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2022.11.15

Withコロナの時代の新しい留学「オンライン留学」への期待とその効果について

Withコロナの時代の新しい留学「オンライン留学」への期待とその効果について

2020年の早春より新型コロナウイルスが世界中で蔓延し、以前のように気軽に留学へ行くということが難しい状況が続いています。世界的に見ると、以前のような厳しい行動制限や渡航禁止令などの措置が出されている国は大幅に減少しており、日本でも2022年10月11日より訪日外国人観光客のパッケージツアーのみの制限措置が撤廃され、入国者健康管理システムへの申請を行う必要がなくなりました。しかし、海外で長期間の滞在となる留学では、現地で万が一新型コロナウイルスに感染してしまったらどうしようなどと不安に思われる方も多いでしょう。

このような状況下で、日本の一部の大学などでは「オンライン留学」という全く新しい形の留学が導入され、注目を集めています。「コロナ禍」から「withコロナの時代」へと転換期を迎え徐々に以前の生活に戻り始めている今、海外留学を夢見る学生たちが活用する「オンライン留学」とは一体どのような制度なのか、参加後に期待される効果、そして今後の課題について大学の実践例を参照しながら探っていきたいと思います。

【目次】

 

オンライン留学とは何か

現在、すでに海外からの留学生の受け入れを全面再開している国々もありますが、新型コロナウイルス発生以前のように大学側がスムーズに在学生を現地に送り出すことは現状ではまだ難しい状況が続いているようです。海外留学を志している学生を現地へと送ることができないという悩ましい状況下で各地の大学で誕生したのが「オンライン留学」という制度です。

例えば、大阪大学工学研究科国際交流推進センターではこれまで工学部の学生たちにさまざまな海外研修や留学制度を提供してきましたが、中でも人気があったのが夏休み期間を利用した短期研修プログラムでした。2020年からの短期研修プログラムは開催不可となり、留学を楽しみにしていた学生たちは断念せざるを得なくなってしまったそうです。そこで、兼ねてから提携先として交流のある海外の大学と連携し、オンラインバーチャル留学を2021年より実施することが決定しました(堀, 箱守 & 藤田, 2022)。

同じような理由から和洋女子大学でも2021年度からオンライン留学の制度が導入されたそうです。同大学のオンライン留学は、春休みと夏休みの期間を使って提携団体または協定校が実施する授業や研修をオンラインで受講できるような制度であり、語学力、異文化理解力を深めるものから、自分の専門分野の知識を英語で深めることのできる授業など多岐にわたります。

ZOOMを用いたプレゼンテーションやディスカッションができるのも魅力で、それを可能にするのが少人数制度のクラスのおかげであり、海外の学生たちともしっかりとコミュニケーションが取れるよう工夫がなされているようです(仲谷, 2022)。

また、ICT を活用し海外の学生たちと授業に参加する「COIL」という協働学習が注目されています。「COIL」とはCollaborative Online International Learningの略で、国内の大学などの授業内容と海外のクラスの内容をマッチさせ、協働学習を行うという新しい取り組みです。一般的に「オンライン留学」と呼ばれる制度は、英語などの語学学習目的で実施されることも多いですが、COILでは海外の学生とともに外国語をコミュニケーションツールとして使用しながら協働学習を行うことに焦点が当てられています。例えば、同じような内容を取り扱っている日本国内の大学の科目と海外の大学の科目がペアを組み、それぞれの科目を履修している学生がオンライン上で数人のグループになります。編成されたグループで協力して、一つのプロジェクトやプレゼンテーションに取り組むことが目的です。時差が大きい場合はリアルタイムでの対面授業は難しくなるため、動画ストリームなどを学生たちが都合の良い時間に視聴し、プロジェクトを進めるそうです(池田, 2020)。

 

大阪大学でのオンライン留学実践例紹介

ここで、上記で紹介した大阪大学におけるオンライン留学プログラム「理工系学部生のための海外英語研修」の実践例を取り上げていきたいと思います。

この「理工系学部生のための海外英語研修」で学生たちは、オーストラリアのモナシュ大学で行われている「未来のリーダーとなるためのグローバルコミュニケーション」という授業と阪大の理工系向けにカスタマイズされたオリジナルの授業を組み合わせた独自のプログラムに参加します。

プログラムで使用されたシステムはGoogle,  Zoom, eBookやQuizizzといったデジタルラーニングプラットフォームです。プログラムに参加している阪大の学生同士が孤独感を感じにくくするために「Slack」と呼ばれる交流型SNSでグループが作成されました。また、阪大の国際交流推進センターから学生に対して定期的に研修の様子について確認の連絡がなされ、オンライン留学中に孤独を感じさせないサポート体制が強化されました。オンライン留学のタイムテーブルは以下の通りです。

オンライン留学の時間割

表1 オンライン留学の時間割(掘, 箱守 & 藤田, 2022)

 

授業は月曜から金曜に開講され、休憩を挟みながら1日に4時間授業が行われました。オーストラリアと日本には時差が1時間しかないため、参加者の生活に支障がないこともこのプログラムの良い点とされています。

このプログラムは、参加者の英語レベルによって中級クラスと上級クラスの2クラスが用意されました。中級クラスではIELTS4.0〜5.0、上級クラスではIELTS5.5〜6.5です。参加するためには最低でもIELTS4.0の基準を満たす必要があります。 IELTS 4.0〜5.0とは英検で言うところの準2級(高校中程度)〜2級程度、TOEICでは450〜600点程度の英語力と言われています。また、IELTSのバンドスコア表の説明書きによると、4.0は「慣れた状況においてのみ、基本的能力を発揮できる。理解力、表現力の問題が頻繁に見られる。複雑な言語は使用できない。」また、5.0の能力は「仕事、学校、娯楽などで普段出会うような身近な話題について標準的な話し方であれば、主要な点を理解できる。」とされています。

参考:IELTS 5.0のレベルはどれくらい?持っているとできることや対策法をIELTS 8.0の講師が解説 https://berkeleyhouse.co.jp/blog/ielts/aim-ielts5-0/

 

上級クラスの参加条件であるIELTS5.5〜6.5の英語レベルはどれくらいでしょうか。バンドスコア表の説明書きでは5.5を取得した場合、「部分的に英語を駆使する力があり、ほとんどの状況で全体的な意味を掴むことができる。自身の精通した分野においては、基本的なコミュニケーションを行うことができる。」とされています。また、6.5に要求される英語力は、「不確定さ、不適切さ、および誤解がいくらか見られるものの、概して英語を効果的に駆使する能力がある。特に、慣れ親しんだ状況下ではかなり複雑な言語を使いこなすことができる。」とあります。

参考:IELTSバンドスコア・採点方法 | 英語検定・試験のIELTS公式サイトhttps://ieltsjp.com/japan/about/about-ielts/ielts-band-scores

 

プログラムの達成目標や授業構成、そして授業の手法は中級クラスと上級クラスで異なります。中級クラスでの達成目標は「文化やグローバルビジネスに関するテーマについて流暢に話せるようになること」です。そのため、スピーキングの練習を多く取り入れた授業構成になっています。ロールプレイやプレゼンテーション、グループディスカッションなどが手法として取り入れられました。以下が中級クラスの時間割です。

中級レベル:1週間の時間割

表2 中級レベル:1週間の時間割(掘, 箱守 & 藤田, 2022)

 

上級クラスにはすでに英語を流暢に話せる学生が多くいるため、主な達成目標は「文章を読み込む力、英語で批評する力、さまざまなトピックについて英語で会話を展開していく力をつけること」です。授業手法は中級クラスと同様にロールプレイやプレゼンテーション、グループディスカッションなどが取り入れられました。

上級レベル:1週間の時間割

表3:上級レベル:1週間の時間割(掘, 箱守 & 藤田, 2022)

 

オンライン留学に参加することにより得られる効果

上記で紹介したように、日本国内ではICT を駆使した「オンライン留学」や「COIL」と呼ばれる精度が徐々に導入され、活発化してきています。それに伴い、実際にこのような画期的な制度を使って海外の学生たちと学習、交流をした学生たちに期待されるさまざまな効果が報告され始めているようです。

大阪大学工学研究科国際交流推進センターで実施されているオンラインバーチャル留学に参加した学生たちが体験後に回答したアンケート結果によると、「英語は好きですか」という質問に対して「好き」「少し好き」と答えた学生は、オンラインバーチャル留学に参加する前より参加後の方が増えていたそうです。具体的な数値を見てみると、オンライン留学前のアンケートで「少し好き」と答えた人の割合は0%だったのがオンライン留学体験後には50%まで増加しました。さらに、オンライン留学前に「少し嫌い」と答えた人の割合が、オンライン留学後には40%から0%に減少しました。以下、学生が回答したアンケートの結果をまとめた表をご参照ください。

「英語は好きですか」に対する回答結果

表4: 「英語は好きですか」に対する回答結果(掘, 箱守 & 藤田, 2022)

 

またその他の結果として、「将来英語圏に留学もしくは、暮らしてみたい」という回答に対して留学体験前は「暮らしてみたい」と答えた学生は4割程度でしたが、体験後には7割まで伸びていたこともわかったそうです(堀, 箱守 & 藤田, 2022)。

仲谷(2022)によると、和洋女子大学でのオンライン留学に参加した学生たちは、実際に現地へ留学に行った後に起こるような反応を示したそうです。オンライン学習で出会った海外の学生との出会いのおかげで、その国で起きている問題や課題を他人事としてではなく自分ごととして捉えられるようになり、新たなキャリアの方向性が見えたと述べる学生もいれば、英語で発言する勇気が出るようになったと言う学生もいました。

関西大学で実践されているCOILの重要な目的は、さまざまなバックグラウンドやニーズ、事情を持つ日本の学生たちを対象に、可能な限り多くの学生たちに一定の質を保証できる国際的な学習機会を与えることです。実際に現地に渡航する従来の留学制度では金銭的な問題や家庭環境などの問題から留学を諦めざるを得なかった学生も一定数います。しかし、COILではこのような問題を抱えた学生であっても、日本にいながらかつて現地への派遣で行われていたことを体験できるのです。

また、COILでは単なる語学学習ではなく海外の学生とチームとなって協働学習をすすめるため、コミュニケーション能力や協調性、自分の意見をわかりやすく伝える能力などさまざまなスキルが身につきます。オンラインで実施されるため、自然とデジタルリテラシーも向上していくことも大変重要なポイントと言われています(池田, 2020)。

 

オンライン留学における今後の課題

新型コロナウイルスが蔓延し、気軽に海外留学ができなくなってしまった学生たちのために徐々に導入され始めている「オンライン留学」という制度。ICT と英語学習、そして異文化交流、協調学習を融合させた教育という全く新しい制度はとても画期的ではありますが、これから解決していくべき課題も残されているようです。

例えば池田(2020)は、オンライン留学やCOILなどの歴史自体がまだ浅く、効果の検証の事例自体が少ないことを指摘しています。今後は、実際に制度に参加した学生たちの成長が、彼らの就職率の向上や就職先の選択肢の増加にどのように関連付けられるかなどの具体的な研究が必要になるでしょう。

また、オンラインならではの課題として仲谷(2022)は、英語で発言や反応をする際のタイミングの判断や空気を読んで発言することの難しさ、そして「パソコンを開いたら留学先にいる」というようにすぐに意識を切り替えることの難しさがあるという声が学生からあがったことを報告しています。このことから、オンライン留学に参加する前にオンライン留学特有の難しさや事前に必要な心構えについて学生たちと確認しておくオリエンテーションのような時間をもうけることが必要と言えるでしょう。

新型コロナウイルスの蔓延によりオンライン留学という留学制度が導入され始めてから数年が経ちました。従来の留学とは全く異なるICTを駆使したこの制度は導入当初、学生たちにとってはもちろんのこと、この制度に関わる大学教員、職員にとっても前例がなく、未知のものであったはずです。今回ご紹介した日本国内の大学の具体的な取り組みと、その効果、そして課題を踏まえた上で今後オンライン留学がどのように発展していくのか注目していきたいところです。

 

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参考文献

堀さやか, 箱守喜満子, & 藤田清士. (2022). コロナ禍におけるバーチャル留学と英語学習意欲に関する探索的調査. 大阪大学高等教育研究, 10, 33-40.

https://doi.org/10.18910/87508

 

“IELTSバンドスコア・採点方法 |英語検定・試験のIELTS公式サイト”. IELTS.

https://ieltsjp.com/japan/about/about-ielts/ielts-band-scores

 

“IELTS 5.0のレベルはどれくらい?持っているとできることや対策法をIELTS 8.0の講師が解説”. Berkery Houseバークレーハウス語学センター.

https://berkeleyhouse.co.jp/blog/ielts/aim-ielts5-0/

 

池田佳子. (2020). ICT を活用し海外の学生と行う国際連携型の協働学習 「COIL」 の教育効果と課題. 大学教育と情報』 2020 年度 (2), 20-25.

 

栗田聡子. コロナ禍における国際教育の重要性と課題.

http://hdl.handle.net/10076/00019947

 

仲谷ちはる. (2022). 短期オンライン留学の意義と課題, そして展望: 効果的な 「バーチャル留学 (バリュー)」 の構築を目指して. 和洋女子大学英文学会誌, (57), 77-95.

http://id.nii.ac.jp/1159/00002076/

 

宮武香織. (2021). 新型コロナウイルス禍での遠隔授業におけるグローバル体験の効果と可能性について. 九州国際大学国際・経済論集= KIU Journal of Economics and International Studies, (7), 41-54.

http://id.nii.ac.jp/1265/00000753/

 

與儀峰奈子. (2009). ICT 遠隔交流を通した国際理解. 琉球大学教育学部紀要, (74), 69-87.

http://hdl.handle.net/20.500.12000/11647

 

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