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2024.03.08

フォニックスとフラッシュカードで読むことを学ぶ

フォニックスとフラッシュカードで読むことを学ぶ

今回レビューした論文:

Watts & Gardner著「システマティック・シンセティック・フォニックスだけで十分なのか?小学1年生の授業における高頻度語の集中指導の効果を検証(IBS訳)」(2013年発表)

Watts, Z. and Gardner, P. (2013) ‘Is systematic synthetic phonics enough? Examining the benefit of intensive teaching of high frequency words (HFW) in a year one class’, Education 3-13, 41(1), pp. 100–109. Available at:

https://doi.org/10.1080/03004279.2012.710105

レビュー著者:Paul Jacobs

翻訳:Yuri Sato

 

まとめ

● フォニックスの指導と高頻度語への接触を含むバランスの取れた読み書き指導方法を開発することで、読む力を伸ばすことができる。

● 映像や本など、意味のあるコンテンツを通じて新しい単語を学び、フラッシュカードで学習を強化することは、日本人学習者向けの方略の一つである。

 

読みの指導における最適な実践

早期の読み書き指導法については、シンセティック・フォニックス(※1)の支持者と「ルック・アンド・セイ」アプローチ(※2)の支持者の間で、その有効性をめぐって議論が続いています。しかしながら、いくつかの大規模なレビュー論文では、読むことを学ぶ初期段階ではフォニックス指導が重要であるという意見で一致しています(National Reading Panel, 2000; Rose, 2006)。

フォニックス指導が重要であることは明らかですが、最近の研究では、フォニックスだけに頼らない、よりバランスの取れた読み書き指導のアプローチによって豊かな読みの力を促進できることが示唆されています (Castles, Rastle and Nation, 2018)。

 

音韻認識と単語認識

前回の論文紹介記事「英語の音遊びは、読む力を養うか?」では、いかに音韻認識が子どもの読む力に必要な基礎的スキルであるかを考察しました。

読むためには、話しことばに含まれる音に気づいて操作し、それらの音に対応する文字と結びつける能力が必要です(Gillon, 2018)。このタスクは、英語など、文字と音の結びつきに一貫性がないと考えられている特定の言語では、より難しくなります(※3)

その一方、イタリア語やスペイン語などの言語は透明性が高く、ほとんどの場合、一つの文字が一つの音に対応しています (Wydell, 2022)。

この難しさを克服して英語で読めるようになるためには、音韻認識とフォニックスの指導が不可欠です。しかし、よく使われる英単語のうち、音とスペルが一致しないために読むのが難しい単語を記憶することで、読むプロセスのスピードを上げる方法があるかもしれません。

実際、Solity & Vousden(2009)は、最も一般的な文字と音の対応についての知識(フォニックス)と高頻度語への慣れ親しみ(記憶)を組み合わせることで、子どもが目にしやすい単語の90%を読めるようになり、自分の力で読めるように導くことができると主張しています。子どもは、自分の力で読むスキルを身につけると、読むことを学ぶだけでなく、学ぶために読むようになり、語彙の知識がどんどん増えていきます。

 

高頻度語の重要性

Watts & Gardner(2013)は 、フラッシュカードを使った「ルック・アンド・セイ」アプローチによって生徒が高頻度語の知識を身につけられるようにする研究を行っており、読み指導に関する議論に貢献しています。

高頻度語は、文章で頻繁に登場する、最も一般的な単語です。高頻度語の例としては、「the」、「and」、「is」、「in」、「you」 などがあります。

フォニックスは、各音素の音と文字を結びつけ、単語をデコーディングする能力(単語を音声に返還し、正確に識別する能力)を養ううえで非常に重要です。しかし、「the」や「you」、「come」などの一般的な単語は例外的な規則であり、音声に変換することが難しいです。したがって、「ルック・アンド・セイ」法でそれらの単語を識別できるようにすることは、読む力の自動性(automaticity)を高めることにつながります。

 

研究内容:フォニックスを高頻度語フラッシュカードと組み合わせる

研究課題は、フォニックス指導だけで生徒たちが年齢相応の読む力を身につけられるか、2)高頻度語を教えることは読む力に影響を与えるか、これらのアプローチはさまざまな能力の生徒たちにとって効果的か、という点に絞られました。

研究方法

この研究は、イギリスの小学1年生8人の読む力が向上するかどうかを5週間にわたって追跡調査しました。読み指導には、主にシンセティック・フォニックス法が用いられていましたが、この研究によって毎日5分間のフラッシュカード・トレーニングが追加され、113の高頻度語に触れさせました。

生徒の読む力を評価するため、サルフォード・センテンス・リーディング・テスト(Salford Sentence Reading Test /SSRT)をキーステージ1(※4)のはじめ、介入直前、介入後の3回に分けて実施しました。さらに音素スキルのテストとミスキュー分析(※5)を追加で実施し、音素認識の力、そして未知の単語をどのように読もうとするかを評価しました。

これらの追加テストは、生徒がフォニックスのテクニックを使って単語を読み上げているのか、それともほかのテクニックを使っているのかを知るために行われました。

 

結果:高頻度語の指導が読む力に与える影響

当初、3人の子どもたちは読む力が著しく遅れていました。しかし、高頻度語のフラッシュカード指導による介入後は、1人を除いてすべての生徒が年齢相応のレベルに達しました。音素スキルのテストでは点数にばらつきがあり、必ずしも音素認識力の高い生徒が読む力も高いとは限らないことが指摘されました。ミスキュー分析によると、テスト中にフォニックスのテクニックを使うよう指示されたにもかかわらず、実際のリーディングで一貫してフォニックスのテクニックを使わない生徒が何人かいました。

高頻度語について調べた結果、ほとんどの子どもはフォニックスのトレーニングを通じて高頻度語の多くを自然に学んでいましたが、介入後はそれらの認識力が向上したことが明らかになりました。読むスピードと効率の向上でわかる読みの流暢さは、2回目の評価で改善しました。これにより、記憶から単語にアクセスできる生徒は、読む力がより熟達し、読み間違いが少ないことが示されました。

 

研究の結論

この研究結果では、介入後の生徒のうち、1人を除いた全員の読む力において有意な向上が確認されました。生徒たちの読む力の差を埋め、ほとんどの生徒を年齢相応のレベルに引き上げることを目的とした介入の可能性を強調する結果です。

音素スキルの高さと実際に読むときのパフォーマンスが一致しないという結果からは、習得したスキルが実際に応用できる力につながるのかという疑問が生じます。注目すべき点は、孤立音素テストの成績が高かった生徒の中に、リアルタイムの読む活動で一貫してその能力を発揮しなかった生徒がいたことです。これは、単に音韻のスキルを持っているだけでは、実際に読んでいるときにそのスキルをうまく活用できるとは限らないことを示しています。習得したスキルの転換やリーディング・タスクにおける最も効果的な応用方法についてさらに研究を進めることで、読み書き指導を改善するための貴重な知見が得られると考えられます。

高頻度語について調べたこの研究結果は、フォニックス・トレーニングが一般的なサイト・ワード(頻出単語)または記憶して学ぶ単語の習得と協働的な関係にあることを裏付けるものです。生徒の多くがフォニックスを通じて高頻度語を自然に学んでいましたが、介入後、それらの単語の認識力は著しく向上しました。これは、明示的なフォニックス指導と高頻度語に絞ったトレーニングの組み合わせが子どもの読む力を著しく向上させたことを示唆しています。

つまり、この研究結果は、フォニックスと高頻度語トレーニングの両方を統合したバランスの取れたアプローチが読む力の向上に役立つことを示唆しているのです。しかしながら、音韻スキルを実際の読む力に転換させることがいかに複雑であるかも裏付けており、幼い学習者における読む力の熟達度と流暢さを向上させる介入方略がいかに重要であるかも明らかにしています。

 

考察:外国語として英語を学ぶ日本の授業や家庭学習に知見を応用

今回レビューした研究は、母語である英語の読みを学ぶ生徒を対象に行われたものです。しかし、この研究で示唆されることをいくつか日本の家庭や教室でも応用できます。

高頻度語トレーニングの効果は、リーディングの領域にとどまらず、英語学習者のリスニングやスピーキングにも効果があります。サイト・ワードやフラッシュカードを使った指導は、二つの目的を果たすことができます。単語のスペルを認識できるようにするだけでなく、単語の意味理解を強化して語彙知識を発達させることができるのです。

語彙の発達と文字の認識力(読む力)を結びつけることは重要です。なぜなら、たとえ子どもが本に書かれている単語を音読できても、その単語の意味が理解できなければ、読んでいる内容を理解することはできないからです。

この考え方は、「Simple View of Reading(SVR説))」(Gough and Tunmer, 1986)の 理論モデルと一致します。この理論モデルによれば、人の読解力は、単語をデコーディングする能力(音韻認識、文字・音の対応に関する知識)と言語理解(語彙の知識、文構造の知識、推論能力)を組み合わせた結果です。したがって、語彙の知識は、特に英語を第一言語としない子どもたちにとって、初期段階の読み書き能力において重要な部分になります。

研究によると、子どもは、学習しようとしている単語が使われる文脈を理解し、それらを繰り返し使う練習をすることで最もよく覚えることがわかっています (Gillon et al, 2019)。

そのため、新しい単語の意味を理解するためには、物語などの文脈の中でその単語に触れることが勧められています。はじめに文脈の中で意味が理解できる単語に触れたあと、フラッシュカードを活用して学習を強化し、繰り返し練習することによって文章と単語の意味の両方を認識できるようにすることができるのです。

 

(※1)フォニックスは、音と文字のつながりを明示的に教える読み書き指導のアプローチである。

(※2)「ルック・アンド・セイ(Look-and-Say)」は、「ホール・ランゲージ・アプローチ(Whole Language Approach)」と呼ばれる、より大きな概念のアプローチの一部である。「ホール・ランゲージ・アプローチ」では、子どもがより自然なプロセスで文から意味を発見できるようにリーディングを活用する。「ルック・アンド・セイ」は、子どもがフラッシュカードの単語を見て、そのスペルを記憶することで文字を読めるようにするプロセスである。

(※3)例えば、/f/の音の場合。「fig」、「cliff」 、「phone」、「laugh」、「calf」、「often」というように、/f/という同じ音を表す方法(文字)は6種類ある。

(※4)キーステージ1(Key Stage One)とは、イギリスの義務教育における初期段階にいる生徒を表すカテゴリである。該当する年齢層は5~7歳。読み書き能力の基礎となるスキルの指導が導入される時期である。

(※5)ミスキュー分析は、その人がどのような方略で読んでいるかを明らかにするために使われる。被験者に自分の読解レベルより少し上の文章を読ませ、どのような読み間違いをするかを追跡する。この読み間違いには、単語の抜け、単語の繰り返し、単語の発音間違いなどが含まれる。

 

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■関連記事

小学校英語教育では、「音」を大切にした読み書き指導が必要 〜青山学院大学 アレン玉井教授インタビュー(後編)〜

 

参考文献

Castles, A., Rastle, K. and Nation, K. (2018) ‘Ending the Reading Wars: Reading Acquisition From Novice to Expert’, Psychological Science in the Public Interest, 19(1), pp. 5–51. Available at:

https://doi.org/10.1177/1529100618772271

 

Gillon, G. et al. (2019) ‘A better start to literacy learning: findings from a teacher-implemented intervention in children’s first year at school’, Reading and Writing, 32(8), pp. 1989–2012. Available at:

https://doi.org/10.1007/s11145-018-9933-7

 

Gillon, G.T. (2018) Phonological awareness: from research to practice. Second edition. New York: The Guilford Press.

 

Gough, P.B. and Tunmer, W.E. (1986) ‘Decoding, Reading, and Reading Disability’, Remedial and Special Education, 7(1), pp. 6–10. Available at:

https://doi.org/10.1177/074193258600700104

 

National Reading Panel (2000) Teaching children to read: An evidence-based assessment of the scientific research literature on reading and its implications for reading instruction (NIH Publication No. 00-4769). National Institute of Child Health & Development. Available at:

https://hdl.handle.net/2027/mdp.39015054155760?urlappend=%3Bseq=7

 

Rose, J. (2006) Independent review of the teaching of early reading: final report. Edited by Great Britain. Department for Education and Skills. London: Department for Education and Skills. Available at:

http://www.standards.dfes.gov.uk/rosereview/report.pdf

 

Solity, J. and Vousden, J. (2009) ‘Real books vs reading schemes: a new perspective from instructional psychology’, Educational Psychology, 29(4), pp. 469–511. Available at:

https://doi.org/10.1080/01443410903103657

 

Watts, Z. and Gardner, P. (2013) ‘Is systematic synthetic phonics enough? Examining the benefit of intensive teaching of high frequency words (HFW) in a year one class’, Education 3-13, 41(1), pp. 100–109. Available at:

https://doi.org/10.1080/03004279.2012.710105

 

Wydell, T.N. (2022) ‘Can Research in Developmental Dyslexia in Alphabetic Languages Help Identify Developmental Dyslexia in Japanese and Subsequently Lead to Effective Intervention Programmes?’, Japanese Journal of Learning Disabilities, 31(4), pp. 336–343.

 

 

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