日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。
2020.11.02
ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所の所長であり、脳神経外科医・発達脳科学研究者/ドイツ・ハノーバー国際神経科学研究所(INI)脳神経外科 名誉教授として数々の論文や著作を発表してきている大井静雄先生のコラムです。
現在子育て中の方をはじめ、早期英語(あるいはバイリンガルやマルチリンガル)教育に関心をお持ちの方や、不安を感じている方に向け、発達脳科学の広く深い知見に基づく内容を10回シリーズでお届けします。
当研究所では、「科学的実証に基づくバイリンガル育成~『幼児期からの早期英語教育』をテーマとして~」というモットーを掲げています。私自身、長年にわたる発達脳の言語機能の発達の研究からも、早期英語教育が脳の発達に良い影響を与えることを実感し、その実践方法の研究を重ねてきました。
一方で、早期から英語教育(あるいはバイリンガル教育)を受けることで、母語(日本語)の発達の妨げになるのではないかという議論は、21世紀になって久しい現在でも、一部で続いています。
でも私は皆さんに、ぜひ安心して早期からの英語教育を実践してもらいたいと思います。乳幼児期にさまざまな体験をすることは、子どもの「脳神経(ニューロン)」を伸ばす素地をつくるのに、大変役に立ち、成人になっても好きなことに関する神経回路が衰えない脳が育ちます。
日本という日本語が常用語社会の中で、それがもう一つ英語という「言語」の体験であれば、「言語のニューロン」の発達に大変良い影響を与えるといえるのです。
私が「3歳」とお伝えするのには理由があります。
赤ちゃんは生まれたときから140億個ものニューロンを持っています。これらのニューロンはそれぞれ異なる機能を持っているのですが、最初はバラバラでネットワークを作っていません。それをシナプスという中継地を介して神経と神経をつなぎながら、ネットワークをつくっていきます。
そして、3歳までの脳細胞には、あらゆる可能性に対応できるように、使われる量より多いニューロンやシナプスが存在していることもわかっています。すなわち、赤ちゃんが環境(パパ・ママからの声がけはもちろん、さまざまな環境)からの働きかけや、環境への働きかけに応じて、いかようにも成長できる可能性があるということ。
どのような環境を用意できるかは、3歳までの子どもの興味がどのようなものに向けられるかということで、その子の「ニューロン」の発達と成長に大きな影響を与える大きな関心ごとといえます。
そのなかでも多くの子どもたちにとって0歳から3歳までというのは、まさに言語が理解できるようになっていくとても重要な期間です。
私自身もこれまでにさまざまな著作や研究論文で言語の発達について示してきましたが、一般的には「デンバーII(発達判定法)」が有名でしょうか。未就学児向けの健診などでも活用されている言語発達の目安となるもので、参照していただくとわかるように、多くのお子さんが2歳までに2語文を理解し話し始めるようになっていくとされています。
※「DENVER II-発達判定法-」をもとに作成
※「DENVER II」はFrankenburg 博士(米国・コネチカット州)らによって開発された乳児期から6歳までの発達判定法の改訂版。日本では日本小児保健協会が2003年9月に日本人乳幼児の標準化を完了し、「DENVER II-発達判定法-」として発表
年齢別に見ていくと、0歳の間に子どもは視覚・聴覚からどんどん情報を得ていき、1歳前後で「ママ」「パパ」「ブーブー」といった単語を発し始めるようになります。なかには早い時期から「ちょうだい」「ごちそうさま」などを真似た言葉を発するようになる子もいます。いずれの場合も、パパ・ママや周りにいる人たちの「真似」をすることで、できるようになっていくのです。
こうして脳の中に単語をどんどん記録し、その積み重ねで1歳半ごろから「ママ、きた」「パパ、バイバイ」などの2語文の理解が高まり、2歳代には「これ、ちょうだい」「これ、あげる」など話せる言葉もどんどん増えます。
そして3歳ごろになると、自分の名前を呼ばれると「はーい」など返事をするようになり、3語文を理解し、自らも話すようになっていきます。
実は記憶をつかさどる脳の組織、「海馬」が発達するのも3歳前後であり、相当な勢いで得た知識を海馬にどんどんとため込んでいるのです。さらにそこから、それを思考に使う回路を作り上げていくのが、3歳くらいからのお子さんの脳の状態です。
それゆえに、この「海馬」の成長期にどのような経験をしたかは、とても重要なのです。
脳の段階的な言葉の発達を考えると、日本語を母語とするお子さんが、英語でも体験しようとすること、つまりニューロンのネットワークの拡大時期に、英語の体験をするということは、母語の習得の妨げになるのではなく、むしろ、日本語と英語の両方の脳のネットワークを作るうえで最も適した行動であると言えます。
3歳になると、英語と日本語を聞き分ける能力も芽生え始め、英語で話されたら英語で話すというような脳の回路ができてくるのですが、例えるなら「線路が2つできる」ということです。言語という大きなターミナル駅があって、そこから日本語、英語2つの路線ができるイメージですね。
もちろんこれは言語に限ったことではなく、スポーツでも算数でも科学でも同じなのですが、3歳までにニューロン発達の素地をつくること、そのための環境を用意してあげることは、その後の才能を開花させるためにもとても重要なのです。
その環境なしには、言語の発達も見込めません。
そのために、英語を聞いたり、それを真似したりする環境に子どもを置いてあげないと、そのニューロンは芽生えません。
そこでもうひとつ重要なことは、その英語の環境が、子どもたちがウキウキするほどに楽しいものであれば申し分ありません。私が長年主張してきましたが、「ことばの発達には楽しい、うれしいという“プラスの感性”を育むことが大切」ということなのです。
「子どもの興味をひきつけるようなキャラクターと英語で遊びながら・・・」という工夫は、この発達脳科学の理論に基づくものです。
次回は、子どもの興味を高める環境づくりについて、お話いたします。
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