日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。
2020.01.14
日本で働く外国人の増加に伴い、保育所や幼稚園に通う年齢の外国人の子どもも全国で増えています。「多文化共生保育」への注目が高まる中、日本語を母語としない子どもや保護者とのコミュニケーションが大きな課題となっています。
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【目次】
厚生労働省(2019)によると、現在、日本で働く外国人は、過去最高の約146万人(2018年10月末時点)。高度外国人材や技能実習生の受け入れ、留学生のアルバイトが増加しているだけでなく、永住者、日本人の配偶者や子ども、永住者の配偶者や子ども、定住者(日系人など)といった在留資格で働く外国人も増え、このような人々が最も多く、全体の3割以上を占めます(厚生労働省, 2019)。
また、東京や愛知、大阪、神奈川、埼玉、静岡、千葉、福岡など、企業の多い大都市圏に外国人労働者が多い傾向がありますが、前年比では宮崎や熊本、鹿児島が最も増加率が高く、外国人の多い地域は全国に広がってきています(厚生労働省, 2019)。
出典:厚生労働省(2019)※IBS表作成
日本で働く外国人の増加に伴い、以下のグラフが示す通り、保育園や幼稚園に通う年齢(0〜6歳)の子どもも7年前から1.4倍に増加しています。国籍の構成が上のグラフと似ていることから、夫婦や家族で日本へ移り住む、母国の家族を日本に呼び寄せる、日本での出産・育児、国際結婚、というように、家族で日本に住むケースが増えていると考えられます。
出典:法務省(2012; 2013; 2014; 2015; 2016; 2017; 2018; 2019)
※法務省による「在留外国人統計」は2012年12月末から開始。2011年まで実施の登録外国人統計では、5歳ごとの年齢層(例:0〜4歳、5〜6歳)での統計のため、比較の対象外とした。
出典:法務省(2019) ※IBS表作成
厚生労働省の補助事業として日本保育協会(2008)が実施した調査によると、2008年時点で、全国の地方自治体(都道府県、政令指定都市、中核市 計103自治体)のうち約半数が、保育所に通う外国籍の子どもがいることを把握しています。
そして、そのような子どもは概数で少なくとも全国に13,337人いることがわかりました。さらに、把握されている限りでは、国籍は67カ国にも及び、ブラジル、中国・台湾・マカオ、ペルー、フィリピンの順に多いこと、多数の外国人が働く企業や工場、大学などの研究・教育機関がある地域に多いことから、「外国人労働者の移住傾向と強い関連がみられる」と報告されています。
そして、以下のグラフが示す通り、外国にルーツをもつ親のほとんどが子どもの預け先として保育所を選んでおり、このような子どもたちの保育・教育において保育所が主な役割を果たしていることもわかっています。
出典:多文化子育てネットワーク(2018)
※IBSグラフ作成
※外国にルーツをもつ子ども:両親とも外国人、父母のどちらかが外国人、日本に帰化した人、主な養育者が外国につながる人(それぞれ日本国籍を含む)を親にもつ子ども
外国籍の子どもを受け入れている保育所147カ所へのアンケートを実施した日本保育協会(2008)の調査結果によると、約半数の保護者が日本で仕事を探すために滞在しており、次いで、国際結婚(約39%)、仕事上の出張・出向(約31%)、南米日系人(約30%)が滞在理由として多いこと、そして日本に永住するつもりで滞在している保護者が過半数を占めていることがわかりました(日本保育協会, 2008)。
実際に、多文化子育てネットワーク(2018)によると、2000年度の調査時よりも2011年度の調査時のほうが、10年以上日本に滞在している保護者の割合が高く、日本で働くことが理由であるケースや共働きの家庭も増えています。
つまり、日本で働く外国人が増えるということは、日本に住む子どもたちが増えるということであり、外国にルーツをもつ子どもが保育所に通うことは一時的な現象ではなく、今後増加していくのです。
保育所などに子どもを通わせる外国にルーツをもつ親(日本国籍を含む)の約半数は、日本語以外の言語を家庭で使用しており(多文化子育てネットワーク, 2011)、その子どもたちを受け入れている保育所は、日本語を母語としない子どもに対する保育や保護者とのコミュニケーションに課題を抱えていることが報道などによって明らかになってきています。
しかしながら、国としての対応やガイドラインは存在せず、2018年4月から適用されている新しい保育所保育指針でも「保育所では、外国籍の子どもをはじめ、様々な文化を背景にもつ子どもが共に生活している。保育士等はそれぞれの文化の多様性を尊重し、多文化共生の保育を進めていくことが求められる。」(厚生労働省, 2018)という指針が示されていますが、具体的な保育内容やカリキュラムは説明されていません。
この保育所保育指針に記載されている「多文化共生保育」は、多数の外国人が住む地域の自治体やNPO、ボランティア団体、大学、研究所によってその必要性が発信され、実践されてきました(多文化子育てネットワーク, 2018; 三井ほか, 2018)。
国立情報学研究所による日本の論文データベース「CiNii」には、タイトルに「多文化」及び「保育」という語が含まれる論文が150件以上登録されています。多文化共生保育は1990年代から保育学の一分野として認知されるようになったと言われていますが(卜田, 2013)、CiNiiでも一番古いものは1991年に発表されており、1990〜1999年は17件、2000〜2009年は61件、2010〜2019年は78件というように、2000年代からは特に増加しています(国立情報学研究所, 2019)。
多文化共生保育には、子どもの人権、異文化理解(食べ物や宗教、生活習慣、価値観など)、日本語や母語の教育など、さまざまな課題がありますが、以下のような言語に関する課題を把握している自治体は2008年時点で60以上あります(日本保育協会, 2008)。
保育士などへのアンケート調査を実施した複数の研究論文においても、言葉の壁によって生じる困難が最も多いことが報告されており(卜田, 2013)、日本語ができない保護者ほど保育所や幼稚園側とのコミュニケーションがうまくいかないと感じています(多文化子育てネットワーク, 2018)。
<保育士が感じている言葉の壁に関する事例>
10年以上前から保育所での言葉の問題が明らかになっており、日本で働く外国人が増えているにも関わらず、新しい保育所保育指針では、外国籍の子どもや保護者が日本語を理解しないケースは想定されていないように見受けられます。
例えば、1歳以上の保育内容のうち「言葉」の領域においては、子どもに丁寧で温かい言葉をかけ、子どもの言葉に応答すること、子どもの言葉を代弁したりして友だちとのやり取りを仲立ちすることなどが保育士に求められています。また、保育が「保護者と共に子どもを育てる営み」であることから、保護者の気持ちに寄り添いなら家庭との連携を密にして行う必要があることも明記されています。
しかしながら、保育士が子ども・保護者の言語を理解できないケース、子ども・保護者が保育士の言語を理解できないケースに関する指針はなく、保育現場がますます困惑することが推測されます。
一方で、地方自治体や保育現場の取り組みにより、保育士と保護者のコミュニケーションについては、「先生が自分たちの母語を学ぶ努力をしてくれた」、「先生が自分たちの母語を使って子どもに言葉かけをしてくれた」など、保育所などによる配慮のおかげで子どもが保育所に慣れることができたと感じている保護者もわずかながら増えてきており、日本に来て間もない保護者ほど、そのように感じる傾向にあります(多文化子育てネットワーク, 2018)。
そして、保育士などから保護者へ積極的に話しかけ、保護者からも積極的に話しかける、というように、双方の努力が良好な関係性に繋がっていることもわかっています。
また、入所児童の約半数がブラジル人である保育所に対する調査では、保育士たちが日本語を理解しない子どもに対して日本語の短い言葉で話しかける、簡単なポルトガル語で伝える、絵や写真、ジェスチャーを使う、といった工夫をしてコミュニケーションを図り、特に子どもの安全に関わる場面ではポルトガル語で声をかけていることがわかりました。
そして、ほとんどの保育士は、日本人児童のみの保育園とは異なる困難や負担感を感じながらも、子どもたちが文化の違いを知って認め合い、偏見がなくなる、というように、ブラジル人児童の受け入れを肯定的に捉えており、その背景には、言葉の壁に関するサポート(この保育所の場合は、市による常駐通訳の配置)と、多文化共生保育の理念が保育士に浸透していることがありました(品川, 2011)。
このような実態から、保育士が日本語とそのほかの言語を使い分けながら子ども・保護者とコミュニケーションを図ろうと努力することは、多文化共生保育において極めて重要だと考えられます。外国人保育士を採用する、地方自治体やNPOなどの団体から通訳を派遣してもらう、携帯型翻訳機を導入する、語学に堪能な保育士や保護者の協力によって保護者向けの書類を翻訳する、連絡帳にはふりがなや写真・イラストを使うなどの対応を行う保育所もありますが(日本保育協会, 2008; 松浦&細田, 2019)、保育所や地域における人材不足や財政・運営状況によって対応にばらつきがあるのが現状であり、国による具体的な指針や支援も欠かせません。
2010年から開始した保育英検(2019年から「幼児教育・保育英語検定(通称:幼保英検)」に改名)もこのような背景から生まれたものですが、単なる英語の資格として単語やフレーズを暗記するのではなく、日本語以外の言語・文化を学ぶことが日本の保育現場でいかに重要かを理解して取り組むのであれば大きな意義があるのではないでしょうか。
乳幼児期の保育・教育が世界的に重要視されている今、保育士が日常的に日本語とほかの言語を使い分ける姿は、日本語を母語としない子どもや保護者との信頼関係に繋がるだけでなく、母語の価値やバイリンガルであることの素晴らしさを子どもたちに気づかせるきっかけになり、子どものアイデンティティや親子関係にとっても極めて重要なはずです。
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法務省(2014).「在留外国人統計(2014年6月末)第2表 国籍・地域別 年齢・男女別」.
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