日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。

2023.03.31

ICTの活用で広がる国内外の小学校交流の実践例紹介

ICTの活用で広がる国内外の小学校交流の実践例紹介

2020年から小学校学習指導要領の改訂がスタートしたことに伴い、英語教育に大きな変化がもたらされました。授業時間数の増加により、小学校5、6年生では週2回英語の授業が行われ、それまで行われていた「話す」「聞く」に加え「読む」「書く」の指導が追加されました。また、成績評価が始まるなど、他の教科と同等の扱いがされています (【小学校外国語】学習指導要領をまるごと解説! ②2020年実施のポイント | Teach For Japan, 2022)。

改訂後の小学校高学年の英語の授業における「話す」活動では、「やりとり」と「発表」という二種類の内容が扱われています。特に「やりとり」の活動ではペアを組んで英語で会話をし、相手の発話に対して即興的に反応したり質問を返したりする能力の育成が求められています。しかし、日常的に英語を使用する機会の乏しい日本のEFL(English as a Foreign Language)環境において、即興的に相手の発言に対応することに抵抗を持っている児童は少なくありません。

このような発話することへの不安感や抵抗感を無くすために、英語能力の他に自分が伝えたい内容を獲得していくことの必要性や、目的・場面・状況に応じた言語活動によって生徒が達成感を味わうことの重要性が叫ばれています(小林, 2021)。また同時に、「言いたいことをなんとか頑張って英語で言ってみても通じなかった」というもどかしい経験も成長の糧になると考えられています(Turner&Harder, 2018)。

近年インターネットを用いたコミュニケーションと英語教育の融合に関する研究が盛んに行われており、小学校英語教育のこのような状況を打破するために、ICTやネットワークの活用が期待できると言えます。

そこでこの記事では、ICTを有効活用した海外の同年代の児童との異文化交流の実践例を複数参照し、小学校高学年の児童たちが生き生きと、英語でのやりとりを試みる様子をご覧いただきたいと思います。

 

【目次】

 

 

ICT×英語教育に関連する重要キーワード

ICTを活用した英語教育について考える際に参照しておくべき2つのキーワードがあります。これらは児童らが英語での会話活動中に成功体験を重ねていく上で非常に重要な概念ですので、教員の方々や英語の指導を仕事としている方はぜひ参考にしてみてください。

 

Willingness to Communicate (伝えたい内容がある、意欲)

(MacIntyre, Clément, Dörnyei, & Noels, 1998)

Willingness to Communicate(WTC)とは、コミュニケーションを開始する意欲を表す概念です。本来はアメリカでのコミュニケーション学において第一言語によるコミュニケーションを行う意欲を測定するために生み出された尺度ですが、MacIntyre, Clément, Dörnyei, & Noels(1998)は “Reainess to enter into discourse at a particular time with a specific person, using a L2. (第二言語を使ってある特定の時間に会話を始めることに準備が整っているかどうかの指標)”と定義しています。

近年第二言語習得とWTCに関する研究は多く、 これまでの研究では英語学習者の不安はWTCと深く関連していること(Lightbown & Spada, 2021)、国際的志向性の高い人ほどWTCも高くなっていること(Yashima, 2002)、そして八嶋(2004)は、英語で異文化の相手と英語でコミュニケーションをとり、それが肯定的な経験であるとさらに国際的志向性や学習動機が高まると報告しています。

 

Noticing the gap(気づき仮説)

Schmidt(1990)は、自身のポルトガル語学習の過程で日記を記録し、母語話者との会話の録音を分析する研究を行いました。分析の結果、インプットがなかったポルトガル語の文法や表現は、自分の発話の中には出てこなかったと言います。逆に、発話に使われた文法や表現はインプットでよく聞いており、実際の会話の場面で彼自身が注意を向け、気づいたものだったというのです。つまり、会話中に注意を向けた文法や表現ほど、日常生活で「気づき」が起こり、ポルトガル語の習得につながったということです。

その後もSchmidtは、第二言語習得において「意識」や「気づき」がどのような役割を担っているかを研究しました。彼は、学習者が見聞きした言語のうち、意識的に注意を向けたものが脳に取り入れられること、そして、それらの文法や表現を習得するためには「気づき」が必要だと主張しました。つまり、特定の文法や表現を習得するためにはそれらの内容や意味自体を理解するだけではなく、日常生活のさまざまな場面で特定のインプットが使われていることに気づき、注意が払われる必要があるというのです。第二言語を教える教員や保護者の役目は、学習者に特定の文法や表現に注意を向けさせ、「気づき」を起こさせることであるとも主張しています。

 

ICT×英語教育の実践例紹介

Willingness to CommunicateとNoticing the gapという重要な概念について確認をしたところで、ここからはICTと英語教育を活用した英語の授業の実践例を3つほど紹介していきたいと思います。

 

実践例1 ハワイと沖縄の小学校 ICT遠隔交流(興津, 2009)

1つ目に紹介するICTを活用した英語の授業は、琉球大学附属小学校とハワイ州プナホウ小学校で実践されたものです。参加した児童は琉球大附属小の4年生25名、そしてプナホウ小の34名です。今回の交流を行うにあたり、沖縄県教育庁の「小学校英語科の目標(4年生)」に準じて以下の目標を定めています。

小学校英語科の目標(4年生)3つ

表1 小学校英語科の目標(4年生)

 

交流活動の具体案 4点

表2 交流活動の具体案

 

この交流会のプログラムは ①学級紹介& 挨拶、②質疑応答クイズ、③文化交流、④ゲーム活動の4つの活動で成り立っています。

②の質疑応答クイズでは、各国独自のアイテムや食べ物などを紹介し、それが何であるかを連想、予想させるような活動を盛り込んでいます。例えば、琉球大附属小からは日本独自である給食当番の服、ランドセル、そろばんを見せてそれらがどうやって使われるのか、いつ使われるのかを予想してもらいました。プナホウ小の児童たちからは、ハワイで演奏される伝統楽器や伝統工芸品が紹介されました。

③の文化交流活動では、お互いの国の紹介したい文化をプレゼンテーション形式で発表しました。附属小からは小学校の校歌と習字をその場で披露。プナホウ小からはフラダンスとハワイアンソングが披露され、3人のフラダンサーリーダーが率先してフラダンスの主要な部分の振り付けを教えてくれました。その後、参加者全員でフラダンスを実際に踊ってみるという体験も行われたようです。

④のゲーム活動では、お互いの国文化や言語の違いに焦点を当てながらじゃんけんとSimon Saysというゲームを行いました。また、国別の動物の鳴き声の表し方の違いの紹介も取り入れられ、国が違えば鳴き声も異なるということを学んだようです。

交流会終了後、参加した附属小とプナホウ小の児童たち合計59名に対してアンケート調査が行われ、今回の交流会が児童たちの国際理解や異文化理解の面に影響があったかどうかが調査されました。調査の結果、特に印象的であったことは、児童たちはすでに日本人であること、そして沖縄文化の代表者であるという自覚が芽生えている点です。そしてその自覚は、異文化のことについてもっと知りたいという欲求と共に得られており、異文化と自文化の意識の相乗効果が表れていると言えるでしょう。このことは、「どのようなことが楽しかったですか?」という質問に対する「ハワイと沖縄には共通している部分がいくつかあることが分かった。」「ハワイと沖縄にはどちらも王様がいた。」「ハワイに日本人によく似ている人がいる。」などという回答から予想ができます。

また、外国語活動に対する児童たちの回答も印象的でした。「英語をもっと覚えて話したい。」「ハワイの子には日本語を教えてあげたいです。」「漫画の話、今度は恥ずかしがらずに交流会をしたい。」「本人のところに行って英語をしゃべりたいです。」などという回答から、これまで蓄積した英語表現を使ってコミュニケーションをとったことに対する喜びや楽しみが素直に表現されていることがわかります。また、その気持ちが更なる英語学習への意欲に結びついていることも分かります。

 

実践例2 日韓交流を通したShokuikuの実践(神田, 今井, 藤倉, 尾崎, 吉本, 中山 & 武藤, 2015)

岐阜県のある国立小学校では、6年生と韓国ソウル市内にある小学校の5年生との間で「食育」をテーマとした交流がオンラインで行われました。岐阜県のこの小学校では1〜4年生の間に週に1回、総合的な学習の時間や学年裁量の時間に英語活動を受けています。また、このソウル市内小学校の児童たちは市の教育庁から英語教育先導学校に指定されており、参加児童は3、4年生の時に週2回ほど英語の授業を受けていたそうです。

このオンライン交流会のテーマは「似ている?似ていない?世界の食べ物」です。また、「韓国の食文化への興味を深めること」を目標として設定しました。食文化の視点では「諸外国の食事の様子を知ることで、韓国と日本の食文化について理解を深めること」「自分たちの食生活は、他の地域や諸外国とも深い関わりがあることに気づくこと」を目標としました。

日本と韓国の児童にとって共通の内容であることや小学校高学年の段階で英語でのコミュニケーションが可能であろう題材を選択する必要があったため、「主食(のり巻き)」、「おやつ」、「学校給食」の3つに決定されました。この3つの題材については、オンライン交流当日より前の3授業分で取り扱われ、オンライン交流会当日は英語を使って、それまでの3回の授業におけるグループ活動で話し合い決定した事柄を、韓国の児童にプレゼンテーションするという流れです。

 

「主食(のり巻き)」に関する英語学習

表3 「似ている?似ていない?世界の食べ物」Shokuiku 1内容

1回目の授業では「主食(のり巻き)」をテーマに、「What’s in your Norimaki?」「We have XX, XX, and XX.」という英語表現を用いながら日本の海苔巻きには何が入っているのか、韓国の海苔巻きには何が入っているのかを伝えたり予想したりする活動が行われました。 主食をのり巻きにした理由は、韓国の伝統的なのり巻きである「キンパ」と視覚的に似ているためです。導入として、海外の学校給食の画像を全体にクイズ形式で提示した後、日本ののり巻きの画像を見せ、具体的に何が入っているかを教員が発問、児童に回答させました。

メイン活動では、「What’s in your Norimaki?」と「We have XXX, XXX and XXX.」という英語表現を用いてメインティーチャーとアシスタントティーチャーが会話のお手本を見せた後、児童たちはグループごとにオリジナルのり巻きを描き、具材として何が含まれているのかを上記の英語表現を用いて発表し合いました。

 

「おやつ」に関する英語学習

表4 「似ている?似ていない?世界の食べ物」Shokuiku 2内容

2回目の授業のテーマは「おやつ」で、学習目標を「食べ物の味を尋ねたり答えたりする」と定め、「What does XX taste like?」「It tastes like XX.(食感や味の英語表現)」を使って韓国の人気菓子を試食しつつ感想を英語で伝え合いました。

この活動では甘い、しょっぱい、酸っぱい、苦い、辛いなど5つの味覚表現とサクサク、ねばねばなどの食感表現を学びました。また、教員は事前に韓国の小学校の児童が日常的によく食べるお菓子を調査し、上記の味覚と食感を特徴にもつ7つの菓子を準備しました。

導入として、児童らが通う小学校のある西日本の伝統菓子の製造工程を写真で見せ、今回使う英語表現を確認しました。メイン活動ではまず、グループに分かれて韓国のお菓子を試食し、味覚や食感を英語でクラスメイトと確認します。その後、各自が好きな韓国のお菓子トップ3を選定しました。この韓国の菓子トップ3はShokuiku 4の国際交流当日に韓国の小学生に向けて発表する予定であったため、韓国の小学校に日本の小学生に人気のあるお菓子7点を送付しました。

 

「学校給食」に関する英語学習

表5「似ている?似ていない?世界の食べ物」Shokuiku 3内容

そして3回目の授業では「好きなメニューと理由を答える」「日本と韓国のちがいや似ているところを見つける」を目標として定めました。まずは自国の小学校の5日分の給食献立表を確認し、自分の好きなメニューとその理由を考えます。その後「What menu do you like?」「I like XX day menu.」「Because I like XX.」という英語表現を用いてペアに伝えました。次に、韓国の小学校の5 日分の給食献立表を見て、好きなメニューとその理由、使われている食材や味、食感の予想を1回目と2回目の授業で習った英語表現(We have XXX, XXX and XXX./ It tastes like sweet/ salty/ sour/ hot/ spicy.)を活用しながら答えました。

 

これまでの3つのテーマを踏まえた自国の食文化の紹介について

表6 「似ている?似ていない?世界の食べ物」Shokuiku 4内容

いよいよ4回目の授業は韓国ソウル市内の小学校の児童とのSkypeを活用したオンライン交流会です。オンライン交流会では1,2,3回の授業で学んできた内容と英語表現を生かすことが目標です。児童たちは事前に学んで練習した表現を用いて日本ののり巻きを2種類、日本のお菓子上位3つ、そして日本の学校給食の内容を紹介しました。韓国の小学生たちは、反対に韓国ののり巻きはどんなものなのか、韓国の人気お菓子上位3つ、そして韓国の学校給食を2つ、紹介してくれました。

オンライン交流会後、児童たちの英語を使って国際交流を行うこと、そして食文化を学ぶことへの意識の変化が調査されました。調査の結果、日本で人気のおかしと韓国で人気のあるおかしの味覚や風味が異なっているという相違点を発見したり、名前の発音方法が似ていることで盛り上がったことが児童たちにとって印象的だったようです。

また、外国語教育に関する児童たちの反応に関しては、特に初めてみる韓国のおやつへの反応が大きかったといいます。アンケート調査の結果、「味に関する言葉を英語で表現することへの自信がついた」と答えた生徒が多く、児童が自ら実際に試食をし、初めて感じた味覚は伝える内容が明確であるため、味覚の英語を表現する自信につながったと考えられます。また、近年は外国からの輸入菓子や料理を手に入れることが容易になったため、外国語活動や外国語の授業において、「本物の教材」として海外の食べ物を活用することがより一層期待できます。

 

 

まとめ ~「英語で伝えたい!」という思いを尊重するためのICT英語教育の可能性~

このコラムではここまで、英語教育におけるICTの活用をテーマに、日本の小学校と海外の小学校のオンライン交流会の実践例を取り上げてきました。いかがでしたでしょうか?日常的に英語に囲まれた環境にいない児童たちが英語の授業の中で、英語で「やりとり」をする能力を養うべき時代になった今、ICTを活用した国際交流を積極的に行うことで「もっと英語を勉強して次は実際に会って気持ちを伝えたい」「英語と日本語を教え合いたい」という児童の気持ちを育むことが重要と言えるのではないでしょうか。

これまで、当研究所もICTを活用した日米の子どもの交流を行ってきました。

日本とアメリカの小学生がオンラインで交流し、SDGsの課題解決に取り組みました

 

本年は愛知県豊橋市立八町小学校(英語イマージョン教育校)の生徒とカリフォルニアの小学校の生徒がZOOMで交流するプロジェクトを支援しています。

本年の交流でも、子どもたちが日本語と英語を適宜使用してコミュニケーションをとったり、自分たちの思いを何とか言葉で伝えるために工夫する姿を見ることができました。子どもたちを対象にしたアンケート結果からも、言語使用のモチベーションが高まるという回答が多く見られました。

このような交流活動が子どもの第二言語習得にどのような影響を与えるのか、当研究所も継続して考察したいと思います。

 

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参考文献

MacIntyre, P. D., Clément, R., Dörnyei, Z., & Noels, K. A. (1998). Conceptualizing willingness to communicate in a L2: A situational model of L2 confidence and affiliation. The Modern Language Journal, 82(4), 545-562.

https://doi.org/10.1111/j.1540-4781.1998.tb05543.x

 

中村典生, 倉田伸, 松元浩一, & 鈴木章能. (2020). ICT を用いたハワイ・オアフ島と五島の小学校の英語交流授業について. 長崎大学教育学部紀要, (6), 141-147.

http://hdl.handle.net/10069/40108

 

與儀峰奈子. (2009). ICT 遠隔交流を通した国際理解. 琉球大学教育学部紀要, (74), 69-87.

https://u-ryukyu.repo.nii.ac.jp/records/2004772

 

神田聖子, 今井亜湖, 藤倉純子, 尾崎友美, 吉本優子, 中山洋, & 武藤志真子. (2015). 小学校外国語活動における日韓交流を通じた Shokuiku の実践. 日本食育学会誌, 9(1), 81-91.

https://doi.org/10.14986/shokuiku.9.81

 

小林翔. (2021). 英語でのスピーキングに対する抵抗感の変化―ICT を活用した協働型国際交流に焦点をあてて―. 全国英語教育学会紀要, 32, 161-176.

https://doi.org/10.20581/arele.32.0_161

 

Lightbown, P. M., & Spada, N. (2021). How Languages Are Learned 5th Edition. Oxford university press.

 

Schmidt, R. W.(1990).The role of consciousness in second language learning. Applied Linguistics,11, 129-158.

https://doi.org/10.1093/applin/11.2.129

 

Swain, M. (1995). Three functions of output in second language learning. Principles and practice in applied linguistics: Studies in honor of HG Widdowson, 125-144.

 

Teach For Japan. 「【小学校外国語】学習指導要領をまるごと解説! ②2020年実施のポイント |Teach For Japan」.

https://teachforjapan.org/journal/9514/

 

Yashima, T. (2002). Willingness to communicate in a second language: The Japanese EFL context. The Modern Language Journal, 86(1), 54-66.

https://doi.org/10.1111/1540-4781.00136

 

Yashima, T., Zenuk‐Nishide, L., & Shimizu, K. (2004). The influence of attitudes and affect on willingness to communicate and second language communication. Language learning, 54(1), 119-152.

https://doi.org/10.1111/j.1467-9922.2004.00250.x

 

 

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