日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。

2025.06.02

英語のイントネーションを間違えると、相手に伝わることが変わってしまう? 〜東京外国語大学 斎藤 弘子 教授インタビュー(後編)〜

英語のイントネーションを間違えると、相手に伝わることが変わってしまう? 〜東京外国語大学 斎藤 弘子 教授インタビュー(後編)〜

斎藤 弘子 教授(東京外国語大学)へのインタビュー記事 後編です。後編では、イントネーションがどのように身につくか、どのように教えるか、といったテーマについてご紹介します。

 

英語のイントネーションを身につけやすい人はいる?

―では、英語のイントネーションのルールを学んで身につけることはできるでしょうか?

そんなにたくさんのルールがあるわけではないので、一度覚えてしまえば簡単だと思います。

私が大学で実践している音声学の授業では、1年生のときに母音や子音の発音について教えたあと、実際に発音するとどのようなことが起こるか、ということを教えています。そこには、イントネーションやリズム、単語と単語がつながったときの音の変化(connected speech)が含まれます。

イントネーションに関する授業では、ある程度、明示的に説明するようにしています。

 

―斎藤先生の研究では、そのような指導を受けている大学生たちのイントネーション習得について調べていらっしゃいますね。具体的にどのように説明するのでしょうか?

例えば、「日本語ではこうだけど、英語はこういうパターンなんですよ」、「こういう言い方をすると失礼になってしまう。なぜかというと……」というふうに具体例とともに説明します。

また、実際に単語や文を読ませて「あなたの今の発音だと、こういう意味になりますよ」、「もう少しこうしたほうがいい」というふうにフィードバックを与えます。

子どもであれば、お手本を見せて繰り返し言わせる方法でもよいと思いますが、もう大学生なので、イントネーションやリズムに意識を向けさせて、理由も含めて納得してもらうことを大事にしていますね。

そのあと、実際にそのイントネーションで言わせてみたりして練習をしていきます。

 

―そのような指導の効果はいかがでしたか?

説明やフィードバックを与えたあとにすぐできるようになる人もいれば、繰り返しリピートしてもうまくできない人もいます。

また、これは発音全般の指導について言えることですが、授業の中では一人ひとりに付きっきりで指導したり練習させたりするわけにはいかないので、「あとは自分で練習しておいてください」というふうになります。

そのときに興味がある学生は一生懸命練習してきてできるようになりますし、最初から興味がなくて練習してこない学生もいます。

さらに、発音の指導に限らず、教師から説明を受けて納得したことを覚えていて、「さっき、先生はこういうふうに言っていたけれど、これはどうして違うんですか」と例外的なルールに関しても質問してどんどん学んでいく学生もいれば、そもそも覚えていないから例外が出てきても何も不思議に思わない学生もいます。

このように、いろいろなことがイントネーションの習得に関係しますし、授業中の指導の効果を調べるうえで難しいところですよね。

 

ーそうですよね。イントネーションの指導に関しては、はっきりと説明して理由を納得してもらうところまではできても、実際に身につけるとなると難しい、ということもきっとありますよね。

そうですね。頭ではわかっているけれどどうしてもできない、という人はいると思いますね。
先ほどイントネーションと音楽は少し似ているという話をしましたが、みんなが上手に歌えるわけではないのと同じだと思います。歌の歌詞もメロディーも覚えたけれど、実際に歌ってみると音調が外れてしまう、というイメージです。

学生たちを見ていると、イントネーションのルールをちゃんと覚えてうまくできるようになる学生は、ピアノやコーラスなど何か楽器や歌の経験がある人が多いと思います。

言語の発音には、音楽のようにリズムやメロディーがあるので、これは偶然ではないかもしれません。

 

イントネーションは、海外に住めば自然と身につく?

―日本人が間違えやすい英語のイントネーションをいくつか教えていただきましたが(本記事の前編参照)、その中で比較的身につけやすいものはあるのでしょうか?

ありますね(Saito, 2023)。 一番身につけやすいイントネーションは、日本語のルールに近いものです。

例えば、質問するときの音調の上げ方ですね。日本語では最後の音節だけを上げますが、英語では最後の内容語(※1)の第一アクセントを受ける音節から徐々に上げます。たまたま最後の単語がその内容語であれば、日本語のルールで言うときと同じなので正しいイントネーションになります。

その内容語がもっと前に位置して日本語のルールと異なる場合は、頭で英語のルールを理解していれば「ここの音節からだんだん上げていく」と意識してできるようになります。

あとは、音調を一度下げてから上げる「下降上昇」というイントネーションは日本語にはない特殊な言い方なので、印象に残りますし、できるようになりやすいです。

 

―では、身につけにくいイントネーションはどのようなものでしょうか?

一つの単語ではなく、いくつかの単語にわたって音調を上げたり下げたりして、それによって相手に伝わる意味が変わるような文の場合は、身につけるのが一番難しいです。

例えば、「あのレストランはどうだった?」と聞かれて「テーブルクロスは素敵だったけどね〜……」というふうに、おそらく味はおいしくなかったんだろうなと相手に気づいてほしいときは、”The(↘️) tablecloth was (↗️)nice…” というふうに言います。

これは「あ、例の下降上昇だな」とルールがわかっていても、tableclothで音調を一度下げてniceで上げるという言い方になっていないと、皮肉を込めたメッセージが十分に伝わらないということがあります。

個人レッスンなどで何回も同じような例文で練習すればできるようになるかもしれませんが、授業で説明しただけではなかなかできるようになりません。

このように、一つひとつのルールはわかっていても、とっさにそのルールをうまく使って意味を伝えるとなると、もう同時にいろいろなことを考えなければいけませんから、おそらく、そこが難しいのではないかと思います。

音符が読める、音調がわかる、歌詞を覚えた、メロディーを覚えた、というだけでは、プロの歌手でもない限りは初見でパッとうまく歌うことはできない、というイメージかもしれませんね。

 

―海外に住んでいた人は発音が良い、というイメージを持っている人は多いですよね。

そうですね、一般的に「海外に長く住めばネイティブ・スピーカーのような発音に近づける」、「発音がうまい人は海外で暮らしていたことがあるのではないか」と考えられていますよね。

それから、英語の先生の中には、将来アメリカやイギリスなどの英語圏に行けばできるようになるのだから自分がいま生徒たちに教える必要はない、と考えている人もいます。

日本で日本人が教えてもできるようになるはずがない、海外に行けばできるようになる、と思われているわけです。

学校の英語教育でイントネーションを含め、発音に関してあまり時間を割いて教えない、という状況の背景の一つには、そういう考え方もあると思います。

 

―斎藤先生は海外留学の影響も調べていらっしゃいますが、現時点ではどのようなことがわかっているでしょうか?

私の研究(Saito, 2018)では、海外留学に行ったからといって必ずしもイントネーションがうまくなるわけではない、ということがわかりました。

大学の海外協定校へ1年間留学した学生たち、そして、そのクラスメートで留学はせずにイントネーションに関する授業を1学期間受けた学生たちを対象に、英語の文を読んで発音してもらいました。

留学した学生たちの場合は留学前と留学後で同じ英文を読んでもらうのですが、必ずしもイントネーションが身についているわけではなく、留学前後でまったく同じイントネーションで発音している学生もいました。

例えば、イギリスに留学していた学生はイギリス英語っぽい発音になっていた、という小さな変化はけっこうありました。

でも、どこを上げ下げする、どこを強く言う、といったイントネーションに関しては、これまで専門分野の研究者に言われてきたほどの影響はすぐに出ないということだと思います。

留学期間がもっと長かったり、イントネーションに関する授業を事前に受けていたりしたら違う結果になる可能性はありますが、もう高校生や大学生になると、海外に行ったからといって急にイントネーションがうまくなるわけではないのかもしれません。

 

―それは少し意外な結果ですね。留学しなかった学生たちは、どのような結果だったのでしょうか?

留学しなかった学生たちの学期が始まる前と終わった後を比べると、同じように進歩がまったく見られない学生はいたのですが、授業を受けただけで身についているイントネーションはありました。

これは私が実際に海外の大学にいたときに感じたことですが、毎日のように英語で授業を受けていて、日本にいるときよりもたくさん英語を聞いたり話したりしているはずの留学生であっても、イントネーションが全然うまくならない、という人はとてもたくさんいました。

逆に、日本から一度も出たことがなくても、発音に関する意識が高かったり、「うまくなりたい」という気持ちが強かったりして、ネイティブ・スピーカーのような発音で話す人たちも見てきました。

そういう人たちは多くはありませんが、確かにいるわけです。

 

みんながネイティブ・スピーカーのような発音を目指す必要はない

―そうすると、英語のイントネーションに関する指導では、どのようなことを大切にするべきでしょうか?

音楽が好きではない人や音楽が苦手な人にうまく歌うことを無理強いするのと同じように、イントネーションがうまくなることを全員に無理強いすることは問題だと思います。

大事なことは、英語を学んでいる本人が何を希望しているか、ということですよね。どの言語でもそうですが、どこまで上達したいかは人それぞれです。

私は、学生たちにも「ネイティブ・スピーカーのような発音を目指してください」とはまったく言いません。

世界中の英語教育の現場では、「ネイティブ・スピーカーを目指すべきだ」と考える時代はもう終わっています。

ネイティブ・スピーカー並みを目指してもいいし、別に目指さなくてもいいんです。いまの時代、大事なことは「相手に通じる」ということです。

コミュニケーションにおいてイントネーションは重要ですが、ことばではなく言い方によって相手に伝わる意味や印象が変わる場合がある、ネイティブ・スピーカーはこういう言い方をする、というふうに必要な情報を与えて、そこから先は本人にまかせるようにしています。

それぞれ目指すレベルは異なりますから、「必ずこうしなければならない」ということではなく、「できるようになりたかったらそうしてみてね」ということですね。

 

―小学校や中学校でイントネーションを教える、ということに関しては、どのように思われますか?

小学校や中学校の義務教育では、英語を好きではないのに勉強している子どももいると思いますから、やはり無理してイントネーションを身につけさせようとしないほうがいいと思います。

特に小学生の場合は、ルールを説明するというよりも、「こういう状況ではこういうふうに言う」というふうにお手本を見せるのがよいかもしれませんね。

日本人はI(私)を強調してしまう癖がある、というお話をしましたが、何人かに「そのイントネーションはどこで覚えたの?」というふうに聞いてみたことがあります。

すると、それまで英語を教わってきた先生がそういうふうに言っていた、と答えた人が多かったです。

英語が好きな学生は、英語の先生のことをよく覚えていて、どの先生がどういう表情でどういう英語を話していたかまで思い浮かぶと話していましたし、その先生の言い方がそのまま身についているんです。

 

―たしかに、小学校や中学校の先生の影響はあるかもしれませんね。

学習に熱心であればあるほど先生の真似をする、ということがあると思います。

日本語のイントネーションが英語を話すときに転移する可能性はありますが、小さいころから英語での言い方しか聞いていなければ、そのまま真似するようになるかもしれません。

楽譜を見たわけではないけれど、テレビのCMで何回も繰り返し聞いている歌はいつの間にか口ずさめるようになっている、という感じですよね。

お手本をある程度示してから、「いまの言い方だとこういうふうに伝わってしまうよ」、「もう少しここで声を高くしたらいいよ」というふうに明示的に説明したりコツを伝えたりする、というふうにするとよいと思います。

 

―まずはインプットが大切ということですよね。英語の先生は、決してALTの先生と同じように話せなくてもいいけれど、イントネーションにも意識を向けて話してみるとよさそうですね。

そうですね。やはり発音や言い方は、人のものを真似するつもりがなくてもいつの間にかそれが自分に移っちゃった、みたいなことはありますよね。

相手が高い声で話すから自分の声も高くなってしまう、相手がゆっくり話すから自分の話し方もゆっくりになる、というふうに、無意識に相手に合わせることは誰でもあるはずです。

おそらく、そういう力が人間に備わっているのかもしれません。

逆に、まったく聞いたことのない発音やイントネーションが突然うまくなるということはないでしょうから、やはりお手本を示せば子どもがそれを真似してくれる可能性はあると思います。

 

―特に小さい子どもは、大好きな親や先生、キャラクターの言い方を真似するということがありますよね。

そうですね。 例えば、好きなアニメや映画のシーンで出てくる英語のせりふを真似すれば、その言い方をするときの場面や雰囲気も一緒に覚えられますよね。

特に小さい子どもの場合は、単にリピートさせて練習させるよりも大事なことだと思います。

 

―最後に、斎藤先生がいま特に関心を持っていらっしゃる研究テーマや、今後取り組まれる予定の研究活動について教えてください。

英語には、アメリカで話されている英語、イギリスで話されている英語、インドで話されている英語、というふうにいろいろな英語があります。

英語の「変種」と呼ばれているのですが、方言ですね。その変種で発音がどのように変化しているのか、ということに最近は興味があります。

特に、英語のネイティブ・スピーカーの間で、階級差などの社会的な違いや地域の違いなど、どこで発音の変化が起きていてどこで起きていないのか、変化のスピードが速まっているのかどうか、その方言はどのように広がっていくのか、という方言差にとても興味があります。

 

おわりに:イントネーションは、メッセージを伝えるための強い味方

今回は、英語のコミュニケーションにおいてイントネーションがいかに大切か、どのように教えることができるか、というテーマでお話を伺いました。

小学校の学習指導要領では、「イントネーションは話者の気持ちや意図、相手との関係など、その場の状況などによって変化するが、英語の文には文がもつ基本的なイントネーションがある」(文部科学省, 2017a, p.86)とされ、音声の指導目標にイントネーションの指導が含まれています。
そして下記の通り、小学校から高校にかけて段階的に指導することが期待されています。

 

小・中・高の学習指導要領におけるイントネーションに関する指導目標(概要)

小学校の英語教育(文部科学省, 2017a, p.86)
・基本的なイントネーションに気づいて、そのイントネーションで話せるようにする。

中学校の英語教育(文部科学省, 2017b, p.32)
・基本的なイントネーションで読めるようにする。
・イントネーションによって文の意味が変化することについて指導する。

高校の英語教育(文部科学省, 2018, p.30)
・目的や場面、状況などに応じた適切なイントネーションを用いることができるようする。
・イントネーションが話し手の相手に対する興味・関心、無関心、驚きなど多様な感情を表す点について触れる。

よって、斎藤教授がイントネーションに関する研究を始めるきっかけとなった2002年のセンター入試の時代と比べると、イントネーションが果たす役割や大切さについての意識は高まっていると考えられます。

英語のイントネーションについて知ることは、無意識のうちに身についている日本語のイントネーションについて知ることでもあります。もしかしたら、地域の方言や自分の癖が影響していることがあるかもしれません。

ネイティブ・スピーカーと同じイントネーションを全員が身につける必要はないものの、イントネーションの知識やスキルは誰にとってもコミュニケーションの強い味方になります。

RやLなど、一つひとつの音の発音ばかりに捉われず、相手に伝えたいことを伝えるための「言い方」に注目してみると、新しいことばを学ぶことの奥深さが発見できるかもしれません。

 

(※1)単語は、大きく分けて内容語(content word)と機能語(function word)がある。内容語は、名詞や動詞、形容詞、副詞など、その語だけで具体的な意味内容を表す。機能語は、助動詞(例:will / can)、接続詞(例:and / but)、冠詞(例:the / a)など、文法的な働きを担う語。

 

【取材協力】

東京外国語大学 斎藤 弘子 名誉教授

東京外国語大学 斎藤 弘子 名誉教授のお写真

<プロフィール>

研究分野は、言語学、英語学、外国語教育。英語音声学・音韻論を専門とし、主に、日本人英語学習者が英語のイントネーションをどのように習得するか、母語(日本語)がどのように影響するかについて研究を行う。東京外国語大学 修士号(文学)、ロンドン大学 修士号(音声学)取得。東京外国語大学 外国語学部教授などを経て2009年より東京外国語大学 教授。2025年春より同大学の名誉教授および名古屋外国語大学教授。共編・共著者として各種英和辞典の制作にも長年携わっている。

 

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参考文献

Saito, H. (2023). The order of acquisition of L2 English intonation by Japanese learners. Journal of the Institute of Language Research, 27, 1-8.

https://doi.org/10.15026/125114

 

Saito, H. (2018). A longitudinal study of L2 English intonation—Does studying abroad make any difference?— (pp.27-37). 西岡宣明・福田稔・松瀬憲司・長谷信夫・緒方隆文・橋本美喜男編『ことばを編む』,開拓社.

 

Saito, H., & Ueda, I. (2007). Does accentuation of L1 transfer to L2 prosody? — A preliminary study on Osaka and Tokyo dialect speakers’ pronunciation of English. Proceedings: Phonetic Teaching and Learning Conference. https://www.phon.ucl.ac.uk/ptlc/proceedings/ptlcpaper_04e.pdf

 

文部科学省(2017a). 小学校学習指導要領(平成29年告示)解説:外国語活動・外国語編. https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1387017_011.pdf

 

文部科学省(2017b). 中学校学習指導要領(平成29年告示)解説:外国語編. https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1387018_010.pdf

 

文部科学省(2018). 高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説:外国語編 英語編. https://www.mext.go.jp/content/1407073_09_1_2.pdf

 

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