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2021.01.15

ゲームは、英語学習の「つまらない」を「楽しい」に変える 〜岐阜大学 瀧沢准教授インタビュー〜

ゲームは、英語学習の「つまらない」を「楽しい」に変える 〜岐阜大学 瀧沢准教授インタビュー〜

子どもたちには楽しく英語を学んでほしい。これは、学校の教師も親も、誰もが願っていることです。では、英語の授業で「楽しい」と感じるとき、または「つまらない」と感じるときは、どんなときでしょうか。

今回は、ゲームを活用した楽しい授業を数多く提案する瀧沢准教授(岐阜大学)にお話を伺い、子どもの英語学習におけるゲームの効果について紹介します。

 

【目次】

 

はじめに:一方的な授業から子どもたちが活動する授業へ

英語の授業では、基本的な文型や表現に慣れ親しませるために、“Repeat after me.” と教師のあとについてリピートさせたり、文中の単語を別のものに置き換えて言わせてみたり、疑問文などに変形させたりする場面はよく見られます。このような練習は、「パターン・プラクティス(文型練習)」と呼ばれ、日本だけではなく、世界各国の外国語の授業で伝統的に行われてきました。

瀧沢准教授は、約30年間の教員経験を通じて「どうしたら英語の授業が楽しくなるか」と「使える英語を教えたい」を一貫して追求。英語を使ったゲームとの出会いにより、従来のパターン・プラクティス中心の授業を楽しい活動に変えることができたそうです。

 

―どのようなことがきっかけで、ゲームの大切さに気づいたのでしょうか?

教員1年目に参加した夏の研修会で、Fox Huntingというゲームを体験したことがきっかけです。

はじめに全員が目を閉じて先生に「犬を飼っている人は?」と聞かれ、飼っている人は手を挙げる。目を開けたら「この中に犬を飼っている人が8人いました。その人たちが誰なのか、英語を使って探してみましょう」と言われる。“Do you have a dog?” といろいろな人に質問しながら犬を飼っている人を見つける。そういうゲームです。

それまでの英語の授業は、文型をドリル的に練習するパターン・プラクティスばかりだったので、「相手に聞く」という活動がすごく新鮮でした。そこからゲームにのめり込みましたね。

 

―ゲームを取り入れるようになってからは、英語の授業が変わりましたか?

新任教員になっての1学期は、自分が一方的に教えたりリピートさせたりするような授業が多かったです。でも、研修後の2学期以降は、ゲームを取り入れたことで、「子ども同士が会話する」という活動がある授業になっていました。

教員2年目は、楽しいだけで終わらないで「力がつく授業」をテーマにしていたのですが、どうも力のつく授業をやろうとすればするほど、授業がつまらなくなってしまって、子どもたちもつまらなそうな顔をしていました。そこで、やっぱり楽しい授業がいいんだな、と思いましたね。

まずは「楽しい」、その次に「力がつく」が大事だと思いながら授業をするようになりました。

 

ゲームに必要な「3つの要素」と「5つの法則」

―ゲームには、どのような要素が含まれている必要がありますか?

「楽しい」、「競争相手」、「得点」。この3つの要素を取り入れれば、いつもやっているドリル学習も必然的に楽しくなります。

ゲームとして成立するためには、まず、「やっている本人が楽しい」ということです。楽しくなければゲームではありません。サッカーや野球、テニスなど、ほかのスポーツを見てもそうですよね。楽しいから、ゲームなのです。また、スポーツでは、競争相手がいます。さらに、得点もあります。そういった、「楽しい」「競争相手」「得点」が、ゲームとしての条件だと気づいたのです。

また、英語ゲームの得点は、1回の授業で終わらせないで、1学期間継続することもポイントです。授業ごとに得点を記録していきながら世界1周を目指す得点板をつくったのですが、それが生徒のモチベーションにつながっているようでした。特に中学生は、「今やっていることが何に関係があるの?」と思う子がいます。でも、得点をつけていくことによって、それがその子にとっての活動の意味づけになるんです。

 

―「楽しい」、「競争相手」、「得点」があると、反復練習をゲームに変えることができるのですね。実際にゲームをやるときには、どのような工夫が必要ですか?

ゲームを楽しくするための5つの法則を見つけました。それは、(1)意外性をもたせる、(2)ジャンケンをさせる、(3)カードの奪い合いをさせる、(4)得点を与える、(5)グループ対抗にする、です。

 

―「意外性」とはどういうことでしょうか?

淡々と流れてしまう授業の中で、「あれ?これから何か楽しいことが起こりそうだぞ」と思わせる仕掛けですね。

例えば、場所を表すカードを配るときに「いま配ったのは、みんながこの夏行くところだよ」と言う。すると、カードの中にはMr. Takizawa’s house(先生の家)とかToilet(トイレ)とかがあって、「えー!なんでー?」と笑いが起きるんです。

これは中学校の未来形を学ぶ授業でしたが、センテンスをドリル的に単純に繰り返し練習するのではなくて、“Where will you go?”(どこに行くの?) ― “I will go to Mr. Takizawa’s house!”(先生の家に行く!) ― “Me, too!”(私も!) というおもしろいやりとりをしながら練習することができます。

 

―先生が言ったことをリピートするだけよりも、笑いが起きて楽しそうですね。2つ目のジャンケンはなぜ重要ですか?

ジャンケンをするだけで楽しい、ということもありますが、全員が平等に参加できるという良さがあります。おしゃべりが好きな子はどんどん話しますが、おとなしい子はしゃべる機会がなくなります。

しかし、ジャンケンをすることによって、勝った人は質問する、負けた人は質問に答える、というふうに役割が明確になるので、安心してゲームに参加できるんです。

実は、この「平等」はゲームの良さの一つです。普通の英語学習のやり方だと、英語ができる子だけが活躍しますが、ゲームは、英語学力とは関係なく、英語ができる子もできない子も対等に同じ土俵に立って活動できるんです。

 

―「カードの奪い合い」や「得点」、「グループ対抗」は、ゲームが盛り上がりそうですね。

そうなんです。カードの奪い合いがあると、持っているカードの枚数で勝っているのか負けているのか一目でわかります。それから、カードに得点を書いておいて「このカードは20点だよ」と言ったりすると、子どもたちは「またやりたい!」となって盛り上がりますね。

あとは、同じゲームであっても、班対抗でやってみると、団結力が生まれて、また違ったおもしろさが生まれます。例えば、親分ゲーム。親分は子分にカードを1枚ずつ配る。子分はほかのグループの子分と戦って、カードをゲットしてくる。カードをゲットできたら「親分もうかったぜ!」と言って親分にカードを渡す。カードをとられてしまったら、親分に “Give me one.” と言って親分から一枚もらう。そういうふうにやってみたら、とてもおもしろくなったんです。

 

ゲームの効果:単調な「練習」が楽しくなる

―最近は「意味のある言語活動」が重視されるようになってきましたが、授業でゲームを取り入れることに対する考え方は変わってきていますか?

コミュニケーションを行う目的や場面・状況を設定した言語活動をしてください、という文部科学省の方針が出てからは、ゲームは「遊び」と捉えられて以前よりも実施されなくなりました。でも、ゲームが100%否定されているわけではなく、意味のあるゲームをやってください、ということです。

例えば、Missing Gameというゲームがあります。黒板に食べもののカードを8枚くらい貼っておいて、子どもたちに目を閉じてもらう。その間にカードを1枚取る。目を開けさせたら “What’s missing?” と聞くゲームです。

このゲームでは、「どれがなくなっているかな?」という先生のメッセージを理解して、「appleがない!」という伝えたい「メッセージ」が生まれます。これはappleという単語の学習ですが、同時に、コミュニケーションにもなっています。このようにコミュニケーションが存在していれば、ゲームも意味のある言語活動となります。

また、ステレオゲームといって、5人くらい児童を黒板の前に出させて、それぞれ一斉に “I like Bananas.” などと、好きな食べものを言わせます。まさしくステレオのように、一斉に声が発されます。そのほかの児童は、それらを聞き取って、“Saki likes bananas. ” というように、誰が何を好きか、というのを聞き取って、英語で答えるというゲームです。これなども、伝えたい内容を英語を用いて、伝えるという「意味のある言語活動」になります。

 

―「ゲームをやりたい」というモチベーションは、「英語を学びたい」というモチベーションにもつながるのでしょうか?

はい。楽しいと思う学習の先には、学びたいと思う気持ちは生まれる可能性があります。児童生徒にとって、楽しい授業をしていくことは、その教科を好きになり、もっと勉強したいと思う動機につながります。

実は、ゲームも、「やって終わり」ではなく、例えば、Fox Huntingのゲームをやったあとには、「今度は自分が本当に聞きたいことを聞こう」という時間をつくって、自己表現につなげていきます。そこがあると、子どもたちも何のためにゲームをやったのかがわかります。ゲームは、あくまでプラクティスであり、口慣らしです。

本当の学習は、その先の自己表現、伝えたいことを伝える言語活動にあります。

 

―ゲームは、「練習」の部分を楽しくする方法なのですね。

そうですね。なぜゲームをやるかというと、楽しくない活動を楽しくしたいからです。例えば、Keyword Gameというゲームがあります。消しゴムを真ん中に置いて、先生が言った単語をリピートしていく。あらかじめキーワードとして決めておいた単語が言われたときには、消しゴムをとる。つまり、誰が速く反応できるかという競争です。これに関しては、単なる言葉のリピートなので、意味のある言語活動ではありませんが、発音練習だと考えれば良い活動だと思います。

単に “Repeat after me.” と言ってリピートさせるよりも、よほど楽しく学べますよね。どんな指導方法にもプラス面とマイナス面があるので、もちろんゲームも100%完璧ではありません。

でも、一番大切なことは、「子どもがどうやって学んでいるか」という子どもの姿だといつも思っています。いくら学習指導要領に沿った授業をやっていても、子どもがつまらなそうな顔をしていたら意味がありません。

英語を学んでいて楽しいなと思わせることは大事です。

 

ゲームは「手続き的知識」の習得に有効

―ゲームを通じて学習した内容は、記憶に定着しやすいということはありますか?

英単語ビンゴというゲームをやったときに、そういうことがありましたね。5×5の計25マスが書いてある紙があって、25個の単語を好きなマスに写して書く。先生が言う単語に丸をつけていって、ビンゴになるかどうか、というゲームです。これを4回の授業に渡って繰り返したあとに、その25個の単語をテストしてみたら、子どもが「先生、ビンゴをやるだけで覚えちゃった」って言ったんです。テスト用に勉強するという子もいるのですが、その子の発言から、ゲームをやるだけで覚えちゃうという子もいるんだなと思いました。

 

―ビンゴゲームをやりながら無意識に単語を覚えていたのですね。

知識には、「宣言的知識」と呼ばれる、いわゆる学校で学ぶような知識と、言葉では説明できないけれどやり方がわかる「手続き的知識」があります。自転車に乗れるようになったりピアノが弾けるようになったりすることは、手続き的知識ですね。母語を身につけるときのことを考えると、ことばの学習も手続き的知識が多いです。

特に、聞けるようになること、話せるようになることは手続き的知識なので、繰り返しやりながら無意識に覚えていく方法としては、ゲームは効果的だと思います。

 

おわりに:「つまらない」を「楽しい」に変えるゲーム

パターン・プラクティスは、機械的な暗記や反復練習になってしまうことによって、英語学習への興味を失わせる、コミュニケーション能力につながらない、などの問題点が指摘されてきました。しかし、外国語学習において有効である、という見解は依然として残っており、やり方の工夫やほかの指導方法との組み合わせによってコミュニケーション能力につなげようとする研究(平嶋, 2007; 江口・早瀬, 2018)や英語学習への動機づけにつなげようとする研究(井上, 2017)も行われています。

瀧沢准教授によると、ゲームには、一方的で単調に繰り返されがちな「練習」を楽しい活動に変える力があります。「聞き取りたい」、「伝えたい」という意味のあるコミュニケーションが生まれるゲームや、語彙や文法表現の使い方を無意識に身につけられるゲームもあります。

例えば、話の中に出てきた複数のクラスメートが一斉に“I like〜.” と言ったときに、誰が何と言ったか聞き分けて “Saki likes〜.” と伝えるゲーム。聞き取ったことを他者に伝える、というコミュニケーションになっていると同時に、主語が3人称になると動詞にsがつく、という文法を使う練習にもなります(瀧沢, 2019)。

このようなゲームの特徴を踏まえると、ゲームはパターン・プラクティスの問題点を克服する方法の一つになり得るのではないでしょうか。今後は、パターン・プラクティスの意義を見直す動きとともに、その「練習」を工夫する方法として、ゲームの効果が再検討されていくかもしれません。

 

番外編 瀧沢准教授から親御さんへのアドバイス〜家庭では「遊び」を大切に〜

家庭で英語を使ったゲームをするときには、「勉強させよう」という気持ちを入れずに、「親子で遊ぶ」ということを前面に出すとうまくいきます。例えば、娘がまだ小さかったころ、家の中で娘を肩車したときは、“Go straight!” と言われたらまっすぐ歩いて、“Turn right!” と言われたら右を向いて、というふうに遊びました。

娘とお風呂に入っているときには、“I am an animal. I am big. I have a long nose.” とヒントを出して、娘が何の動物か当てる、というヒント・クイズをやっていました。 お絵かきしているときに “What am I drawing?” (何を描いているでしょうか?)と聞いて遊ぶのもいいですよね。少しずつ絵を付け足しながらWhat’s this?と聞いたりできます。

子どもと遊ぶことが先にあって、そこに英語がくっついてくる。親子での遊びに英語をちょっとだけ入れてやってみる。そういう視点が大切だと思います。親は遊び心を大切にしたいものですね。

 

【取材協力】

瀧沢広人 准教授(岐阜大学 教育学部)

瀧沢先生のプロフィール写真

<プロフィール>

公立小・中学校教諭、教育委員会 指導主事兼主幹、中学校教頭、と計30年間の教員生活を経て、2018年より岐阜大学教育学部(英語教育講座)で学生指導に当たる。小学校英語教育を専門とし、児童のコミュニケーション能力の向上、母語習得研究、幼児からの英語教育、小学校教員のWillingness to Communicateの調査、教員研修のあり方などについて研究。楽しい英語授業を追い求め、授業アイデアの提供や教材の提案も行っている。

 

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参考文献

井上聡(2017).「技能統合型の授業におけるパターン・プラクティスの効果 –習熟度と動機付けの観点からー」. 中国地区英語教育学会研究紀要, 47, 33-42.

https://doi.org/10.18983/casele.47.0_33

 

江口京子・早瀬博範(2018).「大学生のコミュニケーション育成のためのパターン・プラクティスの試み」.『佐賀大学全学教育機構紀要』, 6, 29-42.

http://portal.dl.saga-u.ac.jp/handle/123456789/123548

 

瀧沢広人(2019).「授業が必ず盛り上がる! 小学校英語ゲームベスト50」. 学陽書房

 

平嶋里珂(2007).「コミュニケーション能力を養成するためのパターンプラクティス」.『関西大学外国語教育研究』, 13, 79-95.

http://hdl.handle.net/10112/2480

 

 

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