日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。

2022.03.22

「小学校文化」に根づいた外国語教育が日本の強み 〜文部科学省 初等中等教育局 視学官 直山木綿子氏インタビュー(前編)〜

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「小学校文化」に根づいた外国語教育が日本の強み 〜文部科学省 初等中等教育局 視学官 直山木綿子氏インタビュー(前編)〜

小学校の英語教育では、現場の先生や保護者の方々の間に数多くの疑問や不安があるようです。そこで今回、文部科学省にて小学校外国語教育の推進に携わってこられた直山視学官にお話を伺い、小学校外国語教育の改革意義やその背景、日本の強みについて紹介します。

 

【目次】

 

子どものモチベーションはとても単純なもの

―小学校英語教育の推進に携わっていらっしゃる直山視学官は、どのように英語に出会って学んでこられたのでしょうか?

私が英語と出会ったのは小学4年生のときです。父が「これからは英語が必要だ」と考えて、家の近くにあった英会話教室に兄を小学4年生のときから通わせ始めました。当時、私は小学2年生だったのですが、兄がとてもうらやましくて「私も行きたい!」と言って4年生から通わせてもらえることになりました。

教室には、4年生になる前から通っている子たちがいて、当然私よりも英語ができます。日本人の先生が日本語も交えて教えてくれたのですが、私は何をやっているのかまったくわかりません。カセットテープで英語の会話を聞いて、その登場人物のペープサート(紙人形)を持ってせりふを真似して言う活動があったのですが、みんなよりも出遅れている私は、かわいい女の子の役がやりたかったのに、みんなが選んだあとに残った役しかすることができませんでした。

そのときに、「英語ができないとこういう損をするんだ」、「英語ができなければ、ここでは好きなことができないんだ」と感じたんです。

それから、レッスンの始めには、“Do you like dogs?”、“When is your birthday?” などと、先生が子どもたちに一人ずつ英語で質問をする時間がありました。私は英語がわからなくて答えられないので、ノートに×印をつけられてしまいます。一学期の終わりに○印が一番多い子はプレゼントをもらえることがわかり、「英語ができないと欲しいものがもらえないんだ」ということもわかりました。

 

―まずは「英語ができないと〜ができない」という体験があったんですね。そこから英語学習に興味をもつようになるまでには、どのような過程があったのでしょうか?

先生やほかのお友だちのやりとりをひたすら聞くようにしたら、英語のルールがわかるようになったんです。

先生が “Do you〜?” と聞くと、みんな “Yes, I do.”、“No, I don’t.” と答える。先生が “Are you〜?” と聞くと、みんな “Yes, I am.”、“No, I’m not.” と答える。Whatで聞かれたら「何か」を答える。Whenで聞かれたら「いつ」を答える。Whereで聞かれたら「場所」を答える。

こういうルールを発見すると、先生の質問に答えられるようになり、だんだん意味も理解できるようになって○印がたくさんつき、4年生の最後にはプレゼントをもらうことができました。それがすごくうれしかったです。

中学生になると、英会話教室でいつも聞いていたネイティブ・スピーカーのような発音で教科書の本文を読んだら、教室のみんなから拍手をもらいました。そこから「英語って楽しい!」と英語学習へのスイッチが一気に入って、英語の先生になりたいと思うようになりました。

兄がやっていることを自分もやりたいという単純な気持ちと、いわゆる「物欲」という外的要因が英語学習のモチベーションになっていたんですね。でも、子どもってそういうものだと思います。

はじめは「ほめられてうれしい」、「シールが欲しい」というような外的要因がやる気につながり、やがて、英語でやりとりすることの本当の楽しさを知っていく。だんだんfunからinterestingに変わっていって、主体的に学習するようになるわけです。

 

親が「教える」ではうまくいかなかった娘たちの英語教育

―子どもが英語学習に興味をもつプロセスを自ら体験されたんですね。以前は、中学校の英語教諭でいらっしゃったそうですが、どのような経緯で小さい子どもの英語教育に興味をもつようになられたのでしょうか?

子どもがことばをどのように習得するのか、ということには元々とても興味があったので、我が子が日本語を自分のものにしていく様子をずっとノートに書いて記録していました。例えば、何月何日、どんな場面で何を口に出したか、という内容ですね。上の子が最初に覚えたことばは、「いや」でした。それから、食べものの名前や、外に出かけたいときに靴を持ってきて言う「もんも(おんも)!」などです。つまり、嫌悪感や不快感、要求など、生きていくうえで大事なことを伝える手段が、泣くという行動からことばを使った正確なコミュニケーションに変化するんです。その様子を見ていて、おもしろいと思いました。

中学校の英語教員だったので、子どもが生まれると、バイリンガルに育てたいと思い、小さいときから英語で語りかけたり、英語のビデオを見せたりしていました。当時1歳くらいだった下の子は、英語の意味がわからなくても聞こえた音をそのまま真似するのですが、3歳だった上の子は意味がわからない英語の音を聞くことが耐えられないようで「英語のビデオはいやだ」と言いました。

そんな体験をするうちに児童期の英語教育に興味をもつようになったころ、娘たちが小学生になり、小学校に英語教育が導入されるようになりました。

 

―娘さんたちが小学校で英語を習い始めたころは、自宅ではどのように接していたのでしょうか?

娘たちが学校から帰ってくると「今日は何を習った?」といつも聞いていました。でも、そのうち毎週のように「今日は英語の授業がなかった」と言うようになりました。本当は授業があったのに「ない」と嘘をつき出したんです。

授業で習ったことを話すたびに、私が「発音はこう!」とか「これは英語で何て言う?」などと家で教えようとするから、それをいやがるようになったんですね。

そこから、小学校の外国語教育をもっと真正面から考えたいなと思うようになりました。ちょうどそのときに、中学校から教育委員会に異動することになり、小学校の英語教育のための教材やカリキュラムづくりに携わることになりました。

 

日本の英語教育の要は、中学校で英語力の差ができないようにすること

―現在は、文部科学省でお仕事をしていらっしゃいます。どのような職務であり、どのような役割が期待されているのでしょうか?

文部科学省では、「視学官」と「教科調査官」というポストを併任しているのですが、どちらも学習指導要領をつくること、そして、学習指導要領に記載されている内容を全国の教育委員会の方々や先生方に理解していただけるように具体例とともに伝えていくことがメインのお仕事です。

「教科調査官」というお仕事は、小学校の外国語、小学校の算数、高等学校の数学、というように、校種と教科によって担当が分かれるのですが、「視学官」はかなり人数が絞られ、私は初等の教育課程や国際理解教育を担当しています。

学校教育での初等教育の役割や重要性、という小学校全体にかかわることとともに、外国語教育の担当として、小学校・中学校・高等学校の外国語教育全体のお話も含めて学習指導要領の内容をみなさんにお伝えすることが私の役割です。

 

―国立教育政策研究所教育課程調査官・学力調査官というお仕事もされていらっしゃいますね。

国立教育政策研究所は、教育政策の企画・立案に際して学術的な研究活動から得た成果を提示する、国立の研究機関です。

また、 国内の教育関係機関や団体等に、情報を提供したり必要な助言・支援を行ったりもします。そこで、そこに所属する「教育課程調査官」は、教育委員会や教育センター等の要請に応じて、研修や講演等を行います。

一方、「学力調査官」は、全国学力・学習状況調査の作問や結果を分析したりすることが主たるお仕事です。

 

―では、小学校の外国語教育について伺わせてください。日本の英語教育は、ほかのアジア諸国よりも遅れている、とよく言われますが、どのような見解をおもちでしょうか?

中国は小学1年生から英語教育を始めていますし、韓国の小学校英語教育は日本よりも早く始まりましたね。そういう英語教育を始める学年や、小学校英語教育を始めた時期、という点では、他国よりも「遅い」ということは事実です。でも、だからといって、それ自体が問題なのではなく、どの学年からいつ始めようと、子どもたちが将来英語を使って仕事をしたり世界の人々と対等に英語でやりとりする力を身につけたりできるようになればいいわけです。

そういう意味では、他国よりも英語教育が遅れているとは思いませんが、高等学校や大学卒業段階で、世界のさまざまな地域の人々と対等に英語でやりとりする力を身につけている人の割合は、他国に比べて低いと思います。

 

―日本の英語教育には、どのような課題があると思われますか?

私が中学生・高校生のときと比べて、現在の日本の英語教育はずいぶん変わってきましたし、英語力が高い子どもの割合も増えてきました。一方、高校卒業時点での英語力の差が広がっていることは課題だと思います。

高等学校で英語コースや国際コースに通っている生徒たちは、英語の授業時数が断トツ多く、ネイティブ・スピーカーの先生とも接する機会も多いので、英語力が高くて当たり前。でも、普通科や、英語以外の専門学科の高校に通っている生徒たちは現状よりも英語力を身につけられることが期待されます。

彼らは、高校卒業後に就職するケースが多いですから、仕事で英語を使えるようになる必要性が高いと思います。この子たちがどのように英語力をつけるか、どのように自信をもって英語を使えるようになるか、ということが大きな課題だと思っています。

そのためには、中学生のときにきちんと英語力をつけることが重要です。中学校の英語教育は、子どもたちが英語力を身につけるうえでの要です。

 

日本の小学校英語教育の良さは、「小学校文化」に根づいた授業

ー中学校の英語教育が重要ということですね。小学校英語教育は、外国語活動は年間35時間、外国語科は年間70時間、という授業時数です。英語に触れる量が少なく、大きな効果は期待できないのではないか、という見解もありますが、小学校で英語の授業を行うことには、どのような意義があるのでしょうか?

もちろん、小学3・4年生で週1コマ、5・6年生で週2コマだけ英語の授業をしたところで、みなさんが期待するような英語力がつくとは思いません。そんな短期間で英語力が身につくくらいなら、誰も苦労はしませんよね。

ただ、児童期は、音声を聞く力に柔軟性がある、何でも新しいことには興味をもって動こうとする、といった特徴があります。何のために小学校で英語をやるのかというと、そういう児童期に「英語」という新しい言語に触れさせることで、子どもたちの視野を小さいころからぐっと広げるためです。

視野が広がれば、英語力だけではなく、感受性や他教科等にも及 ぶ興味・関心・意欲を高めることができます。そして、日本語でのコミュニケーション力にも良い影響を及ぼすと考えています。

これが日本の小学校英語教育の特徴です。技能ばかりに特化していない、ということですね。小学校の先生方の自由な発想を活かして授業をつくる。私はこれを「小学校文化」と呼んでいます。

小学校の先生方は、小学校文化に根づいた英語の授業をしてくださっていますし、それが日本の小学校英語教育の良さだと考えています。

 

―日本の小学校教育や小学校の先生が他国よりも優れている点があるからこそ、日本の小学校英語教育の良さが出ているのでしょうか?

そうですね。日本は北海道から沖縄まで、小中学校の義務教育を学習指導要領という一律のガイドに従って先生方がきちんと指導するので、子どもたちは質の高い教育を受けているのではないかと思います。

日本語は文字と音声の関係が英語よりも複雑ではない、という日本語の特徴もあり、日本人の識字率は英語圏よりもかなり高いです。

また、日本の小学校の先生は、全教科等を指導しているので、知識やアイデアの引き出しが多いです。

私は中学校の英語教員だったので、英語しか指導できませんでした。ですから、教育委員会に異動して小学校でも指導する立場になったときに、「小学校の先生たちってすごい!」と驚きました。

算数の授業や総合的な学習の時間と結びつけて英語を指導したりすることがとても上手なんです。こういうことは、中学校や高校の先生は苦手です。

小学校の先生方の能力は、英語のスキルだけではなく、子どもたちにほかのいろいろな興味・関心・意欲を耕していける英語授業づくり、という日本の英語教育の良さに関係していると思っています。

 

(後編へ続きます)

 

 

【取材協力】

直山木綿子氏(文部科学省 初等中等教育局 視学官)

<プロフィール>

文部科学省 初等中等教育局 視学官、および、国立教育政策研究所 教育課程研究センター 研究開発部 教育課程調査官・学力調査官。文部科学省で小学校の外国語教育に関する教材開発や、全国各地での研修・講演などを通じた指導法の普及・推進に取り組んでいる。京都市の公立中学校での英語教諭、京都市立永松記念教育センター(現京都市総合教育センター)での小学校英語のカリキュラム・教材等開発の経験を経て、2009年4月より現職。

 

<小学校英語教育 直山視学官による解説動画>

【なるほど!小学校外国語①】言語活動

 

【なるほど!小学校外国語②】読むこと 書くこと

 

【なるほど!小学校外国語③】学習評価

 

【なるほど!小学校外国語④】教材の活用

 

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参考文献

文部科学省(2019a).「令和元年度公立小学校における英語教育実施状況調査」.

https://www.mext.go.jp/content/20200715-mxt_kyoiku01-000008761_4.pdf

 

文部科学省(2019b).「平成31年度(令和元年度)全国学力・学習状況調査の結果(概要)」.

https://www.nier.go.jp/19chousakekkahoukoku/19summary.pdf

 

文部科学省(2020).「なるほど!小学校外国語シリーズ①言語活動」.

https://www.mext.go.jp/content/20200721-mxt_kyoiku01-000008881_1.pdf

 

 

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