日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。

2021.04.05

小学校英語教育では、「音」を大切にした読み書き指導が必要 〜青山学院大学 アレン玉井教授インタビュー(前編)〜

小学校英語教育では、「音」を大切にした読み書き指導が必要 〜青山学院大学 アレン玉井教授インタビュー(前編)〜

小学5・6年生の英語教育が「外国語活動」から「教科」になったことにより、指導目標に「読むこと」と「書くこと」が加わりました。「聞くこと」、「話すこと」という音声中心の指導だけではなく、文字に関する指導が必要になるのです。今回は、英語のリタラシー指導を専門とされるアレン玉井教授(青山学院大学)にお話を伺い、幼児期から小学校卒業までの効果的な読み書き指導のあり方について紹介します。

【目次】

 

リタラシー指導とは?

―先生は、どのようなことをきっかけに、子どもの英語教育の中でも特に読み書き能力の分野に関心をもたれたのでしょうか?

アメリカの大学からTESL/TEFL(※1)の修士号を取得して日本に帰国してからは、大学付属の子ども英語教育センター (※2)で英語を教えていました。アメリカでは、英語圏に住んでいる子どもたちを対象とした英語教育について学び、当時は、コミュニケーション能力を重視する考え方が出始めていた時代だったので、最初のころは、「アルファベットを教える必要はない」と思っていたくらい、音声(リスニングやスピーキング)中心の授業をしていましたね。

でも、英語圏で育った帰国子女の子どもたちに英語を教えたことで、考え方が変わりました。帰国子女の子どもたちには、海外滞在年数が長くて発音がすごく良くても、読み書き能力が低い子もいました。英語が外国語である日本の環境では、英語にふれる機会が多くありません。そのような環境で、「聞く・話す」という音声の力だけで英語力を保持していくことには限界があると思ったんです。

また、日本で育った子どもたちについても、小学校卒業までに身につけた「音」の力を中学校に入ってからどれだけ正しく評価してもらえるのか、という課題がありました。そこで、音を聞く力・話す力を適切に保持して次の学習につなげていくには、文字というものが絶対に必要だなと思うようになりましたね。

 

―小さいころから身につけた「音」の力をキープするためにも文字が必要なのですね。

大切に育てた音声指導の結果を残せるかどうかは、効果的なリタラシー指導を行えるかどうかによります。文字を通して音を定着させていく、という考え方に代わっていきました。

いまでは「4技能統合」と呼ばれる考え方ですね。ですので、私が唱えている「文字教育」や「リタラシー指導」は、あくまでもしっかりとした音声指導のうえに成り立つ、ということを強調しておきたいと思います。

 

―「リタラシー」ということばには、どのような思いが込められているのでしょうか?

「リテラシー」ということばは、「情報リテラシー」などのように、いろいろな意味で使われていますが、純粋に「読み書き」という意味を強調したくて、英語の発音に近い「リタラシー」ということばを使うことにしました。また、小学生を対象とすると、とかく文字指導のみが強調されますが、それ以上の読み書き能力を育てていきたいという意味もあります。

 

―「それ以上の読み書き能力」とは、どのような能力でしょうか?

アルファベットを読んだり書いたりするレベルではなく、さらに、英語の単語が読める、英語の文章が読めて理解できる、というレベルの読み書き能力です。のちのリーディング、ライティングにつながる力を小学校で育てる、ということですね。

これは、文部科学省の学習指導要領に書かれている指導目標「イ」に当たるものです。

 

<小学校学習指導要領 外国語活動・外国語編>(文部科学省, 2017)

第2章 外国語科の目標及び内容

第2節 英語

1 目標

(2)読むこと

ア 活字体で書かれた文字を識別し、その読み方を発音することができるようにする。

イ 音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現の意味が分かるようにする。

 

 

多くの先生方が「ア」のレベルは指導していますし、教科書にも載っています。でも、「イ」の指導についてはどのように指導してよいのか明確に示されていないと思います。

ややもすると文や単語の丸覚え、または写字で終わってしまいます。「ア」のレベルから「イ」のレベルに指導するには、教員としてのリーディング指導に関する知識、理論的バックグラウンド、訓練が必要です。

 

リタラシーの基礎となるアルファベット学習

―英語の読み書きというと、まずはアルファベットを覚える、というイメージがあります。アルファベットの読み方や書き方を覚えることは、英語習得においてどのように重要なのでしょうか?

アルファベットの学習がリタラシー教育の根幹になると考えています。これは、学習指導要領の指導目標「ア」に当たる部分ですね。リタラシー指導における基本の基本なのですが、それがどれくらい大切なのかということを現場の先生にご理解いただきたいです。

アルファベットを知るということは、アルファベットの字形がわかり、その名前を知ること(例:「B」は「ビー [biː]」と読む)、つまり視覚情報(文字)と聴覚情報(音声)を融合させることです。のちに文字と音の関係(例:「b」の音は[b])を学ぶときには、アルファベットの名前をしっかりと英語の音で読めることが基礎になります。

 

小学校で英語の授業を行うアレン玉井教授

―アルファベットの名前を読めることが英語の文字を読める基礎になるのですね。

そうですね。そこで、私は「音素体操(※3)」という方法を取り入れています。

アルファベットの読み方を音素(※4)で分けて、共通する音素のときには、共通の動作をします。例えば、B、C、D、E、G、P、T、V、Zは、二つの音素から成っていて、すべて二つ目の音素が/iː/(イー)です。

一つ目の音素(/b/、/s/、/d/など)のときには手を叩いて、二つ目の音素のときには両手を離す動作をします。

この体操をやっておくと、「今日は/iː/(イー)を取るよ」と言ったときに、/b/、/s/、/d/といった音が残って、文字の音を言えるようになるんです。フォニックス指導だと、「p」は/p/と読むよ、とはじめから指導します。でも、この音素体操は、せっかく「ピー」と読めるようになったのだから、その力を使ってあげればいいのではないか、という思いでやっています。

特に学習に困難を抱える子どもたちにとっては、アルファベットの名前を言えるようになることが文字の音を言えるようになるまでの足がかりになります。

Wは、/d/・/ʌ/・/b/・/l/・/j/・/uː/というように5つの音素から成るので、手の動きが複雑になりますが、子どもたちは大好きです。

 

―アルファベットの文字を書く力は、どのように重要なのでしょうか?

私の研究では、リタラシー指導においては、特にアルファベットの小文字を書く力が重要であることがわかりました。これは、公立小学校の5・6年生に授業を教えていたときに調査した研究です。

5年生の最初に大文字のテスト、6年生の最初に小文字のテスト、小学校卒業時にいろいろなテストを行い、4年間かけて200人くらいのデータをとって分析しました。結果、音と文字の関係がわかる、という力には、「書く力」が影響していたことがわかりました。

アルファベットを「読む力」だけではなく、「書く力」がないと、その後のリーディング力にはつながらないということです。

 

―読めるだけではなく、書けることが重要なのですね。

「d」を見て「ディー」と読めることと、「ディー」と聞いて「d」と書けることは、別の力です。単語を読んだり書いたりできるようになるためには、ただ文字を真似して書く力ではなく、「d」(ディー)、「o」(オー)、「g」(ジー)と聞いてすぐ「dog」と書けるくらいの力を身につけることが大切です。

子どもたちは小文字の学習には苦手意識があるようで、小学校5年生から段階的に少しずつ書けるようにしていくのが大切です。子どもたちが小文字を書く活動に自信をもてるようになるまでには、6年生の最後まで時間がかかると思います。

 

音に対する気づき「音韻認識能力」

―アルファベットを読んだり書いたりできるようになったあとは、どのような指導が必要ですか?

文字に音があることを知り、それを自由に使いながら単語、句、文を音声化し、音読していく。これをdecoding(ディコーディング)と言いますが、このような文字学習はリタラシーにはなくてはならない力であり、小学校の間に指導する必要があります。

日本語には約22の音素、そして英語には約45の音素があります。つまり英語は、日本語と比べると2倍以上の音をもつ言語なのです。その音に対して文字が対応していますから、「音に対する気づき」、そして「音と文字との対応を知ること」、これが初期リタラシー教育の要であると考えています。

 

―「音に対する気づき」とは、具体的にはどういうことですか?

「phonemic awareness(音素認識能力)」や「phonological awareness(音韻認識能力)」と呼ばれる力です。これは、「R」と「L」の音の違いがわかる、ということではありません。

音の違いがわかるのは「sound perception(音声知覚)」の力ですね。音韻認識能力とは、話されていることばのなかで音がどういうふうに使われているかがわかる、という力です。

例えば、日本語の「やかん」は何個の音でできているでしょうか。「や・か・ん」の3つですね。では、最初の音は何でしょうか。最後の音は何でしょうか。最初の音を「じ」や「み」に変えると、どうなるでしょうか。

幼稚園の年長さんの子に「バイオリンの3番目の音は?」と聞くと、1割くらいの子が「オ」ではなく「リン」と答えます。これは、「バ・イ・オ・リ・ン」ではなく、「バイ・オ・リン」という音節で切っているんですね。

こういうふうに、「バイオリン」ということばは、どんな音から成り立っていて、どんな構造になっているのか、ということに気付けることが、「音への気づき」ということです。

 

―英語の音の構造は、自然に気づくことが難しいでしょうか?

英語は子音で終わる音が多いですが、日本語の音には必ず母音が入っています。例えば、「Cat」は「キャット」になりますよね。母音がないのに母音を聞いてしまう、という日本人の耳は、生後14カ月ぐらいにはできていると言われています。

ですから、5・6年生は訓練をしてあげないと、日本語と英語の音の違いに気づくことは難しいですね。

私は、オンセット・ライム(※5)という分節方法を中心に指導しています。例えば、消しゴムを使ったゲームがあります。子どもたちをペアにして、最初の音が違ったら、真ん中に置いた消しゴムを取りなさい、というゲームです。例えば、先生が「bag」、「bear」、「balloon」、「tiger」と言ったら、「tiger」のときに消しゴムを取る。文字をまったく使わずに、音だけで指導します。

また、ライムが同じじゃなくなったらhigh ten(お互いの両手を合わせる)をしましょう、というゲームもあります。先生が「cat」、「mat」、「hat」、「sat」、「pig」と言ったら、「pig」のときにペアの子とhigh tenをするんです。

 

─ゲーム的な要素を入れて教えることができるんですね。

全部ゲームでやりますね。聞いた英語を音素で切る、ということは、だんだんとできるようになっていきます。

あるとき、小学5年生のクラスで「w(ダブリュー)には何個の音がある?」と聞いたときに、一人の男の子が「5つ!」と言いました。その子が「一つ目の音はダ」と言ったら、ほかの子たちが「間違っている」(正解はd)と気づきました。このように、英語の音への気づきは、適切な指導があれば、鍛えられる力、教えられる力ではあると思います。

 

―幼少期から英語の音に慣れることは「読む・書く」力にもつながりますか?

音に慣れることは、十分、読み書きの力につながると思います。例えば、マザーグースなどはライムでつくり上げられているわけですから、遊びながら音の感覚を築き上げられると思います。

 

―日本語の音を身につけたあとでも、英語の音韻認識能力は育つのでしょうか?

幼稚園生200数名のデータですが、日本語での音韻認識能力と英語での音韻認識能力の関連性を見たところ、日本語で音韻認識能力が高い子ほど、英語での音韻認識能力が高いことがわかりました。

ですから、母語をしっかり育てるということは、第二言語である英語力を育てることに貢献します。

 

(※1)Teaching English as a Second Language(第二言語としての英語教授法)/Teaching English as a Foreign Language(外国語としての英語教授法)の略称。

(※2)幼稚園児から小学6年生までを対象に、保育時間や授業が終了したあとの課外活動として英会話教室を提供する機関。

(※3) 動画参照:eikenjidoeiken. (2013, April 5).「アレン先生の音素体操」[Video]. YouTube.

https://youtu.be/Eu7nz0Oi8Go

(※4)音声の最小単位。例えば、bのアルファベット読みは、/b/と/iː/という二つの音素から成る。

(※5)子音と、子音+母音から成る音韻構造(アレン玉井, 2019)。オンセットとは、単語の最初の子音(群)。ライムとは、母音とそれに続く子音(群)。例えば、bedのオンセットは/b/であり、ライムは/ed/。

 

(後編に続きます)

 

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【取材協力】

アレン玉井光江教授(青山学院大学 文学部 英米文学科)

アレン玉井教授のお写真

<プロフィール>
専門は、小学校英語教育、第二言語教育、読み書き教育。Notre Dame de Namur大学で学士号(英語学部)、サンフランシスコ州立大学大学院で修士号(英語教育学)、テンプル大学で博士号(教育学)を取得。

日本児童英語教育学会(JASTEC)理事、小学校英語教育学会(JES)実践研究支援委員。
中学校英語教科書『New Horizon1,2,3』の編集委員であり、『小学校英語の文字指導―リタラシー指導の理論と実践』(東京書籍)、『ストーリーと活動を中心とした小学校英語』(小学館集英社プロダクション)、『小学校英語の教育法―理論と実践』(大修館書店)、『幼児から成人まで一貫した英語教育のための枠組み-ECF-』(共著・リーベル出版)など多数の著書がある。

 

 

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