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2020.06.03

子どもは慣れ親しんだキャラクターの映像から学びやすい

子どもは慣れ親しんだキャラクターの映像から学びやすい

論文タイトル:

Toddlers’ Learning From Socially Meaningful Video Characters (2011)

幼児の映像学習における社会的意味のあるキャラクターの効果

 

著者:

Alexis R. Lauricella, Alice Ann Howard Gola, and Sandra L. Calvert

ジャーナル:Media Psychology; 14: 216-232

アクセス: https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/15213269.2011.573465

 

要約:Paul Jacobs

翻訳:佐藤有里

 

画像素材:PIXTA


まとめ

・慣れ親しんだキャラクターの映像は、幼児の学習を手助けする。

・ものを順序づけて並べる学習では、キャラクター映像が子どもの関心と学習動機、学習効果を高める。

・映像を繰り返し見ることで、キャラクターとの間に情緒的なつながりを感じられるようになる。

 

はじめに

「パラソーシャル関係」とは?

テレビ画面に好きなキャラクターが登場したときの子どもの様子を見たことはありますか?男の子でも女の子でも集中力や表情、態度が変わることに気づいたのではないでしょうか。

その様子は、まるで画面上のキャラクターとの間に現実世界の人間と同じような関係性がつくられているようです。子どもの発達に関する研究分野では、「パラソーシャル関係」(他者との擬似的な関係)と呼ばれていて、画面上のキャラクターと気持ちがつながっているように感じる一方的な関係性、と定義されています(Horton and Wohl 1956)。

大人であっても、好きなアーティストのことを自分の友人のように感じることがありますね。3歳未満の子どもは映像から学習することが難しいと言われています(Anderson and Pempek 2005; Kuhl, Tsao, and Liu 2003)が、このパラソーシャル関係は、映像学習における困難を克服する方法の一つかもしれません。

子どもが画面上のキャラクターとの間に擬似的な関係性を築くと、そのキャラクターは子どもにとって意味のある他者となり、その他者から学習することができるのです(Lauricella, Gola, and Calvert 2011; Calvert, Richards, and Kent 2014; Gola et al. 2013)。学校の生徒が好きな先生の授業では学習内容に興味をもちやすいことと同じようなことです。

今回紹介する研究は、2歳未満の子どもが自分との関わりを感じられる(社会的意味がある)キャラクターの映像から系列化課題の学習ができるかどうかを調べたものです。

系列化課題とは、事物を大きさなどの違いによって順序づける(系列化)能力を測る作業です。このような能力の発達が進んでいくと、より複雑な数学的概念を理解できるようになり、一つひとつの語を正しい順序で並べて文章をつくる言語能力にもつながります。

言語学習と同じように、見たものをただ真似すること(Barr et al. 2007)と比べると、系列化は多くの認知資源(注意などの認知的な労力)が必要となり、とても難しい作業です。

この研究はアメリカで行われ、子どもに系列化を教えるキャラクターは、エルモ(Elmo)とドド(Dodo)の2種類が用意されました。エルモは、アメリカの子どもたちのほとんどがテレビ番組「セサミストリート」で慣れ親しんでいるため、子どもにとって関わりのある(社会的意味がある)キャラクターとして選ばれました。

一方、台湾の子どもたちに人気のドドは、アメリカの子どもたちの多くは比較的見慣れていないため、子どもにとって関わりの少ない(社会的意味が少ない)キャラクターとして選ばれました。

そして、以下の二つの仮説が立てられました。

 

仮説1:社会的意味のあるキャラクター(エルモ)は、子どもが笑ったりキャラクターの名前を読んだりするような反応を引き出し、学習動機につながる。

仮説2:社会的意味のあるキャラクター(エルモ)から学んだ子どものほうがカップを正しい順番に積み重ねることができる。

 

実験内容

ものを系統立てて順序づける学習

この研究には、生後21カ月の幼児48人が参加し、3グループに分かれました。

1グループ目は、社会的意味のあるキャラクター(エルモ)がカップを順番に積み重ねる様子を映像で見ます。

2グループ目は、社会的意味の少ないキャラクター(ドド)が同じ作業をする映像を見ます。

3グループ目は、どちらの映像も見ません。

各映像では、キャラクターがフレンドリーで興味を引きつけるような話し方で画面越しの子どもに語りかけながら、大きさの異なる5つのカップを小さいものから順番に積み重ねていきます。子どもたちは、この映像を見たあとに同じ5つのカップが目の前に置かれ、キャラクターと同じように積み重ねることができるかどうか2分間観察されます。

映像を見なかった3グループ目の子どもたちも、このテストに参加しました。研究チームは、映像を見ているときの子どもの視線を記録し、カップが積み重ねられた順序の正確性を評価しました。

 

結果

実験結果を分析したところ、前述の二つの仮説が正しいことがわかりました。

仮説1について:

社会的意味のある映像(エルモ)を見た子どもたちは、もう一つの映像(ドド)を見た子どもたちよりも、笑ったりキャラクターの名前を読んだりする反応が多かった。

仮説2について:

エルモの映像を見た子どもたちは、社会的意味の少ない映像(ドド)を見た子どもたちよりも、かなり正確にカップを積み重ねることができた。さらには、ドドの映像を見た子どもたちの正確性は、まったく映像を見なかった子どもたちを上回らなかった。

 

考察

パラソーシャル関係が映像学習に役立つ

この研究結果は、3歳未満の子どもが画面上のキャラクターに対して心のつながりを感じることができ、このパラソーシャル関係が映像からの学習を妨げる可能性のある障壁を乗り越えるために役立つことを示しています。

ミッキーマウス、おさるのジョージ、ビッグ・バード、しまじろうなど、子どもがパラソーシャル関係を築くことができる有名なキャラクターはたくさんあります。この研究では、子どもたちが実験前からエルモとの擬似的なつながりを感じていたことにより、エルモが社会的意味のあるキャラクターとなり、学習につながっていました。

つまり、キャラクターに対して自分との関わりを感じることができれば、そのキャラクターから学習する内容にも関わりを感じることができる、ということです。

このようなキャラクターとのパラソーシャル関係は、映像を一度見ただけででき上がるものではありません。現実世界の人間関係と同じで、キャラクターとのつながりを感じるようになるまでには時間がかかります。

キャラクターが登場する映像を繰り返し見ることは、そのキャラクターとの関係性に影響する可能性があります(Barr et al. 2007; Krcmar 2014)。子どもがキャラクターとのつながりを感じるようになれば、この関係性を映像から学習する際の動機づけに役立てることができます。

この研究では、エルモの映像を見た子どもたちがほかのグループよりも多くの笑顔を見せ、映像に視線を合わせる時間も長いという結果が出ましたが、これらは学習動機が高まっている、そして、キャラクターとのパラソーシャル関係が築かれている、ということです。乳幼児が笑うことは、興味が強まっていることのサインであり、学習能力の向上につながると考えられています(Redding, Morgan, and Harmon 1988)。

キャラクターとのパラソーシャル関係には、幼児が映像の情報を処理する際の認知的な負荷を減らし、学習しやすくする、という働きもあります。ある研究結果によると、幼い子どもは、見慣れないキャラクターが登場する教育映像を初めて見るとき、学習する内容そのものではなく、まずキャラクターが何者であるか、信頼できる相手であるかどうかということに焦点を当てます。

一度キャラクターに慣れ親しめば、そのキャラクターが教えようとしていることに注意を向けるようになることが示唆されたのです(Fisch 2000)。

今回紹介した研究により、幼い子どもの映像学習においては、特定のキャラクターとの擬似的な関係が学習への動機づけに役立つことがわかります。

 

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参考文献

Anderson, Daniel R., and Tiffany A. Pempek. 2005. “Television and Very Young Children.” American Behavioral Scientist 48 (5): 505–22.

https://doi.org/10.1177/0002764204271506

 

Barr, Rachel, Paul Muentener, Amaya Garcia, Melissa Fujimoto, and Verónica Chávez. 2007. “The Effect of Repetition on Imitation from Television during Infancy.” Developmental Psychobiology 49 (2): 196–207.

https://doi.org/10.1002/dev.20208

 

Calvert, Sandra L., Melissa N. Richards, and Courtney C. Kent. 2014. “Personalized Interactive Characters for Toddlers’ Learning of Seriation from a Video Presentation.” Journal of Applied Developmental Psychology 35 (3): 148–55.

https://doi.org/10.1016/j.appdev.2014.03.004

 

Fisch, Shalom M. 2000. “A Capacity Model of Children’s Comprehension of Educational Content on Television.” Media Psychology 2 (1): 63–91.

https://doi.org/10.1207/S1532785XMEP0201_4

 

Gola, Alice Ann Howard, Melissa N. Richards, Alexis R. Lauricella, and Sandra L. Calvert. 2013. “Building Meaningful Parasocial Relationships Between Toddlers and Media Characters to Teach Early Mathematical Skills.” Media Psychology 16 (4): 390–411.

https://doi.org/10.1080/15213269.2013.783774

 

Horton, Donald, and R. Richard Wohl. 1956. “Mass Communication and Para-Social Interaction.” Psychiatry 19 (3): 215–29.

https://doi.org/10.1080/00332747.1956.11023049

 

Krcmar, Marina. 2014. “Can Infants and Toddlers Learn Words from Repeat Exposure to an Infant Directed DVD?” Journal of Broadcasting & Electronic Media 58 (2): 196–214.

https://doi.org/10.1080/08838151.2014.906429

 

Kuhl, Patricia K., Feng-Ming Tsao, and Huei-Mei Liu. 2003. “Foreign-Language Experience in Infancy: Effects of Short-Term Exposure  and Social Interaction on Phonetic Learning.” Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 100 (15): 9096–9101.

https://doi.org/10.1073/pnas.1532872100

 

Lauricella, Alexis R., Alice Ann Howard Gola, and Sandra L. Calvert. 2011. “Toddlers’ Learning From Socially Meaningful Video Characters.” Media Psychology 14 (2): 216–32.

https://doi.org/10.1080/15213269.2011.573465

 

Redding, Richard E., George A. Morgan, and Robert J. Harmon. 1988. “Mastery Motivation in Infants and Toddlers: Is It Greatest When Tasks Are Moderately Challenging?” Infant Behavior and Development 11 (4): 419–30.

https://doi.org/10.1016/0163-6383(88)90003-3

 

 

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