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2019.09.30

英語学習におけるユーモアや笑いの重要性

英語学習におけるユーモアや笑いの重要性

近年、ユーモアや笑いを活用した学習教材や授業に注目が高まっています。
言語(英語)学習においても、ユーモアや笑いは重要なのでしょうか?        

 

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【目次】

 

 思わず笑ってしまう学習教材や授業への注目

2017年3月に発売され、わずか半年ほどで270万部を超える大ヒットの書籍となった「うんこ漢字ドリル」(出版元:文響社)。

学習参考書としては極めて珍しい書店売上の上位ランキング入り(日販, 2017)、2017年度グッドデザイン賞受賞(日本経済新聞社, 2017)、関連イベントの開催(朝日新聞社, 2019; 鬼室, 2019)など、発売直後から現在に至るまで多くのメディアに取り上げられてきました。

日本経済新聞や産経新聞の取材記事によると、小学1〜6年生を対象とした漢字ドリルである「うんこ漢字ドリル」には、子どもたちが大好きでよく笑う「うんこ」という言葉をすべての例文に使った(例:「田んぼのどまん中でうんこをひろった」)ユーモアたっぷりのドリルであり、「長女は笑いながらドリルをどんどん進めていった」、「息子の笑いが止まらない」と漢字学習を楽しむ子どもたちの様子に喜ぶ親たちの声やSNSで話題になったことが人気に繋がっています(木ノ下, 2017; 小沢, 2017)。

うんこドリル公式サイトでは「うんこ」という言葉には子どもたちを笑わせる力があり、教育と組み合わせることで「勉強を無関心から大好きに、大嫌いから大好きにすら変えてしまう」(文響社, 2019)と説明されていますが、このようにユーモアや笑いを学習に活用しようとする試みは学校教育においても行われています。

例えば、ある中学校で生徒が興味をもちにくい授業(国語科の文法学習)で教員が意識的にユーモアを多用したところ、生徒たちが授業を「おもしろい」と感じていることがわかりました(青砥, 2005)。

また、「学ぶ側が拒否する限り、教育は成立しない」という見解のもと、漫才やクイズ、落語を用いた法学授業を実践した研究では、実学の一つである法学を専攻する大学生でさえ、ほとんどの学生(アンケート調査対象の学生156名のうち約8割)が「どんな授業をしてほしいか」という質問に対して「おもしろい授業」と回答したことが報告されています(木俣, 2001)。

うんこかん字ドリル 小学1年生表紙画像

©文響社

 

外国語・第二言語教育におけるユーモアの活用

日本は、欧米諸国と比較すると、ユーモアを活用した学習や教育に関する研究が少数です。

2000年代からは、1994年に発行開始した学術誌「笑い学研究」で笑いと教育をテーマにした論文の掲載が見られるようになり(J-STAGE, 2019)、学校教育や授業においてユーモアが有効かどうかを日本の教育現場で検証する研究がいくつか行われている(河村, 2016)ことから、日本においても、ユーモアが子どもの学校教育・学習環境・学習効果に与える影響への関心が高まってきています。

しかしながら、英語教育における活用を検討する研究はほとんどありません。

一方、海外では、何世紀も前から医学的治療としてユーモアを活用してきた国もあり、ユーモアや笑いがストレスを受けたときに脳内から分泌されるホルモンを減らすということも生理学的研究で明らかになっている(Savage et al., 2017)ほか、外国語や第二言語の学習におけるユーモアの効果に関しても研究が進んでいます。

例えば、ワシントン州立大学(アメリカ)の助教授ベル氏は、同大学TESOL(*)取得コースを受講する海外留学生に対するインタビュー調査・観察、講師・学生間の授業中・授業外のやりとりの録画・録音分析を行った研究論文を2009年に発表しました。

この論文では、学びの場におけるユーモアが異文化理解に繋がること、ユーモアのある楽しい言葉遊びがより深い語彙理解と記憶に繋がることなどから、その種類・機能や生徒の英語力・文化的背景を考慮しながら第二言語学習の授業でユーモアを活用することが推奨されています(Bell, 2009)。

また、UAE(アラブ首長国連邦)では、英語が第二言語として国内で広く普及しているにもかかわらず、UAE大学生の英語学習意欲が低く、英語で発言することに対して不安やストレスを感じているという問題意識から、ユーモアを用いて単語や文法を学ばせる授業法の効果が研究されています。

同研究のアンケート調査によると、71%の生徒が授業内容の理解、99%の生徒が授業内容への興味・集中に役立ったと回答し、85%の生徒が英語を話しやすい雰囲気だったと感じています。

ユーモアを使って教えられた学生のほぼ全員が「英語の授業にはユーモアがあるべきだ」と回答していることから、学ぶ側がユーモアを歓迎していることが明らかになりました。

さらに、授業の直後と1〜2カ月後に英語テストを実施したところ、通常の授業を受けた学生よりもユーモアを含む授業を受けた学生のほうが授業内容の理解度と記憶力が大幅に高く、授業内容の難易度が高ければ高いほどその傾向が強いことも報告されています(Aboudan, 2009)。

 

グラフ 英語の授業でユーモアの効果を実感した学生の割合(UAE大学)

出典:Aboudan(2009)

※IBSグラフ作成

 

さらに、2017年にインドネシアで発表された研究論文では、ある職業高校(第2学年)で通常の授業を行ったクラスとユーモアを活用した授業を行ったクラス(両クラスとも授業前の英語テスト結果は同等であり標準的なスコア)を比較したところ、後者のクラスのみ授業後の英語テスト結果が明らかに向上した生徒が多く、9割の生徒はユーモアの活用が授業への興味・集中力に繋がったと感じていたことが報告されています(Wahyuni, 2017)。

このように、世界各国で第二言語・外国語学習におけるユーモアの効果が実証されてきています。

ユーモアそのものが学習に直結するわけではないものの、ユーモアの種類・機能や学習内容との関連性、学習内容の難易度、学習者の英語力・文化的背景、ユーモアを用いる場面・状況(例:授業中か日常会話か)などの要素を考慮して適切に用いられるユーモアが学習しやすい環境(興味、集中力、安心感など)をつくり、結果的に学習効果が高まるという結論に至っている科学的研究が数多くあること(Aboudan, 2009; Bell, 2009; Savage et al.; 2017; Wahyuni, 2017)から、英語教育・英語学習におけるユーモアは有効である可能性が高いと考えられます。

 

(*)TESOL: Teaching English to Speakers of Other Languagesの略。英語を母国語としない人々を対象にした英語教授法に関する資格。

日本の早期英語学習における「笑い」の可能性

前述のUAE大学の学生に対する調査結果では、英語教師がユーモアのある授業を行うと、教師に対する緊張や不安が軽減され、「先生に話しかけやすい」、「授業が楽しい」と感じる学生がほとんどであったことが報告されており(Aboudan, 2009)、ユーモアが教える側と学ぶ側の関係性に変化をもたらす可能性も示されています。

つまり、学ぶ側が教える側に対して抱く感情は、学習効果と関連性がある可能性が高いのです。

日本の子どもに関しても、ユーモア(おもしろおかしい話や冗談、だじゃれ、ものまねなどの楽しい特技など)を含むコミュニケーションをとる小学校・中学校教員が担当する児童生徒は「学校生活が楽しい」と感じやすいことが複数の研究でわかっています(河村, 2016; 上田・小林, 2008; 熊崎・山守・五十嵐,2014)。

そして、相手を楽しめませるための親しみを込めたユーモアや陽気な雰囲気の遊び心あるユーモアであれば、自然な笑いによってストレス緩和や「楽しい」という感情に繋がり、さらには、特に前者の「親和的ユーモア」の場合は、教員に対する好意的な印象や教員と児童生徒間の親密性にも影響し、そのような教員の存在が学校生活の楽しさに繋がるという見解も示されています(熊崎・山守・五十嵐,2014)。

そして、子どもが笑うためには、笑わせるための表情や仕草、言葉よりも、快適で安心な空間・時間であることが必要だと言われています(原坂, 1997)。

母親と一緒であっても初めて行く場所では笑顔が見られない、よく行く場所であっても不安や緊張を感じる相手と一緒であれば笑顔が見られない、ということがあるように、幼い子どもが「楽しい」、「おもしろい」と感じるためには、一緒にいる相手と空間の両方が重要なのです。

乳幼児の言語学習において、双方向のやりとりによって構築される講師への信頼感が重要な社会的要素であると結論づけた研究結果(*2)【詳しくはこちら: 幼児がskypeレッスンで言語学習するための重要な要素 】(Roseberry et al., 2014)も発表されていることから、子どもの英語学習においては、「安心」と「楽しい」の両方が重要であり、「安心すれば楽しい」、「楽しければ安心する」というように相互に作用し合う関係であると推測されます。

日本では、「子どもには楽しみながら英語を身につけてほしい」と望む親の声が多く聞かれます。

その観点から考えると、子どもの英語教育・英語学習におけるユーモアは、学習環境(空間や教師など)における子どもの不安や緊張をほぐすことができるという点に価値が見出されます。

さらに、幼い子どもを楽しませるためには、すでに安心できる「自宅」という空間にいること、かつ、すでに安心できる相手である「親」と一緒であることが重要な役割を果たすかもしれません。

もしそうだとすれば、自宅で親子が一緒に楽しみながら学習する家庭教材やビデオ・チャットによる外国語レッスンなどが有効な外国語学習法の一つであり、そこにユーモアや笑いが加わることで効果がより高まる可能性が出てくるのではないでしょうか。

イメージ画像 ユーモアが加わることで子どもの学習効果が高まる

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■関連記事

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参考文献

Aboudan, R. (2009). Laugh and Learn: Humor and Learning a Second Language. International Journal of Arts and Sciences, 3(3): 90-99. Retrieved September 17, 2019 from

https://www.researchgate.net/publication/317101551_Laugh_and_Learn_Humor_and_Learning_a_Second_Language

 

J-STAGE (2019).「笑い学研究」. Retrieved September 17, 2019 from

https://www.jstage.jst.go.jp/browse/warai/-char/ja

 

Bell, N. D. (2009). Learning about and through humor in the second language classroom. Language Teaching Research, 13(3): 241-259.

https://doi.org/10.1177/1362168809104697

 

Savage, B.M., Lujan, H.L., Thipparthi, R.R., and DiCarlo, S.E.(2017). Humor, laughter, learning, and health! A brief review. Advances in Physiology Education, 41: 341-347.

https://doi.org/10.1152/advan.00030.2017

 

Wahyuni, W.(2017). Using Humorous Communication in Learning English As the Second Language. EDUVELOP, 1(1): 1-8.

https://doi.org/10.31605/eduvelop.v1i1.6

 

Roseberry, S., Hirsh-Pasek, K., and Golinkoff, R.M. (2014). Skype me! Socially Contingent Interactions Help Toddlers Learn Language. Child Development, 85(3): 956-970.

https://doi.org/10.1111/cdev.12166

 

朝日新聞社(2019, August 7).「Around Tokyo」. 朝日新聞. Retrieved from 日経テレコン

 

青砥弘幸(2005).「学習支援としての教師の「ユーモアスキル」に関する研究 – 実際の授業分析を中心に」.『全国大学国語教育学会発表要旨集』, 109: 123-124.

http://id.nii.ac.jp/1141/00518062/

 

小沢一郎(2017, July 29).「うんこドリルがヒット 文響社の山本周嗣さん」.日本経済新聞電子版ニュース. Retrieved from 日経テレコン

 

鬼室黎(2019, May 23).「うんこ かわいく楽しんで 横浜で催し 来場者5万人超え」. 朝日新聞. Retrieved from 日経テレコン

 

河村昭博(2016).「日本の教育分野におけるユーモアに関する研究の展望」.『早稲田大学大学院教育学研究科紀要:別冊』, 23(2): 25-36. Retrieved September 17, 2019 from

http://hdl.handle.net/2065/48801

 

木ノ下めぐみ(2017, June 21).「うんこドリル 異例ヒット」. 産経新聞. Retrieved from 日経テレコン

 

木俣由美(2001).「笑いと大学教育:漫才や落語で楽しく学ぶ」.『笑い学研究』, 8: 3-8. Retrieved September 17, 2019 from

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熊崎友望、山守由純、五十嵐哲也(2014).「中学生による「教師のユーモア表出」認知と中学生自身のユーモア感知力」.『愛知教育大学研究報告.教育科学編』, 63: 93-101. Retrieved September 17, 2019 from

http://hdl.handle.net/10424/5406

 

小林明子、上田明日美(2008).「小学生の学校の楽しさに影響を与える教師のユーモア行動に関する研究」.『静岡大学教育実践総合センター紀要』, 15: 125-132.

http://doi.org/10.14945/00003314

 

日販(2017, May 15).「うんこドリル GW中も好調 参考書販売17%増」. 日経MJ(流通新聞). Retrieved from 日経テレコン

 

日本経済新聞社(2017, October 9).「グッドデザイン賞受賞 うんこドリル なるか大賞!? 来月発表 候補に選出」.日経MJ(流通新聞). Retrieved from 日経テレコン

 

原坂一郎(1997).「幼児と笑い」.『笑い学研究』, 4: 4-10.

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文響社(2019).「うんこ学園ごあいさつ(おうちの方へ)」. Retrieved September 17, 2019 from

https://unkogakuen.com/about

 

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