日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。

2023.11.20

【特別対談】小学校教員と研究者が語る、小学校英語教育のいま 〜東京学芸大学附属大泉小学校 石毛教諭×早稲田大学 原田教授〜(後編)

【特別対談】小学校教員と研究者が語る、小学校英語教育のいま 〜東京学芸大学附属大泉小学校 石毛教諭×早稲田大学 原田教授〜(後編)

石毛 隆史 教諭(東京学芸大学附属大泉小学校から中野区立北原小学校へ異動/写真:左)、と原田 哲男 教授(早稲田大学/写真:右)による特別対談の記事後編です。

後編では、授業づくりや教員養成の課題についてのお話を紹介します。

 

【目次】

 

限られた時間の中で、学習指導要領をどう授業に落とし込む?

原田:ここからは、学習指導要領についてもお話ししていきたいと思います。石毛先生は、授業時数も準備時間も限られている中で、学習指導要領の内容をどういうふうに授業に落とし込んでいるのでしょうか?

石毛:子どもたちはたった1回の授業で英語を言えるようになるわけではないので、ことばを使う目的・場面・状況を与えたうえで、とにかく繰り返し聞いたり言ったりする授業を意識しています。

例えば、いま6年生が “Where do you want to go?” という単元なのですが、通常は「夏休みにはどこに行きたい?」という話題から授業を始めると思います。

でも、そんな大きな話題について話す前に、まずは「みんな、今週の土曜は授業がないから週末休みが2日間あるけど、どう使う?先生は、I want to go to Kyoto.」というふうに、今週末のことを話します。

すると、子どもたちから「なんで?」という反応が返ってきて、「だって、神社とかお寺とか行ってみたいじゃん」と答える、というような会話をつくり出しておくんです。

それから、「じゃあ、あなただったらどう?Where do you want to go?」と子どもに聞いてみます。

 

原田:とても自然な会話から始まるんですね。

石毛:そうですね。子どもはだいたい「うーん、北海道!」などと日本語で言いますから、“Oh, you want to go to Hokkaido! I want to go to Kyoto.” とリキャストしてあげます(会話の流れを途切れさせずに、子どものことばを言い直し、さらにI want to go toという表現を聞かせる)。

子どもたちは、こういうやりとりを全員としていきながら何回も繰り返し聞かせるので、なんとなくこういうふうに言うんだなということに気づきます。

2時間目以降も、そして単元が終わっても、スモールトークのときに「みんなは今日の放課後、どうする?先生は、I want to go to a convenience store. 帰りにごはんを買いたいからさ」、「来週は3連休があるけど、みんなはどこに行くの?」というふうに身近な話をすれば、I want to go to〜という英語を聞かせたり使わせたりできます。

こういうふうに、単元をもまたいで何度も繰り返すようにしています。

 

原田:限られた時間の中でインプットするためには、コンテクスト(目的・場面・状況)の中でインプットを与えることが重要ですよね。石毛先生の授業を拝見して、場面のつくり方がとても自然でお上手だと思いました。どのようなことを意識していますか?

石毛:場面をつくるときに、直接言わないことを意識しています。

例えば、I like〜. という英語表現を学ぶ単元であれば、「今日は好きなものについてお話をするよ」という言い方はしないんです。

例えば、「今日ね、クラスの旗をつくろうと思うんだけど、どうせだったらみんなが好きな色を入れていきたいんだ」というふうに、間接的に「好き」に触れながら場面をつくるんです。

まず「先生は、I like yellow.」と言いながら自分が好きな色を塗って、それから子どもたちに “What color do you like?” と聞いてきます。

そうすると、子どもたちは自分の好きな色を言えばいいんだとわかり、I like〜. という英語表現を使う場面をつくることができます。

 

先生たちが「自分もできる」と思えるような授業とは

原田:文部科学省によると「英語の授業は英語で行う」ということが基本になっていますよね。先生はどのように考えていますか?

石毛:英語だけで授業をした結果、子どもに身につけてほしい力が身につかないようではあまり意味がないですよね。

日本語を使って授業をしたほうが、すべての児童を見取りやすいですし、すべての児童を引っ張り上げやすいなと感じています。

 

原田:どの子どもも見落とさない、ということは公立学校ではとても大事ですよね。授業を拝見しましたが、先生は日本語もうまく使って場面をつくっています。日本語をベースにした会話が子どもたちの気持ちや言いたいことを引き出して、子どもたちが授業に参加しやすくなっている、という印象を持ちました。こういうことは、やはりネイティブ・スピーカーにはできないことですよね。授業中の英語と日本語の使用については、何か意識していますか?

石毛:基本的な指示は日本語にして、絶対に子どもに聞かせたい英語表現だけは英語で言うようにしています。

もともと、附属小学校で教えていたときは英語だけで授業をしていたこともあったのですが、ほかの先生たちから「石毛先生だからできる授業ですよね」と言われたんです。

そこで、誰がいつ見に来ても「ここを英語にすればいいんだ」とわかってもらえるような授業を展開しようと思いました。

あとは、特に低学年の授業では、場面をつくるときにあまり説明しなくても済むようにしています。

例えば、歌(Seven Steps)や “Who is number one?(出席番号1番は誰?) “、“What number is she?(彼女は何番?)”というようなやりとりを通じて、繰り返し数字を聞いたり言わせたりします。

また 、 “How many pencils? と聞いて、筆箱の中からえんぴつを1本ずつ取り出しながら “One, two, three. . .“ とかぞえていけば、子どもたちは数の話をしているんだなとわかりますよね。

何本入っているか予想させたあとにかぞえ始めると、 途中から一緒に数える子も出てきます。

 

原田:「なるべく説明をしない」という点は、とても大事ですね。従来の英語教育は、子どもたちに懇切丁寧な説明をして理解させることが中心でした。先生は、なぜそのような考え方になったのでしょうか?

石毛:説明をしてしまうと、結局、複雑すぎる活動になってしまいます。

文法に関しても、文法を説明する授業をしてしまうと、「それは中高の英語科免許を持っているからできることだよね」と言われてしまいます。

ですから、教師が説明しなくても済むほど単純な活動にすれば、どの先生でもできるのではないかと思います。

また、説明をしなくてもいい授業であれば、日本語をあまり使わずに、ほぼ英語だけで授業できます。しかも、使う英語は子どもたちに聞かせたい英語表現だけなので、それほど難しくありません。

 

原田:私の大学の授業には小学校の先生もいらっしゃるのですが、低学年のころから積極的に英語の授業に参加していて「よくできる」と思っていた子どもが高学年になったときに「先生、Youって何?」と聞いてきたそうなんです。つまり、子どもたちが一つひとつの語彙の意味を理解していなくても、アクティビティをやらせることはできる、ということですよね。その先生にとっては、英語教育のあるべき方向性は本当にこれでいいのかな、と疑問を感じるきっかけになったそうです。

石毛:子どもが主体的に学ぶためには、子どもが自分で気づいたほうがいいですよね。

教師はいくらでも説明を与えることができますが、私たち大人はそういう授業でうまく学べなかったわけです。

子どもが自分で気づくための手立てを打ったほうが、教師が説明を与えるより何倍も子どもにとってプラスになるだろうなと考えています。

 

原田:私もそう思います。ただ、「先生、Youって何?」と質問する子どもの様子を見て、やはり明示的な説明は適宜必要だと考える先生もいますよね。石毛先生は、どのように考えますか?

石毛:教師のほうは、「Heは男の子のときで、Sheは女の子のときに使うんだよ」などと説明したほうが、全員に伝えられるからみんな理解できる、と思うかもしれません。

でも、子どもたちにとっては、そういう説明は右から左へと流れていってしまうんですよね。

もし子どもが「Youって何?」と聞いてきたら、普段から先生に教えてもらった英語表現をそのまま真似して言っているだけで、分析的に英語を聞いていないんだろうなと思います。

 

原田:石毛先生だったら、どのように理解させますか?

石毛:例えばI want to go to〜の単元では、子どもが答えたことをYou want to go to〜と言い直したり、She wants to go to〜/He wants to go to〜とほかの子どもたちに伝えたりしながらやりとりをしていきます。

教師が見る方向を意識しながら話をするだけで、you、he、sheの意味が理解しやすくなります。

そのためには、子どもたちが気づけるような英語表現を定期的に投げかけるんです。

すると、多くの子どもたちは、繰り返し聞くうちに「先生がSheって言うときは、あの子のことを言っているな」、「あれ?またあの子のときにもSheって言ってる」、「Sheはたぶん女の子のことを言うときに使うのかな」というふうに気づいて、なんとなく理解していきます。

間違って “You want to go to〜” と言ったあとに、「あ、違う! I want to go to〜」と言い直す子もいました。

 

原田:“You want to go to〜” とチャンクのまま英語を聞かせることは大事ですが、子どもたちが分析できるようにするためのヒントを与えることも必要ですよね。

石毛:そうですね。読みにつなげる ために、子どもたちに言わせた “I want to go to〜” という英語表現を文字にして、すべて黒板に並べて示す ようにも ています。

意図的に同じ文を並べて見せることで、子どもたちは一つひとつの単語が読めなくてもチャンクで理解でき、「I want to go toの音ってここまでなんだな」、「最後のところだけ変わるんだ」と気づけるはずです。

ことばで説明したほうが楽ですが、子どもたちが「自分で気づけた」と思えるような仕掛けをするようにしています。

原田:それは素晴らしいですね。とてもプロフェッショナルだと思います。

 

大人数で個人差のあるクラスにも対応できる

原田:小学校英語教育でもう一つ気になっていることは、クラス人数の多さです。先生は、どのような工夫をしていますか?

石毛:友だちの英語を聞いていたら自分も言えるようになる、という経験をさせるようにすれば、大人数のクラスでも授業ができると思います。

私の場合、これはほかの教科でも同じなのですが、すぐに答えられない子どもは「リズム良くいきたいから、あとでまた戻ってくるね!」と言って順番を飛ばすようにしています。

そうすると、その子どもは、友だちが何て言っているか聞きながらどう言えばいいかわかるようになって、最後に自信を持って答えられます。

 

原田:とても良いですね。順番を飛ばされることに慣れていれば、友だちの英語や状況から何て言えばいいかわかるようになっていくんですね。「すぐに答えられない子がいる」ということでさらにお聞きしたいことがあるのですが、すでに小学校でも、子どもたちの英語力にとても大きな差があると思います。 どのように対応していますか?

石毛:そうですね、個人差はあります。

例えば、Where do you want to go?と聞いたときに、「イタリア!」と日本語で答える子どももいれば、“Italy!” と単語で答える子どもや、まだ教えていないのに “I want to go to Italy.” と答える子どももいます。

でも、こちらの返し方を変えることによって、どんなレベルの子どもにも対応できます。

文で言える子どもには “Oh, you want to go to Italy.” と繰り返してあげるだけでいいですし、そうでない子どもには “Oh, you want to go to Italy. I want to go to America.” というふうにリキャストをしてI want to go to〜を聞かせてあげるんです。

中には、“I want to go to Italy. I want to watch the soccer game.” などと答える子どももいますが、「おぉ!そうなんだ!理由も言ってくれてありがとう!」と返して、次の子どもに進むだけにしていま す。

ほめすぎても、ほかの子にとってよくないと思っているので。

 

教員になりたい学生が減っている今、何ができる?

原田:小学校教員の養成については、どのように考えていますか?

石毛:いまの子どもたちが小学校、中学校、高校でちゃんと力をつけていけば、私たち大人とは違う英語力を身につけるだろう、と考えられていると思います。

その中で、高校卒業時点で中学3年生までに教わった英語を自由に使える人がたくさん育って、その人たちが教員になれば、小学校の英語の授業も変わると思います。

 

原田:現実を見ると、高校卒業時点で文部科学省が目標としている英語力に少なくとも50%の人が達してほ しいとされ ていますが、この目標は達成できていませんね。中学3年生までの英語を自由に使えるように、というお話がありましたが、詳しく伺いたいです。

石毛:結局、詰め込みすぎるから使えるようにならないですし、本当に全員が達成するべき目標を設定しなければいけないと考えています。

学問や仕事などで高度な英語力が必要になる日本人は限られていますよね。多くの日本人にとって、英語を使ってコミュニケーションする場面は日常的な会話です。

そう考えると、中学3年生までの英語を読み書きも含めて自由に使えるようになって高校を卒業をする、という目標にすれば、日本人の英語力の平均は上がるのではないかと思っています。

 

原田:外交官などの政治家も、国際会議では通訳をつけますが、ほかの国の政治家と一緒に食事をしたり一緒に歩いたりしているときに直接自分でコミュニケーションを取れることはとても重要なのではないかと思います。そういう意味でも、誰もが中学3年生レベルの英語を自由に使えるようにする、という発想はとても大事ですね。

石毛:現在できることとしては、英語に対してマイナスなイメージが比較的少ない若者たちが小学校の英語の授業を少しでも見られるようにできるといいのではないかと思います。

「いまの小学校では、こういうふうに教えているんだ。自分が中学生だったときと違う」というイメージを持たせたうえで、大学で教員養成をするといいかもしれません。

 

原田:ここ最近の報道を見ていて一番懸念している点は、学校教員になりたい学生が減っていることです。例えば、早稲田大学の教育学部は、国立の教員養成学部と異なり、教員免許を取らなくても卒業できる(開放性教員養成)のですが、教員免許を取る学生が例年減っているんです。このような状況について、どのように考えていますか?

石毛:教員になりたい人が減っている中で自分にできることは何かと考えると、やはり「誰でもできる授業」を提案することだと思っています。

私の授業を見て「自分でもできそう」と思ってくれる実習生はけっこう多いです。

あとは、自分のクラスで教育実習をしてもらえれば「教員になりたい」と思ってもらえる、という自信はあります(笑)。

教員の世界は、もちろん大変なことがたくさんありますが、楽しいことはいくらでもあります。

子どもたちと関わるときだけではなく、若手の先生たちが成長をしていく様子を見たり、自分が動くことでほかの先生たちや学校が変わっていったりするときにも、楽しいと感じます。

私が楽しんでいる姿を見てもらえれば、教員になるかどうか迷っている学生さんにも楽しい時間を過ごしてもらえるのではないかと思います。

 

原田:大学でもそうですが、先生が楽しくなければ授業も成立しませんよね。いかに先生が授業を楽しむかが大事だと思います。私も、実は専門分野を教えるよりも、自分があまり知らない分野について教えるときのほうがたくさんの学びがあってむしろ楽しいんですよね。考え方 によっては、どんな仕事をしても楽しいものです。
そういうことを大学の教員養成課程でも学生たちに伝えていかなければいけませんね。

石毛:そうですよね。プラスに考えられるか考えられないかで、物事の見方は変わってきます。

実習が終わったあとも、人手が足りないときにお願いすると授業を手伝ってくれたり、 移動教室にも一緒に行ってくれたりします。楽しい経験を通して、「もっとやりたい」と思うのは、大人も子どもも一緒なのでしょうね。

 

おわりに:小学校英語教育の現場では、シンプルで説明のいらない「誰でもできる授業」が求められる

小学校英語教育の現場では、昔とは異なる英語の学び方を広めることの難しさ、英語の授業に対する負担感や自信のなさ、教員間の温度差、教員志望者の減少など、さまざまな課題があります。

これらを解決する方法の一つとして「誰でもできる授業」の提案がいかに重要であるかがわかりました。

石毛教諭が提案する、シンプルで説明のいらない授業は、英語力や英語指導に自信がない教師はもちろん、授業を改善したくても忙しくてできない教師、昔の英語教育のあり方に捉われてしまっている教師の背中も押すことができるのではないでしょうか。

また、シンプルであっても、身につけさせたい力や意欲、気づきを意識した仕掛けが意図的に計画されていれば、子どもたちが「英語を使えるようになっている」という実感をもちながら学ぶことができると考えられます。

どんなに効果的でも、「この学校だからできる」、「この先生だからできる」、「この子どもたちだからできる」という授業はなかなか広まりません。

公立学校の英語教育を変革するためには、教師にも児童にも優しい「誰でもできる授業」を検討していく授業実践や研究がさらに求められるのではないでしょうか。

 

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■対談者プロフィール

・石毛 隆史 教諭

東京学芸大学附属大泉小学校教諭。東京学芸大学中等教育教員養成課程卒業。同大学にて修士課程修了。公立学校との人事交流制度により、2020年度より中野区立北原小学校(東京都)に勤務し、現在6年生の学級担任。監修書に『えいごえほん百科 スタート』『えいごえほん百科 ジャンプ』(ともに、講談社)がある。

 

・原田 哲男 教授

早稲田大学 教育・総合科学学術院 教授。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)にて博士号(応用言語学)を取得。その後、オレゴン大学で教鞭を執り、2005年より現職。専門は、第二言語習得、外国語の音声習得、英語教育、バイリンガル教育など。ワールド・ファミリー バイリンガルサイエンス研究所の学術アドバイザーも務める。

 

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