日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。
2020.12.14
子どもが家庭で英語にふれる環境をつくろうとする親にとって、「親はどのよう関わればよいのか」ということは、悩みの一つになるのではないでしょうか。今回は、幼児教育の分野で重要だとされている「共有型」という子育てスタイルに関する研究をもとに、発達心理学、第二言語習得の研究との共通点を探りながら、「親の関わり方」について考えます。
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【目次】
幼児教育の分野では、「共有型」という子育てスタイルをとる家庭の子どもは語彙が豊かになる、という研究結果があります(内田・浜野, 2012)。「共有型」とは、「子どもを一人の人格をもった存在として尊重し、子どもとのふれあいや会話を大事にしていて楽しい経験を子どもと共有しようとする」態度のことです。
逆に、言うことを聞かなければ罰や叱責を与えることは当然と考え、親の思い通りに子どもを育てようとするトップダウンの子育てスタイルは「強制型」と呼ばれています(内田, 2017)。
同研究は、子育てスタイルが子どもの語彙力に影響する要因は、親と子どものやりとりにある、と考察しています。興味深い点は、母親が子どもに対してどのようなことばを使うか、ということではなく、やりとりの雰囲気(例:親が適切なタイミングで温かい声かけや頷き、視線を与える)や、子どもの気持ちやことばに対する反応(例:子どもが感じたことに「そうだね」と共感する、子どもの「どうして?」に「〜だからでしょ」とすぐに答えを言わず自分で考える時間を与える)が重要であることです。
「共有型」の子育てスタイルをとる親は、絵本の読み聞かせ場面でこのようなやりとりを行う傾向にあり、その子どもは「強制型」家庭の子どもよりも絵本に集中し、関心をもって主体的に関わろうとしていたのです(内田・浜野, 2012; 齋藤・内田, 2013a)。
このような読み聞かせの違いは、子どもの語彙が発達してくる3歳以上で見られるようになることが報告されています(齋藤・内田, 2013b)。つまり、子どもが自分で絵本に関する発言や行動をするようになり、それが間違っていたり親の期待と異なっていたりするときに、それらを否定・無視したり説明したりしながら進めるか、共感して受け入れながら進めるか、という違いが出てくる、ということです。この研究では、親の共感的な反応が子どもの学習意欲につながり、その積み重ねが語彙力に良い影響を与える可能性がある、と結論づけられています。
最近行われた別の研究(雨越・森下, 2020)では、保育園で複数の子どもに対して絵本を読み聞かせる場合であっても、同じ絵本を繰り返し読み聞かせることが新しい語彙の学習につながることが示されており、絵本でことばにふれること自体が語彙発達をサポートすると考えられます。
しかし、子どもの言語発達のため、というよりも、空想や親子のふれ合いを目的に読み聞かせを行なっている母親が多く、そのような家庭のほうが読み聞かせ頻度が高く、子どもが一人で読むことよりも親子で会話することを重視するスタイルが多いことも報告されています(秋田・無藤, 1996)。
よって、子どもがことばを学習するうえで、「絵本読み聞かせ」そのものではなく、その習慣の背景にある親の考え方や接し方のほうが重要であると考えられます。
親は、子どもにとって最も身近な「他者」ですが、子どもが学習する場面では他者の行動が重要な役割を果たします。Grossman(2015)によると、子どもは、1歳になるまでの間に、他者の行動をヒントにして、どの情報に注意を向けるべきかを判断し、知識として学習できるようになっていきます。
そして、その他者が自分とアイコンタクトをとりながら関わってくるときや、自分に対して話しかけてきたり(※1)反応を示してきたりするとき、その学習の対象を他者と共有しているとき(例:同じものを見ている、同じものについて会話している)などに、学習が促進されます。
このことは、言語発達にも関係し、乳幼児が映像からことばを学習するために重要な条件としても注目されてきました。例えば、ある研究では、2歳〜2歳半の子ども36人に対して対面またはビデオ通話で新しい単語(動詞)を教えたところ、どちらのグループも同等に学習することができ、対面かどうかにかかわらず、講師が子どもの行動や発語に対して応答的な反応をする、という条件が影響することが示されました(Roseberry et al., 2014)。
また、別の研究(Strouse et al., 2018)では、2歳の子ども88人に新しい単語を映像で学習させたところ、講師との応答的なやりとりがあること以上に、親による共同視聴が学習を手助けすることが報告されています。同じ部屋にいてもほかの作業に集中していた親の子どもよりも、一緒に映像学習に参加した(例:画面と子どもとの間で視線を行き来させる、子どもの手本になるように映像の指示に従ったりする)親の子どものほうがことばを学習したのです。
このような「一緒に見る」は、単に子どもと同じものを見ている(「共同注視」)だけではなく、その対象に対する視線や身体的な働きかけ(例:指差し、手渡し)、表情、発話(※2)などを通じて感情(例:楽しい、おもしろい、びっくり)を共有している「共同注意(※3)」です(常田, 2007)。
そして、同じ「共同注意」であっても、大人主導(大人が子どもの注意をある対象物に向けさせる)よりも子ども主導(すでに子どもが注意を向けているものに親が注意を向ける)のほうが語彙発達につながる可能性を示す研究(Tomasello and Farrar, 1986; Carpenter et al., 1998; 小椋・志水, 2009)があり、これらの研究結果は、共有型の子育てスタイルが語彙発達に良い影響を与える、という幼児教育の分野における研究結果と一致していると考えられます。
以上は、第一言語の語彙発達に関する研究ですが、「応答」や「共同」の重要性は、外国語や第二言語に関する研究でも言及されています。
例えば、アメリカのワシントン大学は、乳幼児の脳発達研究に基づく英語学習プログラムを開発しました。このプログラムでは、インプット量や話しかけ方、遊びの内容、アウトプットの促し方など、0〜3歳の子どもが効果的に学習するための理論がいくつか取り入れられています。指導スタッフ(※4)が子どもの発話や行動に対して応答的に反応することは、その一つです(Ramirez and Kuhl, 2017)。
このプログラムをスペインのプリスクール4施設で実践したところ、従来のプログラムよりも子どもたちの英語の語彙力が伸びたことがわかりました(Ramirez and Kuhl, 2020)。
「共同」に関しては、例えば、英語を話す家庭で育った生後9カ月の子どもに中国語の音声学習映像を見せた研究(Roseberry et al, 2018)が行われています。この学習映像は、子どもが画面に触れて操作することができるインタラクティブなもので、応答的な要素が含まれています。
4週間に渡って計12回参加させたあとに、音声を聞いたときの脳波を調べたところ、一人で映像を見た子どもよりも、ほかの子どもと二人で一緒に見た子どものほうが音声を学習していました。この研究チームによると、他者の視線の向きや行動などが学習対象への関心を高め、学習を手助けした可能性があります。
このような幼児教育、発達心理学、第二言語習得の先行研究から、第一言語であっても第二言語であっても、子どもの言語学習にとって「一緒に」が重要であると考えられます。もちろん、これらの研究は、まったく別の研究分野ではなく、相互に関係して重なる部分もあるため、研究結果に共通点があることは不思議ではありません。
子どもが何かに取り組んでいるときには、「共有型」子育ての親のほうが、子どもに主導権をもたせて試行錯誤する様子を見守る傾向にあり、「強制型」家庭の子どもは困ったときに母親の指示を待ったり母親に質問したりすることが多い一方で、「共有型」家庭の子どもは自分で実際に試しながら考えたり決めたりすることが多いこともわかっています(内田・浜野, 2012)。
つまり、子育てスタイルの違いが子どもの語彙力だけでなく、学習の仕方や意欲にも影響する可能性があるのです。
子どもが関心をもったものに注意を向ける、同じものについて会話する、楽しい気持ちを共有する、子どものことばや行動に応答する。親は、さまざまな形で「一緒に」という学習環境をつくることができます。仕事や家事で忙しいなか、「一緒に」は難しい場合があるかもしれません。
しかし、家庭での英語環境づくりでも日常生活でも、できる限り「一緒に」を心がけると、日本語や英語はもちろん、これからさまざまなことを学ぶ力の土台をつくることができるのではないでしょうか。
(※1)乳幼児に対する話し方(infant-directed speech)。大人に話しかけるときよりも声が高い、抑揚が大きい、話すスピードやテンポがゆっくり、などの特徴があり、子どもの注意を引いたり、言語学習を手助けしたりすると考えられている(庭野, 2015)。
(※2)Strouseら(2018)の研究では、親はことばを使わず、視線や身体的な動きのみで映像学習に参加した。
(※3)joint attention
(※4)専用の研修・実習を受けたワシントン大学の学部生または卒業生
■関連記事
Carpenter M., Nagell, K., Tomasello, M., Butterworth G. and Moore, C. (1998). Social Cognition, Joint Attention, and Communicative Competence from 9 to 15 Months of Age. Monographs of the Society for Research in Child Development, 63(4), ⅰ+ ⅲ+ⅴ+ⅵ+1-174.
https://doi.org/10.2307/1166214
Ramirez N. F. and Kuhl, P. (2017). Bilingual Baby: Foreign Language Intervention in Madrid’s Infant Education Centers. Mind, Brain, and Education, 11(3). 133-143.
https://doi.org/10.1111/mbe.12144
Ramirez N. F. and Kuhl, P. K. (2020). Early Second Language Learning through SparkLing (TM): Scaling up a Language Intervention in Infant Education Centers. Mind, Brain, and Education, 14(2), 94-103.
https://doi.org/10.1111/mbe.12232
Roseberry, S., Hirsh-Pasek, K. and Glinkoff, R. M. (2014). Skype Me! Socially Contingent Interactions Help Toddlers Learn Language. Child Development, 85(3), 956-970.
https://doi.org/10.1111/cdev.12166
Roseberry Lytle, S., Garcia-Sierra, A. and Kuhl, P. K. (2018). Two are better than one: Infant language learning from video improves in the presence of peers. PNAS, 115(40), 9859-9866.
https://doi.org/10.1073/pnas.1611621115
Strouse G. A., Troseth, G. L., O’Dherty, K. D. and Saylor M. M. (2018). Co-viewing supports toddlers’ word learning from contingent and noncontingent video. Journal of Experimental Child Psychology, 166, 310-326.
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Tomasello M. and Farrar, M. J. (1986). Joint Attention and Early Language. Child Development, 57(6), 1454-1463.
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内田伸子・浜野隆(2012).「1. 幼児期における読み書き能力の獲得過程とその環境要因の影響に関する国際比較研究 (2)リテラシー調査班2011年度国際格差班プロジェクト報告No.Ⅱ:しつけスタイルは学力基盤力の形成に影響するか ―共有型しつけは子どもの語彙獲得や学ぶ意欲を育てる鍵―」. 『平成23年度年報 第4号(お茶の水女子大学 人間発達教育研究センター』, 27- 41. Retrieved from
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https://doi.org/10.11201/jjdp.24.150
齋藤有・内田伸子(2013b).「母親の養育態度と絵本の読み聞かせ場面における母子相互作用の関係に関する長期縦断的検討」.『読書科学』, 55(1-2), 56-67.
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