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2024.04.24

「ハーモニアス・バイリンガリズム」でバイリンガルの家庭と子どもたちをサポート ~デハゥワー博士インタビュー~

「ハーモニアス・バイリンガリズム」でバイリンガルの家庭と子どもたちをサポート ~デハゥワー博士インタビュー~

今回は、Harmonious Bilingualism Network(HaBilNet)の創設者兼ディレクターであるアニック・デハゥワー博士に、言語接触と言語喪失、二言語発達の種類、ハーモニアス・バイリンガリズムなどについてお話を伺いました。

インタビュアー、著者:Paul Jacobs

翻訳:Yuri Sato

 

まとめ

・言語接触と言語喪失: 幼児期における継続的かつ一貫した言語への接触がいかに重要であるかが強調された。また、強化が足りなければいかに急速な言語喪失につながるかが説明された。

・二言語発達の種類: 重要な用語として、第一言語としてのバイリンガル言語習得(BFLA)、早期の第二言語習得(ESLA)、第二言語習得(SLA)などがある。研究結果を正しく解釈して教育を計画するためには、子どもの言語学習歴の理解が重要であることが明らかになっている。

・ハーモニアス・バイリンガリズム: 二つの言語を発達させるための前向きで調和のとれた環境づくりを提唱。親や教育者向けに、バイリンガリズムを奨励して子どもの言語能力を維持するための方略が詳しく述べられた。この方略によって、言語喪失や二言語のアンバランスさに伴う否定的な感情が生じることを防ぐ。

 

【目次】

 

 

バイリンガリズムへの興味

―デハゥワー博士がバイリンガリズムの研究に興味をもったきっかけについて教えてください。

16歳のとき、自分が何も考えなくてもオランダ語と英語で文章を口に出すことに気づいて興味を持ちました。この現象をもっと深く理解するためには、子どもの言語がどのように発達するかについて研究するなど、言語習得の始まりから理解することが不可欠だと考えました。

偶然にも、修士課程の学生だったとき、生まれたときから(2歳から)二つの言語で育った子どものベビーシッターをしたことがあります。半年ほどベビーシッターをしながらその子が両方の言語を使う様子を観察したあと、「この子の発話を録音したほうがいいかもしれない」と思いました。そこで、ご両親に許可をいただき、その子の言語使用を記録し始めました。

その後、スタンフォード大学の大学院に進みました。ある日、1973年出版の本を自転車に乗りながら(院生は大量の文献を読まなければならないので・・・)読んでいたのですが、そのときに子どもの言語研究で有名な研究者が書いた章に出会ったことを覚えています。その章を立ち止まって読み、バイリンガルの子どもたちはもう一方の言語よりもシンプルな言語構造のほうをまず口に出す、と書いてありました。これを読んだとき、「そんなはずはない」と思ったんです。幼いバイリンガルの子どもたちを対象に自分が観察してきたことと一致していなかったからです。

最終的に私の研究では、バイリンガル児の形態統語の発達について言語間の比較は不要であり、二つの言語が別々に発達することを示しました(De Houwer, 1990); (「Separate Development Hypothesis(分離発達仮説)についての詳細は、De Houwer(2005)を参照)。科学とはそういうものですよね。研究者は、誰かの先行研究を読んで、その見解を検証したり、その結論を調整したりするんです。

私は、生まれたときからオランダ語と英語で育った子どもたちのデータを集め続けました。そして、両方の言語に触れているにもかかわらず、片方の言語しか話さない子どもが多いことに気づき始めました。研究者としてのキャリアの初期に、その理由を探ることに強い関心を抱くようになり、その関心は現在に至るまでずっと続いています。

 

ことばを忘れる子どもたち

―それは興味深いですね。私の妹も同じような経験をしています。妹は日本で生まれて、8歳のときにアメリカに引っ越すまでは日本語と英語を話しながら育ちました。でも、アメリカで英語のみ話して過ごした1年後、日本語をほとんど忘れてしまったんです。日本語を理解して話す力を取り戻したのは、大学卒業後に日本に戻ってからでした。

とても興味深いですね。実際にそうなんです。子どもは、簡単に言語を失ってしまうんです。幼いころに国際養子縁組をして新しい環境で第一言語を忘れてしまった子どもたちについての研究は行われてきました (Oh et al., 2010)。でも、これらの研究では、子どもたちが自分の出身国に戻った場合にどうなるかは調べられていません。妹さんの場合は、日本語の形跡が彼女の中に残っていて、それが日本に帰国することで初めて活性化したようですね。

私も自分の娘で妹さんと同じような経験をしていますが、娘がもっと小さいころです。娘は、第一言語としてのバイリンガル言語習得(BFLA)児(二つの言語を第一言語として習得する子ども)として、生まれたときから英語を聞いていました。アメリカに住んでいた2歳半までの間は流暢に話していたにもかかわらず、英語力を失いました。私たちがベルギーに戻ったとき、3週間で娘の英語を耳にしなくなったんです。それに気づいたのは、ある日、道端で何人かのアメリカ人に出会ったときです。私は彼らに英語で話していたのですが、会話が終わったあと、娘は「みんな、何て言っていたの?」と私に聞きました。英語の環境からたった3週間離れていただけなのに、会話の内容がわからなかったことに驚きました。

幼い子どもたちの場合、学習とは、脳内でさまざまな部分が物理的に結合するということです。私たちはこのことを理解するべきです。このような脳内の物理的結合は、環境を通じて絶えず強化されなければなりません。早期の結合は、強化されなくなれば、失われたり失われかけたりする可能性があります。アメリカに戻ったときにはすでに年齢が高かった(8歳)妹さんも同じようなケースですよね。ただ、妹さんの場合、脳内の結合が私の2歳半の娘よりもずっと強かったために、日本語の形跡が残ったのかもしれません。

 

幼児期バイリンガリズムの用語と種類 ~BFLA、ESLA、SLA~

―先ほど、娘さんについて「第一言語としてのバイリンガル言語習得(Bilingual First language Acquisition/BFLA)」という用語を使って話されいていました。幼児期のバイリンガル発達は、ほかにどのような種類があるでしょうか?

ときには、バイリンガリズムの種類についてより具体的にした研究が行われることもあるかもしれません。研究結果を正しく解釈するためには、子どもの言語学習歴を知る必要があります。まず、「第一言語としてのバイリンガル言語習得(BFLA)」とは、生まれたときから、あるいは生まれる前から二言語でのインプットを耳にする乳幼児のことを言います。この子どもたちは、生まれる前からすでに二つの言語のパターンを身につけています。この種類は、インプットの多様性がはるかに低い、つまり一つの言語だけで人生をスタートし、保育やそのほかの状況を通じて別の言語が加わる子どもたちとは区別されるべきです。6歳未満の子どもは、生まれたときから二つの言語に触れている場合と生まれてしばらく(数カ月~数年)経ってから二つ目の言語を聞き始める場合では、重要な違いがあります。私は、この後者の子どもたちを「早期第二言語習得(Early Second Language Acquisition/ESLA)」児として分類しています。

このBFLAとESLAの違いを明らかにした研究を二つご紹介しますね。まず、私が最近行った研究の一つ、(De Houwer, 2023)では、生まれたときからドイツ語とポーランド語を聞いていた子どもたち(BFLA)と、家庭でポーランド語を聞きながら育ったあとに保育を通じてドイツ語に触れた子どもたち(ESLA)を比較しました。子どもたちは全員、3歳半です。子どもたちのポーランド語とドイツ語を比べると、この年齢になるまでにすでにグループ間で違いが見られます。ポーランド語は、両グループとも生まれたときから耳にしてきた言語ですね。BFLAグループは、ポーランド語よりもドイツ語のほうを上手に話しました。一方、ESLAグループは、ドイツ語よりもポーランド語のほうをよく知っていました。

もう一つの私の研究(De Houwer, 2007)では、ベルギーのフランダース地方に住む小学生の家庭1,899世帯を対象に、学校で使われている言語とは別の言語を親御さんが家庭で話しているかどうかを調査しました。それよりも前に行った調査(De Houwer, 2003)では、モノリンガル家庭で期待されるであろうことと異なり、親の言語(学校で使われていない言語)を話さない子どもがいる家庭の割合は4分の1であることを明らかにしていました。2007年の研究では、家庭での言語インプットのパターンと子どもが学校で使われていない言語を話すことに関連性があるかどうかが主な研究課題でした。これらの研究データに基づいて、のちに(De Houwer, 2021, p. 46)、親が学校で使われていない言語と学校で使われている言語の両方を家で使う家庭と、学校で使われていない言語のみ話す家庭とでは、大きな違いがあることがわかりました。前者の家庭の場合は世代間の言語喪失(親の言語が子どもに継承されない)が起きた割合は30%でしたが、後者の家庭の場合はわずか3%だったんです。2007年の研究では、BFLAやESLAの子どもたちだけでなく、「第二言語習得(SLA)」の子どもたちも含まれていた可能性が高いです。私は、SLAの子どもたちを、小学校で第二言語環境に浸ることを通じて日常的に第二言語を耳にするようになった子どもたち、と定義しています。ESLAとSLAの主な違いは、小学校で初めて第二言語を耳にするSLAの子どもたちがはじめからその言語で読み書きを学ぶことが期待されているという点です。

つまり、ポールさんの場合は、日本で小学1年生から日本語を学び始めていますから、SLAの子どもだったということですね。多くの場合、第二言語環境に浸るときの年齢が高いほど、学習スピードは速いです。単純に、赤ちゃんだったときよりも賢いからですね。

 

ハーモニアス・バイリンガリズム ~バイリンガル家庭のウェルビーイング~

―BFLA、ESLA、SLAの違いを明確にしてくださり、ありがとうございます。De Houwer先生が主に関心を持っていらっしゃることの一つに、各ご家庭が「ハーモニアス・バイリンガリズム」を実現できるように支援することがありますよね。「ハーモニアス・バイリンガリズム」とは、どういうことでしょうか?なぜ重要なのでしょうか?

そうですね、先ほどお話しした通り、二つの言語に触れながら育っていても一方の言語しか話せない子どもたちがたくさんいることに早くから気づいていました。バイリンガル家庭で育った子どもの約4分の1が一方の言語しか話せなくなるんです。4家庭のうち1家庭はそういう経験をするということですね。そうなると、親は、絶望感、子どもや自分自身に対する怒り、自分たちの言語を子どもに受け継がせるという親の務めを果たせなかったことへの情けなさなど、さまざまなネガティブな感情を抱きます。中村ジェニス准教授(Nakamura, 2020)の研究で示されているように、この子どもたちが家族の言語の一つを学ばないまま大人になると、後悔の念を抱き、親に腹を立てる場合があります。私はこの状況を、「ハーモニアス・バイリンガリズム(調和のとれたバイリンガリズム)」の欠如、ということばで言い表しています。

ハーモニアス・バイリンガリズムの必要性は、家族内で二つの言語を話す家庭だけに限らず、一つの言語のみであってもそれが社会の言語とは異なる家庭にも当てはまります。この子どもたちは、家庭とは異なる言語が使われている幼稚園や保育所に預けられることがあります。幼稚園では緊張で固まってしまい、口頭でコミュニケーションをとることができない子どもは多いですし、気分が落ち込んでしまうこともあります。園の環境では内向的になって居心地が悪いので、その新しい言語を学びません。このような場合、その子どもにとってウェルビーイングではありません。

これは私たちが望んでいる状態なのでしょうか?違いますよね。私たちが望んでいることは、新しい言語やバイリンガリズムに関する有意義な経験です。少なくとも、子どもにとって嫌な経験は望んでいません。ハーモニアス・バイリンガリズムという概念を打ち出すことで、私たち研究者にとって、遠巻きに言語発達を見るだけでなく、子どもや親のウェルビーイングの高さに注意を払い、否定的な態度を理解して対応することがいかに重要であるかを強調したかったんです。

 

家庭におけるハーモニアス・バイリンガリズム

―そうすると、ハーモニアス・バイリンガリズムとは、親が自分の言語を子どもに受け継がせることができる、そして、子どもが新しい言語を身につけることに喜びを感じるポジティブな環境をつくることなんですね。では、家庭内におけるハーモニアス・バイリンガリズムとはどのようなものか教えていただけますか?

ハーモニアス・バイリンガリズムは、子どもがまだ赤ちゃんのころから始まるべきです。例えば、大げさな表現を使う、口や目を大きく開ける、ゆっくり・はっきりと話す、たびたび繰り返すなど、赤ちゃんが興味をもつような話し方をすることが大切です。

自分が毎日のようにしていることをやりながらそれをことばで説明して、子どもにとってわかりやすくて親しみやすい方法でたくさん話しかける習慣をつけましょう。例えば、「Let’s put on the pants. Oh, where is your hat?(ズボンを履こうね。あ、帽子はどこかな?)」という感じですね。そして、子どもがことばを話し始めたら、子どもからの質問に返事をするんです。バイリンガル環境では、子どもが親の使っている言語で返事をするように促すことを目標にするべきです。子どもと一緒にいるときに使う言語を切り替えることはまったく悪いことではありませんが、一つの会話は一つの言語で続けるのがベストです。でも、もしその会話にもう一方の言語の単語が入り込んだとしても、心配はいりません。子どもが自分の使っている言語で返事をしないときは、「What did you say?(何て言ったの?)」、「Huh?(え?)」とわからないふりをして対応することができます。嘘をついていると考える親御さんもいますがが、これは単に説明してほしいとお願いしているだけです。それに、実際に子どもが何と言ったかわからないこともたびたびあるでしょう。もう一つの対応方法は、子どもの返事を自分が使っている言語で言い直し、本人が伝えようとしたことかどうかを聞くことです。ただ、ベストな対応方法ではありません。というのも、親がそう聞くと、本当は親の言語でその単語を使ってほしいのに、子どもは「Yes.(うん)」か「No.(ううん/ちがう)」しか言わないからです。

絵本を読むことは、親子の触れ合いで大切な部分でもあります。子どもと一緒に絵本を読むことは、早くて生後2カ月から始められます。絵本はまだ早いように思えるかもしれませんが、10秒間絵を見て、その絵について本当に短い物語をつくることから始めるだけでも価値があります。「Oh look, there’s the moon…(ほら、見て。お月さまだね。・・・・・・)」という感じですね。 これは、ことばの発達をサポートするだけでなく、ママと赤ちゃん、パパと赤ちゃんが心を通わせる貴重な時間でもあります。余談ですが、このような親子のふれ合いはママだけではなくパパにとっても大切です。そして、これを習慣にしていくと、生後6カ月ごろになれば、お子さんはそういうふれ合いが大好きになっていきます。

重要なポイントは、どちらの言語についても否定的なコメントを避けること。この点において夫婦で一致団結することは、ものすごく大切です。

最後に、バイリンガル子育てが未経験の新米ママ・パパは、それぞれの言語が自分にとってどんな意味をもつのか気づかないかもしれません。でも、子どもが3歳ごろになってどちらかの言語を話さなくなると、ショックを受けますし、とても残念に思うかもしれません。この予期しなかった状況に泣いている親御さんをたくさん見てきました。言語は単なるコミュニケーション・ツール以上のものであり、アイデンティティの一部である、という事実を物語っていると思います。

 

一方の言語を話さない子どもをどうサポートする?

―もし、子どもが二つの言語のうち一方しか話さないという状況になった場合、親がその状況を変える方法はあるのでしょうか?

あります。特に子どもがまだ幼い4歳までの時期は、人形やパペットを使ってアウトプットを促すことができます。新しいパペットはその言語を話す国からやって来たのだ、と子どもにはっきりとわからせることをお勧めします。その人形はその言語しか話さないということを子どもに信じさせるためですね。例えば、日本在住で子どもに英語を話す親は、アメリカからパペットを取り寄せ、そのパペットになりきって英語で話すことができます。この働きかけにより、子どもはそのパペットと英語で話す気になるでしょう。オーストラリア在住のブラジル人女性にこのテクニックを提案したところ、彼女が試してみてくれました。その1週間後、「子どもが初めて私の言語を話すのを聞いて、喜びのあまり涙が出ました」というメッセージを私に書いてくれました。このアイデアは私が考案したものではなく、1994年に発表された学術論文から得たものです。

ただ、パペットを使ったテクニックは4歳までの子どもには有効ですが、それ以上の年齢の子どもにはどうでしょうか?ハンドパペットは4歳以上の子どもにはあまり魅力的ではないかもしれませんね。でも、子どもが大きくなれば、小さいころとは違って、親が筋道を立てて話してあげることもできます。親やおじいちゃん・おばあちゃんにとって、自分たちの言語を話すことがいかに大切かを説明することができるんです。

そして、おじいちゃん・おばあちゃんやほかの親戚たちにも親の希望を伝え、協力を求めることができます。彼らが遠方に住んでいるなら、オンラインでつながりましょう。小さい子どもがおじいちゃん・おばあちゃんとオンラインでできるアクティビティの一つに、お絵描きがあります。例えば、おばあちゃんと子どもがお互いに指示を出し合い、それぞれがモンスターの絵を描きます。(例えば、子どもがおばあちゃんに「緑色の毛むくじゃらの手を描いて」と頼むんです。みなさん想像できますよね!)そのあと、自分が描いた絵を相手に見せると、とっても楽しいですよ!目標は、できるだけ多くのことばを使うこと。そして、このアクティビティでは、身体のさまざまな部分について話すことができます。楽しいアクティビティであると同時に、おじいちゃん・おばあちゃんと孫がつながりを築きます。これは、家族にとって大切なことです。早くからこのようなつながりができていれば、子どもは両方の言語を使えるようになり、言語喪失の時期を過ごさずに済むかもしれません。

 

―素晴らしいアイデアですね。おじいちゃん・おばあちゃんや親戚で頼れる人がいない家族の場合はどうするのでしょうか?同じ地域に住んでいる教師などのネイティブ・スピーカーと交流することには、同じような効果があるのでしょうか?

そういう人たちを雇う手段があるとするなら、うまくいきます。つまり、子どもの周りで親の言語を使う人が多ければ多いほどいいんです。ただ、親の言語にたくさん触れる環境を子どもに用意する方法を見つけるのは大変です。なぜなら、バイリンガル家庭は、一方の言語を話す人がほとんどいないような都会から離れた場所に住んでいることが多いからです。

 

幼稚園におけるハーモニアス・バイリンガリズム

―ハーモニアス・バイリンガリズムは、家族や地域社会の間でやりとりや関係性がうまくいっていることを意味するようですね。ここまで家庭内でのハーモニアス・バイリンガリズムについて話しましたが、幼稚園のような早期教育についてはどうでしょうか?日本の一般的な幼稚園では、たいてい週1時間で英語が教えられていますが、そのような園でハーモニアスな環境をつくることについてどう考えていらっしゃるかも伺ってみたいです。

バイリンガルの子どもが初めて日本の幼稚園に入る場合、その子の家庭で話されている言語に少し気を配り、自分の言語が尊重されていると本人が感じることは大切です。でも、そうならないことが多いですね。私たちのウェブサイト(De Houwer, 2022, 2024)には、幼稚園におけるハーモニアスな環境というテーマを掘り下げたブログ記事がいくつかあります。日本の学校が子どもたちの言語を積極的に認めて、子どもたちに歓迎されていると感じさせることができれば、日本語を学びたいと思っている子どもたちにとって大きな手助けになるでしょう。「あなたが私の言語に敬意を示すなら、私があなたの言語に敬意を示さない理由は何もない」というようなことですよね。これは子どもたちのウェルビーイングを支え、クラスの子どもたち全員にとって楽しい活動が生まれることもあります。

通常、未就学児を教えている先生たちは外国語能力が限られています。でも、さまざまな言語を扱っていて信頼できるところのアクティビティ映像を利用すれば、英語やそのほかの言語で魅力的な活動をうまく進めることができます。インターネット上にはさまざまな言語の歌やライムがたくさんありますから、英語だけでなく、韓国語や台湾語、広東語の歌を聞く時間を確保できると素晴らしいですね。でも、何事も楽しくやるべきです。先生たちは、幼い子どもたちにその言語を学ぶようプレッシャーを与えてはいけません。そうではなく、子どもたちはさまざまな言語のさまざまな音を聞くと、それらの言語を積極的に受け入れるようになり、特定の言語を怖がらないようになる、ということを理解する必要がありますね。先生たちは、このような外国語の授業に合わせて、異文化への気づきを促す活動を取り入れることができます。

 

ハーモニアスな期待

―先生たちがよく知らない言語を使うのはハードルが高いと思われるかもしれませんが、子どもたちがグローバルな世界でさまざまなことに寛容になるための練習に役立つことがわかるので、有益な視点ですね。ハーモニアスなバイリンガル環境をつくるためには、子どもを育てている大人たちに現実的な期待を持たせることが大切になりそうです。

英語が週1時間よりもかなり多くの時間使われているようなバイリンガル幼稚園では、親御さんは5カ月後には子どもが英語を話せるようになると期待しています。でも、そのようなことは起こりませんし、起こりえません。

6歳未満の子どもの言語学習には時間がかかります。

モノリンガルの子ども、例えば5歳の日本語モノリンガルの子どもは、5歳らしい日本語を話すのだということを親御さんたちに理解してもらいたいですね。おかしなことを言っているように聞こえるかもしれませんが、考えてみてほしいんです。

その子どもは丸々5年間、仕事もせずに、ただ遊んだり日本語を学んだりする時間があっただけです。そして、5年後もまだ5歳児のように聞こえる話し方をします。10歳児とも違う、大人とも違う、5歳児のような話し方をするのですが、言語を学ぶ環境にはあらゆる制約があります。ですから、特に子どもが小さいうちは、言語を学習するのに時間がかかるんです。

 

ー本日はお時間をいただき、ありがとうございました。今日お話ししたようなハーモニアス・バイリンガリズムを我が家でも実践していきたいと思います。そして、今回のディスカッションが、日本在住のバイリンガル家庭の経験をポジティブなものにする力になることを願っています。

 

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【取材協力】

アニック・デハゥワー博士

Harmonious Bilingualism Network (HaBilNet)の創設者兼ディレクター。言語習得とマルチリンガリズムの分野にて著名な専門家。International Association for the Study of Child Language(国際子ども言語学会)の会長も務め、研究分野は、バイリンガル習得、言語変異、バイリンガリズムの社会的・情動的側面など多岐にわたる。バイリンガル育児の社会的・情緒的なメリットと課題について訴え、「Harmonious Bilingual Development(HBD)」(調和のとれた二言語発達)という概念を広めた。豊富な著書や一般社会の関心を集める努力を通じて、学術研究と実社会での応用の橋渡しをする研究は、二言語発達を理解するうえで極めて重要である。

The Harmonious Bilingual Network(ハーモニアス・バイリンガル・ネットワーク)

https://www.habilnet.org/

https://www.habilnet.org/members/?accordion=1&item=1

 

『Bilingual Development in Childhood: Elements in Child Development Series(IBS訳:幼少期の二言語発達 ~子どもの発達にって必要な要素シリーズ~)』(2021年出版)

https://www.cambridge.org/core/blog/2021/03/16/bilingual-development-in-childhood-elements-in-child-development-series/

 

 

■関連記事

バイリンガル子育て6つの誤解と日本の親ができること 〜神奈川大学 中村ジェニス准教授インタビュー(前編)〜

 

バイリンガルの子どもの発達は、モノリンガルとどのように違う? 〜神戸松蔭女子学院大学 久津木 教授インタビュー(前編)〜

 

参考文献

De Houwer, A. (1990). The Acquisition of Two Languages from Birth: A Case Study. Cambridge University Press.

https://doi.org/10.1017/CBO9780511519789

 

De Houwer, A. (2007). Parental language input patterns and children’s bilingual use. Applied Psycholinguistics, 28(3), 411–424.

https://doi.org/10.1017/S0142716407070221

 

De Houwer, A. (2009). Early Bilingual Acquisition: Focus on Morphosyntax and the Separate Development Hyphothesis. In J. F. Kroll & A. M. B. De Groot (Eds.), HandBook of Bilingualism: Psycholinguisitic Approaches (pp. 30–48). Oxford University Press.

 

De Houwer, A. (2022, January 4). Emergent multilingual literacy in early childhood education and care – HaBilNet, the Harmonious Bilingualism Network. HaBilNet.

https://www.habilnet.org/emergent-multilingual-literacy-in-early-childhood-education-and-care/

 

De Houwer, A. (2023). Polish-German preschoolers develop and use heritage Polish differently depending on whether they heard German from birth or not. Frontiers in Psychology, 14.

https://www.frontiersin.org/journals/psychology/articles/10.3389/fpsyg.2023.1080122

 

De Houwer, A. (2024, January 26). The Need for a Language-Considerate Approach in Early Childhood Education – HaBilNet, the Harmonious Bilingualism Network. HaBilNet.

https://www.habilnet.org/the-need-for-a-language-considerate-approach-in-early-childhood-education/

 

Nakamura, J. (2020). Language regrets: Mixed-ethnic children’s lost opportunity for minority language acquisition in Japan. Multilingua, 39(2), 213–237.

https://doi.org/10.1515/multi-2019-0040

 

Oh, J. S., Au, T. K.-F., & Jun, S.-A. (2010). Early childhood language memory in the speech perception of international adoptees. Journal of Child Language, 37(5), 1123–1132.

https://doi.org/10.1017/S0305000909990286

 

 

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