日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。
2026.05.13
2025年10月6日(月)、豊橋市立八町小学校(以下、八町小)にて、同小学校教員および市内外の教育関係者を対象に講演を実施しました。講演者は、早稲田大学 原田哲男教授(当研究所 学術アドバイザー)。当日は、「豊橋版イマージョン教育」 6周年を迎える同小学校の授業が幅広く公開され、当研究所 研究員とともに授業視察も行いました。当日の様子をご紹介します。
著者:佐藤 有里
八町小学校(以下、八町小)は、2020年度より、国語と道徳以外の教科は主に英語を使って学ぶイマージョン学級を開設。公立小学校による英語イマージョン教育(※1)の導入は、国内初の取り組みであり、2025年度で6年目を迎えました。
IBSは、イマージョン教育の研究を行う原田哲男教授(早稲田大学教育・総合科学学術院/IBS学術アドバイザー)とともに、研究活動および社会貢献活動の一環として、2021年度から計10回の授業視察や同校教員との意見交換などを実施しています(※2)。
2025年度のイマージョン学級6年生は、1年生のときから主に英語を使って教科学習に取り組んできた児童たちです。この「豊橋版イマージョン教育」を6年間受けた初代となる学年は、八町小の取り組みの成果を確認する指標の一つです。
また、従来通り日本語のみで教科学習を行う通常学級を併設する八町小では、イマージョン教育への取り組みを通じて培われる指導法や学習環境を通常学級にも還元することが目標の一つになっています。
そこで今回は、1年生から6年生まで、国語、算数、理科、社会、道徳、生活、図工といった幅広い教科の授業がイマージョン学級と通常学級の両方で公開され、特別支援学級の学級活動も公開範囲に含まれました。
さらに公開授業後には、豊橋市教育委員会や三河小中学校長会の関係者を来賓に迎え、体育館で「八町おはなしSHOWCASE」のミニ版が開催されました。八町小独自の行事であり、今回は通常学級・イマージョン学級の児童4名が好きなテーマを選んで日本語や英語で発表を行いました。

公開授業は豊橋市内を中心に事前通知されたが、口コミでも広がり、全国各地の教育関係者およそ130名の参加申し込みがあった。

私立学校やインターナショナル・スクールの教員も遠方から参加し、公立・私立の枠を超えて、豊橋版イマージョン教育への関心の高さが伺えた。

通常学級とイマージョン学級の児童による日本語・英語のバイリンガル司会で「八町おはなしSHOWCASE」が開催された。

通常学級の児童は日本語で発表。

イマージョン学級の児童は英語で発表。スライド資料では、英語・日本語のバイリンガル表記も見られた。
「八町おはなしSHOWCASE」開催に続けて、八町小の山本校長より挨拶のことばが述べられました。内容を以下の通り、ご紹介します。
―八町小 山本校長
「本校のイマージョン教育は、インターナショナル・スクールとは異なり、日本の学習指導要領に準拠して行われております。また、原田先生(早稲田大学)からご指導いただいた『トランスランゲージング』という考え方を基盤に、必要に応じて日本語を交えながら英語での理解や表現を支援しております。
英語での長い発話やグループでのやりとりには、まだまだ課題が残されておりますが、リスニング力の向上や英語に親しむ姿勢には大変大きな成果が見られると考えております。
この6年間、特に立ち上げ当初から関わっていただきました教職員には、カリキュラムの設計、授業づくり、教材開発など、まったくゼロの状態から試行錯誤を重ねていただきました。子どもたちの反応を丁寧に見取りながら、何度も改善を重ねてきた努力は並大抵のものではなかったであろうと推測されます。そして、大変な苦労を重ねながら今日に至っております。
『八町小のみんなで進んでいく』を合言葉に、通常学級や特別支援学級も含め、八町小の全教職員が力を合わせて取り組んでまいりました。本校のOB職員をはじめ、すべての学校教職員に心からの感謝と敬意を表したいと思っております。
早稲田大学の原田哲男先生は、立ち上げ当初から私たちの道を照らし続ける灯台のような存在として、常に温かく導いてくださいました。さまざまなご指導を賜ってまいりました。本校職員がどれだけ勇気づけられたことか。心より感謝申し上げます。
この6年目という節目にあたり、これまでの成果と課題を共有し、通常学級・特別支援学級とともに、今後さらに充実したプログラムへと発展させていきたいと考えております。
子どもたちが英語を通して考え、表現し、学びを深める姿をこれからも大切に育んでまいります。
これまで本校の取り組みを支え、導いてくださいました豊橋市教育委員会の皆様をはじめとし、関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。」
山本校長の挨拶を受け、豊橋市教育委員会からは、豊橋市の英語教育推進の歩み、「豊橋版イマージョン教育」の背景にある課題意識や経緯・狙い、実践に至るまでの検証・準備や指導・学習環境の整備、児童の学習支援、イマージョン学級への入級受け入れ方法、豊橋市の教育全体への還元などについて概説されました。
英語に浸れば英語イマージョン?
記念講演の冒頭では、「英語に浸かっていれば『英語イマージョン』になるのか?」、「英語の授業を英語でやればイマージョンなのか?」と原田教授が参加者に問いかけ、「『イマージョン』ということばは、残念ながら独り歩きしている」と指摘。
そこで「イマージョン教育とは」をテーマに、イマージョン教育の定義や条件、バイリンガリズムやバイリンガル育成を目指した教育のあり方、歴史的な変遷について学術的な観点から概説しました。
英語と日本語が行ったり来たりするのは「問題」?
原田教授は、「豊橋版イマージョン教育」独自の特徴として山本校長からも言及のあった「トランスランゲージング(Translanguaging)」についても説明。
二つの言語を厳しく区別することが問題視されるようになった経緯や先行研究に触れ、一つの授業の中で英語と日本語が行ったり来たりすることを「問題」と捉えるのではなく、「資源」や「能力」と捉える考え方(Baker & Wright, 2021)を紹介しました。
併せて、英語を話す教員(NET)(※3)と日本語を話す教員が学級担任としてチーム・ティーチングを行うことがトランスランゲージングの効果に貢献している可能性にも言及しました。つまり、この指導体制によって、日本語と英語の両方が教科学習の内容を理解したり表現したりするための「資源」となる環境がつくられ、児童が自分の意見をより表現しやすくなっているのではないか、ということです。
さらに、「特別枠」として英語を話す帰国生や外国籍児童にもイマージョン学級の門戸を開いている入級の仕組みから、日本語を話す児童との間で言語や文化の学び合いが発生する「双方向イマージョン(Two-way immersion)」(※4)の考え方に近い、と話した原田教授。公教育における公平性・多様性・包括性といった観点からも八町小の取り組みを評価しました。
「継続性」や「伸び悩み現象の克服」が課題
最後に、今後の課題と将来の方向性として、5つのテーマが提示されました。
1) 英語による教科学習の継続
「英語イマージョン教育で絶対に忘れてはいけないことは、『英語学習』ではなく『教科学習』」と強調した原田教授。教科学習に必要な言語能力とその発達について説明し、八町小で身につけた能力をさらに伸ばす方法として、中学校や高校で教科学習の一部でも英語で教えること(CLIL/内容言語統合型学習)(※5)を提案しました。
2) 伸び悩み現象の克服
原田教授によると、あらゆるイマージョン教育の共通課題として、第二言語を話す能力においてはっきりとした進歩が見えなくなる時期があるとのこと。学年が進むにつれて、教科学習の内容が複雑になる、教師の説明が多くなる、教師・児童間や児童同士の自然な会話が限られてくる、コミュニケーション意欲の低下などが要因として挙げられ、これらをどう克服するかが大きな課題であることを指摘しました。
3) より計画的なトランスランゲージングの使用
英語と日本語の両方を「資源」と捉える考え方や必要に応じた日本語使用で教科学習・言語学習をサポートする方針を基本としながらも、いかに英語のインプットやアウトプット、インタラクション(やりとり)の量を最大化するか、ということが言語学習面の課題として挙げられました。
4) 双方向イマージョン(Two-way immersion)への挑戦
地元で生まれ育った児童にとっては帰国生や外国籍児童が英語話者としてのモデルになり、帰国生・外国籍児童にとっては日本語学習や自尊心などの面で良い影響がある、と話した原田教授。入級における特別枠の存在を活かし、八町小が公立小学校として「多様性、公平性、包括性(DEI=Diversity, Equity, Inclusion)」を促進する役割を果たせる可能性に期待を寄せました。
5) 英語以外の教科を英語で指導できる教員の養成
「豊橋版イマージョン教育」の継続性を確保する方法として、英語を使って算数や理科、社会などの教科を指導できる教員が不可欠である点を指摘し、CLIL などを参考にした地域レベルでのトレーニングを提案しました。

講演の最後には、当研究所との共同研究プロジェクト(※6)についても紹介された。
(※1)イマージョン教育は、バイリンガル教育の一つの形態。学校の教科を二つの言語(母語ともう一つの言語)で指導しながら母語のみで指導した場合と同じレベルの学力を目指し、両方の言語を読み書きのレベルまで育て、さらに二つの社会文化を受容できることを目的とする。どの授業をどちらの言語で教えるか、それぞれの言語使用をどれくらいの割合にするかは、各学校のプログラムや学年によって異なるが、幼稚園(5歳)から高校卒業までの間(少なくとも5年間)、全学年で授業プログラムの50%以上を外国語や第二言語で指導することがイマージョン教育の特徴とされる(Center for Applied Linguistics, n.d.)。また、日本では、文部科学省の学習指導要領に基づいた教育課程が編成される。イマージョン教育や過去の視察についての詳細は、関連記事(本ページの下部を参照)をご覧ください。
(※2)くわしくは、過去に掲載した八町小の視察レポート記事をご覧ください。
(※3)NET(ネイティブ・イングリッシュ・ティーチャー)は、英語を母語として話す教員。豊橋市で長年ALTとしての指導経験を積み、市の教員として採用されている。
(※4)社会の多数派言語を話す生徒と少数派言語を話す生徒が同じ教室内で一緒に学ぶバイリンガル教育のアプローチ。例えば、日本における英語の双方向イマージョン教育であれば、日本語(多数派言語)を話す生徒もしくは英語(少数派言語)を話す生徒の数が全体の2/3を超えないようにする(Center for Applied Linguistics, n. d.)。
(※5)多様で柔軟な指導・活動の工夫によって、内容(教科内容など)の学習と外国語の学習を効果的に統合しようとする教育アプローチの総称。バイリンガル教育や北米のイマージョン教育、CBI(内容重視の教授法)などからヒントを得てヨーロッパで始まった(笹島, 2020)。日本では比較的新しいアプローチだが、注目が高まっている。
(※6)くわしくは、IBS研究レポート記事をご覧ください。
【協力】
豊橋市立八町小学校
豊橋市教育委員会
■関連記事
【対談】 国内外のイマージョン教育と比較した「豊橋版イマージョン教育」のユニークさとは? 〜早稲田大学 原田 哲男教授×UCLA林(高倉)あさこ博士〜
Baker, C., & Wright, W. E. (2021). Foundations of bilingual education and bilingualism (7th ed.). Bristol, UK, Multiingual Matters.
Center for Applied Linguistics (n. d.). Two-Way Immersion. In Glossary of Terms Related to Dual Language/TWI in the United States. Retrieved from
https://www.cal.org/twi/glossary.htm
笹島 茂(2020). 教育としてのCLIL (Kindle版). 三修社.
原田哲男(2025, October 6). イマージョン教育の課題と将来の方向性 ―この6年を振り返ってー. [PowerPoint slides].