日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。
2018.05.16
「日本で生活するなら日本語だけ話せればよい」という考えが過去のものになりつつある日本。都市部のみでなく地方においても、日本に住む外国人は年々増えています。そして、幼稚園や小学校など、大人のみでなく子どもたちの世界でも外国人が身近な存在になってきています。
【目次】
日本の在留外国人の数は、約60年前の昭和30年と比較すると4倍にも増え、ここ10年だけでも約32万人増加しました。[1],[2]
東京都新宿区の人口(2017年:338,488人)に匹敵し、鳥取県の人口(2016年推計:570,000人)の半数以上を超える人数です。[3]
日本の人口に占める割合は約1.8%で、50〜60人に1人は外国人ということになります。このような状況は主に政治・経済界などから注目を集めており、経済専門雑誌『週刊東洋経済』2018年2/3月号(東洋経済新報社)は、「隠れ移民大国ニッポン」という表題のもと在留外国人の実態を報告しました。
しかしながら、在留外国人の増加は、政治や経済のみでなく、子どもたちを含む日本人一人ひとりの日常生活に大きな変化を与え始めています。
参考:法務省(2017).「在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表」. http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_touroku.html
※2007〜2012年(12月末)、2013〜2017年(6月末)の統計を基にグラフを作成。
近年は、滋賀県湖南市において、在日ブラジル人の住民や子どもの生活を支援するため、彼らの母語であるポルトガル語を話せる人材の需要が高まり、ポルトガル語やブラジル文化について学ぶ動きも盛んになっています。湖南市がポルトガル語対応のホームページや、市の広報誌「やさしい日本語版」(ふりがなつきの簡単な日本語で書かれたもの)を用意しているほか、以下のことがニュースとして各メディアに取り上げられています。
【水戸小学校(湖南市)】2017年12月25日 京都新聞朝刊
ブラジル国籍の児童が急増しているため、2016年度からポルトガル語の通訳者を週5日間常駐させ、ポルトガル語を話せる学習支援員が教師を補助。毎年12月に外国籍の市民を学校に招待し、児童たちの異文化理解教育に取り組む。[4]
【滋賀銀行岩根支店(湖南市)】2018年2月3日 毎日新聞地方版、2018年3月2日 朝日新聞朝刊
外国人の利用が頻繁にある(1日あたり約10人)ことから、支店長を含む全行員がポルトガル語の研修を受ける。主に、顧客の窓口対応に必要な銀行用語や簡単なあいさつなど。講師は、ブラジルでの勤務経験がある市内中学校教諭やブラジル人生徒の保護者。[5], [6]
【国際交流ボランティアグループ「カリーニョ」(湖南市)】2018年1月18日 毎日新聞地方版
2016年11月より、市内の地域住民や保育士、学校教職員を対象に、ポルトガル語やスペイン語の教室を開く。[7]
【湖南市】
2007年、市内の小中学校に在籍する外国人児童生徒(希望者かつ日本語の指導が必要と認められる場合)を対象に、無料の日本語初期指導教室「さくら教室」を設置。学校での学習や生活が円滑に進むよう、日本語だけでなく、集団登校・掃除・給食など日本の学校習慣をポルトガル語で教える。[8]
在留外国人のうち最も多い国籍の一つ、ブラジル。日本に住むブラジル人が大幅に増えたきっかけは、1990年の入管法(正式名:出入国管理法及び難民認定法)の改定だと言われています。
ブラジルには、明治時代末期から多くの日本人が主にコーヒー農園で働くためにブラジルへ移民として渡っていましたが、ブラジル経済が悪化し、日本が好景気になった1980年代から日本へ出稼ぎに行く人が増えました。
当時、日本へ帰国して働くことができたのは、日本国籍をもつ人とその配偶者、そして実子(2世)のみ。しかしながら、1990年に入管法が改定されると、事実上、2世の配偶者と実子(3世)も日本に定住して働けるようになり、日本の製造業で労働者が不足していたこと、景気の変動に対応できる非正規雇用の需要が高まったことも影響し、在日ブラジル人の人口は改定の前年から2年間で約8倍になります。[9]
滋賀県は、ブラジル人が多い都道府県として第7位(2017年6月末時点)であり、全国各地同様、1990年からブラジル人が急増し始めました。[10]
日本の不景気や震災などの影響により、2008年の14,417人をピークに減少し、2017年のブラジル人人口はピーク時の約6割となりましたが、2016年から再び増え始め、2016年から2017年までのわずか1年間で511人も増加しました。
参考:法務省(2017).「在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表」. http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_touroku.html
※2007〜2012年(12月末)、2013〜2017年(6月末)の統計を基にグラフを作成。
新聞などでよく取り上げられている湖南市は、県内で最もブラジル人が多い市町村の一つ(2016年12月末:1,171人)であり、[11] 高度経済成長期の1964年から4年をかけて造成された湖南工業団地があります。2010年時点では、下請協力会社を含めると100を超える企業と約5400人の働き手がいて、企業のオフィス、工場、倉庫のほか、住宅地があります。[12]
京都新聞の記事によると、湖南工業団地内の小学校に在籍するブラジル人児童は、2014年4月時点で31人、2017年末時点で52人、と急増しました。尚、同小学校ではペルーやアジア圏出身の児童もわずかに増加しており、ブラジルと合わせると、全校児童の約2割を外国籍の児童が占めます。また、湖南市小中学校すべて合わせた外国籍児童は約190人と報道されています。[13]
日本において深刻な人手不足により外国人労働者の需要が増していることは、多くの報道で取り上げられており、ブラジル人が再び増加している理由の一つだと考えられます。
2014年の全国財務局長会議では、団塊世代の退職や増産対応、需要の増加などにより、製造業、建設業、運輸業、小売業で人手が不足しており、「受注制限や新規出店見合わせが発生している」こと、製造業における人手不足への対応には外国人労働者の受け入れが含まれていることが報告されています。[14]
さらに2016年には、財務局が全国1,366社を対象に人手不足の現状・対策をヒアリング調査し、「人手不足感があると回答した企業は全体の63.2%」であることが発表されました。[15] また、東京商工リサーチによると、2017年の「人手不足」関連倒産の要因のうち、「求人難」や「人件費高騰」の割合が増しています。
参考:株式会社東京商工リサーチ(2018).「「人手不足」関連倒産(2017年)」.
http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20180116_10.html
また、かつての在日ブラジル人は出稼ぎが目的で日本に住んでいました。そのため、「少しでも高い賃金を求めて転職を繰り返していた」こと、「日系ブラジル人の家族が日本の各地で別々に就労する」ケースが多いこと、「ブラジルへの帰国を前提にしている」ことが研究者の調査により報告されています。
よって、単身者が多く、同じ地域に長年住んだり、日本社会と密接に関わったりすることは少なかったと考えられます。
しかしながら、京都新聞の取材内容によると、近年は、治安のよい日本へ家族全員で移住するケースや、学校行事に積極的に参加するブラジル人の親が増えているそうです。また、以前は、言葉や文化の壁、度重なる転居・転校などにより不登校になるブラジル人児童・生徒もいましたが、最近は、日本で大学進学を目指すブラジル人学生や、日本語とポルトガル語のバイリンガルであることを活かして活躍するブラジル人(通訳やブラジル人派遣会社、国際交流のボランティア活動など)などもメディアで取り上げられています。
今後はますます、地域住民にとっても子どもたちにとっても、ブラジル人と日常的に接する機会、そしてポルトガル語が役立つ機会が増えていくと考えられます。
研究者によると、外国や外国人に関する自治体政策のうち、海外との交流を推進する政策が多かった1980年〜1990年代と比べると、2000年ごろからは自治体内に住む外国人に対する政策のほうが重要視されています。さらに近年は、在留外国人が日本社会においてマイノリティであること、それによって発生する問題点への認識も高まり、「多文化共生」という概念が注目されています。
それまで外国人に対する政策は国ではなく自治体主導で取り組まれてきましたが、2006年には総務省が「地域における多文化共生推進プラン」という自治体向けのガイドラインを発表しました。ガイドラインによると、以下の事項が施策として挙げられています。
上記「コミュニケーション支援」や「多文化共生の地域づくり」は、日本語がわからないことで生じるさまざまな問題、地域社会における外国人の孤立や日本人との軋轢などを解決しようとする施作です。
例えば、文部科学省の調査によると、学校に通っていない外国人小学生・中学生は2009年時点で84人(全外国人児童・生徒の0.7%)おり、その理由を71名の保護者から聴取した結果、「学校へ行くためのお金がないから」(33%)に次いで「日本語がわからないから」(16%)が多数でした。[17]
こうした国による後押しもあり、滋賀県湖南市は市を挙げて、外国人の住民や子どもたちとのコミュニケーション改善、生活支援に取り組んでいるのです。
日本で増えている外国人は、ブラジル人だけではありません。下図は、法務省の在留外国人統計をもとに、2007年と2017年それぞれ、人数が多い国籍順にランキングしたものです。
参考:法務省(2017).「在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表」. http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_touroku.html
※2007年と2017年の統計を基にグラフを作成。2007年の統計においては、台湾は中国、朝鮮は韓国に含まれる。内訳不明のため、増加率の計算対象から除外。
※増加している国籍に「↑」を、2倍以上(小数点以下四捨五入)に増えている国籍に増加率を記載。
10年間で最も増加した国籍はネパールであり、次いでベトナム、カンボジアが大幅に増えました。日本学生支援機構によると、ネパールとベトナムは、近年日本への留学生が急増している国であり、約半数が日本語教育機関に、約3〜4割が専修学校に在籍していることが特徴として報告されています。
2010年から日本語学校に通う外国人の就労可能な時間を大幅に増やしたことが影響し、日本語を学びながらアルバイトで収入を得られる、として日本への留学が人気になりました。
ネパール人・ベトナム人留学生は、ほかのアジア出身の留学生(中国、タイ、インドネシア)と比べるとアルバイト収入に頼って生活しており、特にネパール人はほぼ全員がアルバイトをしています。
また、ベトナム人留学生は約6割が母国での就職(給与や職場環境がよい日系企業など)を希望していますが、ネパール人留学生は約7割が日本での就職を希望しています。[18]
参考:独立行政法人日本学生支援機構(2017).「外国人留学生在籍状況調査」. http://www.jasso.go.jp/about/statistics/intl_student_e/index.html(2018年3月アクセス).
※平成19年度と29年年度のデータを基にグラフを作成。
また、上位に入っているアジア諸国のほとんどは、日本が国際協力の一環として実施している技能実習制度の対象国(ベトナム、カンボジア、インド、フィリピン、ラオス、モンゴル、バングラデシュ、スリランカ)であり、[19] 「技能実習」・「研修」の在留資格で日本に住む外国人は、2007年から10年間で約3倍に増えています。
アジア圏のほか、トルコやイタリアも約2倍に増えています。同じ10年間で増加率が高いイタリア人の在留資格上位3つは、留学(3.5倍)、芸術[1](2.8倍)、教育[2](2.4倍)です。
トルコは、永住資格者の配偶者等[3](3.6倍)、経営・管理[4](3.6倍)、定住者[5](3.1倍)であり、 約20年前から母国での迫害を逃れて埼玉県の蕨市や川口市に500〜600人が定住し始めたと言われるトルコ国籍のクルド人[20]が影響している可能性があります。
[1]芸術:収入を伴う音楽・美術・文学などの活動。作曲家、画家、文学作家など。
[2]教育:小中学校や高校での語学教師など。
[3]永住資格者の配偶者等:永住者等の配偶者や日本生まれ日本育ちの子ども。
[4]経営・管理企業などの経営者・管理者。
[5]日系3世、難民など、特別な理由により期間限定で居住を認められた人[21]
日本に住む外国人と日常的に接する日本人はごく一部に限られているイメージが強いのではないでしょうか。しかしながら、例えば2016年の財務局調査によると、現在は製造業よりも非製造業のほうが(製造業:47.7%、非製造業:75.4%)、大企業よりも中小企業のほうが(大企業:56.6%、中堅企業:66.3%、中小企業:74.7%)高い割合で人手不足感を感じています。
1年前と比較して人手不足感が「とても強くなった」または「強くなった」と回答した企業も、非製造業や中小企業のほうが高い割合です。
非製造業には、建設業や運送業などのほか、小売業での販売スタッフや飲食業での接客スタッフが含まれ、多くの日本人が日常的にふれる場面で外国人が増えています。2014年6月に放送されたNHK番組では、日本人のアルバイト不足により、都内の牛タン料理チェーン店の店舗スタッフのうち約7割が外国人であることが紹介されました。[22]
また、共同通信グループ(2017)によると、コンビニエンスストアの大手3社(セブンイレブン、ファミリーマート、ローソン)の店舗で働く従業員の約5%前後が外国人であり、ファミリーレストラン「ガスト」には約1,000人の外国人アルバイト・パート従業員がいます。[23]
また、在留資格別に10年前と比較すると、経営・管理(3倍)や医療(10倍)、技術・人文知識・国際業務[6](2倍)、技能[7](2倍)、留学(2倍)、技能実習/研修(3倍)、ワーキングホリデー(2倍)など、多くの分野・職業で外国人が増加しています。特に医療の分野では変化が大きく、日本で医療に従事するインドネシア人は41倍、中国人は14倍に増えました。
[6]システムやソフトウェア開発、エンジニア、私企業の語学教師、通訳など
[7]外国料理の調理士、スポーツ指導者、航空機パイロットなど
日本は、2007年に締結したインドネシアとの経済連携協定(EPA)により、日本で看護師・介護福祉士の国家資格取得を目指すインドネシア人の受け入れや事前研修事業を開始し、資格取得後も日本で働くことを認めています。[24]
さらに医療分野の国際交流推進のため、2014年に「臨床修練制度」が改定されました。この改定により、日本で医師の国家資格を取得した外国人は、より長期間(2年間→4年間)、より幅広い医療機関(診療所を含む)で医師として働けるようになり、使用言語などの要件も緩和されました。[25]
日本経済新聞によると、EPAに基づき、2008年から約5年間でインドネシアとフィリピンから累計700人ほどの看護師を受け入れており、2014年からはベトナムも対象国となっています。ある医師人材紹介会社は、2007年ごろから約80人の外国人医師を日本の医療機関に紹介し、ほとんどが中国人である、と取材に答えています。[26]
中国人が多い背景としては、日中笹川医学奨学金制度(1987年創設)や在日中国人医師協会(2007年発足)など、中国人の医師や医学生を支援する体制が充実していることが考えられます。言語や文化、技術などの問題は多々ありますが、地方で医療や介護の従事者不足が深刻になっていることを考えると、病院や介護施設で外国人に出会う機会が将来増えるかもしれません。
このように、日本に住む外国人の職種や住む目的が多様化してきており、私たち日本人がいつどこで外国人と出会ったとしても、そして同僚として一緒に働くことになったとしても何ら不思議ではない時代になってきているのです。
現在は、日本に住む50〜60人に1人が外国人ですが、首都圏と一部の大都市を除く、ほぼすべての都道府県で人口が減っており、人手不足による外国人雇用が増えれば増えるほど、全国各地で外国人住民の比率が上がると考えられます。
在留外国人が多い都道府県ランキングと人口の減少率が少ない都道府県ランキングを比較すると、人口が多い地域には企業や仕事があり、それだけ外国人が多いと推測できます。
参考:法務省(2017).「在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表」. http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_touroku.html
※2007年の統計を基にグラフを作成。
参考:総務省統計局(2018).「日本の統計 2018」.
http://www.stat.go.jp/data/nihon/index1.htm
※人口増減率は、人口1000人につき。
しかしながら、外国人の増加が人口の減少を食い止めている可能性もあります。例えば、滋賀県は人口が多い都道府県としては第26位で順位が低いほうですが、在留外国人が多い都道府県としては第19位であり、人口が増加している数少ない都道府県の一つ(第7位)です。
沖縄県は、人口が多い都道府県としては第25位であるにも関わらず、人口の増加率が最も高い都道府県です。シンクタンク「南西地域産業活性化センター」が2015年に発表した調査結果によると、0〜64歳の人口が減少し、65歳以上は増加していることから、少子高齢化は全国の傾向と同様です。
また、2008年の不景気による派遣切りで沖縄に戻る人がいたこと、2011年の東日本大震災や原発事故により被災地や東京圏からの転入者が増えたことが人口増加に影響していましたが、全国的に景気が回復するにつれ、就労のために沖縄県外へ出る人が増えました。[27]
一方、沖縄に住む在留外国人(米軍及びその家族等を除く)は日本人よりも大幅に増加しています。
参考:一般財団法人南西地域産業活性化センター(2017).「沖縄経済レビュー(No.4)増加する県内の在留外国人について」.
https://niac.or.jp/topix/keizaireview04.pdf
同シンクタンクは、2017年に増えた人口のうち「約2.5人に1人が外国人」であることを発表しました。国籍では中国とベトナムが増えており、県内の人手不足、外国人観光客増加に伴う通訳や語学教師、農業や建設分野での技能実習生の増加などを要因として挙げています。[28]
また、沖縄県民のうち外国人が占める割合は2011年の0.56%から2017年には0.96%となり、東京の0.03%(2017年)[29]と比較すると、極めて高い割合です。つまり、東京よりも外国人に出会う確率がはるかに高い地域があるのです。
総務省の「地域における多文化共生推進プラン」では、多文化共生の重要性について以下のように説明されており、外国人の居住地が全国に広がっていることが伺えます。人口が少なく人間関係が密接な地域ほど、住民一人ひとりにとって、外国人住民とともに生活するうえで多言語・多文化への理解が必要になってくるかもしれません。
「今後のグローバル化の進展及び人口減少傾向を勘案すると、外国人住民の更なる増加が予想されることから、外国人住民施策は、既に一部の地方公共団体のみならず、全国的な課題となりつつあります。
このような中、国籍や民族などの異なる人々が、互いの文化的差異を認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていくような、多文化共生の地域づくりを推し進める必要性が増しています。」
以下は、文部科学省により発表された外国籍児童生徒に関するデータです。
※数値は、2016年時点。( )内は2006年との比較。
公立の小中学校・高等学校などに通う外国人の子どもたちが増加し、以前よりも日本語指導が必要な子どもの割合が増しました。また、学校数や母語における「その他の言語」の数が増えていることから、通学先も国籍も多様化していると考えられます。
2018年2月、朝日新聞朝刊には、日本に住むブラジル人の子どもたちの実態に関する記事が連日掲載されました。以下は、記事で紹介された在日ブラジル人と彼らを支援する著名なブラジル人漫画家の言葉です。
<日系4世のブラジル人男性23歳>
滋賀県湖南市の国際交流ボランティアグループ「カリーニョ」代表
「8歳の時、サンパウロから出稼ぎに来た両親と弟と4人で来日。最初は地元のブラジル人学校に行っていたが、半年後、公立小学校に転校した。
それまで日本語を話したことがなく、授業は全く分からなかった。席に座ると、近くにいた同級生は一斉に離れていった。給食の時も机を離され、掃除の時間にはほうきで突つかれた。
たまりかねてやり返そうとした時、教員が入ってきて、ファビオさんをしかりつけた。事情を説明したくても、日本語が出てこない。結局、ファビオさんが同級生に謝ることになった。「悔しかった。それから、やる気がなくなってしまった」」
「小学校時代に受けてきたいじめ。ブラジル人ってこういう人たちなんだと、日本人に理解されていれば、違っていたんじゃないか。」[31]
<日系4世のブラジル人女子中学生15歳>
ブラジル生まれで滋賀県湖南市内中学校に通う。将来教師を目指すために日本の大学へ進学希望。
「英語でも日本語でも言葉によって、その文化や人間性を学べる」[32]
<ブラジルで有名な漫画家マウリシオ・デソウザさん>
滋賀県湖南市内小学校への著書寄付などにより、言葉の壁に悩む在日ブラジル人児童生徒を支援。
「子どもは、小さくても大使のような存在。二つの言葉を学べる機会がある日系人の子どもたちは、将来、様々な可能性に満ちている」
上記のブラジルの人々の言葉から、子どものときに複数の言語や文化にふれるからこそ得られる考え方や価値観があることが伺えます。外国語を学ぶことは、外国人が日本語を学び日本で暮らす不安や苦労を理解するきっかけにもなります。
日本人同士であっても、外見や価値観などのさまざまな違いがあり、そこから生まれるいじめや差別も多々あります。日本に住む外国人を理解しようとすることは、日本人同士においても多様性を理解し他者を思いやることにつながり、日本の子どもたちが外国語を小さいころから学ぶ大きな意義の一つではないでしょうか。
さらに、相手の言語で語りかけることは、相手に興味があり、理解しようとしている姿勢を示す側面もあります。そして、それが相手に伝わってこそ、自分の言葉に耳を傾け、理解しようとしてくれるのかもしれません。
滋賀県湖南市の人々がポルトガル語を学ぶ意義は、ここにもあるのではないでしょうか。日本人や日本の文化について理解してほしいと考えるからこそ、相手の言語を学ぶのです。
総務省は2006年、在留外国人に対する「日本語及び日本社会に関する学習支援」も多文化共生推進施策の一つとして挙げました。今後は、日本国内において在留外国人へ「日本を発信する」必要性がますます増え、その際に外国語や異文化理解の経験が活きてきます。
そして、それは大人のみでなく、子どもたちの学校生活にも当てはまります。
全国各地で在留外国人の増加傾向が続く可能性が高いいま、政治・経済・社会・文化など多くの分野で問題点や懸念が指摘されています。しかしながら、海外でグローバルに活躍する一部の人のみでなく、多くの子どもたちや地域住民が、多様性を受け入れ、日本を発信する力を身につけるチャンスにもなるのではないでしょうか。
参考文献
[1] 厚生労働省雇用安定局(2017).「外国人労働者を巡る最近の動向〜高度外国人材の活用促進のために〜」.
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Events/bdb/49facb9d51d120db/session_first_1.pdf
[2] 法務省(2017).「在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表」.
http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_touroku.html
[3] 総務省統計局(2018).「日本の統計 2018」.
http://www.stat.go.jp/data/nihon/pdf/18nihon.pdf
[4] 門田俊宏(2017).「ブラジル籍の児童急増 湖南工業団地内の水戸小 母国治安悪化、家族で移住傾向 通訳を常駐 日本語指導 受け入れ支援厚く」. 2017年12月25日京都新聞朝刊. 日経テレコン.
[5] 大澤重人(2018).「滋賀銀・岩根支店:ポルトガル語で円滑に 窓口対応を研修 湖南/滋賀」. 2018年2月3日毎日新聞地方版. 日経テレコン.
[6] 平山亜理(2018).「(いま子どもたちは)ブラジルと日本の間で:5 立ち直れた、恩返しは次世代へ」. 2018年3月2日朝日新聞朝刊. 日経テレコン.
[7] 大澤重人(2018). 国際交流グループ「カリーニョ」結成1年、進む異文化理解 語学教室や剣道体験、メンバーも日々成長 湖南/滋賀」. 2018年1月18日毎日新聞地方版. 毎日新聞社.
https://mainichi.jp/articles/20180118/ddl/k25/040/511000c
[8] 湖南市教育委員会(2007).「湖南市日本語初期指導教室設置要領」.
https://www.city.konan.shiga.jp/reiki_int/reiki_honbun/r041RG00000864.html#e000000170
[9] 近藤敏夫(2005).「日系ブラジル人の就労と生活」. 社会学部論集. 40, p.1-18. 佛教大学社会学部.
https://archives.bukkyo-u.ac.jp/repository/baker/rid_SO004000000883
[10] 公益財団法人 滋賀国際協会(2013年).「滋賀県における国籍別外国人人口」.
http://www.s-i-a.or.jp/sites/default/files/reading_list/attachments/H25国籍別外国人人口数.pdf
[11]滋賀県(2017).「住民基本台帳人口調査結果(外国人人口集計表) 平成28年(2016年)12月末現在」.
http://www.pref.shiga.lg.jp/b/kokusai/tabunka/files/population2016.pdf
[12] 公益社団法人 湖南工業団地協会(2018). 「団地協会について」.
http://www.konan-danchi.com/d-1riji.htm
[13] 仲大道(2018).「絵本で母国の子応援 日本の学校になじんで ブラジルの漫画家、湖南市教委に贈呈/滋賀県」. 2018年3月9日朝日新聞朝刊. 日経テレコン.
[14] 財務省(2014).「(参考)全国財務局長会議において各財務局が報告を行った情報:人手不足と資材価格等の高騰が地域経済に与える影響」. 全国財務局管内経済情勢報告概要(平成26年10月29日).
https://www.mof.go.jp/about_mof/zaimu/kannai/201403/hitodeshizai.pdf
[15] 財務省(2016).「(参考)全国財務局長会議において各財務局が報告を行った情報:財務局調査による「人手不足の現状及びその対応策について」」. 全国財務局管内経済情勢報告概要(平成28年10月25日).
https://www.mof.go.jp/about_mof/zaimu/kannai/201603/hitodebusoku083.pdf
[16] 総務省(2017).「多文化共生の推進」
http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/chiho/02gyosei05_03000060.html
[17] 文部科学省(2009).「外国人の子どもの就学状況等関する調査の結果について」.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2010/09/01/1295604_2.pdf
[18] 佐藤由利子(2016).「ベトナム人、ネパール人留学生の特徴と増加の背景 –リクルートと受け入れにあったての留意点−」. ウェブマガジン『留学交流』2016年6月号 Vol.63. 独立行政法人日本学生支援機構. http://www.jasso.go.jp/ryugaku/related/kouryu/2016/__icsFiles/afieldfile/2016/06/07/201606satoyuriko.pdf
[19] 公益財団法人 国際研修協力機構.「外国人技能実習制度とは」.
[20] 田中省二(2013).「「ワラビスタン」第二の故郷 クルド人ら埼玉で共生」. NIKKERI STYLE. 日経 BP社.
https://style.nikkei.com/article/DGXNMSFB0501R_V00C13A9000000
[21] 入国管理局(2016).「在留資格一覧表」.
http://www.immi-moj.go.jp/tetuduki/kanri/qaq5.html
[22] NHK(2014).「シリーズ 人手不足ショック②どう向き合う外国人労働者」. 2014年6月12日放送 クローズアップ現代.
http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3513/1.html
[23] 共同通信グループ(2017).「人手不足の現場支える留学生 コンビニ・外食、規制緩和求める声」. 2017年12月8日アジア経済ニュース.
https://www.nna.jp/news/show/1697769
[24] 外務省(2011).「日・インドネシア経済連携」.
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/fta/j_asean/indonesia/index.html
[25] 一般社団法人 日本医療法人協会(2014).「外国人臨床修練制度の概要について」.
http://ajhc.or.jp/siryo/20140930-2.pdf
[26] 武田敏英、後藤宏光(2014).「増える外国人医師・看護師 評判上々、言葉の壁なお」. 2014年7月25日日本経済新聞夕刊. NIKKEI STYLE. 日経BP社.
https://style.nikkei.com/article/DGXDZO74671790U4A720C1NNMP01
[27] 一般財団法人南西地域産業活性化センター(2015).「沖縄県および県内市町村の人口同行と将来推計人口に関する調査研究 調査報告書」.
https://niac.or.jp/topix/population_2nd_H27.pdf
[28] 一般財団法人南西地域産業活性化センター(2017).「沖縄経済レビュー(No.4)増加する県内の在留外国人について」.
https://niac.or.jp/topix/keizaireview04.pdf
[29] 東京都総務局統計部(2017).「東京都の人口(推計)平成29年12月1日現在」. 東京都の統計.
http://www.toukei.metro.tokyo.jp/jsuikei/js-index2.htm
[30] 文部科学省(2016).「「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(平成28年度)」の結果について」.
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/06/__icsFiles/afieldfile/2017/06/21/1386753.pdf
[31] 平山亜理(2018).「(いま子どもたちは)ブラジルと日本の間で:4 理解されていれば、いじめは」. 2018年2月26日朝日新聞朝刊. 日系テレコン.
[32] 平山亜理(2018).「(いま子どもたちは)ブラジルと日本の間で:1 日系の子、ぶつかる壁」. 2018年2月23日朝日新聞朝刊. 日系テレコン.