日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。
2026.02.17
内原 卓海 准教授(東北大学)へのインタビュー記事 後編です。後編では、スピーキングやリスニングで使えるようになるための単語の教え方や学び方についてご紹介します。
―研究に取り組む中で、日本の英語教育にはどのような課題があると感じていますか?
最大の課題は、語彙が暗記の対象になっていることです。暗記することはもちろん良いのですが、暗記だけになってしまっているのではないかと思います。
単語を覚えるのは、単語博士や単語マニアになるためではありませんよね。
語彙は、単なる知識というよりも「スキル」であり、歴史の年号を覚えるのとは違うという視点を、学習者も教師も持っておく必要があると思っています。
―語彙は「スキル」という意識が大切ですね。リスニングやスピーキングに役立つ語彙スキルを身につける方法として、どのような学び方・教え方がありますか?
まずは音声を聞くことです。
テクノロジーが発達して、以前よりも簡単にパソコンやスマートフォンで音声を聞くことができるようになりましたよね。
でも、いくら便利なテクノロジーや教材があっても、それを活用して音声を聞くように働きかけたり仕向けたりする必要はありますので、先生たちの役割は大切です。
―音声を聞くように生徒たちに働きかけるには、どのような方法があるでしょうか?
私の研究(Uchihara, 2023)では、単語テストの形式を変えるだけでも効果があることがわかりました。
英語の授業で単語のテストを毎週するのですが、音声形式でテストを受ける生徒たちと筆記形式のテストを受ける生徒たちに分けました。
音声形式のテストでは、先生が発音した単語を聞いて、その意味を日本語で書きます。筆記形式のテストでは、単語のスペルを見て、その意味を日本語で書きます。
生徒たちは、毎週のテスト形式は事前に伝えられますが、その勉強方法については何も言われません。
―生徒たちにはどのような変化が見られましたか?
授業外でどのような学び方をしていたかを調べるために、実験後にアンケート調査をしました。
すると、音声形式でテストを受けるグループは、音声を聞いたり発音したりして練習した生徒たちが多いことがわかりました。
逆に、筆記形式でテストを受けるグループは読んだり書いたりして勉強する傾向がありました。
―テストの形式を変えたら、生徒たちの学び方が変わったのですね。単語の学習効果はどうたったのでしょうか?
実験の前後には、単語テストを音声形式と筆記形式の両方で受けてもらいました。
その結果、音声形式のテストのスコアは、毎週の単語テストを音声形式で受けていた生徒たちのほうが伸びました。でも、筆記形式のテストのスコアは、グループ間で差が出ませんでした。
「音声を聞く」という学び方ばかりをしていたら、音声を聞いて意味がわかる力が伸びたとしても、文字を見て意味がわかる力が落ちるのではないか、と思うかもしれませんが、そうではなかったんです。
―なぜ、そのような学習効果が出たのでしょうか?
音声を聞いて学ぼうとするときには必ず文字にも触れるからだと考えられます。
例えば、インターネットで発音を調べたりYouTubeで発音を聞いたりするためには、スペルを入力しないといけませんよね。つまり、音声と文字の両方に注意が向けられるということです。
音声形式のテストは、生徒が回答を書くための紙だけを用意すればよいので、先生の労力を減らすという観点でも、音声に目を向けさせる工夫の一つとして良いと思います。
―単語の意味について学ぶとき、最初から日本語訳をしっかりと覚えるべきか、それとも、まずは大まかな理解でよいか迷う人もいると思います。先生はどのように考えていらっしゃいますか?
日本語訳を覚えることは良いと思いますが、少しずつ段階を踏んで覚えていく、という意識が大切です。
ですから、すぐに日本語訳を覚えられたらOK、覚えられなかったら0点ということではなく、0.5点とか0.75点でも良いわけです。
単語帳の使い方として、短い期間で同じ単語に繰り返したくさん触れる、という方法がありますが、私も賛成です。
例えば、1周目はさっと一通り目を通して「見たことがある」、2周目は「こんなイメージの意味だな」、3周目は日本語訳が頭に入る、という感じですね。
―「段階的に覚えていく」というふうにするためには、授業の中ではどのような工夫ができるでしょうか?
語彙学習の一番の近道は、同じ単語をいろいろなシチュエーションやモード(音声・筆記)で繰り返し出会う環境をつくることだと思います。
「分散学習」と呼ばれているのですが、教科書に出てくる、授業中に先生やクラスメートが使う、というふうに、時間をおいて繰り返し見たり聞いたりできるような環境作りも大切だと思います。
ただ、このことを意識したカリキュラムや授業プランをどうつくるかは課題だと思います。
また、以前学んだことが次の学習に活かされるような構成になっている教材はまだ少ないと思いますし、世界的に使われている教材を分析した研究でもそのように言われています。
―教材開発も課題の一つですね。
そうですね。「覚える単語」になっているものの中には、日常生活で触れる頻度が低い単語もたくさんあります。
ですから、そういう単語に何度も出会うような構成で教材をつくることは、実際にはなかなか難しいのかもしれません。
ただ、AI技術の発達によって、この課題の活路を見出すことができるのではないかと思うことがあります。
例えば、生徒たちが覚えた単語を使って何通りもの文をつくらせたり、その文を読み上げてもらったりできますよね。
―先生の研究でわかったこととして、文脈の中で素早く単語の意味にアクセスできる力が大切、というお話もありました。このような語彙スキルは、どのように伸ばすことができると思われますか?
覚えた単語を使わなければいけないようなタスクを準備するのは一つの方法だと思います。
TBLT(Task-Based Language Teaching/タスクに基づいた言語指導)(※1)と呼ばれていますが、タスクに取り組むためのコミュニケーションの中でその単語を読み書きする、自分が使って話す、ほかの人が使って話しているのを聞く、という状況を意図的につくるんです。
また、「”take care of〜”はよく使われるフレーズですよ」というふうに、コロケーションに注意が向くようにすることも大切だと思います。学習者は、単語単体の意味を知っていたとしても、どの単語と一緒によく使われるかは気づきにくいからです。
―スピーキングではコロケーションの知識が特に大切、というお話がありましたが、文脈と一緒に教えるということですね。単語を音声で覚えていることも重要だというお話もありましたが、音声を聞かせること以外にどのような指導ができますか?
例えば、”take care of”の “of”は機能語(※2)なので、センテンスの中では母音のoが弱く発音される傾向にあります。
このように、単語をフレーズやセンテンスの中で言うときにはリエゾン(前後の単語の音から影響を受けて発音が変化する)が起こることについて、語彙が使われる文脈やコロケーションと同時に教えることができます。
そうすれば、実際にtake care of〜を聞いたりしたときに「そういえば、先生がofはあまり強く発音されないって言っていたな」と生徒自身が気づけますよね。
語彙を包括的に教えるアプローチによって、生徒自身がリスニングやスピーキングで求められる知識に近づけていけるのではないかと考えています。
―単語単体の意味だけではなく、どのような場面で使うか、どのようなフレーズやセンテンスの中で使われるか、どのように発音されるか、ということを同時に教えるのですね。先生がもし生徒であれば、授業外でどのような学び方をしますか?
やはり、単語の意味だけではなくフレーズで覚えると思います。
単語単体よりもフレーズのほうで覚えている人は多いですが、それは実際によく使われているからです。
「使えるフレーズ」を覚えることができれば、あとは自分で「使える状況」をつくって繰り返し練習してみたり、そのフレーズが使われている文章を探して聞いたり読んだりすることができます。
「あ、単語帳で覚えた単語だな」と思いながら文の中で理解したり使ったりする、ということを繰り返す中で、「この単語は受動態で使われることが多いんだな」と文法に気づくこともあります。
個人的にも、まずは単語をここまで覚えないとリーディグやリスニングはやらない、という方法ではなく、文脈やコロケーション、音声、文法などを同時に学ぶような包括的なアプローチが好きです。
―英語の先生や学習者のみなさんへメッセージやアドバイスがありましたら、ぜひお願いいたします。
1) できることから始める
「できることから始めましょう」ということはいつも伝えるようにしています。
先ほど、単語のテスト形式を変えるだけでも効果があるか、というテーマの研究についてお話ししましたが、これはまさに「実現可能性(feasibility)」を意識した研究です。
どんなに効果があったとしても、先生にとって準備が大変すぎるような方法だと実現できませんから、研究者はその点を考える必要があると思っています。
2) 「絶対に役立つ」と信じて取り組む
新しい方法を取り入れて何かができるようになるためには、「これは絶対に役立つはずだ」と確信を持って取り組むことが大切だと思っています。
例えば、「このカリスマ教師がそう言うなら絶対そうなんだ」と信じて、自ら没頭して取り組んでいたら効果が出た、ということはやはりありますよね。
最近の学生たちの場合は、昔よりも合理的な思考になったような気がするので、「研究ではこういうことが言われている」と研究に基づいた提案であることを伝えれば、新しいことに取り組むきっかけになるのではないかと考えています。
3) 持続的に取り組む
研究で「効果がある」とわかった方法であっても、1週間だけ取り組んでみたところでその効果は出ません。そんなに短期間で効果が出るのであれば、研究をするまでもなく、みなさんが経験を通じてわかっていることだと思います。
また、研究で統計的に意味のある差が出たとしても、効果量が小さいということがあります。長い期間継続することで、やっと目に見える形で効果が出てくる、ということもあると思います。
ですから、「続ける」ということが大切です。
4) 自分に合わせてカスタマイズする
自分が置かれている状況や環境を一番よく知っているのは自分自身です。
研究者が「この方法は良い」と言ったとしても、それを鵜呑みにせず、自分の文脈に合わせてカスタマイズするようにしてほしいです。
―ありがとうございます。最後に、いま特に関心を持っていらっしゃる研究テーマや研究活動について教えてください。
引き続き、「使える語彙とはどのような知識なのか」というテーマで研究を深めていきたいと思います。
そもそも「使える語彙の知識」なんてものはあるのか、あるとすれば、その知識は頭の中でどのように表されているのか、その知識はどのように習得されているのか、その知識はどのように教えて評価することができるのか、ということですね。
これまでにLJT(Lexicosemantic Judgment Task/語彙意味性判断課題)というテストを開発しました(Uchihara et al., 2025)が、それで終わりにするのではなく、もっと基礎研究を進めていきたいです。
―単語学習は、英語の先生や生徒たちにとってとても気になるテーマだと思いますから、今後の研究がどう発展するか楽しみですね。
もし語彙が英語学習の根底なのであれば、語彙の教え方や学び方を変えれば英語教育全体を変えられると思うんです。
今後も「語彙学習から英語教育を変革する」というテーマで取り組んでいきたいです。
今回は、単語学習の本質について深く考えることができるインタビューとなりました。
英語を学んでいる人の多くは、「単語をたくさん覚えたのに、英語を聞いたり話したりするときに使えない」と悩んでいます。英検やTOEICでリスニングやスピーキングのテストを受けたことがある人であれば誰もが「知っている単語数は少ないより多いほうがいいだろうけど、きっと暗記するだけではダメなのだ」と気づいていることでしょう。
内原准教授の研究によると、「使える単語」とは、暗記で身につくような単なる知識ではありません。
さまざまな場面やセンテンスの中で聞く・話す・読む・書くことを何度も繰り返して、単語単体の意味だけでなく、どんな音として聞こえるのか、どんな単語と一緒に使われるのか、どんなフレーズ・文や場面の中でどんな形で使われることが多いのか、といったことが段階的にわかっていきます。
そして、それらの知識を素早く組み合わせて英文を理解したり作ったりする練習を積み重ね、「使える単語」というスキルが育っていくのです。
さらに、そのスキルがリスニングやスピーキングの力につながるという研究結果からは、「使える単語」が「使える英語」への近道であることがわかります。
学生時代に高校教員を目指していたこともあり、「生徒たちの成長を近くで見守りながら、生徒たちと一緒に学習に取り組んでサポートする」という学校教員の役割に大きな憧れがあると話す内原准教授。
語彙学習から英語教育を変革するという志がさらなる研究の発展につながり、教育現場の先生や生徒たちにとって、「明日からでもできそう!」「やってみたい!」と感じられるような新しい気づきや教え方・学び方を提案し続けてくれるのではないでしょうか。
(※1)特定の目的や目標を達成するために言語を使う活動(タスク)を通じて学習させる方法(赤松, 2018)。
(※2)単語は、大きく分けて内容語(content word)と機能語(function word)がある。内容語は、名詞や動詞、形容詞、副詞など、その語だけで具体的な意味内容を表す。機能語は、助動詞(例:will / can)、接続詞(例:and / but)、前置詞(例:at/of)、冠詞(例:the / a)など、文法的な働きを担う語。
【取材協力】
東北大学 大学院国際文化研究科
内原 卓海 准教授

<プロフィール>
専門は、第二言語習得。語彙の習得・指導・評価に関連する幅広いテーマで研究を行う。近年は、学習者の脳画像や視線などのさまざまなデータを収集・分析し、意図的な語彙学習と偶発的な語彙学習のメカニズムについて調べている。また、実際のコミュニケーションに役立つ語彙知識の習得、音声での語彙学習や語彙指導についての研究にも取り組む。イギリスのレディング大学にて修士号(英語教育学)、カナダのウェスタン・オンタリオ大学にて博士号(応用言語学)を取得。早稲田大学や東北大学の講師を経て、2025年より准教授(ディスティングイッシュトアソシエイトプロフェッサー)に着任。東北大学加齢医学研究所 人間脳科学研究分野および東北大学応用認知神経科学センター 教育応用研究部門の研究メンバーも兼任する。
■関連記事
Uchihara, T. (2023). How does the test modality of weekly quizzes influence learning the spoken forms of second language vocabulary? TESOL Quartely, 57(2), 595-617.
https://doi.org/10.1002/tesq.3176
Uchihara, T., Saito, K., Kurokawa, S., Takizawa, K. and Suzukida, Y. (2025). Declarative and automatized phonological vocabulary knowledge: Recognition, recall, lexicosemantic judgment, and listening-focused employability of second language words. Language Learning, 75(2), 458-492.
https://doi.org/10.1111/lang.12668
赤松 信彦(2018). 文法の指導. In 赤松 信彦(Ed.), 英語指導法 理論と実践:21世紀型英語教育の探究 (pp. 86-102). 英宝社.