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2026.02.17

暗記だけで終わらない! リスニングやスピーキングに効く「使える単語」とは? 〜東北大学 内原准教授インタビュー(前編)〜

暗記だけで終わらない! リスニングやスピーキングに効く「使える単語」とは? 〜東北大学 内原准教授インタビュー(前編)〜

「英単語をたくさん暗記したのに、話すときに出てこない」「リスニングで聞き取れない」──そんな経験はありませんか? 単語数=英語力ではないと気づいていても、どうすればよいのか悩む先生や生徒は少なくありません。そこで今回は、語彙の習得や指導について研究する内原 卓海 准教授(東北大学)にお話を伺いました。前編では、覚えた単語をスピーキングやリスニングで使えるようになるために必要なことについてご紹介します。

著者:佐藤有里

 

まとめ

●語彙は、単なる「暗記する知識」ではない。文脈の中でさまざまな知識を組み合わせて理解したり使ったりできるスキルである。

●覚えた単語をリスニングやスピーキングで使えるようになるためには、単語の意味だけではなく、コロケーションや音声、実際に使われる文脈なども知っていることが大切。

●単語テストの形式を変えるだけでも生徒の学び方が変わる。「使える単語」は、いろいろな文脈で繰り返し出会うことで段階的に身についていく。

 

「単語を覚えられない」という悩みを助けたい

―内原先生は、学生時代はどのような分野に興味を持っていらっしゃいましたか?

いろいろな分野に興味がありましたが、最終的には語彙についての研究に一番興味を持ちました。

大学卒業後は、中学校・高校の英語教員免許を取得して、出身地の埼玉県で公立高校の教員になるつもりでした。英語を教えながら部活動を指導して、生徒たちをインターハイに連れていく、というような夢を持っていたんです。

 

―もともとは、研究者ではなく、高校の教員を目指していらっしゃったのですね。

そうですね、修士課程に進んだことで人生が変わりました。「英語教員になる前に、もう一度留学して英語について勉強したい」と思って大学院に進学したのですが、イギリス留学中に出会った人たちからさまざまな影響を受けて、研究の道を選ぶことにしたんです。

 

―内原先生は語彙について幅広い分野の研究をされていらっしゃいますが、何か共通するテーマや思いがありますか?

根本にあるのは、「単語を覚えられない」という生徒たちの悩みを助けたい、という思いです。

単語が覚えられなくて英語嫌いになる生徒がけっこう多い印象がありましたし、特に、覚えなければいけない単語数が一気に増える高校で挫折する生徒が多いと思います。

高校の先生や生徒と話す機会もあるのですが、やはり単語の教え方や覚え方についての疑問が多いようです。

そういう教育現場の課題から研究への興味が生まれたので、学習指導に示唆のある研究をしたい、教育現場に貢献したい、という共通の思いがあります。

 

「単語をたくさん覚えたのに使えない」はなぜ?

―単語をたくさん暗記してもなかなか実際のコミュニケーションに役立たない、という悩みを抱える人は多いですよね。単語を覚えてから実際に使えるようになるまで、どのようなステップがあるのでしょうか?

さらに研究を進めないと明らかにならないことだと思いますが、語彙の研究では、語彙の「サイズ」(量)だけではなく、「深さ」(質)も重要だとよく言われています。

「サイズ」は、知っている単語の数ですが、単語の意味を知っているだけではコミュニケーションで使える知識にはならないとされています。

なぜなら、単語には、意味以外にもさまざまな側面があるからです。例えば、コロケーション(どの単語と一緒に使われるか)(※1)、コンテクスト(どのような文脈で使われるか)、文法(文の中でどのような用途で使われるか)などの側面があります。このような語彙知識の「深さ」は、ある場面や文の中で使われた単語を聞いてすぐに理解できたりする力に関係していて、コミュニケーションにも影響すると考えられています。

 

―意味を知っている単語がたくさんあったとしても、「どのように使われているか」ということがわからないので実際にはあまり役に立たない、ということはよくありますよね。

最近では、「サイズ」と「深さ」に加えて、さらに「流暢性」も大事だと言われています。

その単語にいかに速くアクセスできるか(語彙アクセスのスピード)、ということです。特に、リスニングとスピーキングでは、途中で止めて考える時間がないのでスピードが大切です。

ただ、私は、これらの語彙知識を個別に捉えて身につけるだけでは不十分ではないかと考えています。「使える語彙」というものがあるとすれば、意味の知識やコロケーションの知識など、あらゆる語彙知識をうまく統合的に使えることだと思います。

 

―「統合的に使える」とはどういうことでしょうか?

例えば、単語の意味を覚えるだけ、ということは、車の運転で言えば、アクセルの踏み方の練習だけをする、というイメージです。

また、単語の意味を覚える、コロケーションの意味を覚える、ということは、ブレーキの踏み方やウインカーの出し方を個別に練習するようなイメージです。

さまざまな操作を個別に練習することは大事ですが、それだけでは運転はできませんよね。
実際には、前の車に近づいてきたらブレーキを踏む、右に曲がるときにはウインカーを出す、雨が降ってきたらワイパーを動かす、というふうに、状況に合わせてさまざまな操作を組み合わせて初めて運転できるようになります。

言語も同様で、語彙に関するさまざまな知識を統合的に使えるようになれば、その語彙を使った英文を聞いて理解できたり話したりできるようになると思います。

これからは、語彙を「知識」としてではなく「スキル」として見る考え方が大切だと考えていますし、最近はこのテーマについて研究をしています。

 

―そのようなスキルを身につけるためには、どのような学び方が必要だと思われますか?

その語彙を文脈の中で見たり聞いたりすることが特に大切だと考えています。

というのも、単語を覚える方法というと、単語帳を思い浮かべる人が多いですよね。単語の使い方(用例)が書いてある単語帳もありますが、結局は「単語を覚えるために用例を読む」ということになっていると思いますし、どうしても単語を単体で捉えてしまいがちです。

単語のテストでも、意味を知っているかどうかを問うだけになっているものが多いかもしれません。

ですから、単語を教えるときには、文脈をしっかり提示して、文脈の中でその単語を理解できるようにすることが重要なポイントの一つです。テストの形式も改めて考えていかないといけないと思っています。

 

―英語を学んできた人の知識やスキルは、ネイティブ・スピーカーとどのような違いがあると思われますか?

意味を知っている単語がどれくらいあるか、ということを調べる研究では、英語を学び始めた年齢が遅くてもあまり差がないことがわかっています。

日本語もそうだと思いますが、年齢を重ねれば重ねるほど、知っている単語はどんどん増えていきますよね。

でも、「コミュニケーションで使える語彙」という観点で見た場合については、まだ十分にわかっていません。

英語学習者の中には、ネイティブ・スピーカーと同等に語彙を使えているように見える人もいます。これは、「機能的に同じレベル(functionally equivalent)」 と言います。

でも、その語彙にアクセスして使うときの頭の中のプロセスは違うかもしれません。

例えば、鈴木祐一先生(早稲田大学 准教授)がこのテーマで文法について研究をしていらっしゃいます。その研究によると、文法の知識には「自動化された明示的な知識(automatized explicit knowledge)」(意識的に学んだが練習によって素早く使えるようになった文法知識)と「暗示的な知識(implicit knowledge)」(子どものころから無意識に身につけて使えるようになった文法知識)があり、頭の中のプロセスが違います。でも、どちらの知識であってもコミュニケーションで使うことができますし、どちらの知識が使われていても良い、と考えられています(※2)

そういうことは、語彙に関してももちろんあると思います。

 

英語をスラスラと話せる人は、どんな語彙力を持っている?

―英語を話すときには、語彙はどのように重要でしょうか?内原先生の研究でわかっていることについて教えてください。

語彙力は特にスピーキングの流暢性に関係する、ということが一連の研究でわかりました(Uchihara & Saito, 2019)。つまり、語彙力がなければ流暢に話すことはできない、ということです。

最近の研究では、語彙力の中でもコロケーションの知識が大事だということがわかりました(Uchihara et al., 2022)。例えば、「髪の毛を切った」と言いたいときに ”hair”と ”cut”という単語を知っているだけではなく、”I got my hair cut.”というふうに、一緒に使う単語も含めてフレーズやチャンク(かたまり)が頭の中に入っていれば、一つひとつの単語にアクセスするよりも時間が短縮できて効率的ですよね。

 

―単語を覚えるときに、発音まで覚えるべきかどうか迷う生徒もいると思います。単語の発音を知っているかどうかは、スピーキング力に影響するでしょうか?

そうですね。研究では、文字で覚えている単語を「筆記語彙(written vocabulary)」、音声で覚えている単語を「音声語彙(spoken vocabulary)」というふうに分けていますが、スピーキング力には音声語彙のほうが強く関係することがわかっています(Uchihara & Clenton, 2022)。

日本人学習者は、特に音声的な語彙知識が弱い傾向があります。
語彙の指導・学習では筆記に偏重する傾向がありますが、語彙指導と音声指導を切り分けずに一体化させることが重要なのではないかと考えています。

 

―最近は、発音を音声で確認できる単語帳もありますよね。やはり、単語を文字だけで覚えていたら、英語を話すときに役に立たないでしょうか?

これは非常におもしろいテーマですよね。私も、単語を文字だけで覚えた人はどのような発音になるかを調べたことがあります。

その結果、やはり音声のインプットがあった人のほうが、ネイティブ・スピーカーに近い発音であることがわかりました。

ただ、興味深いことに、「カメレオン(chameleon)」、「アルマジロ(armadillo)」などのカタカナ語は、文字だけで覚えた場合でも、ネイティブ・スピーカーが聞き取りやすい発音であることがわかりました。自信を持って発音できれば相手に通じる、という単語もあるのかもしれません。

ですから、「文字だけで覚えて役に立つかどうか」は、どの単語かによって変わるので、一概には言えないと思います。

 

―生徒たちにとっては「実際に役立つかどうか」も単語を覚えるときのモチベーションになると思いますから、このような研究はとても大切ですね。

大学入試の共通テストでは、リスニングの配分が昔よりも増えましたが、やはりリーディングとライティングが中心です。ですから、受験対策としては、筆記で覚えることも間違いではないと思います。

ただ、将来的にリスニングやスピーキングができるようになりたいなら、音声で覚えることも大切だということですね。

 

英語のリスニングに本当に役立つ語彙力とは?

―これまでスピーキングについてお話をお伺いしましたが、リスニングについてはいかがですか?英語を聞いて理解するときには、語彙はどのように重要でしょうか?

リスニングに関する研究は、最近特に力を入れていて、斉藤一弥先生(ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン教授)との共同プロジェクトに取り組んでいます。

これは、「リスニングに役立つ語彙とは一体何なのか?」をテーマにした研究です。

これまで、「知っている語彙が多ければ多いほど、リスニング力が高い」ということを示した研究はたくさんあります。そして、リスニングできるようになるためには、少なくとも3,000〜5,000語くらいは必要だと言われてきました。

 

―単語をたくさん知っている人はリスニング力も高いということですね。

そうですね。ただ、この従来の研究結果だけでは、「どう教えたらいいのか」、「どう学んだらいいのか」、ということはわかりませんよね。

これまで使われてきた単語テストは、例えば ”publish”という単語についてテストする場合、publishの音声を聞かせたり文字を見せたりして、日本語での意味(出版する)を回答してもらうか選択してもらう、というものです。

そして、このスコアの高さが物語ることは多すぎます。その人の勉強時間が多いのかもしれませんし、記憶力が高いのかもしれませんから、リスニング力と直接的に関係しているかはわかりません。

そこで、本当にリスニングのために使える語彙とはどんなものか、ということをもっと突き詰めて考えなければならないと考えました。

 

―たしかに「単語をたくさん覚えたほうがいい」という情報だけだと、先生も生徒も途方に暮れてしまうかもしれませんね。リスニングに役立つ語彙力は、どのような方法で調べたのでしょうか?

私たちの研究では、LJT(Lexicosemantic Judgment Task/語彙意味性判断課題)というテストを開発しました。これは、その単語の意味が文脈(センテンス)の中で正しく使われているかを判断するテストです。

例えば、publishが意味的に正しく使われているセンテンス(例:Mary published many books./メアリーはたくさんの本を出版した)と明らかに意味がおかしいセンテンス(例:He published his left hand./彼は左手を出版した)を聞かせて、そのセンテンスが変かどうか(単語の意味が適切に使われているかどうか)をなるべく早く判断してもらいます。

テストを受ける人は、publishの意味については一切聞かれませんが、その意味がわかっていなければ判断できません。さらには、publish=「出版する」という知識だけではなく、どのような文脈で使われるかを知らなければ判断できません。

つまり、単語のテストだということを意識する前に、音声で聞いたセンテンスの意味を理解しようとする中でpublishという語彙の意味を思い出す力(いろいろな情報を処理しながら語彙の知識にアクセスするときのスピードと正確さ)を調べているんです。

 

―実際の会話で求められるスキルに近そうですね。リスニングのテストでも、昔と違って、単語を聞き取れたり意味を知っていたりするだけではなく、文脈から判断する力が求められるような問題がよく出るようになった気がします。

そうですよね。LJTのスコアが従来の単語テストのスコアよりもリスニング力と強く関係する(Uchihara et al., 2025)という研究結果は一貫して出ているので、「リスニングで使える語彙」に必要な側面を一つ明らかにすることができたと考えています。

従来の単語テストだけではなく、こうした何か違うアプローチでリスニングに必要な語彙力を調べることも大切だと思います。

 

―LJTのタスクで良い成績を出せる人はリスニング・テストのスコアも高かったのですね。

そうですね。LJTも、語彙力だけではなく、センテンス全体を処理する力、表現や文法に関する力も見ているかもしれませんから、包括的なテストではあります。

ただ、実際のリスニングでもそういうふうにさまざまな要素が関係しますし、そのような要素を削ぎ落とした研究方法は実践への貢献が非常に限られます。

ですから、LJTの開発には、包括的な視点を持って語彙力を見ることの大切さを伝えたい、という想いもあります。

興味深いことに、LJTのスコアが高い人の中には、授業外で英語を聞く機会をつくってリスニングの勉強をしている人や留学経験がある人が多い、ということを示した研究(Saito & Uchihara, 2025)もあります。

英語を実際に使えるかどうかに関係する個人差と一致しているので、LJTは、リスニングに役立つ語彙力を見るツールとして使えるのではないかと考えています。

〜続きは後編をご覧ください〜

 

(※1)詳しくは、IBSインタビュー記事「なぜ直訳英語だと通じないのか 〜コロケーションの視点から考察〜」をご覧ください。

(※2)詳しくは、IBSインタビュー記事「文法知識を教室で学んでも、「自動化」すれば英語をスラスラと話せるようになる!〜神奈川大学 鈴木 祐一准教授インタビュー」の前編(https://bilingualscience.com/english/2023032001/)・後編(https://bilingualscience.com/english/2023032002/)をご覧ください。

 

【取材協力】

東北大学 大学院国際文化研究科

内原 卓海 准教授

東北大学 大学院国際文化研究科 内原 卓海 准教授のお写真

<プロフィール>

専門は、第二言語習得。語彙の習得・指導・評価に関連する幅広いテーマで研究を行う。近年は、学習者の脳画像や視線などのさまざまなデータを収集・分析し、意図的な語彙学習と偶発的な語彙学習のメカニズムについて調べている。また、実際のコミュニケーションに役立つ語彙知識の習得、音声での語彙学習や語彙指導についての研究にも取り組む。イギリスのレディング大学にて修士号(英語教育学)、カナダのウェスタン・オンタリオ大学にて博士号(応用言語学)を取得。早稲田大学や東北大学の講師を経て、2025年より准教授(ディスティングイッシュトアソシエイトプロフェッサー)に着任。東北大学加齢医学研究所 人間脳科学研究分野および東北大学応用認知神経科学センター 教育応用研究部門の研究メンバーも兼任する。

 

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参考文献

Saito K, & Uchihara T. (2025). Experiential, perceptual, and cognitive individual differences in the development of declarative and automatized phonological vocabulary knowledge. Bilingualism: Language and Cognition, 28(2), 427-443.

https://doi.org/10.1017/S1366728924000609

 

Uchihara, T., & Clenton, J. (2022). The role of spoken vocabulary knowledge in second language speaking proficiency. The Language Learning Journal, 51(3), 376–393.

https://doi.org/10.1080/09571736.2022.2080856

 

Uchihara, T., Eguchi, M., Clenton, J., Kyle, K., & Saito, K. (2022). To what extent is collocation knowledge associated with oral proficiency? A corpus-based approach to word association. Language and Speech, 65(2), 311-336.

https://doi.org/10.1177/00238309211013865

 

Uchihara, T., & Saito, K. (2019). Exploring the relationship between productive vocabulary knowledge and second language oral ability. The Language Learning Journal, 47(1), 64–75.

https://doi.org/10.1080/09571736.2016.1191527

 

Uchihara, T., Saito, K., Kurokawa, S., Takizawa, K. and Suzukida, Y. (2025). Declarative and automatized phonological vocabulary knowledge: Recognition, recall, lexicosemantic judgment, and listening-focused employability of second language words. Language Learning, 75(2), 458-492.

https://doi.org/10.1111/lang.12668

 

Uchihara, T., Webb, S., Saito, K., & Trofimovich, P. (2022). Does mode of input affect how second language learners create form–meaning connections and pronounce second language words? The Modern Language Journal, 106(2), 351-370.

https://doi.org/10.1111/modl.12775

 

 

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