日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。
2019.12.16
論文タイトル:
Can Infants and Toddlers Learn Words from Repeated Exposure to an Infant Directed DVD? (2014)
乳幼児は、子ども向けDVD映像を繰り返し視聴することによって単語を学習することができるか?(2014年)
著者:
Marina Krcmar
マリーナ・カークマー
ジャーナル:Journal of Broadcasting & Electronic Media 58(2), 196-214
アクセス:https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/08838151.2014.906429
要約:ポール・ジェイコブス
翻訳:佐藤有里
バー氏たち(2007)の研究により、生後12カ月の子どもが映像で見た動作を学習して模倣するうえで、映像を繰り返し視聴することがいかに学習効果を高めるかがわかりました。特定の動作を二次元の映像で学習できることは、子どもの発達において重要な一つのステップです。
しかしながら、乳幼児が言語(例:新しい単語)を映像で学習する際にも、繰り返し視聴することが役立つのかどうかという疑問は残っています。
よって、生後4〜24カ月の乳幼児の言語学習において映像を繰り返し視聴することが効果的なのかどうかを検証したカークマー(2014)の研究論文を以下に要約して紹介します。
当研究所では、映像の学習効果に関する研究論文をこれまでにいくつか紹介していますが、それらの研究結果の多くは、一定の条件を満たした学習環境であれば子どもが映像でも単語を学習できることを明確に示すものでした。
カークマー(2014)の研究結果は、それらの研究ほど明確に映像の学習効果を肯定する内容ではありませんが、この分野の研究に重要な貢献を果たしています。
調査対象は生後4〜24カ月の子ども計70人で構成され、乳幼児の低頻度語(例:「水晶体」、「ディスケット」など)学習能力が調査されました。低頻度語とは、語として存在するものの、一般的な文書や会話で使用される頻度が低いため、人々に知られていない可能性がある語です。
子どもたちは、学習条件が異なる二つのグループに無作為に分けられました。
一つ目のグループは親が学習に関与し、二つ目のグループは親の関与がありません。両グループの母親は、DVD2枚のうち1枚を渡され、2週間以内に少なくとも6回は映像を子どもに見せるように言われます。
どちらのDVDにも有名な「ベイビー・アインシュタイン」シリーズの映像が含まれています。一つ目のグループの親のみ、研究者からの指示に従い、画面に映し出されているものに注意を向けさせたり、映像内の音声に続いて単語をリピートして同じことをするよう促したり、一緒に映像を見ながら子どもが積極的に参加するよう働きかけました。
2週間後、子どもたちが三つの新しい単語を学習したかどうかをテストしました。子どもは、親のひざの上に座った状態で二つのものを見せられます。
一つはDVD映像で見たもので、もう一つは映像に登場しなかったものです。母親は「〜はどっち?」と子どもに質問し、そのときの子どもの視線の動きがビデオカメラによって録画されました。
正しいほうへ視線を合わせている時間のほうが明らかに長ければ、単語を学習したということです。
子どもたちは全員、正しいほうへ視線を合わせている時間が明らかに長く、単語を学習していたことがわかりました。しかしながら、月齢グループごとに注視時間を算出すると、生後17カ月未満の子どもたちの場合、正しいほうを注視する時間と間違ったほうを注意する時間の差は、極めて小さいものでした。
そのため、生後17カ月以上の乳幼児が子ども向けDVD映像を繰り返し視聴することで単語を学習できた、と判断されました。
異なる学習条件の2グループにおける差については、意外な結果が出ました。親の関与があったグループの子どもたちは、親の関与がなかったグループの子どもたちよりも学習効果が低く、ほかの先行研究 (Strouse et al. 2018; Zack and Barr 2016; Strouse and Troseth 2014)と矛盾する結果だったのです。
このような結果の要因については、以下の通り考察します。
前述の通り、乳幼児は、子ども向けDVD映像を繰り返し視聴することで単語を学習でき、視聴の繰り返しがこのような良い結果を導きました。
同研究者による先行研究では、社会的意味の存在は、乳幼児が映像から単語を学ぶ能力を高めることに関係している、という見解が示されています(Krcmar 2010)。この研究における一つ目のグループの子どもたちが見た学習映像には、母親が登場します。
一方、二つ目のグループの子どもたちが見た映像には、内容は同じですが、母親ではなく無関係のキャラクターが登場します。結果、一つ目のグループは単語を学習し、二つ目のグループは学習しませんでした。
母親を見ることで生まれる社会的意味が映像による単語学習を手助けしたのです。
そして、親の関与(映像を一緒に見ること)も子どもの学習成果を生み出すことが予想されましたが、今回の研究では異なる結果となりました。要因としては、親たちが研究者から指示を受けていた通りに映像視聴時の関与を実行していなかったことが考えられます。
実際、このグループの親の3分の1は、子どもと一緒に映像学習に参加する代わりに、家事やほかのことをしていました。これにより、学習条件の一貫性が欠けてサンプル数も減り、調査結果をゆがめてしまった可能性があります。
また、映像の内容によっては、子どもの学習能力を高めることができた可能性もあります。カークマー(2014)は、「ベイビー・アインシュタイン」のDVD映像には社会的意味が欠けていたことを報告しています。
この映像では、人間の顔が登場することはなく、幼い子どもにとっては無関係で初めて目にするような抽象的な姿や形、音楽、物体が使われていました。子どもが映像で学習するには、社会的意味が存在する映像内容であることが重要です (Fenstermacher et al. 2010)。
結論として、視聴の繰り返し、そして、親の関与や映像内容で生まれる社会的意味が映像による学習効果をさらに高めると言えます。今回の研究では、親の関与や映像内容による社会的意味が限られていましたが、視聴の繰り返しが果たした役割が大きかったことで、生後17カ月の乳幼児がDVD映像で単語を学習できました。
親は、子どもに教育映像を繰り返し見せることで、子どもが学習テーマの内容を自分の身の回りに関連づけ始めることを手助けし、その関連性を学習に役立たせることができます。同時に、子どもの発達が健全で力強く生き生きとしたものになるためには、親の社会的な関わりが必要です。
よって、次回は、親が映像を一緒に見ることには具体的にどのような学習効果があるか、ということを研究した論文を調査して紹介します。
■関連記事
Barr, Rachel, Paul Muentener, Amaya Garcia, Melissa Fujimoto, and Verónica Chávez. 2007. “The Effect of Repetition on Imitation from Television during Infancy.” Developmental Psychobiology 49 (2): 196–207.
https://doi.org/10.1002/dev.20208
Fenstermacher, Susan K., Rachel Barr, Elizabeth Brey, Tiffany A. Pempek, Maureen Ryan, Sandra L. Calvert, Clay E. Shwery, and Deborah Linebarger. 2010. “Interactional Quality Depicted in Infant and Toddler Videos: Where Are the Interactions?” Infant and Child Development 19 (6): 594–612.
https://doi.org/10.1002/icd.714
Krcmar, Marina. 2010. “Can Social Meaningfulness and Repeat Exposure Help Infants and Toddlers Overcome the Video Deficit?” Media Psychology 13 (1): 31–53.
https://doi.org/10.1080/15213260903562917
Strouse, Gabrielle A., and Georgene L. Troseth. 2014. “Supporting Toddlers’ Transfer of Word Learning from Video.” Cognitive Development 30: 47–64.
https://doi.org/10.1016/j.cogdev.2014.01.002
Strouse, Gabrielle A., Georgene L. Troseth, Katherine D. O’Doherty, and Megan M. Saylor. 2018. “Co-Viewing Supports Toddlers’ Word Learning from Contingent and Noncontingent Video.” Journal of Experimental Child Psychology 166 (February): 310–26.
https://doi.org/10.1016/j.jecp.2017.09.005
Zack, Elizabeth, and Rachel Barr. 2016. “The Role of Interactional Quality in Learning from Touch Screens during Infancy: Context Matters.” Frontiers in Psychology 7.
https://doi.org/10.3389/fpsyg.2016.01264