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2022.03.18

効果的なインプットにするための4つのポイント〜横浜国立大学 尾島教授インタビュー 「おうち英語」シリーズ第2回〜

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効果的なインプットにするための4つのポイント〜横浜国立大学 尾島教授インタビュー 「おうち英語」シリーズ第2回〜

第二言語習得を脳科学的に研究する尾島 司郎教授(横浜国立大学)は、「おうち英語」(※1)に取り組む親御さんや学校の英語教員向けにSNSを通じた情報発信をしています。そこで、英語習得やおうち英語に関するさまざまなテーマについて尾島教授にお話を伺い、複数回に分けて内容を紹介します。

第2回目となる今回は、前回の記事で紹介したインプットの重要性を踏まえ、具体的にどのようなインプットが効果的なのか、というテーマについて考えます。

 

第1回目の記事「大量のインプットがアウトプットを支える」はこちら

 

まとめ

・子どものころから英語に触れ始めた効果を出すのであれば、数千時間以上のインプットが必要。

・子どもにとって質の良いインプットの条件は、興味が惹きつけられる内容であること、まだ習得していない音や単語、文法などが含まれていること、全体としてはメッセージを理解できるような手がかりが豊富にあること。

・子どもの興味を大切にしながら、さまざまな状況で同じ英語表現に出会って思い出すような環境をつくると、記憶に定着しやすい。

・子どもの言語習得は暗示的学習であるため、時間がかかることを理解しておく必要がある。

 

【目次】

 

ポイント(1) 大量のインプット

―言語習得のメカニズムからして、アウトプットできるようになるためには、大量のインプットが重要であることがわかりました。では、具体的にどれくらいの量のインプットが必要だと考えたらよいでしょうか?

母語の発達においても、 2年から3年の個人差がありますので、一概には言えませんが、第二言語でアウトプットが「始まる」 だけでよければ数十時間〜数百時間のインプットで可能だと思います。

ただ、もし子どもが言語習得における優位性を持っていて、その効果を出したいのであれば、それではまったく足りないということは言えます。

子どものときに第二言語に触れ始めた人のほうが最終的にその能力が高くなったことを示した研究は、必ず、その第二言語が使われている国に移り住んでから数年経った人の第二言語能力をデータとして出しています。数年間のインプットがないと、子どものころから触れ始めたことの優位性は確認されていないんです。

人間が生活していくなかで、1日8時間寝ているとすると、起きている時間は16時間。仮に、ことばを聞いている時間はその半分くらい、つまり1日8時間だとすると、数年分のインプット量は数千時間〜数万時間になります。

子どもの優位性が出るくらいアウトプット力を求めるのであれば、これくらいのインプット量が子どもの時期に必要ということになりますね。

日本人の大人で、英語の達人と言えるような人たちも、やはり5,000時間〜10,000時間くらい英語の接触量があることが私の研究でもわかってきています。

 

―小さいころから英語に触れ始めたことの効果を出したいのであれば、英語圏に数年間住んでいる子どもと同じくらいの量のインプットが必要ということですね。

そうですね。ただ、日本でそのような環境を実現することは難しいですし、子どもが乗り気でない場合もあると思いますから、すべての子どもがそうするべきだとは思いません。

第二言語の習得は、個人差が大きいという特徴があるので、子どもの適性に合っていないのに強引に英語を学ばせることは効果的ではないと思います。

ことばはあくまで何かを成し遂げるための手段です。その手段として有効であれば学べばいいと思いますが、英語力がなければ絶対に生きていけないというわけではないからです。

子どもの興味がある範囲でたくさんのインプットの機会を与えてあげる、という考え方が良いと思います。

映像教材を使ってもいいですし、いまは、かなり優れた英語学習用の歌やチャンツがありますので、そういうものをかけ流したり親子で一緒に歌ったりするのもいいですね。

 

―子どもが学校などで忙しくなると、インプット量の確保は難しくなりますね。何か学校の先生や親が工夫できることはありますか?

学校の先生の工夫としては、無理のない範囲でできることをやる、ということに尽きると思います。

英語が苦手な小学校の先生でも、視聴覚教材を活用する、子どもが自宅で聞けるような音声などを持ち帰らせる、子どもと一緒に学んだ表現を自分もちゃんと授業中に使う、というような工夫でインプット量を増やすことができます(※2)

中学・高校の先生であれば、英語でできることの幅がもっと広がるでしょうから、授業外でも英語を使って生徒に話しかけたり交流したりするのも一つの方法ですよね。

また、授業中に先生が日本語で話していることばをよく聞いていると、かなりの割合で「英語で言えるはず」というものがあります。やればできるのにやっていない、というケースはけっこうありますので、いままで日本語で言っていた指示などを英語にしてみることは誰でもできる工夫だと思います。

家庭では、バスや電車での通学中にイヤホンで英語を聞けるようにしてあげたり、家族で出かけるときに移動中の車内で英語を聞いたり、いろいろな工夫が必要になってくると思います。

ただ、中高生になってくると、自我がかなりはっきりしているので、本人に相当のモチベーションがないと英語に時間をかけるのは難しいと思いますので、そこは親も割り切りが必要になりますよね。

 

ポイント(2)質の良いインプット

・興味が惹きつけられる

―まずは、大量のインプットが必要であることがわかりました。では、質の良いインプットには、どのような要素が含まれている必要があるでしょうか?

子どもにとって質の良いインプットにするためには、まず、子どもの興味を惹きつける要素があることが大事です。

学問的にはいろいろな言い方がありますが、例えば「compelling input(コンペリング・インプット)」と呼ばれています。子どもが「もう見たくて/聞きたくて仕方ない」という状態になるようなインプットですね。

大人の場合は「英語力を上げるためにこの教材を使おう」という行動ができますが、子どもは「将来のために」といった意識ではできません。

ですから、子どもが自然と興味を惹きつけられる要素がなければ、うまくいかないと思います。

その意味では、子どもに選ばせるということも大事です。例えば、DVDや多読教材などのセットの中から、子どもが見たいもの、聞きたいものを自由に手に取れるような環境をつくるということですね。

 

・まだ習得していない要素が含まれている

―たしかに、興味がないものを見たり聞いたりし続けることは難しいですよね。では、インプットに含まれる単語などについてはいかがでしょうか?

ことばの習得が起こるためには、まだ習得されていない何か、つまり、まだ知らない音や単語、文法などがインプットに含まれていることが一つの条件になります。

すでに身についている言語要素しかないインプットを与え続けても、新しい学習は起こりません。

学習者のレベルよりも一つ上のレベルのインプットが大事ということです。学問的には「i + 1(アイ・プラス・ワン)」と呼ばれています。

インプットに含まれる内容のレベルを少しずつ上げていくことも必要ですね。

 

・全体のメッセージを理解できる手がかりがある

―身についていない要素が入っているとインプットの内容を理解できないのではないか、という疑問をもつ人は多いかもしれませんね。

そうですよね。そこで、身についていない要素が含まれているけれど全体としてのメッセージは理解できる、というインプットが必要になってきます。

これは「comprehensible input(理解可能なインプット)」と呼ばれています。

例えば、お母さんやお父さんが大きな声で激しく何か言っていたら、ことばがわからなくても、怒られているということは子どもでもわかりますよね。

そういうふうに、状況やイラスト、映像、顔の表情、声色、イントネーションなど、いろいろなものが手がかりになって、知らないことばが含まれていても、全体としてのメッセージは理解できるんです。
インプットをするときには、この状態をつくることが大事になります。

「こういう話が続いてきたから次の単語の意味はこれじゃないとおかしい」というような言語的な文脈(※3)、そしてジェスチャーなどの非言語的な文脈が豊富にあると、全体としてはメッセージが理解できるインプットになります。

「理解可能なインプット」という意味では、絵本は少し難しい点があります。絵本は、文中の単語がイラストのどこを指しているのかがわかりにくいからです。

もし映像であれば、単語が聞こえるタイミングと、その単語が指すものに焦点が当たったりそれが動いたりするタイミングを一致させることで理解しやすくすることができます。

 

―わからない単語があっても全体のメッセージを理解できるような工夫がされている教材を選ぶと良さそうですね。親の働きかけによって、理解を助けることもできるでしょうか?

はい。例えば、DVDを見ているときに、お母さんやお父さんが指を差したりして、「いま聞こえた単語は、これのことだ」と伝わるように子どもの注意を向けさせる(共同注意)ことができると、ことばの習得はさらに促進されます。

全体としてはわかるようにするためにどうしたらいいか、ということを考えることが大切ですね。

 

ポイント(3) 思い出す機会をつくる

―インプットは量と質の両方が重要であることがわかりました。では、インプットの効果を高める方法について伺わせてください。同じ内容を集中的に繰り返し聞く方法と、時間を置いて聞く方法では、どちらのほうが定着しやすいでしょうか?

学問的には、集中的に見聞きするよりも分散させたほうが記憶しやすいということは言えます。

記憶の仕組みからして、一番効果がない勉強方法は、テストの前日に勉強を始めて徹夜することです。

記憶は、ちょっと忘れかけたタイミングでまた思い出す、というプロセスがあったほうが定着しやすいです。また、記憶は寝ている間に定着するので、徹夜の集中学習では睡眠の利点を得られません。

例えば、単語を覚える方法としても、集中的に単語を書いて覚えようとするよりも、違う日に単語カードを見返して思い出そうとするほうが効果的です。

ただし、ある程度の回数、集中して見聞きしないと記憶に残らないということもありますから、分散させるやり方だけが良いということではありません。

ここで大事な点は、普通の人がイメージする「学習」は、どうしても集中学習であって、分散学習というやり方があることに気づかないことです。教える側も学習する側も、集中的に学習したほうが効果を感じやすいと思いますが、実験をしてみると、分散学習のほうが効果は高いんです。
ですから、分散学習というオプションを知ることが大切だと思いますね。

 

―思い出す機会をつくることは、記憶に定着しやすくする方法の一つということですね。家庭で英語環境づくりをする場合は、どのように実践できるでしょうか?

もし可能であれば、違う日に同じ表現に触れる、という体制がつくれたらいいですね。

例えば、今日はこの歌を聞いて、明日は別の歌というふうに変えていって、何日か経って忘れかけたころに、最初に聞いた歌に戻る、というやり方ができます。

また、違う教材ではあるけれど同じ表現が使われている、というようなものがあれば、それらを日常生活の中でうまく変えながら子どもに触れさせると記憶にとっては良いと思います。
でも、子どもが「これが見たい」と言っているのに、親が強引に「今日はこれにしなさい」と変えてしまうと、興味が失われてしまいますし、子どもの興味を惹きつけられない教材をたくさん使ってもうまくいきません。

ですから、子どもが見たいものを見せながら、「こっちにも同じキャラクターが出てくるよ」と声をかけるなどして、別のものに興味をもたせる工夫ができたら良いですね。

結局は、学問的に効果的かどうか、というよりは、現実的に、その家庭や親子関係の中でどのようにできるのかということが大事だと思います。

 

―子どもの興味を大切にしながら、違う文脈で同じ英語表現に触れさせると効果的ということですね。

そうですね、違う文脈で触れるということは非常に大事だと思います。
これと真逆のやり方をしているのは、学校の教科書だと思うんです。基本的には、教科書の中に重要表現が出てきても、別のページでは全然出てきません。どんどん直線的に進んでいって復習の機会がないので、なかなか記憶に定着しないんです。

復習するかしないかは本人次第になってしまっているので、学校の教材も、違う文脈や違う媒体を通して同じ表現が繰り返し出てくる、という仕組みになっていると良いなと思います。

 

ポイント(4) 子どもの学習は時間がかかるので焦らない

―親は、子どもがインプットから学んでいく様子をどのような考え方で見守ればよいでしょうか?

子どもの言語習得は、「時間がかかる」という特徴があります。

子どもの学習方法は、メッセージのやりとりの中から無意識に学んでいく「暗示的学習(implicit learning)」です。とても時間がかかりますが、ことばを体得することで、高いレベルに到達できます。

一方、年齢が上がって中高生になると学校教育を通じて「明示的学習(explicit learning)」をするようになっていきます。学習スピードは速いのですが、高いレベルには到達できません。ことばというものを自分から切り離して「ことばについて」学ぶので、英語の仕組みはこうだという教養は身についても、なかなかことばが自分の一部にはなりにくいですね。

暗示的学習は、はじめの助走が長くて、力をたくさん溜めていった結果、飛び立ったときにすごく高いところに行ける、いうイメージです。

この力を溜めている間は、いつになったら報われるんだろうと思うかもしれませんが、このときに質の良いインプットを大量に入れない限りは、高くは飛べないということになります。

質が良いインプットであっても、少量ではうまくいきません。インプットの量が重要であることは何度も強調しておきたいと思います。

 

―すると、子どもの暗示的学習は、日本人が日本語を学ぶときと同じような感じでしょうか?

そうですね。通常、母語は暗示的学習によって身についていきます。
主語や述語、体言、用言、上一段活用、下一段活用など、日本語について語るための明示的な知識や用語は学校に入ってから学びますが、そういう知識を知らない5歳児でも日本語を話すことはできますよね。

学校の外国語教育では、明示的な知識が中心になっていることが多いですが、明示的学習ができるようになるのは小学校高学年からなので、小さい子どもの「おうち英語」に関しては暗示的学習になってきますね。

 

おわりに:「質の良いインプットを大量に」がアウトプットへの近道

今回のお話からは、子どもに英語のインプットを与えるときに理解しておきたいポイントが4つあることがわかりました。

まずは、前回の記事でもご紹介した通り、大量のインプットです。小さいころから英語に触れ始めたことの効果が出るとしたら、英語圏に住んでいる子どもと同じくらいのインプット量があった場合であり、いくら早くから始めたとしても、インプット量が少なければ大きな効果は期待できないことがわかりました。

次に、質の良いインプットです。子どもが「聞きたい」、「見たい」と思えるような内容で、まだ身につけていない要素が入っていて、それらを理解するための手がかりが豊富にあることが重要です。

そして、忘れかけたころに思い出すという状況をつくることは、記憶に定着しやすくするための方法として有効です。家庭であれば、子どもの興味に合わせながら、同じ英語表現に何日か置いてから触れさせたり、さまざまな媒体(例:歌、映像、絵本など)や状況(例:家で遊んでいるとき、公園で遊んでいるとき)で触れさせたりする工夫ができるでしょう。

最後に、子どもの学習には時間がかかるため、焦って知識を教えようとしたり、無理にアウトプットさせようとしたりしないことです。質の良いインプットに繰り返し触れることで、「こういう状況ではこう言う」という英語表現のパターンや文の規則に気づき、それが記憶として定着したときに、自然とアウトプットできるようになるのです。

「子どもはスポンジのように吸収する」、「子どもは学びの天才」などとよく言われます。しかし、1回聞いただけですぐに覚えられるわけではありませんし、聞こえたもの、見えたものすべてを学ぶわけではないことに注意が必要です。

もし、おうち英語に小さいころから取り組むのであれば、子どもの興味を大切にしながら、より学びやすいインプット環境をつくることが、アウトプット力への一番の近道だと考えられます。

 

〜次回は、「ことばの習得におけるアウトプットの効果」をテーマに紹介します〜

 

(※1)家庭で子どもが英語に触れる環境をつくること

(※2)小学校でのインプット活動については、尾島教授が動画(「小学校英語の指導法:音声によるインプットを与える方法」https://youtu.be/bNDT3ywPh9o)でくわしく解説している。

(※3)例えば、“John ate sushi. He really liked it. It was very delicious.”(ジョンはお寿司を食べた。とても気に入った。お寿司がとてもおいしかった。)と聞いたとき、文末のdeliciousという単語を知らなくても、話の流れから「おいしかった」という意味であることを推測できる。

 

【取材協力】

尾島 司郎教授(横浜国立大学 教育学部 学校教員養成課程 英語教育)

横浜国立大学尾島教授のお写真

<プロフィール>

専門は、第二言語習得。事象関連脳電位(ERP)などの脳機能計測方法を用いて、英語習得の脳内メカニズムを解明し、その研究成果を教育に役立てることを目指す。エセックス大学大学院(イギリス)の言語学研究科博士課程を修了。科学技術振興機構 社会技術研究開発センター 研究員、慶應義塾大学 社会学研究科 特任准教授、東京大学 総合文化研究科 特任研究員、滋賀大学 大学院教育学研究科 准教授、横浜国立大学 教育学部 学校教育課程 英語教育 准教授などを経て、2021年度より現職。一般社会向けの情報発信や学校のサポートなどにも力を入れている。

https://twitter.com/Shiro_OJIMA

 

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