日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。

2023.04.24

VRを使って子どもに第二言語を教える 〜Randall Sadler氏 & Tricia Thrasher氏インタビュー(後編)〜

VRを使って子どもに第二言語を教える 〜Randall Sadler氏 & Tricia Thrasher氏インタビュー(後編)〜

イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のRandall Sadler(ランドール・サドラー)氏とImmerse社の Tricia Thrasher(トリシア・スラッシャー)氏へのインタビュー記事後編をお届けします。

 

【目次】

 

プロジェクト② アメリカで教育資源に乏しい高校にVRを導入

Tricia:

私たちはMeta社(旧Facebook)から研究助成を受け、教育資源に乏しい高校を対象に、500台のVR用ヘッドセット(OculusまたはMeta Quest 2)を提供して授業に活用するために必要な資金を得ました。

この研究プロジェクトは、Immerse社(担当:Tricia)、Randall(イリノイ大学)、そして、そのほか2名の研究パートナーによる共同研究です。その2名は、ノーステキサス大学のRegina Kaplan-Rakowski(レジーナ・カプラン=ラコウスキー)博士とカリフォルニア大学サンタバーバラ校のDorothy Chun(ドロシー・チャン)博士です。

これは2年間のプロジェクトで、教師のみなさんと一緒に取り組みました。教師それぞれが置かれた状況で、VRというツールをどのように外国語学習に活用するのが最適か、ということについて検討します。そして、先生方と協力しながら、ワークショップによるトレーニングを実施したり、VRを活用したレッスンプランの開発をサポートしたりします。

この来春(2023年春)からパイロット研究を開始し、その後、より大規模な研究を実施する予定です。研究に参加する学校は、全米各地(カリフォルニア州、テキサス州、イリノイ州)の高校です。

 

Paul: なんと、500台のヘッドセットをいろいろな学校へ送るんですね!それは大がかりなプロジェクトですね。この規模のプロジェクトは、どのように実現するのでしょうか。

現場の先生方がどのように感じているのかも気になります。楽しみにしているのでしょうか?それとも、少し消極的でしょうか?

 

Tricia:

ある先生は、このプロジェクトへの参加にとても意欲的でした。ただ、彼女の表情がとても穏やかになったのは、私たちがトレーニング、レッスンプラン、テクニカルサポートを提供することを伝えたあとですね。

 

Randall:

私たちは、先生方がアクセスできるウェブ・サイトを開発します。そこには、チュートリアル、アプリ、ディスカッション、レッスンプランなどが掲載されています。また、夏には、先生方の悩みやいままでの経験談を聞くことができるワークショップも開催します。

 

 

先生がどのようにVRを使いたいかを理解してから助言する

Paul: このプロジェクトは、まだ始まったばかりのようですが、これからどうなっていくのか伺うのが楽しみです。VRのような技術をどのようにうまく学校に導入するのか、という点は、日本の先生方も興味があると思います。

生徒のためにVRを活用できないかと興味を持っている外国語教師や研究者に向けて、何かアドバイスはありますか?

 

Randall:

これは私の考えですが、研究者は、教師のニーズや意向に耳を傾けることなく、教育現場に行って自分の計画を押し付けるようなことがあってはならないと思っています。「何が必要ですか?」、「いま、どんなことをしようとしていますか?」、「足りないものは何ですか?」と教師に問いかけ、その答えに基づいて、自分の研究と結びつく解決策を提示するべきです。

とはいえ、VRでImmerseのアプリケーションを使うことは、文脈の中で言語を学習するにはとても有効だと思います。私は高校時代にスペイン語の授業を受けていたのですが、市場での会話をロールプレイ練習したのを思い出します。このとき、私たちがいた場所は、市場ではなく、古びた教室です。Immerseのような没入感のあるアプリがとても優れているところは、そこなんです。生徒たちは、ことばを実際に使う世界に入り込み、その世界にあるものを操作することができます。私にとっては、とてもワクワクするような技術です。

 

VRが得意なこと、苦手なこと

Tricia:

4技能(話す、聞く、読む、書く)で言うと、既存の技術では「書く」の学習に対応していません。でも、「話す」、「聞く」、「やり取り」の学習には、とても有効です。ただ、VRですべてを教える必要はありませんよね。

 

Randall:

その通りですね。VRは技術であって教育法ではないので、Triciaの意見はもっともだと思います。黒板のチョークと同じように、VRも教室で使う道具なんです。これは、私たちが肝に銘じておくべきことですね。

VRでは、「人間対人間」(人間を相手にやり取り)、「人間対コンピュータ」(コンピュータを相手にやり取り)、どちらのために使うかを選べます。これらも使い分ける必要があります。「人間対コンピュータ」のVRアプリは、例えば『Immerse Me(イマース・ミー)』があります。そのVR空間に導入されている映像やシナリオ(その場面で何をするか)は、コンピュータプログラムによってつくられています。一方、『Immerse』は、生徒が教師と対話できる、「人間対人間」のVRアプリです。どちらも長所と短所がありますね。 この二つのアプリは名前がよく似ていますが、別の会社が開発したものであり、機能もまったく異なります。

 

Tricia:

そうなんです。『Immerse Me』は優れたアプリですが、コンピュータと対話させるためだけに、生徒を教室に集めて全員にヘッドセットを装着させることはないですよね、といつも先生方にお話ししています。『Immerse Me』は、人間を相手にやり取りすることができない、自宅での自習に適しているのではないでしょうか。

 

Randall:

『Immerse Me』と『Immerse』は、それぞれVR空間の環境やテーマが似ていれば、うまく連携させて使うことができます。例えば、両方のアプリにカフェの場面があるとします。まず、生徒たちには自宅で『Immerse Me』を使ってコンピュータを相手にカフェでの会話を練習してもらいます。そして、学校の授業では『Immerse』を使って、 同じようなカフェの環境で人間(教師)と会話させることができるんです。

 

VRに適した指導スタイル

Paul:VRに適した指導法について教えてください。

 

Randall:

私がVRを使って教えるときに有効だと思った指導法は、Task-Based Language Teaching/TBLT (タスクに基づいた言語指導) (※1)やTotal Physical Response/TPR(全身反応教授法) (※2)です。

スペインの小学6年生を対象にしたプロジェクトで例が一つありますので、紹介しますね。『Immerse』には、「プロンプト・カード」という機能があります。それぞれのプロンプト・カードには、単語やフレーズが書かれているのですが、この機能はよく使いました。「ガレージ」でのレッスンはその一つです。そのガレージの壁には、ペグボード(有孔ボード)があり、さまざまな工具が吊るされています。生徒たちは、指示が書かれたカードを手に取ります。そして、指示通りにガレージの中で正しいアイテムを見つけ、タスクを完了させなければいけません。例えば、「レンチを見つけてTriciaに渡す」というタスクです。レンチが何なのかわからない子どもがほとんどだったので、これは難しいタスクでしたね。そこで、子どもたちの問題解決や意味交渉(意味が理解できるようにやり取りすること)を私たちが手助けしました。

このアクティビティは、理解語彙(聞いて理解できる語彙)とリスニングの学習に重点を置いていましたが、もっとコミュニケーションが発生するようにする方法はたくさんあります。

 

Tricia:

生徒たちがお互いにやり取りをしたり、いま置かれている空間に働きかけたりする必要があるようなタスクとアクティビティをデザインすることにしました。もし、VR空間で生徒たちがただ座って、あまりやり取りをすることもなく、先生が何か説明するのを聞くだけであれば、教室で授業を受けるのとほぼ変わりませんよね。

そこで、グループで達成しなければいけないタスクを与えて、子どもたち同士のコミュニケーションを促しました。「家」の空間と同じように、ガレージの空間にも、生徒たちが写真を飾ることができる壁があります。子どもたちには、特定の場所(例:壁の左上)に写真を飾るように指示します。そして、グループ内で助け合いながら(コミュニケーションをとりながら)、写真を正しい位置に配置するんです。

 

Randall:

私が気に入っているアクティビティがもう一つあります。

ほかの人と一緒に「アート」をつくるアクティビティです。生徒たちには、グループで協力して何かをつくり上げてもらうんです。あるグループには公衆トイレを、別のグループにはグルグルと回転するきれいで巨大な花をつくってもらいました。このような作品をつくるには、たくさんのことばとコミュニケーション力が必要です。

さらに、ほかのグループが自分たちの作品を再現できるように、指示書を作成しなければいけません。そのためには、「読む」、「書く」、「聞く」、「話す」が必要であり、この学習スタイル(4技能を使う学習活動)を授業に取り入れられるようなVR技術が進んでいます。

 

Paul: 参考になるアドバイスをありがとうございました。

 

既存のアプリとインフォーマル・ラーニング(教室外での学習)

Paul: 今後について期待していることを教えてください。VRアプリやインフォーマル・ラーニング(教室外での学習)全般についてはいかがでしょうか?

 

Randall:

そうですね、いくつかの技術はかなり素晴らしいものになってきていると思います。特に二つのアプリについて考えているのですが、一つは先ほどお話しした研究で使っている『Immerse』、もう一つは『Spatial(スぺ―シャル)』というアプリです。

Triciaと私は、この『Spatial』を使った研究もしています。アプリの開発者がユーザーの声を熱心に聞いて、使いやすくなるような変更を素早く行ってくれるところが気に入っています。『Immerse』では、「スキャナ」というツールがお気に入りです。子どもたちはこのツールを取り出して、VR空間の中にある物体に向けてスキャンすると、その物体の名前が目の前に表示されるんです。生徒たちは、あとで復習できるように、その単語をノート(データベース)に保存することもできます。このシステムは、生徒が文脈の中で言語を体験するだけでなく、復習するシステムも同時に導入しており、実に教育学的にしっかりしています。

『Spatial』は、先ほどお話ししたもう一つのアプリですね。このアプリでは、自分で立体的な場所や物体をつくって、自分のVR環境をつくることができます。現在は、『Sketchfab(スケッチファブ』という素晴らしいウェブ・サイトと一体化されました。そのサイトには、100万以上の高品質な3Dオブジェクトが用意されています。それらは、とても簡単に『Spatial』で作成した自分のVR空間に取り込むことができるんです。 これは、教育学的な観点からも、素晴らしいリソースです。 例えば、私が『Spatial』のVR空間に取り込んだ3Dオブジェクトの一つは、すでに完成されたお寿司屋さんです。

 

Paul: インフォーマル・ラーニングについてはいかがでしょうか?

 

Randall:

インフォーマルな言語学習、つまり教室の外で行われる言語学習の役割は、飛躍的に増しています。私が学生だったころには考えられなかったような、さまざまなテクノロジーによって、ある言語のネイティブ・スピーカーに接することができるようになりました。また、インフォーマル・ラーニングは、第二言語習得研究の中では研究が進んでいない分野の一つだと思います。

最近、学生の一人とずっと議論を交わしているのですが、『Spatial』のようなVRアプリを通じて、生徒が無料で参加できるプログラムをつくりたいですね。安全に管理された環境で、学びたい言語を教室外で練習できるようにするためです。このプログラムを「International Language Chat Consortium(IBS訳:国際言語チャットコンソーシアム」という名前にしたいと思っています。

『Spatial』を使えば、言語ごとに異なる部屋(環境)をつくることができます(例:部屋1=日本語、部屋2=フランス語)。若い人たちにとって、見知らぬ人と交流できる安全な場を見つけるのは難しいことだと思いますので、このプログラムは多くの人にメリットがあるはずです。

 

VRを活用した英語教育

今回、ディスカッションの締めくくりとして、「今後について、最も期待することは何ですか?」と尋ねました。すると、お二人とも、Meta社のVRヘッドセットを高校に提供するプロジェクトに期待を寄せていました。現時点では、高没入型のVRヘッドセットは、学校の先生方が気軽に利用できるものとして認識されていません。

しかし、このプロジェクトによって、その認識が変わるかもしれません。世界中の教育関係者は、この研究の結果やプロセスに目を向ければ、何か良い情報を得られる可能性があります。技術の進歩に伴って、ヘッドセットの価格や重さが減っていくことに期待したいところです。IBSは、Randall氏とTricia氏の取り組みがうまくいくよう願うとともに、彼らの経験から学ぶことを楽しみにしています。

日本政府は、授業におけるテクノロジー活用を推進しています。その中で、言語を文脈と結びつけて学べるようにVRが効果的な役割を果たすことを期待しています。それは、多くの日本の子どもたちが普段体験することのないような方法です。

VR空間でのリアルな場面・状況で英語(または他教科)を学ぶ。そのときに、本物のやり取りが促進される。それが話すことへの不安を軽減する可能性がある。

このようなVR学習は、通常の授業で英語を使うことに自信がない多くの日本人生徒にとって、まさにぴったりのように思えます。VRは日本の英語教育における課題をすべて解決するものではありませんが、Randall氏とTricia氏の提案通り、適切に活用すれば、多くの人にとって役立つものになり得ます。

 

(※1)教室で言語を習得させるために、学ばせる言語を使って意味のあるタスクをこなさせることを重視する。Ellis, Rod (2003). Task-based Language Learning and Teaching. Oxford, New York: Oxford Applied Linguistics.

https://www.youtube.com/watch?v=59XMhMO0FMU

 

(※2)ことばを聞いたり使ったりするときに、体の動きを結びつける。言語は主に脳の左半球を使い、運動は右半球を使うと考えられている。よって、言語学習に身体の動きを組み合わせることで、学習のプロセスが強化される可能性がある。特に幼少期の学習者を対象に使われている。

https://www.youtube.com/watch?v=bkMQXFOqyQA

 

インタビューの様子はこちらからご覧いただけます。

IBSサイトのバナー

 

【取材協力】

Randall Sadler(ランドール・サドラー)

イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校 アソシエイト・プロフェッサー(助教)

ランドール・サドラー先生のお写真

言語学分野の助教として、コンピュータを介したコミュニケーションと言語学習(CMCLL)、仮想世界と言語学習(VWLL)についての講義を担当。現在、CALICO(IBS訳:コンピュータ支援言語教育コンソーシアム)の会長を務める。多くの査読付き論文を執筆しており、最近の2冊の本の共著者でもある。 「The Handbook of Informal Language Learning(IBS訳:インフォーマル言語学習ハンドブック)」(Dressman & Sadler, 2020 ) と 「New Ways in Teaching with Games(IBS訳:ゲームで教える新しい方法)」(Nurmukhamedov & Sadler, 2020)。

https://randallsadler.weebly.com/

 

Tricia Thrasher(トリシア・スラッシャー)

Immerse社のリサーチ・マネージャー&フランス語プログラム・マネージャー

 

トリシア・スラッシャーさんのお写真

イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校で博士号を取得。研究テーマは、仮想現実(VR)が第二言語学習の成果にどのような影響を与えるか。
現在、 インタラクティブな言語学習用VRアプリケーションを開発するImmerse社(https://www.immerse.online/)にて、リサーチ・マネージャー兼フランス語プログラム・マネージャーとして働いている。『Immerse』は、実生活を模した仮想環境を提供し、外国語でのコミュニケーションを学んだり実践したりすることができる。また、CALICO Immersive Realities Special Interest Group(IBS訳:イマ―シブ・リアリティズ分科会  https://calico.org/sigs/virtual-worlds/)の議長も務める。

https://thrashertricia.wixsite.com/website

 

■関連リンク

Meta Quest 2: https://www.meta.com/quest/products/quest-2/

 

Immerse: https://www.immerse.online/

 

ImmerseMe: https://immerseme.co/

 

Spatial: https://www.spatial.io/

 

Sketchfab: https://sketchfab.com/

 

Common European Framework of Reference for Languages (CEFR): https://rm.coe.int/common-european-framework-of-reference-for-languages-learning-teaching/16809ea0d4

 

University of Illinois at Urbana-Champaign: https://illinois.edu/

 

■関連記事

国内最大規模のVR英語教育プロジェクトから考える「VR活用で学生はどう変わる?」 〜青山学院大学 小張名誉教授・山本教授・佐竹准教授インタビュー(前編)〜

 

参考文献

Dressman, M., & Sadler, R. (Eds.). (2020). The handbook of informal language learning. Wiley-Blackwell.

 

Nurmukhamedov, U., & Sadler, R. (Eds.) (2020). New ways in teaching with games. TESOL Press.

 

Sadler, R., & Thrasher, T. (2023). XR: Crossing reality to enhance language learning. CALICO Journal, 40(1), i-xi.

https://doi.org/10.1558/cj.25517

 

Sadler, R., & Thrasher, T. (2021). Teaching Languages with Virtual Reality: Things you may need to know. CALICO Infobytes.

http://calico.org/infobytes

 

 

PAGE TOP