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2026.01.21

ストレスを乗り越えるだけではなく、いきいきと働くために 〜外国語教師のウェルビーイングを支えるためには〜

ストレスを乗り越えるだけではなく、いきいきと働くために 〜外国語教師のウェルビーイングを支えるためには〜

今回レビューした主な論文:

Gkonou, C., Dewaele, J.-M., & King, J. 編『外国語を教えるときの感情の起伏』(2020年発表)

Gkonou, C., Dewaele, J.-M., & King, J.(Eds.).(2020).The emotional rollercoaster of language teaching. Multilingual Matters.

 

レビュー著者:Paul Jacobs(IBS)

翻訳:Yuri Sato (IBS)

 

まとめ

● 教師のレジリエンス(困難な状況から立ち直る力)を高めるには、内面の強さ、他者の支え、効果的な対処スキルに目を向ける必要がある。

● ストレスのかかる状況を捉え直すといったポジティブ心理学の手法は、目の前のストレスへの対処に役立つが、効果を発揮するには継続的な実践が求められる。

● 持続可能で前向きな教室環境をつくるためには、学校だけでなく、保護者や社会全体が、教師の感情面のウェルビーイングを支える取り組みに力を注ぐべきである。

 

教師の感情が健康であることは大切

近年の日本では、教員不足を報じるニュースがメディアでよく見られるようになりました。全日本教職員組合の調査(全日本教職員組合, 2024)によると、全国の公立学校(小中高)でおよそ4000人が不足しており、前年度と比べて1.3倍拡大しています。この傾向は日本だけでなく、世界的にも広がっています。その背景には、教室の中でも外でも、教師がさまざまなストレス要因にさらされていることがあります (Doan et al., 2024; Geiger & Pivovarova, 2018) 。

例えば、教室の中では、さまざまな学習能力や言語能力をもった生徒たちと一日中向き合い、生徒全員が授業に集中して学習成果を得られるよう懸命に努めています。教室の外では、事務作業をこなし、保護者からの相談や要望に対応し、同僚の先生たちとも良い関係でいなければなりません。こうした業務の積み重ねは、どんなに前向きな教師であっても、ウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に幸せや生きがいを感じられる状態)に悪影響を及ぼすことがあります(Gkonou & Mercer, 2017; Talbot & Mercer, 2018)。

ストレスやフラストレーション(思い通りにならないことによる不満)に対処するのは、誰にとっても簡単なことではありません。ただし、教師がストレスに前向きに対処するか、あるいは否定的に反応するかによって、生徒たちの外国語学習に対する態度や取り組み方が変わってきます。

生徒の外国語学習に対する態度は、二つの観点から検証されてきました。一つは、「外国語学習の楽しさ(Foreign Language Enjoyment/FLE)」(以下、「楽しさ」)であり、生徒がどれくらいその言語を学ぶのを楽しんでいるかということです。もう一つは、「外国語の授業における不安(Foreign Language Classroom Anxiety/FLCA)」(以下、「不安」)です。

例えば、教師と良い関係が築けていると感じている生徒は、「楽しさ」が高まり、外国語を使って話すことが増え、発話の質も高くなることが研究で示されています (Dewaele et al., 2024)(IBS記事「外国語学習におけるポジティブ感情の役割」参照)。教師と生徒がどちらも前向きな感情でいられると、外国語学習の教室全体が良い雰囲気になり、学習成果にも良い影響をもたらすことがあります。

ウェルビーイングは、教師の感情のあり方を左右する大切な要素であり、長い教員生活の中で仕事の楽しさややりがいを持ち続けるための支えにもなります(Mercer & Gregersen, 2020) 。つまり、ウェルビーイングは、教師が前向きな感情を保つうえで欠かせないものです。そして、そのような教師の態度は、生徒の学びや学習の楽しさにも影響します。では、負担も大きいけれど社会的な意義も大きい「教師」という職業において、自分の感情が健康であり続けるために何ができるでしょうか?

この問いに答えるために、本記事では『The Emotional Rollercoaster of Language Teaching(IBS訳:外国語を教えるときの感情の起伏)』(Gkonou et al., 2020) という書籍中で発表された最近の研究をいくつか取り上げて考えていきます。

一つ目は、外国語教師のレジリエンス(困難な状況から立ち直る力)に影響する要因を調査する研究(Kostoulas & Lämmerer, 2020) です。この研究を通じてレジリエンス向上に役立つ要素とそうでない要素を整理したうえで、次に取り上げるのは小規模な介入研究(Gregersen et al., 2020)です。この研究では、ある女性教師が「Finding the Silver Lining(物事の良い面を見つける)」というポジティブ心理学の介入手法を実践しました。このアプローチは、この教師が仕事に関わるストレスをより前向きに乗り越えられるようにすることをを目的としています。

本記事はこのテーマを網羅的に扱うものではありません。しかしながら、外国語教師が心や感情の健康面で抱える課題、そして改善の可能性について、読者のみなさんに少しでも理解を深めてもらうきっかけになればと思います。

 

レジリエンスのある外国語教師を支えるものとは?

通常、外国語教師における感情面の健康やウェルビーイングに注目した研究では、仕事や生活の中で好ましくないストレスが生じたときに教師がどのように対処しているかが調べられています。その対処の仕方によって、レジリエンスが高まり、喜びを感じられて心が安定するようになることもあれば、逆に変化を受け入れにくくなり、皮肉っぽくなってしまうこともあります(Hiver & Dörnyei, 2017)。

レジリエンスのある人とは、ネガティブな出来事やストレスの多い状況に遭遇しても、そこからうまく適応し、良い成果を生み出せる人のことを指します((Hiver, 2018)引用の(Hu et al., 2015))。しかし、ある状況に適応したからといって、必ずしも良い成果につながるとは限りません。

Kostoulas & Lämmerer (2020) は、人のレジリエンスの仕組みを次の3つのまとまりに分けています。1)内面の強さ(inner strengths) 、2)他者の支え(external support) 、3)身につけたスキル(learned strategies)です(図1参照)。これらがどのような状態かによって、人は前向きに適応することもあれば、逆に好ましくない形で適応してしまうこと(不適応的な調整)もあります。

図1:レジリエンスのある教師を育む3要素の概要

図1:レジリエンスのある教師を育む3要素の概要。Kostoulas and Lämmerer(2020)をもとに作成。

 

Kostoulas & Lämmerer (2020)による研究の目的は、オーストラリアの大学の教員養成課程に在籍する学生たちを対象に、教育実習の中でレジリエンスがどのように育まれるかを調査することです。多くの学生にとって、外国語の授業で教えることは初めての経験であり、大きなストレスを感じる可能性があります。研究者たちは、教職を目指す94名の学生に対してアンケート調査を行い、レジリエンスの程度を分析しました。レジリエンスの程度は、「高」、「平均」、「低」の3グループに分けられました。その結果、参加者のうち74名が「平均」であり、「高」と「低」はそれぞれ10名ずつでした。

本稿で特に取り上げたい研究成果は、低レジリエンス群の学生と高レジリエンス群の学生という2人の対照的な参加者に対して行われた詳細なインタビュー調査です。調査では、高レジリエンスのピーター(仮名)と低レジリエンスのジョン(仮名)の間で、3つのレジリエンス・カテゴリーのそれぞれに違いがあることが報告されました。この2人が外国語指導に関するストレスにどう反応したか、その違いを見ることで、適応力のある教師とはどのような資質を持つ教師なのかが見えてきます。以下の表で、2人の反応の違いを比較しましょう。

表1:高レジリエンス教師と低レジリエンス教師の対比

表1:高レジリエンス教師と低レジリエンス教師の対比(Kostoulas & Lämmerer (2020)より引用)。

 

高レジリエンス教師と低レジリエンス教師の違い

この2人の教師の対比は、非常に鮮明です。

まず「内面的な強さ」から見ると、ピーターは、今後10年間の教師としてのビジョンを明確に描いており、そこから、彼には教師としての強いアイデンティティと、自分の仕事に対するはっきりとした目的意識があることがわかります。ここの領域に関して、ジョンは自分の教員としての将来像についてあまり語ろうとせず、不安を口にする発言が多く見られました。実際には、研究者たちは、ジョンの授業実践の中には良い実践があること、彼の振る舞いからは不安感が伝わってこないことについて、本人が理解できるよう働きかけました。しかし、ジョンはその評価を受け入れることができず、その結果、研究者たちは、ジョンが教師としてのアイデンティティや将来に対して無関心な態度であると指摘するに至りました。

では、「他者の支え」について見てみましょう。ピーターは、自分が気持ちを切り替えてストレスに対処するうえで、家族や友人が重要な役割を果たしていることをはっきりと認識していました。一方でジョンは、なぜ同僚と関わる必要があるのか理解できないと述べています。ジョンは、自分一人の足で立っていることやプライバシーを大切にしていました。それ自体は悪いことではありません。しかし、人と距離を置いたままでいることは、ネガティブな感情に前向きに対処することにはつながりにくいでしょう。責任感のある自律した人間であることは重要です。そうした姿勢があってこそ、教師は自分の職務に責任を持って取り組むことができます。しかし、ストレスがたまり続け、職場のコミュニティの一員である場合には、プライバシーと自律性を何よりも重視する姿勢が、結果として、働きにくい職場環境を生み出す一因になることもあります。

最後の「身につけたスキル」のカテゴリーを見てみましょう。ピーターは、困難な状況にどのように対処できるようになったのかを話ました。彼は、自分のストレスの状態を把握しておくことを大切にしていると語っています。その背景には、教師であった母親がストレスにうまく対処できず、燃え尽きていく姿を見てきた経験がありました。研究者たちは、このネガティブな経験が、彼にとってレジリエンスを育むための力となったと指摘しています。一方、ジョンは問題に向き合わない傾向があり、ストレスのかかる状況について振り返ることが苦手でした。

これら2つの事例は、外国語教師にとって、確かな教師としてのアイデンティティと、自分の指導力への自信がいかに重要であるかを示しています。同僚や家族、友人とのつながりを築きながら、ストレスが多く大変な経験にもうまく向き合うことは、外国語教師のレジリエンスとウェルビーイングを高めるうえで欠かせません。

この研究では、レジリエンスのある教師とそうでない教師の特徴が示されていますが、ウェルビーイングやレジリエンスを高めるための具体的な方法までは説明されていません。そこで、次に、この課題に取り組む介入研究について見ていきます。

 

その場でのストレス対処は難しいが、工夫次第

特定の対処法が教師のマインドセットを変えうるかどうかを検証する介入研究は、近年増えてきています(概観についてはCann et al. 2024参照)(see Cann et al., 2024 for a review) 。しかし、外国語教師に焦点を当てた研究は、まだ限られています。

Gregersen, MacIntyre, Macmillan(2020)による研究の一つでは、「Finding the Silver Linings(物事の良い面を見つける)」と呼ばれるポジティブ心理学の介入手法が用いられています。これは、ストレスのかかる状況を捉え直す(リフレーミング)ことで、その悪影響をやわらげることを目的とした方法です。先ほどのレジリエンスの話と結びつけると、この介入は、「身につけたスキル」の中でも、「感情を調整する力」にあたるものだと言えます。レジリエンスを育むためには、教師は困難な状況に対処する力を身につける必要があります。ポジティブ心理学に基づく介入は、全体としてストレスを軽減することが知られています(Seligman et al., 2005)。ポジティブ心理学は、人生の中でうまくいっている点に目を向け、さまざまな介入を通して人がよりよく成長し、いきいきと生きられるよう支援することを目的とした心理学の一分野です(Peterson, 2006)。

このように、「Finding the Silver Linings(物事の良い面を見つける)」メソッドは、教師のレジリエンスを高める可能性のある、数ある介入の一つだと言えます。

Gregersen, MacIntyre, and Macmillan (2020)の研究では、西アフリカのインターナショナル・スクールで教えていたアメリカ人教師1名を対象に、1週間にわたる介入が行われました。介入が行われた時点で、この女性教師は海外の教育現場で6年間の指導経験を積んでいました。

この研究は、次のような手順で進められました。はじめに、教師は、ストレスの程度、仕事への満足感、感情に関する尺度といった複数のアンケートに答えるよう求められます。次に、介入手法を実施するやり方についてトレーニングを受けます。まず教師は、1週間のあいだ、授業中や学校外で起きた出来事のうち、大きな問題から小さな問題まで、特に注意を向けるべきものを意識し、それらを日記に記録するように言われました。出来事について書いたあとは、その出来事から考えられる前向きな結果や意味を書き加えることで、好ましくない状況から「良い点」を見つける作業に取り組むよう指示されています。また、忘れてしまわないよう、できるだけ早く書き留めるよう求められました。

1週間後、研究者たちは教師の記録を回収し、データの分析を行いました。その後、介入がどのようなものだったのかを聞くため、教師への追跡インタビューが実施されました。教師には、日記の全記録を「好ましくない出来事」と「出来事の中で見つけた良い面」に分類した一覧表が渡されました。好ましくない出来事は、全部で10件ありました。そして、それぞれの出来事について、「どの程度ストレスを感じたか」、「介入がストレス軽減にどの程度効果があったか」、「その出来事を自分でコントロールできると感じたか」を、5段階のリッカート尺度で評価するよう求められました。

結果:「良い面を見つける」という介入の効果

教師は、10件の好ましくない出来事について、ストレスに対処するうえで自分の認知的再評価(良い面を見つけること)がどれほど有効だったかを振り返りました。その結果、10件のうち7件の出来事は、ストレスが軽減されたと評価しています。

研究者たちの指摘によると、その出来事をどの程度自分でコントロールできると感じていたかは、リフレーミングが効果的かどうかを左右する重要な要因の一つでした。自分でコントロールできる度合いが高い状況では、「良い面を見つける」というアプローチはあまり効果的ではありませんでした。ここでいう「コントロールできる度合いが高い」とは、自分の行動が状況の結果に直接影響を与えられることを意味します。

一方、「コントロールできる度合いが低い」状況では、何らかの行動を取っても、状況があまり変わらないことを指します。例えば、教師が予定を頻繁に忘れてしまうことにストレスを感じている場合、スケジュール管理を工夫することで状況を改善できます。これは、自分でコントロールできる度合いが高い状況です。このような場合、行動を起こさずに状況を前向きに捉え直すだけでは、ストレスが持続し、悪化する可能性があります。

先行研究では、コントロールしにくい状況においてこそ、この種の認知的再評価が最も効果を発揮することが示されています。つまり、状況そのものを変えることが難しい場合には、状況を変えようとするよりも、自分の感情の受け止め方を変えるほうが、より適応的であるということです (Troy et al., 2013) 。そして、今回の研究結果は、この先行研究と一致しています。

例えば、今回の研究では、すでに予定が詰まっている中で、大人の英語学習者1名を新たに受け入れることになった出来事が、「好ましくない出来事」として記録されていました。教師は、この出来事によって生じたストレスの程度を、5件法のリッカート尺度にて、5段階中「5」(最も高い程度)と評価しました。「良い面を見つける」というテクニックを使い、新しい学習者が加わることで授業に変化が生まれ、指導がもっとおもしろくなるという点に目を向けて、状況を捉え直していました。このリフレーミングがストレス軽減に役立ち、その効果の程度を5段階中「4」と評価しています。この出来事では、自分でコントロールできる感覚は低く(5段階中「2」)、つまり、その学習者を受け入れる以外にほとんど選択肢がなかったことを意味します。そのため、マインドセットを切り替えることが、ストレスに対処するうえで最も有効な選択だったのです(Gregersen et al., 2020, p. 397)。

別の例として、教師が高いストレス(5段階中「5」)と高いコントロール感(5段階中「5」)の両方を経験した出来事が取り上げられています。

学校のディレクター(運営責任者)から、いじめに関するメール連絡を受け取ったときのことです。教師は、生徒を守るためには学校の方針変更が必要だという不満を示しながら、否定的な返信をしました。こうした学校のリーダーシップへの不満に突き動かされた教師の対応は、結果として状況をさらに悪化させてしまいました。教師は、どのように返信するかを自分でコントロールすることができました。たとえば、この問題について建設的に話し合うためのミーティングを設定するなど、もっと穏やかかつ丁重に自分の懸念を伝えるという選択もできました。しかし、実際には否定的な反応を選んだため、状況を「変化を訴える機会」と前向きに捉え直そうとする再評価はうまく機能しませんでした。その結果、教師はリフレーミングの効果を5段階中わずか「1」と評価しています。

状況を捉え直すことよりも、自分の対応の仕方を調整するほうが、ストレスを軽減するうえで有効だったことを示しています(Gregersen et al., 2020, p. 397)。

教師は最後のコメントからは、この介入についてどう感じたかがわかります。「明確にそうするよう指示された場合には、ストレスを軽減できたのかもしれません。でも、それが無意識にできるほど身についているわけではなくて……調子がいいときは良い面を見られても、つらいときには……そこまで考えが及びません」。(Gregersen et al., 2020, p. 400)要するに、1週間の介入だけでは、教師の心のクセを変えるには至らなかったということです。

この研究結果は、教師がさまざまな介入手法を学び、それらを必要なときに実践できる環境が重要であることを示しています。そうして十分に使い続けることで、やがて無意識な反応として身についていくからです。また、あるテクニックがどのような場合に効果を発揮し、どのような場合に逆効果になりうるのかを理解することも重要です。ポジティブ心理学の介入研究(Sin & Lyubomirsky, 2009)では、ストレス軽減に効果的となるための4つの条件が挙げられています。

すなわち、1) 本人が何らかのストレスを感じていること、2) 要求されたのではなく、自発的に研究へ参加していること、 3) 若年層に比べ、年齢や経験を重ねた人であること、4) 集団ではなく個人レベルで介入が行われること、です。こうした点を踏まえると、教師が感情のウェルビーイングやレジリエンスに関するスキルを身につけられるような教員研修(専門的な能力開発)にもっと力を入れる必要があると言えるでしょう。

 

研究から実践へ:前向きな態度

これらの研究からは、教師の不安や感情の状態は、さまざまな要因によって揺れ動くことがよくわかります。その要因には、教室内で生じるものもあれば、教師個人の内的プロセス(考え方や受け止め方)に関わるもの、さらには教室の外での人間関係や経験に由来するものも含まれます。ストレスに向き合い、指導力への自信を育て、そして生徒に前向きな姿勢を示すためには、継続的な実践と周囲からの支え、さらに状況に応じて柔軟に対応する力が求められます。

実際、日本では過去10 年ほどの間に、学校全体で取り組むソーシャル・エモーショナル・ラーニング(SEL)プログラムの導入が重視されてきました(Takizawa et al., 2023)。こうした取り組みは、児童・生徒が自己理解を深め、自分の感情を認識し、健全な人間関係を築けるよう支援することを目的としています。こうしたプログラムを生徒のライフステージに合うよう導入・実施する役割は、教師が担うことが多いです。しかし私は、教師自身もまた、特に自分自身のライフステージに応じて、こうした学びのプログラムを同じくらい必要としているのではないかと考えています。自分の思いを安心して表現でき、共感し合いながら実践的な助言を得られる場を見つけることも、多くの教師にとって大きな支えになるでしょう。

また、教師と生徒が互いに影響し合う関係は、見過ごすべきではありません。感情面でのレジリエンスをもつ外国語教師が育まれたとき、それが生徒にどのような影響を与えるのかを考えると、どこか心を打つものがあります。

ercer & Gregersen(2020)の研究では、「教師と学習者の動機づけは、相互に影響し合う関係として密接に結びついている」(p.52)と述べられています。前向きさがほかの人に伝わり、また返ってくるというこの仕組みは、とても望ましいものであり、私たち教師が生徒や子どもたちに願う姿でもあります。教師が前向きな態度で生徒に向き合えば、教室の雰囲気は変わります。さらに、生徒がその前向きな態度を返してくれることで、教師自身の意欲も高まっていくのです。これは、私たちが目指していきたい教師と生徒の関係性だと言えるでしょう。

 

結論

本稿では、外国語教師のレジリエンスを育むことがいかに重要であるかを見てきました。

とりわけ注目した点は、内面の強さ、他者の支え、そして身につけたスキルが、職業上のストレスに対処するうえでどのような役割を果たすかということです。「Finding the Silver Linings(物事の良い面を見つける)」などのポジティブ心理学の手法は、教師が目の前の困難に向き合う際の有効な手がかりを与えてくれます。

しかし、こうした方法は、専門的知見に基づく継続的な支援や、組織としての取り組みという、より大きな枠組みの中でこそ力を発揮します。教師のウェルビーイングを支える持続可能な体制に学校や政策決定者が力を注ぐことで、教師は前向きさとレジリエンスを教室にもたらすことが可能になります(Zhang, 2023)。

こうした取り組みは、教師だけでなく、教師の感情面の健康と深く結びついた学びを経験している生徒にとっても、大きな恩恵をもたらします。

 

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参考文献

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全日本教職員組合(2024). 「教育に穴があく(教職員未配置)」実態調査結果(5月)について. https://www.zenkyo.jp/_cms/wp-content/uploads/2024/07/24-07-18【記者発表資料】「教育に穴があく」(24年5月)調査結果.pdf

 

 

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