日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。
2021.02.19
論文タイトル:
The development of receptive vocabulary in CLIL vs EFL: Is the learning context the main variable? (2020)
CLIL授業とEFL授業で比較する理解語彙の発達 〜学習状況は主な影響要因か?〜
著者:Castellano-Risco, I., Alejo-González, R. & Piquer-Píriz, A. M.
ジャーナル:System 91: 1-10
アクセス:https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0346251X19308681?via%3Dihub
要約:Paul Jacobs
翻訳:Yuri Sato
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● CLIL(内容言語統合型学習)授業に参加した子どもは、従来のEFL(外国語しての英語)授業に参加した子どもと比較すると、第二言語(英語)でより多くの語彙を身につけていた。
● 子どもたちは、以下の条件で学習すると、より多くの語彙を習得することができる。
・インプット の種類が豊富であり、かつインプット 量が多い。
・生徒同士のやりとりを特に重要視する。
・言語の形式に注目するだけではなく、教科学習という文脈のなかで第二言語を学ぶことに重点を置く。
子どもたちは成長するにつれて、家庭を離れ、学校に通い始めます。子どもたちの学習環境は、日常生活を通じて自然に学ぶ環境から、学校教育を通じて教室で学ぶ環境へと移行していくのです。
外国語としての英語を外国語として教える授業の多くは、EFL(English as a Foreign Language/外国語としての英語)という学習環境に分類されます。日本の一般的な学校もEFL環境であり、すべての教科を日本語で学び、英語の授業のときだけ完全に、または部分的に英語を使って学びます。
このようなEFL授業では、コミュニケーション能力を身につけることを目標に、日常的な英語表現を学ぶことに重点が置かれています。
日本の学校における英語の学習環境はEFLが最も一般的ですが、いま注目を集めている学習環境がほかにもあります。それがCLIL(Content and Language Integrated Learning/内容言語統合型学習)です(詳細は原田(2019)を参照)。
このCLILという学習スタイルを導入している学校では、一部の授業を社会の多数派言語(例:日本における日本語)で行い、ほかの授業を外国語(例:日本における英語)で行います。カリキュラムは、言語学習のみに焦点を当てるのではなく、言語学習と内容学習を組み合わせます。
これにより、教科学習と第二言語(L2)学習の両方が発展するよう促すのです(Coyle, Hood, and Marsh 2010)。例えば、日本であれば、地理と歴史は英語で、数学と国語は日本語で教えます。
外国のカリキュラムをベースにしたインターナショナル・スクールとは異なり、CLIL の学校は、文部科学省が定める国のカリキュラム、つまり学習指導要領に基づいた授業を行います。このように、CLIL授業で学ぶ子どもたちは、日本の通常の学校で学ぶ子どもたちと同じような教育を受けるのです。
CLILの学校に通う子どもたちは、英語をコミュニケーションの媒体とする授業が複数あるため、EFL授業を受ける子どもたちよりも、L2のインプット量が多くなります。また、EFL授業とのもう一つの違いは、生徒が接する言語の種類です。
CLIL授業でふれる言語の性質は、よりアカデミックなものであるため、言語使用に関与する認知能力のレベルが比較的高くなります(Dalton-Puffer 2007)。そして、言語の学習が主な目的ではないため、生徒は暗示的な言語処理を行う場合があり、これは自然な言語習得のプロセスにより近いものです。
今回ご紹介する研究(Castellano-Risco, Alejo-González, and Piquer-Píriz 2020)の主な目的は、CLIL授業とEFL授業の生徒の理解語彙の知識を比較し、L2への接触量が語彙学習にどのような役割を果たすか、そして、どちらの学習環境のほうが語彙力をより高めるか、という点を理解することでした。
語彙知識は、言語を理解するうえで重要な要素です。人々は、最も頻繁に使われる単語群のうち約1,000語を理解することで、よくある状況での日常会話は行うことができるようになります(Meara 2010)。
しかし、学術的な話題や自然な会話の流れのなかでの話を完全に理解するためには、もっと多くの語彙を知っていなければなりません。語彙学習においては、教科を学ぶときに学習した単語の種類と日常会話を通じて自然に学習した単語の種類には違いがある、という側面があります。
そこで、研究者らは、アカデミックな単語だけでなく、非アカデミックな単語の知識も評価しながら、両方のタイプの語彙について調べました。アカデミックな単語とは、主に教室で教科を学習するときに身につける単語を指します。例えば、理科の授業や歴史の授業で学ぶ単語の中には、通常のEFL授業では学ばないような単語もあります。非アカデミックな単語とは、日常生活のなかで最も一般的に使用される単語群(高頻出語彙)を指します。
研究者らは、このようなことを念頭に置いて、次の3つの疑問に対する答えを得ようとしました。
1)CLIL学習者とEFL学習者の間で、非アカデミックな理解語彙の数に違いがあるか?
2)CLIL学習者とEFL学習者の間で、アカデミックな理解語彙の数に違いがあるか?
3)インプットの量や種類は、学習者の語彙数に影響を与えるか?
参加者は、スペインのエストレマドゥーラ州にある学校で中等教育を受ける生徒138人(14~15歳)です。CLILプログラムに在籍している生徒は82人、EFLプログラムに在籍している生徒は56人でした。この地域では、2000年代初頭にCLIL授業が導入され、研究者たちにとっては、さまざまな生徒の学習経験について調査することができるようになりました。
生徒たちは、どちらのプログラムの授業を受けたかによって、以下の通り、4つのグループに分けられました。
【グループ1: CLIL1(早期CLIL学習者23人)】
小学1年生のときからCLIL授業で学習し始め、さらに、週に1時間のEFL授業を受けてきた生徒。英語への接触時間は、計3,000時間(EFL授業で1,300時間+教科学習の授業で1,700時間)。
【グループ2: CLIL 2 (標準的CLIL学習者25人)】
小学4年生〜6年生のときからCLIL授業で学習し始めた生徒。英語への接触時間は、計2,400時間。
【グループ3: CLIL 3 (後期CLIL学習者34人)】
中学生になってからCLIL授業で学習し始めた生徒。英語への接触時間は、計2,000時間(EFL授業で1,300時間+教科学習の授業で700時間)。
【グループ4: EFL学習者56人】
プリスクールで3歳のときから英語を学習し始めた生徒。英語への接触時間は、計1,200時間。
生徒たちは、それぞれ2種類の語彙レベルテスト(Vocabulary Levels Tests/VLT)を受けました。一つ目のテストでは、最も頻繁に使われる2,000語の非アカデミックな単語(非アカデミック語彙)、二つ目のテストでは、570語のアカデミックな単語(アカデミック語彙)の知識を調べました。
●最も頻繁に使われる非アカデミック語彙の数については、CLILグループの生徒が平均およそ1,352語(全2,000語の67.6%)、EFLグループの生徒が平均797語(全2,000語の39.9%)でした。
●アカデミック語彙の数については、CLIL グループの生徒が平均およそ371語(全570語のうち65.1%)、EFL グループの生徒が平均165語(全570語のうち28.9%)でした。
個々のグループ同士で比較すると、早期CLIL学習者が最も理解語彙が多く、非アカデミック語彙が約1,490語(全2,000語のうち74.5%)、アカデミック語彙が401語(全570語のうち70.4%)でした。
標準的CLIL学習者は、2番目に理解語彙が多く、非アカデミック語彙が平均1,408語(全2,000語のうち70.4%)、アカデミック語彙が401語(全570語のうち70.4%)でした。
後期CLIL学習者は、非アカデミック語彙が約1,310(全2,000語のうち65.5%)、アカデミック語彙が348語(全570語のうち61.1%)という結果です。
すべてのCLILグループは、EFLグループよりも高いスコアを出しました。統計学的には、非アカデミック語彙については、3つのCLILグループ間で有意な差は見られませんでした。
しかし、早期CLIL学習者と標準的CLIL学習者のグループのスコアは、後期CLIL学習者とEFL学習者のグループを上回る傾向が見られました。また、アカデミック語彙については、3つのCLILグループ間で統計的な差は見られませんでしたが、CLILの全3グループが EFL グループのスコアを統計的に上回っていました。
この研究では、CLILプログラムに最も長い期間参加していた生徒が理解語彙テストで最も高いスコアを出したことがわかりました。CLIL授業の生徒の語彙力が高いことを説明するためには、言語への接触量、そして、学習が行われる文脈が重要な要素となります。
生徒たちは、外国語を使ってさまざまな教科の授業を受けることによって、教科に関連する多種多様なインプットに接触することとなり、より意味のある練習(Kasprowicz 2019の要約記事を参照)ができるようになります。教科の種類が多様なだけでなく、生徒同士がやりとりをするよう教師が働きかけることで、生徒たちに豊富なインプットを与え、語彙学習を後押しする可能性があります。
意味のある他者とのやりとりは、言語学習において重要な要素です(Grossmann 2015の要約記事を参照)。生徒が学校に通い始めて学年が上がっていくと、前年に学んだ知識や経験に基づいて学習を進めていくことができ、言語の発達も促進されていきます(Mehisto, Marsh, and Frigols 2008; Dalton-Puffer 2007)。
この研究では、CLILの生徒は EFL の生徒よりも高い語彙力を示しましたが、EFLのプログラムが効果的でないということを意味するものではありません。EFL授業では、研究に基づいたアプローチが数多く実践されており、それらが言語学習を促進できることがわかっています。
そのようなアプローチの一つが、用法基盤モデルです(Wulff and Ellis 2018)。このアプローチにおける重要なコンセプトは、学習者が目標言語の機能に気づくのを助けることに重点を置き、意味のある文脈のなかで言語を使用させることを主なテーマとしています。
このアプローチでは、すべての言語構造をすべての学習者が同じように学習できるわけではない、と考えられています。具体的には、目立たない(気づきにくい)単語や文法構造です。
例えば、位置を表す語(例:below [下に]、beside [横に]))や時間を表す語(例:now [いま]、later [あとで])には気づきやすいですが、動詞の語形変化(例:plays [playの三人称単数形]、played [playの過去形])は通常気づきにくいものです。
今回ご紹介した研究では、CLIL授業とEFL授業を比較して、子どもたちがどの程度語彙を習得しているかが調べられました。しかし、主に言語(文法)の習得に焦点を当てていない CLILの授業環境で、前述のような気づきにくい単語や概念がどのように学習されるかを調べる研究は興味深いものです。
いくつかの研究においては、これらの言語要素を学習させるためには、教師が提示する修正フィードバック(学習者の間違った言語使用を修正する行為)が有用な方法であることが示唆されています(Lyster, Saito, and Sato 2013)。
日本で行われている多くの英語授業では、子どもたちがL2にふれる文脈を多様化させことが欠けています。子どもたちは、英語を学ぶために英語を教えられているのです。
子どもたちのなかでも、特に低学年の子どもたちは、豊富なインプットを受け、さまざまな感覚を使う環境のなかで言語にふれられるようにする必要があります。つまり、CLIL授業のような意味のある文脈で英語を使いながら英語を学ぶことが極めて重要なのです。
■関連記事
Adolphs, Svenja, and Norbert Schmitt. 2003. “Lexical Coverage of Spoken Discourse.” Applied Linguistics 24 (4): 425–38.
https://doi.org/10.1093/applin/24.4.425
Castellano-Risco, Irene, Rafael Alejo-González, and Ana M. Piquer-Píriz. 2020. “The Development of Receptive Vocabulary in CLIL vs EFL: Is the Learning Context the Main Variable?” System 91 (July): 102263.
https://doi.org/10.1016/j.system.2020.102263
Coyle, D., P. Hood, and D. Marsh. 2010. Content and Language Integrated Learning. Cambridge University Press.
https://abdn.pure.elsevier.com/en/publications/content-and-language-integrated-learning
Dalton-Puffer, Christiane. 2007. Discourse in Content and Language Integrated Learning (CLIL) Classrooms. Lllt.20. John Benjamins Publishing Company.
https://benjamins.com/catalog/lllt.20
Lyster, Roy, Kazuya Saito, and Masatoshi Sato. 2013. “Oral Corrective Feedback in Second Language Classrooms.” Language Teaching 46 (1): 1–40.
https://doi.org/10.1017/S0261444812000365
Meara, Paul. 2010. EFL Vocabulary Test. 2nd ed. Wales University: Swansea Centre for Applied Language Studies.
Mehisto, P., D. Marsh, and María Jesús Frigols. 2008. “Uncovering CLIL : Content and Language Integrated Learning in Bilingual and Multilingual Education.” Published. 2008.
https://lib.ugent.be/catalog/rug01:002519875
Wulff, Stefanie, and Nick C. Ellis. 2018. “Usage-Based Approaches to Second Language Acquisition.” In Bilingual Cognition and Language. John Benjamins Publishing Company.
https://benjamins.com/catalog/sibil.54
原田哲男. 2019. “内容重視の言語教育(CBI)と内容言語統合型学習(CLIL)の 実績と課題 ―第二言語習得とバイリンガル教育を中心.” 第二言語としての日本語の習得研究, no. 22 (December): 44–61.