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日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。

2021.04.08

小学校英語教育では、「音」を大切にした読み書き指導が必要 〜青山学院大学 アレン玉井教授インタビュー(後編)〜

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小学校英語教育では、「音」を大切にした読み書き指導が必要 〜青山学院大学 アレン玉井教授インタビュー(後編)〜

幼児期から小学校卒業までの効果的な読み書き指導のあり方に関する、アレン玉井教授(青山学院大学)への取材記事後編です。

【目次】

 

音と文字の対応を知り、単語を読めるようになる

―アルファベット学習の次には、英語の音素や音韻の構造がわかるようになることが重要ですね。その次に必要な「音と文字との対応を知る」とは、どのようなことでしょうか?

英語の文字がどの音を表しているのかを知る、ということです。これは、単語を読めるようになるための絶対条件です。そして、その「音」を英語の音で認識し、産出できるようになる必要があります。

英語は、日本語とは違って、文字と音の関係が複雑な言語です。日本語のひらがなやカタカナは、音をそのまま文字にしています。「あ」という音の文字は「あ」しかありません。でも、英語の場合は、「a」という文字にはいろいろな音があります。「apple」の「a/æ/」と「apron」の「a/eɪ/」は違う音ですよね。「eagle」に含まれているaのように、読まないaもあります。

このように、特に母音の場合は、例外的な読み方が多いです。

 

―「読み書き」というと、文字を読んだり、文字を書いたり、というイメージがありますが、「音」がとても重要ですね。

従来のように、文字を書き写して覚えるだけでは、単語を読める力はつきません。ある中学生は、baseballの書き方を「バ(ba)・セ(se)・バ(ba)・11(ll)」というふうに覚えていました。この覚え方をした子は、「Do you like baseball?」と言われたときに、意味が理解できるでしょうか?

4技能を別々に学習していると、聞いた音と目で見ていた文字がいつまで経っても結びつかない、ということになってしまいます。

日本の子どもたちは、良くも悪くも、「手で書いて覚える」という学習ストラテジーを漢字学習で学んでいるので、英語もそうやって覚えられるんだと思ってしまいがちです。でも、それが、音を介する文字学習にブレーキをかけているのではないかと思います。

 

―従来の英語教育では、「聞く・話す」と「読む・書く」が切り離されて指導されていたかもしれませんね。

いままでは、英語を使って生きていく日本人像というものが明確になかったので、それでよかったのだと思います。でも、これからは、「聞く・話す」以上に、メールやチャットでのやりとりなど、「読む・書く」が必要な場面は増えてくると思います。

「Do you like it?」と言いたかったら、それを文字で書ける、というように4技能を身につけていないと英語を使いきれないですよね。

 

―音と文字の対応がわかるようになってから、単語を読めるようになるまではどのような指導が必要でしょうか?

英語の音と文字との関係には、例外も多いので、whole word method や sight word method(単語を文字に分解せず、単語全体で覚えるアプローチ)を使っての指導も必要です。音と文字との関係がだいたい意識できた児童には、なるべく単語を読ませ、書かせます。読んでいる単語の意味を音声として知っていると、その読み書きの知識は早く定着しますね。

どの年代の学習者にも必要となりますが、単語認識力を伸ばしていくことは必要です。単語の意味を知り、音がわかり、スペルがわかるだけではなく、単語がどのように使われているのか、つまりどんな単語とともに使われているのかを学ぶことも重要だと思います。ですので、読み聞かせなどをしてトップダウン(※6)的に読みの指導をしていくことも大切だと思います。

私は、ジョイントストーリーテリング(※7)という方法を取り入れています。

まずは、物語の音声だけを聞いて暗唱できるようになったら、そのあとに、はじめて文字を見せます。すると、文字を読むのではなく、自分が口に出している音を目で文字を追う、という状況になります。そして、「先生、ここにsがついているよ」、「ここにaが入っていたんだ」、というように、動詞の三人称単数現在形や冠詞にも気づきます。音で覚えたものを目で見ることで確実に定着し、その目で見た情報によって音がさらに定着するんです。

 

リタラシー指導は「体系的」&「明示的」に行う

―学習指導要領では、外国語活動での文字指導について、「児童の発達段階を踏まえると、英語の発音と綴りの法則を教え込むような指導は、児童に対して過度の負担を強いることになると考えられるため、不適切である」という記述があります。先生は、どのような見解をおもちでしょうか?

たしかに、文字と音との関連を教え、そして単語が読めるように指導することには時間がかかります。指導者にも、理論的にメカニズムを理解して指導できる力が必要です。そして子どもにとってあまり無理をしないで楽しく取り組める適切な教材が必要です。そうでないと、頭ごなしにルールだけを教えてしまい、子どもたちの学習動機が損なわれてしまう可能性は大きいと思います。文部科学省が懸念している理由もここにあるのではないでしょうか。

ただ、高学年では教科として、また中学年では外国語活動として、それなりの時間を使って指導するわけですから、しっかりとしたプログラムを整えれば、文字から音を連想し、単語を読む、そして書くことができる児童に育っていきます。

私自身はそのようなプログラムを作成し、公立の小学校で実践していただいており、その効果も出ています。ですから、「不適切」という表現には抵抗を感じますね。

 

―読み書きを教えること自体が問題なのではなく、教え方を工夫する必要がある、ということですね。

音声言語は5万年前から存在しているけれど、文字言語は5千年前からと言われています。音声言語は自然に生まれた言語ですが、文字言語はそうではありません。ですから、人が教えなければできるようになりません。だから、文字が読めない人たちは貧困に陥ってしまうんです。

読み書きは、エンパワーメント(社会的地位の向上)になります。日本人は、いままでは、日本語の読み書きができればよかったのですが、これからは、きっと英語の読み書き力が経済格差を広げていくと思います。私は、そのようになってほしくない、という想いをもって、英語にふれる機会があまりない公立小学校の子どもたちに英語のリタラシー指導をしています。

日本語の文字は、小学校6年間かけて学びますよね。でも、英語の場合は、5・6年生だけでアルファベットを読んで書けるようにして、さらに単語を読んで書ける力につなげなければならない。ちゃんとした指導プログラムを計画しなければ、子どもたちが英語を嫌いになるのは当たり前です。

 

―どのような指導プログラムが必要でしょうか?

アメリカのNational Reading Panel(※8)では、リタラシー指導は、systematic(体系的)でexplicit(明示的)であることが重要だと言われています。つまり、行き当たりばったりではだめ。systematicでなければならない。そして、「わかるでしょ」ではだめ。ちゃんと教えてあげる、ということがexplicitですね。そういう指導が効果的だと言われています。

phonological awarenessとかphonemic awarenessというのは、英語圏でも長い間、重要度がわからなかったんですね。1980年代から研究がものすごく盛んになって、「必要なんだ」となり、2000年にはNational Reading Panelでも必ず必要、と発表されました。

ですから、英語圏では、3年生までの教科のなかには、このphonemic awarenessの指導が入っています。

英語のネイティブスピーカーである子どもたちに対する指導がそうならば、ネイティブスピーカーでない子どもたちに対しては、もっとそのような指導が必要なのではないかと思います。

 

―体系的で、かつ、明示的に指導する必要があるのですね。

リタラシー指導の重要性については、小学校の先生方の意識は大きく変わってきたと思います。私は1992年に総合的な学習の時間の一環として「英会話」の導入が可能になったころから、その重要性を教員研修などで述べてきましたが、はじめは、アルファベットの文字を教えることについても大きな抵抗を示された先生が多くいました。

でも、日本の先生たちは、フォニックスは知っているけれど、phonemic awarenessについてはまだ多くの方がご存じありません。アルファベットの読み方や書き方を教えている先生はいらっしゃいますが、文字と音の関係になると、先生方もどこまでどうやって指導したらいいかわからなくて「やらない」ということになるのだと思います。

 

―今後の小学校英語教育においては、リタラシー指導の重要性を認識すること、そして、効果的に実施することが課題となりますね。

日本では、「読み書き」の指導は、子どもたちの負担になり、英語嫌いになるという懸念から、特に小学校段階での導入は長い間控えられてきました。たしかに、読み書きは個人差が大きく出ますし、指導方法によって児童の負担度は大きく異なってきますから、十分なケアが必要です。でも、時間がゆっくりある小学校段階でていねいに指導することが大切だと思います。

リタラシー指導を避けていたら、中学校で大量の英語を覚えなきゃいけない、となったときに、子どもたちはどうなるでしょうか。単語の文字がわからない、読み方がわからない、となると、文を理解するとか、文法を理解するということは到底できません。すると、子どもは、テストのために丸暗記するだけになってしまいます。

今年の4月から中学校の教科書が大きく変わり、量的また質的に難易度が高くなっています。中学校での学習をスムーズに進めるためにも、小学校段階での音を大切にした適切なリタラシー指導は、マストで行うべきですし、その能力の測定および評価も適切に行われるべきだと考えています。

読み書きは、自分ができているかどうか、ということが確実にわかります。読めなかった英語が読めるようになってくるわけですから、達成感が強いんです。読み書きは、学びに向かう態度をつくり、自律学習を促進していく大きな活動だと思います。

 

おわりに:日本の子どもたちにとって、リタラシー指導は必要不可欠

英語の4技能には、「聞く」・「話す」・「読む」・「書く」がありますが、アレン玉井教授のお話からは、これらが別々の能力ではなく、相互に影響し合うことがわかります。「cat」を「キャット」ではなく英語の音[kæt]として聞いたり発音したりできる力は、文字と音の対応を知り、「cat」という文字を読んだり書いたりできるようになるために欠かせません。

そして、「cat」という文字を読んだり書いたりする力は、「cat」と音声で聞いたときに理解できる力やしっかりと英語の音で発音できる力につながるのです。

また、文部科学省(2017)は、「グローバル化が急速に進展する中で、外国語によるコミュニケーション能力は、これまでのように一部の業種や職種だけでなく、生涯にわたる様々な場面で必要とされることが想定され、その能力向上が課題となっている」と学習指導要領の中で述べています。

将来の子どもたちが実際に英語を使う場面を想像してみると、読み書き能力が必須であることは明らかです。インターネットで世界中がつながっている現代では、相手と対面でやりとりする以上に、英語で書かれた情報を理解し、自分の考えを英語で書いて発信する場面が数多くあることでしょう。

「聞く」・「話す」力を定着させるためにも、グローバル人材を育成するためにも、読み書きの指導が避けては通れないものだからこそ、その重要性と指導方法について理解を深める必要があります。音声、アルファベット学習、音素・音韻認識能力、音と文字の対応、単語や文の理解、というように、適切な順序と効果的な方法で教えることができなければ、子どもたちは途中でつまずいて英語嫌いになってしまうか、テストのためだけの丸暗記になってしまい、実際に社会に出たときに英語を使えるようにはなりません。

小学校における効果的なリタラシー指導は、子どもたちの英語嫌いをなくし、「使える英語」を身につけさせるための根本的な解決方法の一つであると考えられます。

 

(※6)すでに持っている知識を利用し、入ってきた情報を理解、または処理をしようとするアプローチ(アレン玉井, 2019)。

(※7)動画参照:eikenjidoeiken. (2013, April 5).「アレン先生のJoint storytelling」[Video]. YouTube.

https://youtu.be/ADFIrpdZV5M

 

(※8)アメリカの政府機関。子どもたちに読むことを教えるために使用されるさまざまなアプローチの有効性を評価することが目的

 

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【取材協力】

アレン玉井光江教授(青山学院大学 文学部 英米文学科)

アレン玉井教授のお写真

<プロフィール>
専門は、小学校英語教育、第二言語教育、読み書き教育。Notre Dame de Namur大学で学士号(英語学部)、サンフランシスコ州立大学大学院で修士号(英語教育学)、テンプル大学で博士号(教育学)を取得。

日本児童英語教育学会(JASTEC)理事、小学校英語教育学会(JES)実践研究支援委員。
中学校英語教科書『New Horizon1,2,3』の編集委員であり、『小学校英語の文字指導―リタラシー指導の理論と実践』(東京書籍)、『ストーリーと活動を中心とした小学校英語』(小学館集英社プロダクション)、『小学校英語の教育法―理論と実践』(大修館書店)、『幼児から成人まで一貫した英語教育のための枠組み-ECF-』(共著・リーベル出版)など多数の著書がある。

 

参考文献

アレン玉井光江(2019).「小学校英語の文字指導:リタラシー指導の理論と実践」. 東京:東京書籍.

 

文部科学省(2017).「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 外国語活動・外国語編」. Retrieved from https://www.mext.go.jp/content/20201029-mxt_kyoiku01-100002607_11.pdf

 

 

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