日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。
2019.12.16
論文タイトル:
The Effect of Repetition on Imitation from Television during Infancy (2007)
テレビ映像の繰り返し視聴が乳幼児の動作模倣に与える効果(2007年)
著者:
Rachel Barr, Paul Muentener, Amaya Garcia, Melissa Fujimoto, and Verónica Chavèz
レイチェル・バー、ポール・ミュンテナー、アマヤ・ガルシア、メリッサ・フジモト、ベロニカ・チャベス
ジャーナル:Developmental Psychobiology 49(2), 196-207
アクセス:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/dev.20208
要約:ポール・ジェイコブス
翻訳:佐藤有里
生まれてから数年の乳幼児が見る映像はどのようなものが適切かということに関しては、さまざまに異なる意見が存在し、子どものために最善を尽くそうとする親を混乱させる場合があります。
このような混乱が生じる状況の中、0〜3歳の乳幼児が二次元の映像から学習することは難しい、という研究報告もいくつかあります(Kuhl, Tsao, and Liu 2003; Anderson and Pempek 2005; Barr 2010)。このような現象は「video deficit」または「transfer deficit」 と呼ばれており、幼い子どもが学習するには、映像や画面越しでは情報不足であると考えられています。
これは、知覚した情報を処理する力がまだ十分に発達していないからであり、乳幼児が意味情報を二次元の世界(画面上で視聴する映像)から三次元の世界(自分が存在する現実の世界)に移して当てはめて認識するためには、その情報(またはインプット)に対し、同じ情報源(例:同じ映像)で、ある一定回数、繰り返し接触する必要があります。
つまり、幼い子どもが画面上から現実世界へ情報を移転させるためには、映像を一度見ただけでは不十分なのです。
そこで、バー氏たち(2007)は、この仮説を検証するべく、同じ映像を繰り返し視聴させることで情報のインプット量を増やした乳幼児の学習効果を調べました。結果、わずか生後12カ月の乳幼児も二次元の映像から学び、三次元の世界に当てはめることができました。
この研究結果は、言語学習と直接的に関連していないものの、子どもが見たものを模倣する能力は映像から学べるかどうかを決定する指標の一つであることがわかります。観察したものを模倣することは、子どもの発達が進んでいることを示す重要な特徴であり、社会的なコミュニケーション能力にも繋がります(Grossmann 2015)。同研究は計3回に分けて調査が行われていますが、その研究結果を以下に要約します。
<調査>
第1回目の調査には、生後15カ月、18カ月、21カ月の乳幼児が合計108人参加し、月齢ごとに、対面で見て学習するグループと録画映像を見て学習するグループに分かれました。子どもたちは、おもちゃを使う動作を2種類見せられ、一つのおもちゃに対して3つの動作を順番に見せられます。
例えば、緑色のガラガラの場合は、1)ガラガラをプラスチック容器の中に押し入れる、2)ガラガラとプラスチック容器をそれぞれのマジックテープ部分でくっつける、3)ガラガラを振って音を鳴らす、という3つの動作を子どもに見せます。
対面で見て学習する子どもたちのグループは各動作を3回ずつ、映像を見て学習する子どもたちのグループは6回ずつ(対面で見て学習するグループの2倍の回数)見せられました。そして、24時間後に、前日に見せたおもちゃ二つを子どもの目の前に置き、映像で見た内容を模倣した動作を行うかどうかをテストしました。もし正しいおもちゃを手に取って動作を真似た場合は、その子どもが前日に見た内容を学習したことになります。
<結果>
映像で動作を6回見た子どもたち全員が、対面で動作を3回見た子どもたちと同程度に学習しました。テスト結果は月齢によって差があり、生後15カ月の子どもよりも生後18カ月の子どものほうが、生後18カ月の子どもよりも生後21カ月の子どものほうが模倣した動作の数が多いこともわかりました。
<調査>
生後21カ月の子どもがよく学習した要因が繰り返しの効果であることを確かめるため、生後21カ月の子ども12人を対象に第2回目の調査が行われました。
第1回目の調査とは異なり、おもちゃを使った動作を見る回数は、対面で見る子どもたちと録画映像を見る子どもたちの両グループとも同じ3回でした。
<結果>
生後21カ月の子どもたちのテスト遂行成績は、対面で見たグループと映像で見たグループで有意差があり、映像で見たグループのほうが低い成績でした。しかしながら、両グループとも、前日に何も見ていない基準グループの子どもたちよりも成績が優れていました。
これは、映像で見た子どもたちもある程度学習できたことを示しています。さらに、生後21カ月の子どもたちは、調査1Aよりも調査1Bのほうが低い成績でした。
よって、この研究論文の著者らは、調査1Aで生後21カ月の子どもたちが高い成績を出した要因は映像を繰り返し視聴したことの効果であり、年齢(月齢が高いこと)ではない、という考えを示しました。
<調査>
研究者らは、生後15カ月未満の子どもも映像から学ぶことができるかどうかを確かめるため、生後12カ月の子ども36人を対象に次の調査を行いました。調査1Aと同様に、対面で3回見るグループと映像で6回見るグループに分かれましたが、使用したおもちゃは異なります。
調査1Aや1Bでは、動物のおもちゃ2種類、ガラガラのおもちゃ2種類、計4種類のおもちゃが使われましたが、生後12カ月の乳幼児は、運動能力が限られていることによって動物のおもちゃを使った動作を十分にできないことがわかりました。ガラガラのおもちゃを使った動作は上手にできたため、調査1Cでは、このガラガラのおもちゃのみを使用しました。
<結果>
生後12カ月の子どもたちは、映像で6回見たグループの成績が対面で3回見たグループの成績と同等でした。これは、より低年齢の子どもであっても、適切なタスクであれば、映像からも学ぶことができることを示しています。この調査における適切なタスクは、子どもの年齢に適した動作でした。
もし身体的にその動作をすることができなければ、映像から学ぼうとする関心が低くなってしまうのです。
この研究結果では、生後12〜21カ月の子どもたちが対面でも映像でも同程度に学習できることがわかり、映像を見て学習することの難しさは、視聴の繰り返しによって克服できることを示唆しています。
この研究者らは、映像を6回見て情報に繰り返し接触したことが知覚情報の処理(情報を取り込んで記憶する過程)を促進させ、テストのときに情報を思い出して動作を模倣することに役立った、という見解を示しています。
繰り返し視聴することは、子どもが映像メディアによって学習する可能性を高める重要な要素として研究結果で認められていますが、学習効果を高める要素はほかにもあります。別の研究論文では、他者と一緒に映像を見ることや、他者が関わり合う様子を映像で見ることも、幼児の学習を促進させることが報告されています。
このバーら(2007)の研究においても、親たちは子どもの名前を呼びながら話しかけて注意を映像に向けさせるよう勧められていたため、親の関わりも子どもの情報処理を手助けした可能性があります。
大多数の親たちは、子どものためになるものを選びたいと強く願っていますが、このような関連情報を知ることができれば、どのような種類の映像をどのような方法で見れば学習効果が得られるかがわかります。
今回要約したバーら(2007)と同様に「繰り返し」の学習効果を検証した研究があり、乳幼児が映像を繰り返し視聴することが二次元の映像からの単語学習に役立ったことが報告されています。
詳しくは、「1歳半の乳幼児も映像を繰り返し見ることで単語を学習」 をご覧ください。
■関連記事
Anderson, Daniel R., and Tiffany A. Pempek. 2005. “Television and Very Young Children.” American Behavioral Scientist 48 (5): 505–22.
https://doi.org/10.1177/0002764204271506
Barr, Rachel. 2010. “Transfer of Learning between 2D and 3D Sources during Infancy: Informing Theory and Practice.” Developmental Review 30 (2): 128–54.
https://doi.org/10.1016/j.dr.2010.03.001
Barr, Rachel, Paul Muentener, Amaya Garcia, Melissa Fujimoto, and Verónica Chávez. 2007. “The Effect of Repetition on Imitation from Television during Infancy.” Developmental Psychobiology 49 (2): 196–207.
https://doi.org/10.1002/dev.20208
Grossmann, Tobias. 2015. “The Development of Social Brain Functions in Infancy.” Psychological Bulletin 141 (6): 1266–87.
https://doi.org/10.1037/bul0000002
Kuhl, Patricia K., Feng-Ming Tsao, and Huei-Mei Liu. 2003. “Foreign-Language Experience in Infancy: Effects of Short-Term Exposure and Social Interaction on Phonetic Learning.” Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 100 (15): 9096–9101.
https://doi.org/10.1073/pnas.1532872100