%e3%82%a4%e3%83%9e%e3%83%bc%e3%82%b8%e3%83%a7%e3%83%b3%e6%95%99-2/

 

佐藤有里(2021c). お互いの言語で学び合うバイリンガル教育「双方向イマージョン」. ワールド・ファミリー バイリンガルサイエンス研究所.

お互いの言語で学び合うバイリンガル教育「双方向イマージョン」

 

佐藤有里(2024). 4年目を迎えた「豊橋版イマージョン教育」の成果と今後の展望 〜早稲田大学 原田 哲男教授の講演をもとに〜

4年目を迎えた「豊橋版イマージョン教育」の成果と今後の展望 〜早稲田大学 原田 哲男教授の講演をもとに〜

 

中日新聞(2023, October 24). 第54回 受賞者 愛知県豊橋市立磯部小学校校長 稲田恒久さん. Retrieved from

https://www.chunichi.co.jp/article/794824

 

原田哲男(2024, Jun. 24). 八町小学校のイマージョン教育を国内外のプログラムと比較して 〜5年生をいかに送り出すか?〜 [講話資料]. 豊橋市立八町小学校 授業研究協議会, 愛知県豊橋市.

 

脇中起余子(2013). 「9歳の壁」を越えるために:生活言語から学習言語への移行を考える. 北大路書房.

 

 

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