日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。
2023.03.07
2022年10月23日(日)、ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所は、小学校の担任教諭および英語専科教員を対象としたオンライン勉強会(計2時間/参加費:無料)を開催しました。
本勉強会は、2021年より社会貢献活動の一環として開催しています。第4回目となる今回のテーマは、現場の先生方から寄せられる悩みとして多い、「英語が苦手な子どもにどのように発話させるか」。
佐藤 久美子名誉教授(玉川大学大学院)による講演に加え、現役の小学校教員による授業実践の紹介、参加者によるグループ・ディスカッションを行いました。
全国の先生方にご参加いただいた勉強会の概要を紹介します。
【目次】
講師:佐藤 久美子氏(玉川大学大学院 教育学研究科 名誉教授)
学習状況の評価は、「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力」、「主体的に学習に取り組む態度」という3つの観点で行われることになっています(国立教育政策研究所, 2020)。
しかし、多数の小学校教員に研修をしてきた佐藤教授によると、「知識・技能」の評価の割合が多くなってしまうことが課題です。
そこで、小学校での実践例や授業動画とともに、「思考力・判断力・表現力」と「主体的に学習に取り組む態度」にどのような評価基準を設定するか、児童のどのような発話や態度を見て評価するか、どのような単元づくりをすれば評価できるか、といった点が解説されました。
先生方が困っていること
・さまざまなレベルの児童を一斉に教えるときに、どこに照準を合わせる?
・すべての児童に同じ課題を与えると、英語が得意な子どもは物足りない。
・発音ややり取りの内容を覚えきれず、誰かの助けやヒントが必要な児童もいる。
・担当教員の主観に頼らず、客観性を保って評価する方法は?
・どのような点に注意して形成的評価と総括的評価をすればいい?
・主体性を効率良く見取る方法は?
・1単元の授業内で十分に練習やパフォーマンステストの時間を取れない
・市販のテストだと、ほぼ全員ができてしまって評価に差をつけられない。
解決のポイント(概要)
・児童に到達してほしい「最低限の目標」を明確にして、「評価の基準」を各学年で設定する。例えば、最低限の目標に到達していればB評価、それ以上の「+@」ができていればA評価とすることができる。
・「思考力・判断力・表現力」と「主体的に学習に取り組む態度」も評価基準を見える化することで、「知識・技能」(正しさ)に偏らない評価にする。
・「思考力・判断力・表現力」は、考えや気持ちを伝え合う「言語活動」で評価する。思考・判断・表現を引き出すためには、ゴールイメージ、身近なトピック、友だちとの協学・共学、必然的な場面、自由度の高さがある言語活動が大切。
・言語活動を中心とした授業は、単元の最後だけではなく毎回行う。発話の機会を増やし、指導の過程で何度も評価する「形成的評価」が可能になり、英語が苦手な子どもの主体性も見取ることができる。
「知識・技能」A、B、C評価の基準(例)
「思考力・判断力・表現力」A、B、C評価の基準(例)
「主体的に学習に取り組む態度」A、B、C評価の基準(例)
発表者:島村 雄次郎氏(東京都立川市 第七小学校 校長)
島村教諭によると、小学校では、英語ができる子、できない子がはっきり分かれるとのこと。授業案通りに言語活動を行ったとしても、何も英語を発さない児童がいることから、英語が苦手な子どもたちを引き上げるための授業実践について紹介されました。
この実践のポイントは、子どもたちが好きな絵本を活用して、言語活動に必要とされる場面設定をすること。
英語が苦手な子どもにも、絵本の親しみやすさや視覚情報によって英語を理解させ、「話したい」という状況をつくることができる、ということです。
英語を何度もアウトプットさせることができれば、楽にアウトプットできるようになり、絶えず英語に接していたいという気持ちを抱かせることができる。小学校英語教育の目標とされている「英語に慣れ親しむ」をどの子どもも達成できるようにするための取り組みです。
絵本を活用して場面設定をする授業の流れ
絵本の内容やそれに関連する体験や考え・気持ちについてやり取りをすることで、絵本の読み聞かせ、言語活動、評価を同時にすることもできる。
絵本の出典:オックスフォード大学出版局(株)
絵本の内容に関連した言語活動(発表・やり取り)の例
実験授業の結果
・通常の教科書を使った授業よりも、児童の理解度が高いことがわかった。
・日本語を使わなくても、絵本の視覚情報によって英語の意味を推測させることできる。
発表者:福江 由紀子氏(東京都中央区 城東小学校 副校長)
福江教諭からは、英語が苦手な子どもやあまり発話しない子どもも指導してきた経験から、「発話量の確保」を意識した授業実践について共有されました。
実践校は、平成26年度より中央区国際教育パイロット校、平成28年度より文科省教育課程特例校に指定された常盤小学校(東京都中央区)。英語の授業は、1〜2年生が週2時間、3年生以上が週3時間です。
児童の発話量を増やすために、一人ひとりの学習状況の把握、英語が得意な子も苦手な子も活躍できる場面づくり、英語の意味を推測できるようになる指導の工夫が低学年から実施されてきました。
<意味の推測を経験させる方法の例>
・絵カード
「月曜日は、全校朝会がある」=Monday、「水曜日は、スクールバスがお休み」=Wednesdayというように、子どもたちがすでに持っている曜日のイメージを表す絵やイラストによって英語の意味と音声、文字を結びつける。
そして、高学年の課題は、低学年のときのように英語を声に出そうとしなくなること。そこで、発話させる場面をつくるときに大切なポイント、学習状況の見取り方、高学年に効果的なほめ方などが紹介されました。
福江教諭は、これらの授業課題や指導の工夫について「どの教科にも共通する」という点を強調。英語が得意ではない先生も、ほかの教科を教えてきた経験や担任としての児童理解を活かして、子どもたちの発話量を増やす英語授業を実践できることがわかりました。
また、副校長である福江教諭が自ら全校朝会や校内の挨拶で英語を使うなど、教室だけではなく学校生活全般で英語の意味を推測したり英語を使ったりする経験を増やすことの効果も共有されました。
今回は、初の試みとして、現役の小学校教員2名による授業実践の紹介を加えて勉強会を開催。また、参加者によるグループ・ディスカッションの時間も大幅に増やしました。
これまでの勉強会開催を通じて、「ほかの先生たちとのコミュニケーションの場がほしい」と感じている先生方が多いことがわかったからです。
開催の結果、学術的な知見を提供するだけの一方向のコミュニケーションだけではなく、研究者と教師および教師同士が学び合う双方向のコミュニケーションも、現場の先生方の「明日からやってみよう!」という授業改善に重要であることがわかりました。
英語が苦手だと感じている子どもたちに「話す力」をいかに身につけさせるか、という悩みは多くの先生方が抱えています。
佐藤教授によると、知識・技能の「正確さ」だけではなく「自分の考えや気持ちを伝えられるか」を大切にした指導と評価が大切です。
単元の計画、言語活動の工夫、評価、動機づけ、視覚支援、ICT活用、児童のほめ方、学校全体での環境づくりなど、さまざまな観点からアイデアが今回共有されましたが、地域や学校、児童、教師の経験などによって、実践しやすさや課題が異なることも伺えました。
一方的な研修だけではなく、現場の先生方が授業実践を共有して学び合う機会をつくることは、英語嫌いの子どもたちをなくすために重要な取り組みの一つだと考えられます。
【過去のIBS主催勉強会テーマ】
2021年3月28日 「4月からの英語授業 こうやってみよう!」
2021年9月26日 「小学生アンケート結果をベースにした英語授業の進め方」
2022年4月8日 「英語で自分の考えを伝える力を引き出す指導法」
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【開催協力】
■佐藤 久美子氏(玉川大学 大学院教育学研究科 名誉教授)
<プロフィール>
専門は、子どもの言語獲得・発達(日本語+英語)、英語学、英語教育。研究から得られた科学的知見を外国語としての英語教育に応用し、指導法や教材開発を行う。玉川大学・大学院に長年勤務し、小・中・高校の教員を多数輩出。2016年の3月までNHKラジオの「基礎英語3」の講師を通算8年務め、テキスト執筆や番組のプログラムに知見を活かす。さらに、2012年度からNHK eテレの『えいごであそぼ』、『えいごであそぼwith Orton』の総合指導、2017年からNHK eテレ『エイゴビート』の番組委員を担当。現在、全国の小学校や教育委員会で研修・講演、教材作成を多数行っている。
■島村 雄次郎氏(東京都立川市 第七小学校 校長)
<プロフィール>
東京都の小学校で15年間教員を務め、玉川大学教職大学院にて英語教育(主に、絵本を活用した指導)について研究。東京都教育委員会 英語担当、小笠原村立小笠原小学校 副校長、立川市立西砂小学校 副校長を経て、現職。また、東京都小学校英語教育研究会 副会長を務める。授業観察、教員への個別指導、ICTを活用した教材開発などを通じて教員の授業力向上に取り組む。
■福江 由紀子氏(東京都中央区 城東小学校 副校長)
<プロフィール>
東京都中央区立常盤小学校が平成26年度に中央区国際教育パイロット校に指定された当初から、同校での研究プロジェクトの立ち上げに携わり、2022年4月より現職など。常盤小学校では、担任教員、英語専科教員、副校長として、児童への英語指導のほか、全学年全時間のレッスンプラン作成、研究授業、教員実技研修を行ってきた。 2022年1月には、全国小学校英語教育研究会東京大会にて研究成果を発表。
国立教育政策研究所(2020). 「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料:小学校 外国語・外国語活動. https://www.nier.go.jp/kaihatsu/pdf/hyouka/r020326_pri_gaikokg.pdf