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2021.09.09

バイリンガルはどのように二言語をコントロールするか? 〜津田塾大学 星野准教授インタビュー(後編)〜

バイリンガルはどのように二言語をコントロールするか? 〜津田塾大学 星野准教授インタビュー(後編)〜

バイリンガルの脳内では、二つの言語知識がどのように働いていて、それらをどのようにコントロールしているのでしょうか。星野先生(津田塾大学)へのインタビュー記事の後編です。

 

【目次】

 

二言語を混ぜることは、バイリンガルにとって普通のこと

―バイリンガルは、二つの言語を混ぜて話す場合(code-mixing / code-switching)がありますね。このような言語行動を「ごちゃ混ぜ」、「ちゃんぽん」などと呼んで否定的に捉える人もいます。先生はどのように考えていらっしゃいますか?

バイリンガルが二つの言語を混ぜて話すことは、普通のことだと思っています。code-switchingに関する研究を見ていると、バイリンガルは、必ずしも片方の言語がうまく使えないからもう一方の言語に切り替えているわけではないことがわかります。

そして、二言語を混ぜた発話は、きちんと両言語の文法に則っています。バイリンガルは、ここで別の言語に切り替えたら文法的におかしい、ここで切り替えるのは大丈夫、ということをきちんと判断できます。ですから、code-switchingは、二言語が混乱している、ということでもありませんし、バイリンガルの「言語使用」というふうに捉えるべきではないかと思っています。

 

―バイリンガルは、両言語の文法規則に則って言語を切り替えることができるのですね。

code-switchingに対する考え方は、文化的な背景も影響していると思います。

私はイギリスのウェールズにあるバイリンガリズム研究所というところでポスドク(博士研究員)をしていたのですが、その研究所には、バイリンガルのコーパス(書き言葉や話し言葉の記録を大量に集めてデータベース化したもの)を研究するグループがありました。この研究グループは、マイアミ(アメリカ)在住のスペイン語・英語のバイリンガル、ウェールズ(イギリス)在住のウェールズ語・英語のバイリンガル、パタゴニア(アルゼンチン)在住のウェールズ語・スペイン語のバイリンガル、3つのグループの発話データを集めて分析していました。

研究結果によると、グループによって、code-switchingに対する意識が異なりました。マイアミ在住のバイリンガルは、code-switchingをしても問題ない、というふうに考えている人が多いのに対し、ウェールズ在住のバイリンガルは、二言語を混ぜるのはよくないと考えている人が多かったんです。

これには、これまでウェールズ語がどのように扱われてきたか、という歴史的・文化的な文脈も関係しているのかもしれません。ウェールズでは、ウェールズ語と英語が公用語になっていますが、ウェールズ語話者の数は地域によってかなり異なります。code-switchingに対する意識には、コミュニティにおける考え方も関係しているのかもしれません。

 

英語学習者にとっては、日本語への切り替えが少ない授業のほうが負担は少ない

―バイリンガルの言語コントロールに関する研究結果は、日本の英語教育にどのように活かすことができるでしょうか?

日本では、高校の英語の授業は原則英語で行うことになっていて、中学校の授業もそのようになることが新学習指導要領で決まりましたよね。これに関して、心理言語学や脳科学の研究から一つ言えることがあります。

それは、二言語を高度に使いこなせる人でさえ両言語が活性化するので、英語学習者である中高生が母語である日本語を完全に抑制することはまず不可能である、ということです。

そして、第一言語のほうが強くて第二言語のほうが弱い、という学習者の場合、第一言語から第二言語に切り替えるときよりも、第二言語から第一言語に切り替えるときのほうが負荷はかかります。一旦強く抑制した母語をまた戻してあげるときには負荷がかかる、ということですね。

原則英語のみで授業を行う、といっても、おそらく日本語を使う場面もあると思いますが、授業内であまりにも頻繁に日本語と英語の切り替えをすることは生徒に負荷をかけるので良くないのではないかと思います。

まだ英語を学習し始めたばかりで英語をうまく使えない学習者の場合は、二言語が常に活性化されているなか、かなり強く日本語を抑制しなければなかなか英語が出てきません。どれだけ英語が出やすい環境にしてあげるのか、ということを考えると、一度抑制した日本語をまた活性化させ、その後また抑制しなければならない、というような切り替えの回数は多くないほうが良いと思いますね。

 

―そうすると、小学校の先生たちも、英語の授業はなるべく英語のみを使う、という方針には自信をもっていいのでしょうか?

そうですね、自信をもっていいのではないかと思います。

英語の単語の意味を理解するとき、熟達度が低いうちは日本語に置き換えて理解しますが、熟達度が上がってくると日本語を介さずに英語のまま理解できるようになる、と考えられています。

小学校では、絵カードを使って単語を学習する場面が多いと思いますが、子どもたちを対象にした実験によって、「日本語ではこういう意味だよ」と母語を介して学習するよりも、絵カードを使って学習するほうが、学習時間が同じであっても英語の単語と概念がより速く結びつき、そのつながりが強くなる、ということを明らかにした研究もあります。
ですから、日本語を使わずに意味を伝えられるような具体的なものに関する単語を教えるときには、あえて日本語を使わなくてもいいのかなと思います。

 

―バイリンガルになるためには、どのようなことが重要だと考えていらっしゃいますか?

二言語を両方継続的に使う、ということがバイリンガルとして機能していくための鍵だと思います。筋トレをしないと筋力が退化してしまうのと同じで、言語の力も使わなければ退化してしまうので、両方の言語を使っていくことが大切ですね。

また、小さいときから英語を学ばないとバイリンガルになれない、と思っている人は多いですが、そんなことはありません。私が指導している学生のみなさんには、大人になってからでもバイリンガルになるチャンスはあるから諦めないでがんばりましょうね、という話をいつもしています。

 

日本語・英語の切り替えにかかる負荷、といった新たな視点で英語の授業における言語使用のあり方を考える

星野先生は、日本語・英語のバイリンガルが二言語をどのようにコントロールしているのか、ということを科学的に明らかにしようとする研究を行っています。このような日本語・英語のバイリンガルを対象にした研究は、世界中でもまだ少数であり、ましてや、日本語で読むことができる文献はごくわずかです。そのため、今回はとても貴重な取材となりました。

バイリンガルは、日本語を使っているときには「日本語脳」のみ、英語を使っているときには「英語脳」のみを使っている、と想像する人は多いかもしれません。しかし、実際には、片方の言語を使っているときにはもう一方の言語知識も働いていて、そのときの状況に合わせて使うべき言語を判断し、使わない言語のほうを抑制しています。

例えば、日本語・英語のバイリンガルは、赤くて丸いフルーツ、という概念を表現したいとき、日本語の「りんご」と英語の“apple”という二つのラベルが脳内で浮かび上がり、英語を話す相手と話しているときであれば、日本語の「りんご」を抑えて、英語の“apple”を口に出す、というイメージです。そして、このようなコントロールは、本人の意識にも上ってこないほど、瞬時に行われることも多いのです。

星野先生によると、このようなコントロールを日常的に行っているバイリンガルは、状況に合わせて行動を切り替えるトレーニングを日々行っているようなものであり、そのときに働く脳領域の機能が高まる可能性もあります。しかし、二言語を高度に身につけたバイリンガルでさえ、強いほうの言語を抑制することには負荷がかかります。よって、英語を学習し始めたばかりの日本人にとっては、日本語と英語の熟達度に大きな差があるため、日本語と英語を頻繁に切り替えることはより難しくなります。

「英語の授業は原則英語で行う」という方針には、賛否両論あります。そのため、原則英語のみで行う授業は、英語をアウトプットしやすい学習環境をつくる、という意味では、日本語と英語を頻繁に切り替えさせる授業よりも生徒への負担が少ない、という星野先生の見解は大変興味深いものです。

バイリンガルの言語コントロールに関する研究からは、バイリンガルがいかに複雑な言語処理を日々こなしているか、ということが伺えます。それと同時に、日本語・英語の切り替えにかかる負荷、といった新たな視点で英語の授業における言語使用のあり方を考えるきっかけにもなるのではないでしょうか。

 

【取材協力】

星野 徳子准教授(津田塾大学 学芸学部 英語英文学科)

星野先生のお写真

<プロフィール>

専門は、バイリンガリズムや第二言語習得、心理言語学など。母語以外の言語を学習・習得している第二言語学習者・バイリンガルが、どのように二言語(または複数の言語)を使うのかについて、心理言語学的・脳科学的手法を用いて研究している。ペンシルベニア州立大学で博士号を取得し、神戸市外国語大学 英米学科 准教授を経て、2017年より現職。

 

 

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参考文献

Eberhard, D. M., Simons, G. F., Fenning, C,D, (Eds.) (2021). What are the largest language families? Ethnologue: Languages of the World. Twenty-fourth edition. Dallas, Texas: SIL International. Online version. Retrieved from

https://www.ethnologue.com/guides/largest-families

 

Eberhard, D. M., Simons, G. F., Fenning, C,D, (Eds.) (2021). Japonic. Ethnologue: Languages of the World. Twenty-fourth edition. Dallas, Texas: SIL International. Online version. Retrieved from

https://www.ethnologue.com/subgroups/japonic

 

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