日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。

2023.05.24

子どものころから英語漬けにすれば、英語がペラペラになる? 〜早期英語教育に取り組む親が理解しておきたいこと〜

子どものころから英語漬けにすれば、英語がペラペラになる? 〜早期英語教育に取り組む親が理解しておきたいこと〜

YouTube、Twitter、Instagram、TikTok……とSNSが普及した現代では、バイリンガル教育やバイリンガル育児の様子を気軽に見ることができるようになりました。

日本語と英語を両方ペラペラと話している子どもを見ると、「すごい!うちの子もこうなれたらいいな」と思う親御さんは多いかもしれません。

今回は、日本に住んでいる日本語モノリンガルの家庭がそのような期待を抱いて早期英語教育に取り組む場合に理解しておきたい点をいくつか紹介します。

 

著者:佐藤有里

 

【目次】

 

親が英語を話せば、子どもも話すようになる?

子どもが家庭で英語に触れる環境をつくろうとするときに、「親が英語を話さなければいけない」と考える親御さんもいます。

「英語を話す親がいるバイリンガル家庭の子どもは、みんな自然と英語を話すようになる」というイメージがあるからかもしれません。しかし、これは誤りです。

バイリンガル家庭(両親が異なる言語を話す家庭)で育った子どもの中にも、両方の言語を理解できるけれど自分が話す言語はどちらか一方だけ、という子どももいます(De Houwer, 2009など)。

このようなバイリンガリズム(二言語使用)は、「receptive bilingualism(受容バイリンガリズム)」と呼ばれます。

日本にも、国際結婚の家庭で生まれたときから日本語・英語の両方に触れて育つ子どもがいます。例えば、そのような子ども56人(2〜18歳、平均7歳)を調べた研究(Noguchi, 2001)では、およそ3人に1人は受容バイリンガリズムだったことが報告されました。

ただし、親が「うちの子は話さない」と思っていても、実際にはまったく話さないわけではなく、自発的・自主的にその言語を使っていないだけ、という場合もあります(Nakamura, 2019)。フレーズとして覚えている表現を使う、親のことばを真似する、Yes/Noで応答する、ということはあっても、自分からその言語を使って質問したり会話を始めたりすることがかなり少なく、コミュニケーション力が限られている、という状態です。

このようなバイリンガリズムは、英語しか話さない親がいる家庭にとっては、親子間のコミュニケーションなどに影響するため、親が家庭での言語使用に気をつけることは重要な取り組みの一つです。

しかし、そのような家庭でなければ、「親が英語を話さなければいけない」と気負う必要はありませんし、無理にそうしたとしても、子どもが話すようになるとは限らないのです。

 

成長するにつれて、家庭外の「社会」が影響する

子どもが英語に触れる家庭環境を早くからつくってきた親御さんの中には、「小さいころは英語をよく口に出していたのに、保育所/幼稚園に行き始めたら日本語だけになった」と残念に感じている方もいるのではないでしょうか。

このように、小さいころは両方の言語を話していたけれど、環境が変化したことで一方の言語しか話さなくなる、ということは、バイリンガル・マルチリンガルの家庭でも起こります(Slavkov, 2015など)。

子どもは、ことばを使うことで社会生活に適応し、社会生活に適応するためにことばを使う(Ochs & Schieffelin, 2011)ため、英語を使う「機会」というよりも「社会」が重要です。

生活の大半を家の中で過ごす乳幼児にとっては、親との関わりが主な社会です。しかし、保育所や幼稚園に行き始めた子どもにとって、園の先生や友だちとの関わりが重要な社会になります。

親と遊ぶよりも友だちと遊ぶほうが楽しい、親との関係よりも友だちとの関係のほうが大切、というふうになってくれば、日本語を話す頻度だけではなく日本語の重要度も増します。

4歳くらいになると「みんなはこの言語を話さない」と気づき、不得意なほうの言語であってもみんなと同じ言語を使おうとすることがわかっている(Paradis & Nicoladis, 2007)ため、以前のように英語を話さなくなることは自然な変化です。

また、日本の国際結婚家庭を調べた前述の研究(Noguchi, 2001)では、「みんなと同じでなければ」(日本語を話したほうがよい)という社会的プレッシャーが受容バイリンガルにつながる可能性についても指摘されています。

一方で、話さなくなった言語であっても、その言語を使う環境に入ってしばらくすると、また話し始め、忘れてしまったように見えた知識を短期間で使えるようになる子どももいます(Slavkov, 2015)。このケースでは、英語を理解できることが重要だと感じられる日常的なインプット、英語を話せることが重要だと感じられる定期的なアウトプットの機会がつくられていました。

ですから、「話さなくなったから」といって、乳幼児期の取り組みが無駄になってしまったと落ち込んだりバイリンガル教育をあきらめたりする必要はなく、子どもの能力について悲観的に考えすぎないようにすることも大切です。

 

じゃあ、英語しか通じない幼稚園に入れればいい?

みんなが日本語を話す社会環境によって日本語しか話さなくなるのであれば、英語しか通じない保育所や幼稚園に入れればいい、と思うかもしれません。

しかし、「スポンジのように吸収する」とよく言われる幼い子どもであっても、英語を使って周りの人たちと関係を築けるようになるまでには、ある程度の時間がかかります。

移民の子どもを対象にした研究によると(Tabors & Snow, 1994)、一般的に、ことばが通じない幼稚園(プリスクール)に入った子どもは、下記の段階を経て、そこで使われている言語を話すようになります。

ステップ1:自分が話せる言語を使う
ステップ2:ことばを話さなくなる
ステップ3:覚えた単語を使って質問に答えたり、みんながよく使うフレーズを言ったりする
ステップ4:自分で文を組み立てて話すようになる

 

ステップ2は、例えば、園の先生や友だちに日本語が通じないことがわかると、一時的に日本語も英語も話さなくなる、という状態です。

この研究では、ことばを話さないだけで、ことばを使わずにコミュニケーションをとろうとする(指差しやジェスチャーなどをする)こともあるため、「silent period(沈黙期)」ではなく「nonverbal period(ことばを使わない時期)」と呼ばれています。

周りの人たちが使っていることばに注意を向けたり、独り言のように小さな声で単語やフレーズを口に出してみたりしながら、話すための準備をしている段階です。

そして、この4段階をすべて経験するか、どの段階がどれくらい続くか、最終的にどれくらい話すようになるかは、子どもの年齢、学習能力、社会性など、さまざまな個人差が影響します。

さらに、幼児教育施設で子どもの第二言語習得がうまくいくかどうかは、ことばの習得をサポートするような環境づくり、カリキュラム、教師のトレーニング、うまく話せない友だちを手伝おうとするようなクラスの雰囲気づくりが重要なポイントして挙げられており、あらゆる条件が揃わなければ、親が期待するような効果をすぐに得ることは難しいでしょう。

イマージョン教育(※1)を実施する日本の幼稚園(※2)を対象にした研究(Hashimoto & Nakamura, 2021)によると、英語のインプット・アウトプットを最優先するのではなく、日本語を使うことも許容しながら子どもの発達を第一に考える、という保育者の意識・態度が子どもとの信頼関係につながり、その信頼関係が子どものアウトプットを促す可能性があります。

そのため、親が「英語の幼稚園に入れたのに全然話さない」、「日本語を使わないでほしい」と焦ったり、「ことばの発達に問題がある」とすぐに決めつけたりしないように気をつける必要があります。

また、自分の気持ちや意思をうまく伝えられない状況が1日中続かないように、子どもが得意なほうの言語で会話する機会を家庭などでつくることも大切です(中島, 2016)。

 

無理な「英語漬け」よりも、日本語・英語を生涯学びたいと思える社会体験を

早期英語教育に取り組んでいる親御さんは、「英語を好きになってほしい」、「英語の音に慣れてほしい」という期待から始めた方が多いのではないでしょうか。ところが、子どもが英語を口に出すようになり、英語をペラペラと話せる子どもたちを目にするうちに、「英語をネイティブ・スピーカーのように話せるようになってほしい」という期待が出てくるかもしれません。

今回は、親御さんがそのような期待を抱いたときに理解しておきたい点について紹介しました。

これらを理解しておくことは、親の期待から子どもに過度のプレッシャーをかけないため、そして、「英語モノリンガル」ではなく「日本語・英語のバイリンガル」を目指すために重要です。

両方の言語ですべての能力(聞く・話す・書く・読む、発音、語彙、文法など)をモノリンガルと同じレベルで習得しているバイリンガルは稀です(Baker & Wright, 2021; Shin, 2018)。日本語と英語を同じレベルで話せるように見える大人であっても、大学では英語を使ったほうが勉強しやすかったけれど、仕事の商談となると日本語のほうがうまく話せる、ということもあります。

このように、目的・場面・状況によっても能力のバランスは変わるため、バイリンガルに限ったことではありませんが、ことばの習得は生涯続いていきます。

ですから、子どもの人生のほんの一部分である乳幼児期を無理に「英語漬け」にすることよりも、もっと長い目でバイリンガル教育を見ることのほうが大切です。

家庭や親、保育所や幼稚園、学校、近所のお友だち、好きなスポーツや習いごと、日本に住んでいる外国の人々、海外のさまざまな国、大学、職場というように、子どもが関わる社会は成長とともに増えていきます。

「家庭」という一つの社会で日常的に英語を話さなくても、大好きな絵本やアニメの世界で英語が話されているのであれば、英語は重要だと感じるでしょう。昆虫が大好きな子どもは、昆虫博士が発信する動画で英語が使われていれば、英語を理解したい・話したいと思うかもしれません。

日本語・英語のバイリンガルを目指すのであれば、「いまの子どもがコミュニケーションを取りたい相手は誰か?重要なコミュニティはどれか?」を考えながら、日本語も英語も重要だからずっと学び続けたい、と子どもが思えるような社会体験を与え続けていくことが重要だと考えられます。

 

(※1)イマージョン教育は、バイリンガル教育の一つの形態。学校の教科を二つの言語(母語ともう一つの言語)で指導し、両方の言語を読み書きレベルまで育て、さらに二つの社会文化を受容できることを目的とする。どの授業をどちらの言語で教えるか、それぞれの言語使用をどれくらいの割合にするかは、各学校のプログラムや学年によって異なるが、幼稚園(5歳)から高校卒業までの間(少なくとも5年間)、全学年で授業プログラムの50%以上を外国語や第二言語で指導することがイマージョン教育の特徴とされる(Center for Applied Linguistics , n.d.)。

(※2)日本の幼児教育現場における「イマージョン」は、本来の定義に基づくと、「幼稚園教育要領」、「保育所保育指針」、「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」で共通して示されている5領域(健康、環境、人間関係、言葉、表現)と「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」を目指した保育・教育の中で英語が使われることだと考えられる(T. Hashimoto, 2023, January 27 [Interview])。なお、英語以外の言語を使うイマージョン・プログラムもある。

 

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参考文献

Baker, C., & Wright, W. E. (2021). Foundations of bilingual education and bilingualism (7th ed.). Multilingual Matters.

 

De Houwer, A. (2009). Bilingual First Language Acquisition. Multilingual Matters.

 

Nakamura, J. (2019). Receptive bilingual children’s use of language in interaction. Studies in Language Sciences: Journal of the Japanese Society for Language Sciences, 18, 46-66.

https://www.researchgate.net/publication/349176664_Receptive_bilingual_children’s_use_of_language_in_interaction

 

Noguchi, M. G. (2001). Bilinguality and bicultural children in Japan: A pilot survey of factors linked to active English-Japanese bilingualism. In M. G. Noguchi & S. Fotos (Eds.), Studies in Japanese bilingualism (pp. 234–271). Clevedon, UK: Multilingual Matters.

 

Ochs, E., & Schieffelin, B. B. (2011). The theory of language socialization. In A. Duranti, E. Ochs, & B. B. Schieffelin (Eds.), The handbook of language socialization.

https://doi.org/10.1002/9781444342901.ch1

 

Paradis, J., & Nicoladis, E. (2007). The influence of dominance and sociolinguistic context on bilingual preschoolers’ language choice. International Journal of Bilingual Education and Bilingualism, 10(3), 277-297.

https://doi.org/10.2167/beb444.0

 

Shin, S. J. (2018). Bilingualism in Schools and Society: Language, Identity, and Policy (2nd Ed.). Routledge.

 

Slavkov, N. (2015). Language attrition and reactivation in the context of bilingual first language acquisition. International Journal of Bilingual Education and Bilingualism, 18(6), 715-734.

https://doi.org/10.1080/13670050.2014.941785

 

Tabors, P. O., & Snow, C. E. (1994). English as a second language in preschool programs. In F. Genesee (Ed.), Educating second language children: The whole child, the whole curriculum, the whole community (pp. 103-126). Cambridge University Press.

 

中島和子(2016). 完全改訂版 バイリンガル教育の方法:12歳までに親と教師ができること. アルク.

 

 

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