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2022.08.22

小さいころから英語を学び始めれば、将来、高い英語力を身につけることができますか?〜第3回:外国語として学ぶ場合について〜

小さいころから英語を学び始めれば、将来、高い英語力を身につけることができますか?〜第3回:外国語として学ぶ場合について〜

■今回の悩み・疑問

小さいころから英語を学び始めれば、将来、高い英語力を身につけることができますか?

 

■回答

日常生活で第二言語に触れる環境であれば、触れ始めた年齢が低い人のほうが最終的に高い能力を身につけている傾向にあります。特に、ネイティブ・スピーカーと同レベルの発音を身につけられるかどうかは、年齢から影響を受けやすいと考えられます。しかしながら、発音も含め、第二言語習得には年齢以外にもさまざまな要因が影響する可能性があります。そのため、特に英語が日常的に使われていない日本の場合は、必ずしも英語に触れ始めた年齢だけで英語力が決まるわけではありません。

今回は、外国語として学ぶ場合に関する先行研究を中心に紹介します。

注)本記事における「第二言語」は、第一言語(母語)のほかに、地域社会や学校、家庭などで日常的に触れる環境で学ぶもう一つの言語(例:英語圏の国に住んでいる日本人にとっての英語)のことを指します。一方で、そのような日常生活で触れることのない環境で学ぶ言語を「外国語」(例:日本に住んでいる日本人にとっての英語)とします。

 

【目次】

 

1. 年齢が高いほうが、はじめの学習スピードは速い

本記事の第1回目と第2回目では、臨界期の存在についてはまだ不明確なものの、第二言語に触れ始めた年齢が低いほど高い能力を身につける傾向にあることを紹介しました。

しかしながら、これらの先行研究はすべて、第二言語が使われている国に住み始めてから何年も(少なくとも2〜3年以上)経過した時点での能力を調べたものであるため、子どものほうが素早く簡単にもう一つの言語を身につけられることを証明しているわけではありません。

例えば、オランダに移住したばかりの子どもや大人(母語は英語)を、現地の学校や職場でオランダ語に触れ始めてから約1年間追って調査した研究(Snow & Hoefnagel-Höhle, 1978)があります。

入国時の年齢が3〜5歳、6〜7歳、8〜10歳、12〜15歳、成人の5グループに分け、4〜5カ月ごとに実施した計3回のテスト成績(発音、文法、語彙など)を比較したところ、オランダ語の習得スピードが最も速かったグループは12〜15歳や大人であり、最も遅かったグループは3〜5歳でした。そして、グループ間の成績差は徐々に縮まっていき、特に発音は早い段階で差がなくなりました。

このような短期間での第二言語学習に関する先行研究を基に、特に文法学習の初期段階においては、年齢の高い子どもや大人のほうがはじめは速いスピードで学習するものの、最終的には低年齢から学習し始めた人のほうが高い能力を身につけると考えられています(Krashen, Long, & Scarcella, 1979; Long, 1990)。

なお、発音についても、はじめは子どもよりも大人のほうが早くネイティブ・スピーカー(以下、ネイティブ)の発音に近づくものの、1年半ほど経過すると子どもが大人の能力を上回ったことが報告されています(Aoyama, Guion, Flege, & Yamada, 2008; Oh, Guion-Anderson, Aoyama, Flege, Akahane-Yamada, & Yamada, 2011)。

 

2. 学校の授業で外国語として学ぶ環境ではインプット量が重要

(1) 年齢が高いほうが、はじめの学習スピードは速い

その言語が日常的に使われていない国で、主に学校の授業を通じて第二言語を学ぶ場合も、はじめは年齢が高い子どものほうが学習スピードは速いと考えられます(Muñoz, 2008)。

例えば、スペインで行われた研究(Muñoz, 2006)では、学校で英語の授業(週2〜2.5時間)を8歳から受け始めた子どもたち(低学年グループ)と11歳から受け始めた子どもたち(高学年グループ)が比較されています。スペインは、日本と同様、英語が日常的に使われている国ではありません。

4技能を測るさまざまなテストが実施され、4年後(計416時間の授業)の時点で高学年グループのほうがすべてのテストで好成績でした。そして、8年後(計726時間の授業)は成績差が縮まっていたことから、はじめは高学年グループのほうが学習スピードは速いものの、あとから低学年グループの学習スピードがさらに速くなることがわかりました。

また、グループ間の成績差が最も大きく、低学年グループが高学年グループに追いつきにくい(長い年数がかかる)能力は文法などであったことから、少ないインプットで意識的に(明示的に)学ばなければならないスキルについては、認知的な発達が進んでいる高学年グループのほうが素早く学習することが示されました。

なお、スペインでは、英語が外国語である環境で学習する場合、発音も学習開始年齢が遅いほうが有利になるという研究報告もあります(García Lecumberri, & Gallardo, 2003)。

 

(2) インプット量が多ければ早期学習者が追い抜く可能性はある

では、さらに長い年月が経過すると、外国語学習においても、早くから学習し始めた人が遅くから学習し始めた人を追い抜くのでしょうか。

日本人の大学生の英語力(英語の音を聞き分ける力と文法能力)を調べた研究(Larson-Hall, 2008)では、音の聞き分けは、小学生までに英語を学び始めた人のほうが中学生になってから英語学習を始めた人たちよりも優れている傾向が示されました。また、学校外での取り組み(宿題や塾など)も含めて英語学習時間が比較的多かった(およそ平均週6〜8時間)人たちは、文法能力についても、小学生までに英語を学び始めた人のほうが優れていました。

一方でスペインの大学生の英語力を調べた研究(Muñoz, 2011)では、文法、語彙、リスニング、音の聞き分けの能力を測るテストを実施したところ、どのテストにおいても、小学生(11歳)までに英語を学び始めた人とそれ以降に学び始めた人で成績差がありませんでした。そして、英語力の高さは、小中学生のときではなく、大学生になってからの インプット量が多い人ほど能力が高いという傾向が見られました。この研究者によると、低年齢から学び始めても、そのときのインプット量が限られていると長期的な効果が得られないのではないか、ということです。

その言語が使われている国に住んでいる場合であっても約30年間は文法能力が伸び続けるという研究報告(Hartshorne, Tenenbaum, & Pinker, 2018)があります。そのため、外国語として学ぶ環境で低年齢から学習し始めた人が遅くから学習し始めた人の能力を追い抜くかどうかは、20歳前後での能力によって結論づけることはできませんが、その可能性を高めるためには、インプット量を増やすことが重要な鍵の一つであると考えられます。

なお、外国語教育を早期化しても長期的な効果が出にくい要因として、小学校・中学校の授業カリキュラムや指導方法、教師のトレーニング、教材などの問題点も指摘されています(Baumert, Fleckenstein, Leucht, Köller, & Möller, 2020; Courtney, 2017, Jaekal, Schuring, Florian, & Ritter, 2017; Jaekel, Schurig, van Ackern, & Ritter, 2022)。

 

3. 学習開始年齢によって知識の質が異なる

大学で集中的に学習している、その言語が使われている国に住んだ経験がある、日常的にその言語に触れている、というようにインプット量や使用機会がかなり多かった人たちの中には、中学生や高校生になってから外国語を学び始めたにもかかわらず、ネイティブ並みの発音や文法能力を身につけている人はいます(Bongaerts, 2014; Montrul & Slabakova, 2003など)。

そのため、学習開始年齢が遅くても、学習意欲や必要性、努力、環境などによっては高いレベルの外国語能力を習得することは可能です。

しかしながら、移民の人たちであっても、思春期を過ぎてから学習し始めた人の文法能力が適性(言語について分析したり論理的に考えたりする力)の影響を受ける一方で、思春期までに学習し始めた人はその影響を受けないことが報告されています(DeKeyser. 2000; DeKeyser, Alfi-Shabtay, & Ravid, 2010)。

つまり、大量のインプットがあったとしても、年齢が高くなると、子どものころに持っていた暗示的学習(無意識的な学習)能力を使うことが難しくなり、それを補う明示的学習(意識的な学習)能力が必要になるため、個人差が大きくなるということです。

また、言語を習得するためには、明示的知識(「動詞の過去形は〜」というようにことばで説明でき、意識して使う必要がある、などの性質がある)だけではなく、暗示的知識(ことばで説明することはできないものの、自動的・無意識に使うことができる、などの性質がある)の発達が必要であると考えられています(Ellis, 2009)。

大学生を対象に第二言語の暗示的知識と明示的知識を調べた研究(Philp, 2009)では、学習開始年齢が低いほど暗示的知識を測るテストで好成績だったことが報告されています。

大量のインプットから無意識に学ぶ暗示的学習を得意とする低年齢の子どもは、週に数時間程度の授業だけではその学習能力を発揮しにくいため、長期的な効果はあまり期待できませんが、小さいころに外国語にたくさん触れる環境をつくることができれば、遅くから学習し始めた人たちよりも、最終的に高い能力を習得できる可能性が高まると考えられます(DeKeyser & Larson-Hall, 2005; DeKeyser, 2020; Muñoz, 2008, 2011)。

 

4. 早期学習の長期的な効果を出すためには、さまざまな条件が必要

では、どのような外国語環境をつくることが重要なのでしょうか。

中学生になってからスペイン語の授業を受け始めたアメリカの大学生(英語話者)を調査した研究(Au, Knightly, Jun, & Oh, 2002)では、未就学児のころに日常生活でネイティブのスペイン語を耳にする機会(週平均9時間程度)や単語・フレーズを口に出す機会があった人たちは、そのような経験がない人たちよりも、スペイン語の発音がネイティブに近かったことが報告されています。

しかしながら、学校だけで外国語に触れる場合は、外国語で教科を学ぶイマージョン教育を小学校で受けた大学生(小学校卒業後は外国語に触れる機会が急激に減少)であっても、必ずしも、そのような経験がない大学生よりも優れた発音であるとは限らず、長期的な効果を出すためには、より多くのインプット量、話す経験、継続的なインプット、効果的な音声指導など、さまざまな要素が必要であることが示されています(原田, 2011)。

近年、外国語のインプットを増やす方法として、教科学習と外国語学習を組み合わせる教育アプローチ「CLIL(内容統合型言語学習)」が注目されています。スイスの研究(Pfenninger, 2014)によると、小学校からCLIL教育を受け始めた人たちが、中学校から通常の外国語の授業を受けた人たちよりも優れた外国語能力を高校卒業時点で習得するためには、中学校でも継続してCLIL教育を受けることが重要だとされています。

また、オランダの中学生〜大学生を調査した研究(Peters, Noreillie, Heylen, Bulté, & Desmet, 2019)では、学校で外国語の授業を受けた年数よりも、日常生活で外国語に触れる量(特にインターネットやオンラインゲーム)のほうが語彙力の高さに関係していたことも報告されています。

これらの先行研究から、早期外国語学習の長期的な効果を出すためには、インプット の量だけではなく、インプットの期間や内容、方法、家庭・社会環境など、さまざまな要因を検討する必要があると考えられます。

 

5. まとめ

本記事では、3回に渡って、第二言語習得と年齢の関係に関する先行研究のうち、多くの文献に引用されている代表的なものや近年の研究報告をいくつか紹介してきました。

低年齢から第二言語に触れ始めた人のほうが最終的に高い能力を身につける傾向にありますが、その言語が日常的に使われる環境や大量のインプットが長年に渡って続くなど、特に外国語として学ぶ場合には、年齢以外にもさまざまな条件が必要だと考えられます。

また、子どものころから二つの言語を学ぶことには、異文化への興味や理解にも良い影響を与えることが期待されているため(Baker & Wright, 2021)、早期外国語学習の価値や効果はさまざまな側面から検討する必要があります。

 

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参考文献

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https://researchmap.jp/read0129869/published_papers/15256610

 

 

 

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