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2021.08.23

オンライン国際交流は、英語学習のモチベーション向上に役立つか?

オンライン国際交流は、英語学習のモチベーション向上に役立つか?

2020年度以降、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、人々が国境を超えて行き来することは難しくなり、海外の人々と交流する機会は少なくなっています。しかし、学校の授業や仕事の会議など、さまざまなことがオンラインでできるようになった今、国際交流を遠隔で行う学校も出てきました。

では、オンライン国際交流は、小学生にとって「英語を学びたい」というモチベーションにつながるのでしょうか。今回は、オンライン国際交流に関する先行研究をもとに、その効果について考えます。

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【目次】

 

オンライン国際交流の現状

以前は、小学校における国際交流といえば、海外の子どもたちと手紙やビデオメッセージを交換したり、海外の学校を訪問したりすることでした。しかし、インターネットの普及やICT(情報通信技術)の発展により、国際交流の方法は変わりつつあります。

それは、テレビ会議システムやウェブ会議ツールを使って、遠隔地にいる子どもたちがまるで同じ場所にいるかのように、映像で相手の姿を見ながら会話できる国際交流です。インターネット交流、遠隔交流など、さまざまな名称で呼ばれていますが、本記事ではオンライン国際交流と呼ぶことにします。

文部科学省は、2018年度より、小学校の英語授業でICTがどのような用途で活用されているか、ということを調査しています。この調査結果によると、「児童が遠隔地の児童生徒等と英語で話をして交流する活動」のためにICTを活用している学校は、2019年度で約1.6倍に増加しています。

「児童が遠隔地の児童生徒等と英語で話をして交流する活動」のためにICTを活用している小学校の数のグラフ(文部科学省2018、2019)

 

日本の小学5・6年生(計762人)を対象にした調査(安達, 2012)では英語の授業時間が増加しても英語学習に対する興味・関心は高まらず、前向きな学習意欲・態度が動機づけに重要であることがわかりました。つまり、子どもたちに「英語を学びたい」と感じてもらうためには、英語の授業時間を増やすこと以上に、英語学習に対する自信や達成感、興味を育てる活動内容を考える必要があるのです。

では、オンライン国際交流は、そのような「英語を学びたい」気持ちを育てる活動内容になり得るのでしょうか。

小学校でのオンライン国際交流に関する実践報告はまだ多くありませんが、例えば、以下のような実践例があり、交流後の子どもたちが英語学習に対して肯定的な態度を示すことがわかります。

 

・與儀(2009)
2005年、琉球大学附属小学校4年生34人とハワイ州プナホウ小学校4年生25人がテレビ会議システムを使って交流。交流後のアンケート調査では、「交流会を通して英語をもっと学んで話せるようになりたいと思いましたか?」という質問に対し、34人中30人が「はい」と回答。

・永田(2011)
2009年、北立誠小学校6年生36人とオーストラリアのCoogee Public School5年生30人が遠隔会議システムを使って交流。交流後のアンケート調査では、「外国の小学生と話し、英語の勉強をもっとしたいと思った」と感じた子どもが多かった。(「強く(とても)」=4ポイント、「少し」=3ポイント、「あまり」=2ポイント、「まったく」=1ポイントで回答させ、平均値が2.9だった。)

・中村ほか(2020)
2019年、長崎の五島小学校5年生とハワイの小学5年生がZoomを使って交流。交流後のアンケート調査では、20人中8人が「もっと英語が勉強したい」と回答。

 

オンライン国際交流の効果を実証した研究

上記のような実践報告から、オンライン国際交流は英語学習へのモチベーションを高めるうえで効果的であることが推測されますが、さらに統計分析によって、その有効性を実証した研究もあります。

2010年、長野県松本市の小学校5年生29人がオーストラリアの小学5年生とSkypeを使って交流。4月〜12月に渡って計4回交流を行いました。交流内容は、自己紹介、英語の歌・ダンス、自国のスポーツや食べものの紹介、発表、質問タイムなど。

交流前と交流終了後にアンケート調査をとって統計分析したところ、特に「外国語活動が好き」、「外国についてもっと知りたい」、「英語でコミュニケーションできるようになるために、もっと勉強したい」(IBS訳)という回答(※1)に有意差があり、英語学習や海外に対する興味・意欲が向上したことがわかりました(Ockert, 2015; 2020)。

2018年、富山県の滑川市立田中小学校では、5年生30人が台湾の小学生とSkypeを使って交流しました。Skypeでの交流回数は1年間で計5回。3〜5人のグループごと、または1対1で、好きなもの、欲しいものを伝え合ったり、日本の料理を紹介したり、好きな教科について質問したりする活動のほか、手紙の交換なども行われています。

交流前(1学期開始時)と交流後(3学期末)のアンケート結果を統計分析して比較したところ、特に「英語を話すことは好きだ」、「自分の英語は外国の人に通じると思う」という項目への回答(「全然思わない」=1ポイント、「あまり思わない」=2ポイント、「どちらでもない」=3ポイント、「やや思う」=4ポイント、「とても思う」=5ポイント)の平均値が上がり(有意差あり)、台湾の子どもたちとの交流によって、「自分の英語が通じた」という喜びや達成感が生まれていたことがわかりました(清水・加納, 2020)。

同じく2018年、国立大学附属小学校5年生2クラス(計72名)とオーストラリアの州立小学校4年生(計54人)が交流しています。児童が4〜6名の少人数グループに分かれ、タブレットPCのビデオ通話機能を活用して約1カ月間で計3回交流。

「相手国の文化を理解する」をテーマに、お互いの文化に関する情報収集や質問・回答の作成など、事前準備が丁寧に行われています。

この研究では、交流前、1回目の交流後、2回目の交流後、3回目の交流後にアンケート調査が行なわれました。統計分析の結果、子どもたちは、交流を重ねるに従って、外国語でのコミュニケーションに関する前向きな感情や意欲(※2)が有意に向上し、交流を繰り返し行うことが重要、と結論づけられました(木村ほか, 2020)。

 

オンライン国際交流が英語学習の動機づけになる可能性

英語学習のモチベーションとは、英語を学びたいと強く願うことであり、そのために努力することです。モチベーションには、さまざまなことが影響します(Ortega, 2009)が、第二言語学習の分野で最も古くから提唱されているものは「Integrativeness(統合性)」です。

その言語を話している人々に関わりたいという気持ち(ときにはそのコミュニティの一員になりたいという気持ちに発展することもある)で第二言語学習に心から興味をもつこと。つまり、ほかの言語・文化的背景をもつ人々に対して好意的な姿勢であり、理解したいという気持ちや敬意を抱くことが第二言語学習のモチベーションにつながる、ということです(Gardner, 2001)。

また、第二言語習得においては、モチベーションの質として、外発的動機よりも内発的動機のほうが重要であると考えられています(Ortega, 2009)。外発的とは、例えば、英語を勉強すると何かごほうびがもらえる、英語を勉強しなければ成績が悪くなってしまう、というように、英語を学ぶ理由が自分の心の「外」(他者や周囲の状況・環境など)にある状態です。

一方、内発的とは、英語を学ぶことが刺激的であると感じている、英語を学びながら達成感を感じている、英語の知識を学ぶことに喜びを感じている、というように、英語を学ぶ理由が心の「内」にある状態です。この内発的動機づけがある場合は、自主的に学習することを選び、学習を楽しむことができます(Noels et al., 2000)。

この内発的動機と「Integrativeness(統合性)」には相関性があり、興味や楽しみ、価値を感じて第二言語を学んでいる人ほど、その言語を話す人々と関わりたい、という理由で第二言語を学んでいる、ということがわかっています(Noels, 2001)。

そして、異なる言語を話す人々に肯定的な感情をもち、その言語を学習することに実用的な価値を感じ、その言語を話せる「理想の自分」がイメージできているとき、第二言語/外国語学習のモチベーションが最も高まることも報告されています(Cszér & Dörnyei, 2005)。

これらの理論や先行研究から考えても、オンライン国際交流を経験した子どもたちの英語学習意欲が高まった、という実践報告には納得できます。

海外に住んでいる同世代の子どもたちと交流することは、異なる言語を話す人々やその文化に対する好意的な態度につながりやすく、相手が話していることを理解するためにも、自分が話したいことを理解してもらうためにも英語が必要であることを実感できます。

さらには、「自分の英語が通じた」という体験を通じて英語学習の喜びや楽しさを感じるとともに、「英語が話せる理想の自分」を具体的にイメージできるようになると考えられます。

Zoomなどのウェブ会議ツールやタブレット端末を活用した国際交流も可能になった今、かつての大人数で歌やゲームを楽しむスタイルだけではなく、少人数のグループ同士や一対一で会話にチャレンジするスタイルの交流もできるようになり、さまざまな地域の学校にとって交流の機会が増えるだけでなく、交流の質も向上する可能性があります。

日常的に海外の人々と接することがない日本の子どもたちが英語を学習するうえで、オンライン国際交流の効果や重要性はますます高まるのではないでしょうか。

 

(※1)「Completely Disagree(まったくそう思わない)」=1ポイント〜「Completely Agree(完全にそう思う)」=6ポイント、の6段階で回答。

(※2)「外国の人のことや学校のことを知りたいと思いますか。」、「外国の人に、自分から話しかけたいと思いますか。」、「外国の人と英語で交流することは楽しいですか。」、「外国の人に、伝えたいことがもっと上手く伝えられるようになりたいですか。」、「外国の人と交流中に知りたいことがあれば、すぐに英語で聞こうと思いますか。」、「外国の人の英語を、もっとうまく聞き取れるようになれるといいなと思いますか。」という質問に対し、「する」=4ポイント、「どちらかと言えばする」=3ポイント、「どちらかと言えばしない」=2ポイント、「しない」=1ポイントで回答。

 

■関連記事

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参考文献

Cszér, K. & Dörnyei, Z. (2005). Language Learners’ Motivational Profiles and Their Motivated Learning Behavior. Language Learning, 55(4), 613-659.

https://doi.org/10.1111/j.0023-8333.2005.00319.x

 

Gardner, R. C. (2001). Integrative motivation and second language acquisition. In Z. Dörnyei and R. Schmidt (Eds), Motivation and second language acquisition (pp. 1-19). Honolulu, HI: National Foreign Language Resource Center.

 

Noels, K. A., Pelletier, L. G., Clément, R., & Vallerand, R. J. (2000). Why Are You Learning a Second Language? Motivational Orientations and Self-Determination Theory. Language Learning, 50(1), 57-85.

https://doi.org/10.1111/0023-8333.00111

 

Noels, K. A. (2001). Learning Spanish as a Second Language: Learners’ Orientations and Perceptions of Their Teachers’ Communication Style. Language Learning, 51(1), 107-144.

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Ockert, D. (2020). Skype®️ international EFL Exchanges Revisited: Chi-Squared Results of Changes in Affective Variables. The Journal of Teaching English with Technology, 20(2), 66-81. Retrieved from

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木村明憲・黒上晴夫・谷口生歩(2020).「小学校でのタブレットPCを活用した国際交流による資質・能力の変容」.『教育メディア研究』, 26(2), 1-17.

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清水義彦・加納幹雄(2020).「小学校外国語活動で使える海外交流を組込んだ年間指導計画と実践:単元の最終タスクは海外の小学生との交流活動の1年のまとめ」.『中部地区英語教育学会紀要』, 49, 227-234.

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