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2021.11.17

英語習得のために重要な「学習者」のあり方〜立教大学 新多教授インタビュー(前編)〜

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英語習得のために重要な「学習者」のあり方〜立教大学 新多教授インタビュー(前編)〜

世の中には、効果的な英語指導方法、効果的な英語学習方法など、英語教育に関する情報や教材、書籍がたくさんあります。しかし、学習者にはさまざまな個人差があるため、すべての学習者にとって効果的であるとは限りません。

そこで今回は、動機づけやモチベーションに関する研究を行う新多 了教授(立教大学)にお話を伺い、英語を習得するために重要な学習者のあり方について紹介します。

【目次】

 

優れた教授法も、やる気が低い生徒には効果的でない

―先生は、「なぜ自分はいつまで経っても英語が苦手なのか?」という疑問から第二言語習得研究の道へ進まれた、ということをほかのインタビュー記事で拝見しました。

まず、「英語ができるようになりたい」という思いで大学の英文学科に進学したのですが、実際には、英文学を読むということが中心だったので、自分が思い描いていた分野とは違うと感じました。

文学の知識や文学的な考え方は後々とても役に立ったのですが、当時はもっと英語がうまくなれるような勉強がしたいなと思いながら卒業して、就職しました。

企業の海外営業部で働いていたのですが、自分の英語力が足りないことを実感しながらも、もっと英語を使って仕事をしたいと考えていたころ、たまたま書店で見つけた本で「第二言語習得」という分野があることを知りました。そこで、会社を辞めようと決心して留学したことが研究の道に進んだきっかけです。

 

―第二言語習得にはさまざまな分野があると思いますが、特にどのような側面に興味をもって研究を始められたのでしょうか?

修士課程のときには、日本に帰国して高校の英語教師になることを視野に入れていたので、文法をどのように教えるかに焦点を当てて研究していましたね。

博士課程では、Task-Based Language Teaching(タスクを使った教授法)をテーマに取り上げて、スピーキングに関する研究を行いました。

ライティングはある程度時間をかければしっかり書くことができますし、辞書も使えるし、誰かにチェックしてもらうこともできる。でも、スピーキングは、その場で文章をつくって相手に伝えて、相手が言ったことに対して答える、というふうに即興性が大事になってきます。自分自身、スピーキングは苦手だなという意識がずっとあったので、なぜスピーキングは多くの人にとって難しいのか、という疑問を研究テーマにしました。

 

―そのような研究を進める中で、何か興味・関心の変化はありましたか?

スピーキングの研究で取り上げたTask-Based Language Teachingは、日本も含め、世界的に広がったアプローチです。ところが、イギリスに来ている学生にこのアプローチで英語を教えると機能するのですが、日本に帰国して大学で教え始めたときに、思ったようにうまくいかないことを実感しました。

それは、タスクを使った教授法は、生徒に「英語を学びたい」というやる気があることを前提としたアプローチなので、やる気が低い生徒に対しては機能しない、ということに気がついたのです。

ですから、根本的な問題として、動機づけ(モチベーション)が大事なのではないかと考え、この分野の研究を始めるようになりました。

Task-Based Language Teachingに関する文献

イギリスで研究していたTask-Based Language Teachingに関する文献

 

モチベーションにおいて重要な第二言語アイデンティティ

―先生の研究キーワードの中に「第二言語アイデンティティ」がありました。これはどのような研究で、どのようなことがわかっているのでしょうか?

アイデンティティとは、自分はどういう人間なのか、自分は何のために生きているのか、といった、生きていくためのテーマのようなものです。言語もアイデンティティの一部です。もう一つの言語を学ぶということは、多かれ少なかれ、自分のアイデンティティに影響を与えます。

英語がすごくうまいわけではなくても、少しでも英語が使えれば、自分のアイデンティティは影響を受けますし、英語を使う人たちの考え方も入ってきます。ですから、英語を学んでいなかった自分とは、アイデンティティが変わってくるはずなんです。

ですから、「第二言語アイデンティティ」とは、第二言語を学ぶことでできあがってくるアイデンティティのことです。

 

―先生はどのような理由で「第二言語アイデンティティ」に興味をもたれたのでしょうか?

モチベーションがあるとかないとか、ということは表面的なことですが、その根本にあるのは、自分をどう捉えているかとか、自分はどんな人間でどうなっていきたいか、英語を使ってどう変わっていきたいか、ということと深く関わってきます。

アイデンティティというものは、長い時間をかけてできあがっていき、そして変化していくものです。

ですから、学習者が自分の過去を振り返って、その過去をどのように捉えているか、ということが現在のモチベーションに影響しますし、さらにこの先どうなっていきたいかという将来像も現在のモチベーションに影響します。

ですから、第二言語アイデンティティは、長期的な視点でモチベーションを捉える方法としてとても関心があります。

 

学習者は、あらゆる要素が影響し合い、常に変化していくもの

―アイデンティティは変化していくもの、ということは、モチベーションも変化していくものでしょうか?先生の第二言語習得の動機づけに関する論文で、「複雑系理論」のお話がありましたので、詳しく教えてください。

「複雑系理論」は第二言語習得の中ではわりと新しい考え方です。元は科学の分野で生まれた理論で、第二言語習得や英語教育だけではなく、さまざまな分野に影響を与えています。

モチベーションは、従来、「静的なものである(動かない)」ということが前提でした。例えば、「モチベーションが高ければ英語力が高くなる」というふうに、ある一点を捉えて、モチベーションの高さと英語力の高さの相関を見るわけですね。

ですが、実際には、学習者は、常にモチベーションも英語力も変わっていきます。ですから、「変わる」ということを前提にしないと、本質がつかめません。

そこで、複雑系理論が注目を集めています。

複雑系理論は、簡単に言うと、どのように変化するか、に関する研究です。

複雑系とは、いろいろな要素から成るひとまとまりのシステムのことであり、学習者自身も一つの「複雑系」と捉えることができます。学習者には、英語力、モチベーション、家庭環境など、いろいろな要素が影響を与え合って、その人が出来上がっているわけです。この複雑なシステムが、時間の経過とともにどのように変化していくか、それを説明しようとするアプローチですね。

先ほどお話ししたアイデンティティも、過去、現在、未来、というふうに長い時間で捉えようとするものなので、考え方としては複雑系理論と似ていますね。

 

―先生が複雑系理論のアプローチに注目された理由は、やはり実際に学生さんの様子を見て、ということなのでしょうか?

そうですね。どうしても理論だけで考えると、現実と乖離している、ということはよくあるのですが、目の前の学生の現実を見ていると、まさに複雑系としか思えない、複雑なものが常に動いている、というふうに捉えるしかない、と思うようになりましたね。

従来であれば、学習者のモチベーションに関するアンケート調査と英語力調査を一回だけ行って、お互いに関係しているかどうかを調べる、という方法でしたが、複雑系理論を基にした研究では、そのような調査を毎週のように行っていくイメージですね。

日本ではまだこのような研究方法を行なっている研究者は少ないです。

第二言語習得の動機づけや複雑系理論に関する文献

第二言語習得の動機づけや複雑系理論に関する文献

 

理想的な学習者の姿

① 学習者エージェンシー

―同じように第二言語を習得したいと考えている人たちであっても、積極的に学習しようとする人と、そうでない人に分かれると思います。この違いはどこから来るのでしょうか?

「エージェンシー」をもっているかどうかが大事だと思います。

エージェンシーという概念は、日本語に訳すのが難しいのですが、当事者意識のようなものですね。自分の学びを自分事として捉える力です。

これは主体的な学びにもつながってきますし、学校の中でも社会に出てからも学び続けられる人はエージェンシーがある人だと思います。

このエージェンシーは、半分は性格的なところからきて、半分は環境的なところからきていると思います。ですから、教室や学校でも生徒がエージェンシーを身につけられるような取り組みをしていかなければならないと思います。

 

―「エージェンシー」をもっている学習者は、受け身ではなく、主体的な学びになるのですね。

自分の学びに関して責任をもつのは教師ではありません。教師に言われた通りやればいい、というのではなく、自分で自分の学びに責任をもつ、という姿勢が重要ですね。

教師はいろいろな学習材料を提供してくれるけれど、実際に学ぶのは自分なんです。そういう意識をもっているかどうかによって、積極的に学習しようとするかどうかは変わってくると思いますね。

 

② 自己調整力

―やる気が出るときもあれば、やる気が出ないときもある、というふうに、モチベーションは変化しやすいと思いますが、安定してやる気を維持できる状態になることは可能なのでしょうか?

前提として、モチベーションは常に変化しているので、常に高い、ということはありえません。ただ、モチベーションが低下したときには、自己調整力(self-regulation)をもっていることが大事だと思っています。

自己調整力には、3つのフェーズがあると言われています。

1)計画をする(実際に学習を始める前に、どういうふうに学習するかを考えること)

2)学習中に自分をモニターする(自分が学習できているかを観察すること)

3)自己評価をする(学習が終わったあとに自分の学習成果を評価すること)

この3つのフェーズをうまくまわして、自己調整力をしっかり働かせている人は、「いま自分はモチベーションが下がっている。じゃあどうやって上げたらいいかな?」などと考えながらモチベーションや学習を調整することができるんです。

 

―自己調整力は、はじめから備わっているものなのでしょうか?それとも、ある程度育てることができるのでしょうか?

それは難しい問題ですね。おそらく両方あると思います。

半分は、その人が持って生まれた性格のようなものがまずあると思います。もう半分は、家庭環境や学校環境の影響ですね。

性格は変えることが難しいとしても、教室の中で自己調整力をつけていく、ということは、教育の現場でもできることだと考えています。

 

③ 相転移

―「英語力が伸びている」と実感できない時期は、モチベーションを保つことが難しいと思います。しばらく伸び悩んだあとに成長した、という体験談はよく聞きますが、実際にそのような研究結果もあるのでしょうか?

先ほどお話しした複雑系理論では、「相転移(そうてんい)」という現象があると言われています。英語でphase transitionsなどと言いますが、フェーズが変わる、という意味です。

ある状態からまったく違う状態にシフトする、という現象ですね。

英語力の発達は、右肩上がりで順調に進んでいくということはあまりなくて、停滞したと思ったら上がったり、また下がったり、というふうに急な変化が起こります。ですから、英語力の発達でも相転移が起こると言われています。

相転移が起きるときというのは、いくつか兆候のようなものがあります。英語力を一つのシステムだと考えると、例えば、今までできていたことができなくなったり、できる日があったり、というように、そのシステムは一度不安定になります。そのあとに、ぐんと力がついて、相転移が起こり、一つ高いレベルに行く、ということがよくありますし、そのようなことを示した研究もあります。

 

―「相転移」は、なぜ起きるのでしょうか?

一つの理由として、ずっと学び続けていると、少し難しいことにチャレンジしたくなるのではないでしょうか。新しいことにチャレンジすると、うまくできないので、やはり英語力は一旦停滞する。でも、がんばって続けていると、次のレベルに到達する瞬間がやってくる。すると、レベルが一つ上がって、今まで難しかったことが普通にできるようになっている。

テストを毎週行っていても同じことが言えますね。違う方法でチャレンジしてみようとすると、その方法がまだ身についていないので、テストの点数としては低くなってしまう。でも、それは一つ上のレベルに行くための必要なステップなのかもしれませんね。

 

―先生はライティングの授業をしていらっしゃると思いますが、学生さんのライティングにも「相転移」の現象は見られますか?

すごく見られますね。毎週10分間くらい自由に英語で文章を書かせる課題を1年間させるのですが、学生たちの発達パターンは似ています。はじめは、間違ってもいいからとにかく書く、というところから始まって、ある程度たくさん書けるようになると、「もう少し複雑なことを言いたい」、「もっと複雑な表現を使いたい」、「もっと正確に伝えたい」というふうに目標が変わってくるんですね。そうすると、当然、文章の長さは一旦短くなります。でも、続けていると、またたくさん書けるようになる、というふうに変化していきます。

 

④振り返る力

―第二言語習得には長い時間と労力がかかりますが、どのような学習者がモチベーションを長く維持し、第二言語を高いレベルまで習得することができるでしょうか?

いろいろな要素があると思いますが、「振り返る力」、つまり「内省力」が最も大切なことの一つだと思っています。

先ほどライティングの授業のお話をしましたが、ライティングのあとには、10分間くらい自分で振り返りをしてもらいます。すると、例えば、文法・語彙に関する振り返り項目で、「今回こういう文法項目を使ってみて、こういう内容を書こうとしてみたけれど、うまく書けなかった」というように具体的な振り返りをしっかりしている学生はライティング力がよく伸びます。

振り返りをどれだけ深められるか、という部分はかなり個人差があると感じています。しっかりできる学生さんは、1年を通じてできていますし、逆にできない学生さんは「もっと深く振り返りましょう」とフィードバックしてもなかなか変わりません。

ですから、こういう振り返る力はどうやって身につけていくのかは興味深いところです。

 

(後編へ続きます)

 

【取材協力】

新多 了教授(立教大学 外国語教育研究センター)

新多先生のお写真

<プロフィール>

専門は、第二言語習得。ウォーリック大学(イギリス)大学院応用言語学研究所にて修士号、博士号を取得。名古屋学院大学外国語学部英米語学科 教授を経て、2019年より同大学院の外国語学研究科 特任教授に就任。また、同年より、立教大学 外国語教育研究センター教授、2020年より同センター・センター長を務める。現在、立教大学の英語教育プログラムの開発と運営に取り組んでいる。

・新多教授の著書

新多教授の著書

 

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