日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。
2020.08.26
家庭での英語インプットは、プリスクールでのESL学習効果を高めることができる
ESL: English as a Second Language(第二言語としての英語)
論文タイトル:
Effects of home language input on the vocabulary knowledge of sequential bilingual children. (2019)
家庭での言語インプットが後続性バイリンガル児の語彙知識に与える効果
著者:Shirley Cheung, Pui Fong Kan, Ellie Winicour, and Jerry Yang
ジャーナル: Bilingualism: Language and Cognition 22 (5): 986-1004
アクセス: https://doi.org/10.1017/S1366728918000810
要約:Paul Jacobs
翻訳:佐藤有里
●子どもは、バイリンガル環境のプリスクールに通っている場合であっても、家庭でふれる言語が語彙知識の発達を促す。
●子どもが家庭の日常的な場面で二つの言語にふれることは、両方の言語において語彙発達の手助けとなる。
●第一言語については、夕食中や家族と自由に遊ぶ時間に使うことが最も語彙発達に関連していた。
●第二言語(親が十分に話せない言語)については、お話の読み聞かせや体系化されたゲームのときに使うことが最も語彙発達に関連していた。
子どもたちが家庭や教室で第二言語を学ぶとき、インプットは重要な要素であり、決しておろそかにはできません。インプットが十分でなければ、その言語を身につけることはできないでしょう。
Ramírez and Kuhl (2020)は、子どもの第二言語学習がうまくいくために重要だと考えられる6つの原則を提示していますが、その一つがインプット量の多さです(参照:IBS関連記事)。Ramírez and Kuhl (2020)の研究は、プリスクール(幼稚園・保育園)で英語にふれることの効果について調査を行っています。
一方、今回要約する論文(Cheung et al. 2019)は、プリスクールで第二言語を学んでいる子どもたちが家庭の日常的な場面で絶えず二つの言語にふれた場合、両言語の語彙がどのように発達するか、という点を明らかにしています。
この研究に参加した親子は、全員、アメリカへ移り住んだ移民であり、広東語を第一言語として話します。親たちは子どもに英語を話せるようになってほしいと考えていますが、英語を十分に話せません。
そのため、英語が学べるプリスクールに子どもを通わせています。しかし、新たに英語を身につけてほしいと思いながらも、家庭での言語も大事にしており、子どもが広東語も学び続けることを望んでいます。
このような場合、家庭でも英語にふれさせてみようとする親もいれば、家庭では第一言語しか使わない親もいるかもしれません。親が日本語話者である日本の家庭でも、同様の迷いがあることでしょう。
つまり、家庭で英語を使うことは、子どもの第一言語(L1)および第二言語(L2)の発達にどのように役立つのか、ということです。
この研究チーム(Cheung et al. 2019)は、4歳児を対象に、家庭でふれるL1(広東語)の量とL2(英語)の量が各言語の語彙発達にどのような影響を与えるのかを調査しました。L1・L2の語彙発達は、理解語彙、表出語彙、概念的語彙のテスト成績によって評価されています。
理解語彙とは、聞いて理解はできるけれど、口に出して言うことはない語彙のことです。一方、表出語彙は、口に出して言うことができる語彙です。
概念的語彙は、いずれかの言語で表すことができる概念(意味)の数を合計したものであり、L1とL2両方をまとめて統合的に評価します。これは、二つの言語知識をもつバイリンガル児の研究において重要であり、二言語を組み合わせることによって、バイリンガル児の語彙力を正確に評価できます(Pearson 2008)。
実験に参加した子ども92人の平均年齢は、4歳。全員が広東語と英語によるバイリンガル教育を行うプリスクールに平均8.87カ月間通っています。
家庭では広東語が話されていることなどを理由として、このプリスクールに通い始める前は英語にふれたことがありませんでした。
子どもたちが家庭での言語インプットの量から受ける影響を調べるため、家族の会話や家庭での日常的な活動におけるL1またはL2の使用状況について、親へのアンケート調査を実施しました。親は、それぞれの場面に対して1(英語の使用率100%)〜7(広東語の使用率100%)の数字を選び、使用言語と使用率について回答します。
データ収集方法としてのアンケート調査の利点・欠点については、これまで広く研究されていますので、議論の詳細はCarroll(2017)を参照してください。
言語の使用状況を調べる対象となった家庭活動は、次の通りです。
・夕食中に会話する | ・本を読み聞かせる | ・お話を聞かせる |
・単語ゲームで遊ぶ | ・家族と遊ぶ | ・友だちと遊ぶ |
インプットの量や種類の違いがL1・L2の語彙テスト結果とどのように関連しているのかを明らかにするため、親によるアンケート回答は、理解語彙、表出語彙、概念的語彙のテスト成績と合わせて分析されました。つまり、この研究チームは、家庭におけるL1・L2使用状況と子どもの語彙発達との相関関係の強さを算出したのです。
子どもたちは、プリスクールでも両方の言語にふれており、当然、このような教室でのインプットも言語発達に大きな役割を果たしていました。よって、算出においては、プリスクールでのインプット量(月数)、という変数の値を一定に保って統計的にコントロールすることで、家庭での言語使用が子どもの語彙習得に与える影響を調べられるようにしました。
家庭でL1とL2の両方を使うことは、語彙テストでの高成績と強い関連性がありました。前述の家庭活動における言語使用は、すべて高成績に関連していましたが、相互関係が特に強いものがいくつかありました。
例えば、広東語の理解語彙と表出語彙のテスト成績は、夕食を食べているときや家族と遊んでいるときに広東語が使用される量と最も関係していました。家族で体系化されていない遊びや会話をするときには、何も気にすることなく自然に第一言語が使用され、子どもの語彙を増やした可能性が高いと考えられます。
このことは、実験に参加した親子の88.7%は夕食中の広東語使用率が80%〜100%であった、というデータからもわかります。
一方、英語の理解語彙と表出語彙のテスト結果は、本を読み聞かせるときに使う言語と最も関係していました。読み聞かせやゲームなどの体系化された活動は、親やきょうだいにとって、熟達度が比較的低いほうの言語を安心して使うことができる機会になっている可能性があります。
読み聞かせのときに使う言語は、親の英語表現力が高いか低いか、ということだけではなく、本で使われている言語でかなり決まるからです。ほかの家庭活動と比べると、読み聞かせと単語ゲームのときには英語がより多く使われ、これらの活動における英語使用率が36%まで増えていた家族もいました。
この割合はそれほど高くないように感じるかもしれませんが、特に親の英語熟達度が低い家庭では、ほかの家庭活動よりも比較的高い英語使用率でした。この結果により、家庭で英語にふれることは、その量が限られている場合であっても幼い子どもの語彙発達に良い影響を与えることが示唆されています。
興味深いことに、この論文では、広東語で本を読み聞かせるときに英語を使う量が多いほど英語の理解語彙力が高かった、という結果が述べられました。本は広東語で書かれているものの、親が子どもに読み聞かせるときには、ところどころに英語を混ぜて使った可能性が最も高いと考えられます。
これは、二つの言語間で意味表現(語彙が表す概念的知識)を共有できることにより、L1での読み聞かせがL2の語彙発達に役立つ可能性を示しています(Hammer Carol Scheffner, Farkas George, and Maczuga Steve 2010)。
もちろん、インプットの量と種類だけが子どもの語彙発達に影響するわけではありません。例えば、家族の言語熟達度、その言語に対する考え方、文化的背景なども、子どもが言語を習得するスピードに影響します(Jia et al. 2014; Luo and Wiseman 2000)。
これらの要素が与える影響を理解することも重要ではあるものの、今回要約した論文(Cheung et al. 2019)では、インプットに焦点が当てられ、次のように結論づけられています。
“研究結果により、本を読み聞かせるときにL2のインプットが多いほどL2での命名課題(*)の成績が高かったことが明らかになった。プリスクールという教育環境でのL2インプットは子どものL2発達に重要な役割を果たすが、家庭でのL2使用もL2の語彙力を伸ばす要因の一つになる可能性がある。”
(*)命名課題:絵や写真が表す事物の名称を言わせる語彙テスト
子どもが学校で第二言語を学んでいる場合であっても、子どもが二つの言語を使用できるようになるまでの道のりを支えるうえで、家庭環境は重要な役割を果たす可能性があります。夕食を食べる時間や、家族とゲームで遊ぶ時間、本やお話を読み聞かせる時間を活用して、英語やほかの第二言語を家庭環境に取り入れて使ってみましょう。
インプットが多ければ多いほど、子どもの語彙が増える可能性が高まります。
■関連記事
Carroll, Susanne E. 2017. “Exposure and Input in Bilingual Development*.” Bilingualism: Language and Cognition 20 (1): 3–16.
https://doi.org/10.1017/S1366728915000863
Cheung, Shirley, Pui Fong Kan, Ellie Winicour, and Jerry Yang. 2019. “Effects of Home Language Input on the Vocabulary Knowledge of Sequential Bilingual Children.” Bilingualism: Language and Cognition 22 (5): 986–1004.
https://doi.org/10.1017/S1366728918000810
Hammer Carol Scheffner, Farkas George, and Maczuga Steve. 2010. “The Language and Literacy Development of Head Start Children: A Study Using the Family and Child Experiences Survey Database.” Language, Speech, and Hearing Services in Schools 41 (1): 70–83.
https://doi.org/10.1044/0161-1461(2009/08-0050)
Jia, Gisela, Jennifer Chen, HyeYoung Kim, Phoenix-Shan Chan, and Changmo Jeung. 2014. “Bilingual Lexical Skills of School-Age Children with Chinese and Korean Heritage Languages in the United States.” International Journal of Behavioral Development 38 (4): 350–58.
https://doi.org/10.1177/0165025414533224
Luo, Shiow-Huey, and Richard L. Wiseman. 2000. “Ethnic Language Maintenance among Chinese Immigrant Children in the United States.” International Journal of Intercultural Relations 24 (3): 307–24.
https://doi.org/10.1016/S0147-1767(00)00003-1
Pearson, Barbara Zurer. 2008. Raising a Bilingual Child. New York: Living Language.
Ramírez, Naja Ferjan, and Patricia K. Kuhl. 2020. “Early Second Language Learning through SparkLingTM: Scaling up a Language Intervention in Infant Education Centers.” Mind, Brain, and Education 14 (2): 94–103.
https://doi.org/10.1111/mbe.12232