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2021.01.22

英語学習を続けるためには「自己効力感」が大切〜埼玉大学 横山教授インタビュー〜

英語学習を続けるためには「自己効力感」が大切〜埼玉大学 横山教授インタビュー〜

幼いころから英語に楽しくふれる体験をする子どもが増えてきました。子どもたちが「英語を学びたい」という気持ちを維持していくためには、どのようなことが大切なのでしょうか?

今回は、学習のモチベーションについて科学的研究を行う横山 悟教授(埼玉大学)への取材に基づき、英語学習に良い影響を与える「自己効力感」について紹介します。

 

【目次】

 

はじめに:モチベーション研究の現状

心理学や認知神経科学の側面から外国語学習について研究する横山教授。どのような心の働きが学習に影響するのか、言語を使っているときに脳はどのように働いているのか、といった科学的研究に基づき、大学における英語教育の改善にも取り組んでいます。

―先生はどのようなきっかけで「学習」の研究に興味をもたれたのでしょうか?

出発点は、高校時代に国語や英語の成績がなかなか伸びなくて、どのように勉強したらことばが使えるようになるのか、という疑問をもったことですね。中学生のときに尊敬する先生に出会ったこともあって、国語や英語が苦手だった自分の経験を活かして、学校の先生になって苦手な子たちに教えてあげたいと思っていたのですが、研究もおもしろそうだったので、「教える」と「研究」の両方ができる職業として大学の先生を進路として選びました。

言語学習や言語教育と脳科学、という学際的に融合した分野で研究を始めたのは、大学院生のときに「言語を学習しているときの脳の様子が見られるかもしれない」と脳科学分野の先生を指導教員から紹介してもらったことがきっかけです。脳科学は、統計や数理で証明する、という研究なので、客観性や再現性を最重要視して論理的に飛躍しない、というポリシーをもって研究しています。

 

―モチベーションが高い・低い、ということはどのように調べることができるのでしょうか?

モチベーションを調べるための方法論を確立する、ということは、モチベーション研究で難しいところの一つですが、現状はアンケート調査ですね。例えば、勉強に関するモチベーションを調べる「MSLQ(※1)」というアンケート調査があります。海外の研究者がいろいろな研究や大量のデータに基づいてつくったもので、私の研究でも使っています。

モチベーションは脳活動にも反映されるのではないか、と考えて調べているところですが、脳の反応のうち、どれがモチベーションを反映しているのか、ということを調べるには、やはりアンケート調査結果も必要になります。

 

―外国語学習に対するモチベーションは、国によって違いが出ますか?

いろいろな国のデータを見ていると、何が一番のモチベーションになって外国語や第二言語を学ぼうと思うのか、というパターンの違いは出ていますね。周囲で複数の言語が飛び交っている環境にいる人と、ほぼ一つの言語しか使われない環境にいる人では、第二言語、第三言語を学ぶことに対するスタンスが違います。

また、母語以外の言語を使うことに照れが生じる、というような言語使用に対するハードルも変わってきて、そのハードルがモチベーションに影響を与える場合もあります。

ですから、海外のアンケート調査をそのまま使うだけではなく、日本用の調査もつくらないといけないでしょうね。

 

―日本では、外国語学習に対するモチベーションの研究は新しい分野なのでしょうか?

昔から興味をもって研究されている方々はいますが、現状、それぞれの研究者が「うちの大学ではこうだった」と報告するところまでの研究がほとんどだと思います。ただ、最近ようやく、外国語教育という枠を超えて、一般的なモチベーションの理論から英語教育を見てみる、という方向性の研究は増えてきています。これからは、ある程度、体系化された研究になっていくのかなと感じています。

 

モチベーションが大切な理由:記憶に定着させるには「繰り返し」が必要

―なぜ学習するときにはモチベーションが大事なのでしょうか?

学習には、いろいろな理論やモデルがありますが、短期記憶を繰り返していくことで、短期記憶が徐々に長期記憶に固まっていく(※2)、という考え方がほとんどだと思います。学習したことは、繰り返さないと長期記憶として定着しません。なかなか一回でできるようになる、ということはほぼないですよね。そうなると、「繰り返そう」と思うモチベーションが必要です。

 

―「繰り返し」とは、具体的にどのようなことでしょうか?

長期記憶に定着させやすい方略のようなものがいくつかあります。最近特に注目されているのは、「思い出す」というプロセスです。それがかなり長期記憶の定着に効くことは、心理学や脳科学のデータでも出ています(※3)。これは直感的に考えると、納得できるところがあります。

スポーツでは、いろいろな動作を練習しますよね。実践に近い場でいままで習ってきたことをただ思い出すのではなくて、それをパフォーマンスとして出してみる、という練習をします。このように、覚えたものを思い出してパフォーマンスとして出す、というプロセスが記憶に効くんです。英語学習の分野でも、この考え方に基づいた研究がここ2、3年で出てきています(※4)。これは「テスト効果」と呼ばれています。

 

―「思い出しながらパフォーマンス」を繰り返すと記憶に定着しやすいのですね。英語学習だと、例えばどのような方法がありますか?

ゴールを何にするかによって方法を考えるといいと思います。例えば、話す能力を鍛えたければ、思い出すだけではなくて「話す」というところまでやる。自分が学習して記憶したことをテストの場で思い出して問題を解く、ということがゴールなら、それをとにかく繰り返す。

英語の単語学習を対象にした研究論文では、テストを何回も繰り返す、口に出して何回も読む、手で書いて覚える、という3つの学習条件を比較してみたら、テストが一番効果的、という結果になっています。どのようなテスト内容がよいか、というところまで踏みこんだ研究ではありませんが、ゴールとしているアウトプットで必要な知識を思い出して全部出し切る、というテストを繰り返すのが一番効果的、ということは言えます。

 

「自分からやりたい」は維持しやすい

―このようなモチベーションは維持しやすい、ということはありますか?

一般的なモチベーションの理論だと、自分が楽しんでやりたいと思えること、自分が興味をもっていることに対するモチベーションは強い、という結果はいろいろな研究分野で出ています(※5)

一方で、古くからある理論ですが、やるとごほうびをもらえる、やらないとペナルティを受ける、というようなモチベーションの高め方は、あまり長期的な維持には効かないと言われています。そのように外側から強制的にやらされると、「やりたい」という気持ちがどんどん削られていってしまう、という結果も出ています(※6)

英語学習に関する研究では、どのようなモチベーションをもっている学生であれば成績が高いのか、ということはまだ統一された結果は出ていないようですが、おそらく、英語学習でも同じではないかなと思います。

 

―特にお子さんのために家庭で英語にふれる環境をつくっている親御さんは、「これができたら〜を買ってあげる」とか「これをやらないと〜できない」ということを言ってしまうかもしれませんね。

はい、ついやりたくなってしまうところだと思います。でも、それよりは、本人が興味をもてるきっかけをつくってあげるほうが長期的に見るといいのではないかと思います。ごほうびや罰というのは、大人に対する実験でも「やりたい」という気持ちを削ってしまうという結果が出ています。

 

 

モチベーションには「自己効力感」が大きく影響

―英語学習のモチベーションを高めたり維持したりするには、どのようなことが影響するのでしょうか?

自分の成長が見える、ということは一番大きいと思います。やればできる、やったら成長できた、という自己効力感(※7)は、やる気の維持につながります。

自己効力感は、自分が成長できると思える信念です。「やればできるんだから、もうちょっとやってみよう。この調子でやっていけばTOEICの800点、900点はいけるんじゃないか」と思い始めれば、やろうと思っていきます。逆に、どれだけ勉強しても自分は点数が上がらない、ということが見えてしまうと、やっても意味がないんだからやらない、ということになると思います。

やればできる成長力が自分にはある、と感じられるように、自分の成長を見える形にする、ということは、モチベーションの維持に大切なことの一つだと思いますね。

 

―「成長を見える形にする」ということですが、一歩間違ったやり方をすると、競争やテスト結果など、先ほどのごほうびや罰のような外側からくるモチベーションになってしまいそうですが、いかがでしょうか?

大規模な調査で再現性がある、という論文ではないのですが、ほかの子どもとの相対的なランキングで「自分はいま何位」ということが目に見える形になっていたほうがもっとがんばる、という研究結果もあります(※8)

一方で、逆にやる気をなくしてしまうという結果も出ています(※9)。ですから、ほかの子どもがどれくらいがんばっているのかが見える、ということは、効果的な場合とそうではない場合があって難しいところです。

一人ひとりの性格にもよるかもしれません。「あいつよりも自分のほうができるようになってやるんだ」と思える子には効いて、「ほかの子はあれだけできているけれど自分はできない」と気持ちが沈んでしまう子には効かないでしょうし、個人差が大きいと思います。

 

 

―ほかの子どもとではなく、前の自分と比べて成長がわかるようにする、というほうがいいのでしょうか?

そうですね。自分の努力によってスコアが上がったとか、これだけ勉強したら単語力がこれだけ上がったとか、自分の成長が見える、ということがモチベーションの維持には一番いいのかなと思います。大学でのe-learningは、そういうことを比較的見えやすくできるので、そこはうまく使いたいなと思って、いま研究しているところです。

例えば、「第一期ではこれくらいの課題をこなしてくださいね」ということを見えるようにして、着々とこなしていくと「〜%終わっていますよ」という進捗度がわかる。最初のテストから1ヶ月後のテストまでで語彙力が上がった、ということも見られる。

「やれば伸びる」ということがパッと目で見える形になっているとやる気になる子がそれなりにいるので、手応えを感じています。

 

 

─小学校5・6年生の英語の授業が教科になることで、保護者の間ではテストや成績への不安があるように見受けられますが、「自己効力感」という側面で考えると、それほど悪いことではないのでしょうか?

テストの役割や目的は複数あります。入試などのテストは、他人と比較して選抜する、合否を決める、ということになります。

でも、小学校のテストや成績は、他人と比較するのではなくて、その子が何をどれくらいできているかを見るためにあるはずです。日本の場合は、単元ごとに細かくテストをやっていくので、個人的にはいいと思っています。ちょっと学習して、その単元に関してテスト、となるので、自分が勉強した具合がテストに反映されやすいです。

本来の目的通りにテストを使ってあげれば、そして、親がそれを理解してあげれば、モチベーションを高める効果があるのではないかと思います。

 

家庭でできる「自己効力感」のサポート

─英語学習は自己効力感を高めやすい、という見解もありますが、先生はどのように考えられますか?

私もその見解には賛成です。理由は二つあります。

一つは、英語学習の場合、学習を目に見える形にしやすいことが多いです。例えば、英単語を覚えるということであれば、「今週は100個覚えられたから来週は150個目指そう」とか、目に見える形がつくれる。TOEICやTOEFLでもスコアという形で成長が目に見える。そういう意味で、英語は自己効力感を高めやすいと思います。

もう一つは、人間の脳は言語を習得できるシステムをすでにもっている、ということです。誰でも必ず一つの言語は習得できるからです。もちろん2個目の言語の習得ができるかどうかは多少ばらつきが出ますが、基本的に、周囲で複数の言語が話されているような環境にいる人はだいたいバイリンガルになっていきますし、自然に言語が身につきます。数学のように、必ず全員が習得できるというわけではない、という分野と比べると、成長が見えやすいし、成長しやすいのではないかと思います。

 

―子どもの自己効力感は、家庭ではどのようにサポートしてあげられるのでしょうか?

親は、例えばその子の成長を表やグラフにしてあげて、何をどれくらいがんばったら点数が上がった、ということが目に見えるようにしてあげられます。それだけでもだいぶ違うのではないかと思います。

それから、私も中学1年生の娘がいるのですが、小学生のときから本人が英語に興味をもってくれたので好きにやらせて、というふうにしたら、けっこうできるようになってきました。その自分の経験とモチベーション理論とを踏まえて考えると、できなかったところを「ここをこう直しなさい」とダメ出しするのではなく、できたときに「すごいね、そこまでできるようになったんだね」と声をかけてあげるといいかなと思います。

「やればできる」と周りが励ますと本人も「自分はこんなにできるようになったんだ」と思って、どんどん好きになっていくし、いろいろなことに興味をもってくれる。自分の子どもを見ていて、自己効力感の理論とぴったり一致しました。

 

─「やればできる」という感覚は自分では気づけないことも多いのでしょうか?

けっこうあると思います。個人の性格にもよると思いますが、自分に自信がない子、控えめな子は、本当はちゃんとできているのに、自分としては不安だから「もっと勉強しなきゃ」と自分でプレッシャーかけてしまったりします。

そこは親が「できているよ」と安心させてあげると効果的だと思います。「やればできるようになってうれしい」、「自分ができるようになったことを周りがほめてくれてうれしい」、というダブルで「うれしい」を支援してあげると、どんどん興味をもってやってくれるのではないでしょうか。

 

おわりに:「努力したらできるようになった」が大切

近年は、「自己効力感」という用語は日本でも知られるようになってきて、さまざまな教科の学習を対象に、その影響が研究されています。横山教授によると、英語教育の研究者がモチベーション理論を取り入れて研究する、そして、心理学者がモチベーション理論を英語学習で試そうとして研究する、というように、ここ5年〜10年ほどで異なる学術分野の研究者が双方向に交わるようになってきた流れがあるとのこと。今後は、実証的研究がさらに進んでいくものと思われます。

幼いころから英語に楽しくふれる体験をする子どもが増えてきましたが、小学校の英語教育に期待を寄せる一方で、「せっかく英語を好きになったのに嫌いになってしまわないか」と不安になる親もいることでしょう。この「自己効力感」の考え方は、そのような不安に対して大切なヒントを与えてくれます。それは、子どもに「努力したらできるようになった」と感じさせてあげることで、モチベーションの維持をサポートできることです。

特に、家庭で一緒に英語にふれる体験をしている親であれば、ちょっとした変化で「できるようになったこと」に気づいてあげやすいはずです。気づいたら「できるようになったね」と声をかけ、何か見える形にしてあげる。ほかの友だちと比較して自信を失っているようであれば、前の自分といまの自分を比べて成長していることに気づかせてあげる。そのような日常を小さいころから積み重ねていけば、「自分はもっと努力すればもっと英語ができるようになる」という自己効力感を育てることができるのではないでしょうか。

 

【取材協力】

横山 悟教授(埼玉大学・英語教育開発センター長)

横山教授のお写真

<プロフィール>

専門は、心理言語学、認知神経科学、学習科学、教育工学。東北大学加齢医学研究所脳機能開発研究分野助教及び非常勤講師、千葉科学大学薬学部教授、を経て現職。

学習心理学、認知神経科学での知見に基づいた、学習効果を最大化する方法の開発を目指した研究を行う。現在は、英語学習に関するモチベーションや自己効力感の影響、学習・記憶方略の効果測定、及び英語学習におけるe-learningの効果的利用法に関する研究を進めている。

 

(※1)Motivated Strategies for Learning Questionnaireの略称。大学生の学習に対するモチベーション(学習の目的や目標、興味・関心、自分の学力・学習成果に対する信念や期待、不など)や学習方法を調べるためのアンケート調査。1980年代からアメリカで開発され始め、これらのモチベーションや学習方法は学業成績に影響することが示された(Pintrich etc., 1993)。

(※2)目や耳などから入ってくる新しい情報は、一時的な記憶として脳内に保持され、短期記憶となる。この短期記憶が忘れにくいものになっていくと長期記憶となる(横山, 2015)。

(※3)該当論文:Karpicke, J.D., & Blunt, J.R. (2011). Retrieval practice produces more learning than elaborative studying with concept mapping. Science, 331(6018), 772-775.

(※4)該当論文:Cho, K. W., Neely, J. H., Crocco, S. & Vitrano, D. Testing enhances both encoding and retrieval for both tested and untested items. Quart. J. Exp. Psychol. 70, 1211–1235 (2017).

(※5)該当論文:Deci, E. L., & Ryan, R. M. (1985). Intrinsic motivation and self-determination in human behaviour. New York: Plenum.

(※6)該当論文:Murayama, K., Matsumoto, M., Izuma, K., & Matsumoto, K. (2010). Neural basis of the undermining effect of monetary reward on intrinsic motivation. Proceedings of the National Academy of Sciences, 107, 20911 – 20916.

(※7)「自分の目標を自分の努力によって達成できる能力が自分にはある」と考えて信じること。自己効力感の高さは、学習成果の伸びに影響することがわかっている(横山, 2019)。

(※8)該当論文:Worm BS, Buch SV (2014) Does Competition Work as a Motivating Factor in E-Learning? A Randomized Controlled Trial. PLoS ONE 9(1): e85434.

(※9)該当論文:Deci, E. L., & Ryan, R. M. (2012). Self-determination theory. In P. A. Van Lange, A. W. Kruglanski, & E. T. Higgins Handbook of theories of social psychology: Volume 1 (pp. 416–437). London: SAGE Publications Ltd.

 

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参考文献

Pintrich, P. R., Smith, D. A. F., Garcia, T., and Mckeachie, E. J. (1993). Reliability and Predictive Validity of the Motivated Strategies for Learning Questionnaire (Mslq). Educational and Psychological Measurement, 3(3), 801-813. Retrieved from

https://doi.org/10.1177%2F0013164493053003024

 

横山悟(2015).「実証的方法論により検証された最新の科学的知見「産出効果とテスト効果」に基づく効率的学習法(Kindle版)」. 総説出版.

 

横山悟(2019).「学習に対するモチベーション理論及びモチベーション理論に基づいた学習方略理論」.『千葉科学大学紀要』, 12, 105-109. Retrieved from

http://id.nii.ac.jp/1222/00000273/

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