日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。

2023.05.16

日本の小学生は、VR没入型アクティビティを通じて、英語の理解しやすさやコミュニケーション意欲が向上するか

日本の小学生は、VR没入型アクティビティを通じて、英語の理解しやすさやコミュニケーション意欲が向上するか

研究タイトル:日本の小学生は、VR(Virtual Reality)没入型アクティビティを通じて、英語の理解しやすさやコミュニケーション意欲が向上するか

著者:Paul Jacobs

翻訳:Yuri Sato

共同研究者:中央大学 斎藤 裕紀恵 准教授

 

2022年10月から11月にかけてIBSと中央大学が共同で実施した、日本在住の日本語を第一言語とする小学生を対象にしたVRを使った英語学習に関する研究レポートをお届けします。

 

本研究で使用したVRヘッドセット

本研究で使用したVRヘッドセット

 

研究テーマ:VR空間での英語コミュニケーション

英語の授業で重要な目標は、生徒たちが単にテストに合格できるようにすることではなく、自分のことばを使ってコミュニケーションできるようにすることです(文部科学省, 2017年)。

日本の子どもたちは、授業で本物の英語使用(実際のコミュニケーション場面で英語を使うこと)を体験する機会がほとんどありません。しかしながら、VRなどの技術が発達し、日本から出なくても、本物の英語を体験できる仮想空間を利用できるようになりました。

そこで、本研究では、小学6年生の児童を対象に、VR没入型英語レッスンの効果を検討しました。具体的には、英語の理解しやすさとコミュニケーション意欲について調査しました。

理解しやすさ(comprehensibility)とは、話し手(本研究では、実験に参加した子どもたち)の言っていることを聞き手がどれくらい簡単に理解することができるか、ということです(Derwing & Munro, 2015)。

そして、コミュニケーション意欲(willingness to communicate)とは、どれだけ意欲的に自分の言語を使ってコミュニケーションするか、ということを明らかにするモチベーションの測定です(Macintyre et al, 1998)。

これらの測定を選んだ理由は、日本の子どもたちにとって英語学習の目標の一つである、コミュニケーション能力と密接な関係があるからです。

 

研究内容:小学6年生を対象に、高没入型VRと低没入型VRの効果を比較

日本の小学6年生(13人)を、1)VRヘッドセットで仮想空間に入り込む高没入型レッスンのグループ(以下、VRグループ)、2)パソコンの画面で仮想空間を見る低没入型レッスンのグループ、という二つのグループに分けました。子どもたちは、全員、英検(英語能力を測る試験)3級に合格しています。

二つのグループは、インタラクティブな外国語学習VRアプリ「Immerse」を使って、まったく同じ仮想空間に入りました。Immerseは、学習者がパソコンまたはVRヘッドセットを使って外国語でコミュニケーションできる仮想空間を提供しています。

5週間にわたり、5回の英語レッスンに参加しました。レッスンを実施した仮想空間の例としては、「ホテル」や 「ショッピング・センター」などがあります。各レッスン・プランは、その仮想空間に関連したコミュニケーションを促すことで、より本物の英語発話(その状況・場面で本当に伝えたいことを英語で言うこと)を引き出すことを目標としました。

初回レッスン前と最終レッスン後には、子どもたちが話す英語を理解しやすいかどうかを測るテスト(絵の描写タスクを使用)とコミュニケーション意欲を測るアンケート調査を実施し、参加者のパフォーマンスを評価しました。理解しやすさを測るテストで録音した子どもたちの音声の分析・評価は、複数の英語ネイティブ・スピーカーが行いました。

 

結果:理解しやすさ、コミュニケーション意欲、自発的な発話

理解しやすさ

事前テスト(レッスン前のテスト)と事後テスト(レッスン後のテスト)の総合スコアは、どちらも、両グループとも比較的高い得点でした。VRレッスンに参加する前から高得点だったため、天井効果により、VRレッスンによって理解度が有意に向上したかどうかを測ることができませんでした。しかし、素点(テストでの実際の点数)を見ると、VRグループのみ、レッスン後にスコアが向上していることがわかりました(事前テストでは平均3.7点、事後テストでは平均3.95点)。

子どもたちの発話を評価した英語ネイティブ・スピーカーたちは、理解しやすい発話の特徴として、発音、語の選択(形容詞など、何かを説明する語を使っているか)、話すリズムやペースを挙げています。

個人レベルでは、VRグループのうち1人が、レッスン後に理解しやすさのスコアで伸びを示しました。事前テストでは5点満点中2.6点、事後テストでは5点満点中3.8点、というふうにスコアが向上しています。また、評価者のコメントにより、レッスン前は文と文が途切れ途切れであり、レッスン後は文が滑らかに続いてつながるようになったことが示されました。

 

コミュニケーション意欲

コミュニケーション意欲についても、子どもたちはレッスン前から高いモチベーションを持っていました。そのため、レッスン前後でほとんど変化はありませんでした。

アンケート調査によると、67%の子どもたちが、VR没入型ゲームによって、ゲーム環境以外でも英語をもっと使いたいという意欲が湧いたと感じていました。

2人の子どもたちは、レッスン前、英語を話すときに強い不安を感じていました。しかし、レッスン後は、VRアプリの特性(例:ゲーム感覚なので冗談を言ったり遊んだりするような雰囲気になる、対面よりもアバター同士のほうが心地よくコミュニケーションできる)のおかげで、不安が少なくなったと回答しています。

 

自発的で、遊び心のある発話

最終レッスンまでには、子どもたちはバーチャル環境に慣れてきて、教師からの質問に対して、遊び心を持って、自発的に答えるようになっていました。

 

考慮すべき点:教室では経験できない英語使用

仮想空間を毎週変えて5回のレッスンを行ったことにより、子どもたちが途中で飽きずに参加できました。

多くの日本人は、英語で話すことに自信がないと言います。とはいえ、本研究の子どもたちの多くは、VRレッスンに参加する前から高いコミュニケーション意欲を持っていました。子どもたちに共通する要素は二つあります。

1)全員が3歳になる前から英語に触れていること、

2)歌や物語で英語に親しめる家庭用英語学習プログラム「ディズニー英語システム」を幼少期から使用していること。

 

VRヘッドセットを使用した際に不快感を感じたことを報告する子どもはいませんでした。

ゲーム形式の教育アプリは、生徒が不安を克服し、通常の教室では経験できない言語使用を促すことができます。

 

2023年4月現在、研究2の実験が終了したところです。この実験では、没入型プログラムでリスニング力が向上するかを調査しており、近日中に報告する予定です。

 

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■関連記事

VRを活用した英語教育に期待される効果や未来〜中央大学 斎藤准教授インタビュー(前編)〜

VRを使って子どもに第二言語を教える 〜Randall Sadler氏 & Tricia Thrasher氏インタビュー(前編)〜

 

参考文献

Derwing, T. M., & Munro, M. J. (2015). Pronunciation Fundamentals: Evidence-based perspectives for L2 teaching and research. John Benjamins Publishing Company.

http://ebookcentral.proquest.com/lib/brookes/detail.action?docID=2083575

 

Macintyre, P. D., Clément, R., Dörnyei, Z., & Noels, K. A. (1998). Conceptualizing Willingness to Communicate in a L2: A Situational Model of L2 Confidence and Affiliation. The Modern Language Journal, 82(4), 545–562.

https://doi.org/10.1111/j.1540-4781.1998.tb05543.x

 

文部科学省(MEXT). (2017). 小学校学習指導要領. 文部科学省 Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology.

https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1387017_011.pdf

 

 

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