日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。

2023.10.13

スポーツを通して英語を学ぶという新たな選択肢

スポーツを通して英語を学ぶという新たな選択肢

現在ラグビーのワールドカップが開催されていますが、ラグビーは選手と審判員(レフェリー) とのコミュニケーションが重要なスポーツと認識されており、実際に国際試合では選手と審判員が頻繁に英語で会話しています。また、プロスポーツ選手が海外チームに移籍し、監督やチームメイトなどと英語でコミュニケーションをとっているのも目にします。このように、スポーツ選手にとって上のレベルにいくほど 「必要になる」 と思われている英語ですが、実は英語学習にとってスポーツはとても相性がいいと言えます。今回のコラムでは、スポーツを通して楽しみながら英語を学ぶという新たな英語教育についてご紹介します。

 

【目次】

 

スポーツにおける英語使用

ラグビーでは審判員との英語によるコミュニケーションが重要であることを冒頭でご紹介しました。このコミュニケーションはインプレー(反則などでプレーが中断していないとき)中にも行われていて、反則の警告など、審判員の英語が理解できるかどうかがプレーに影響すると言っても過言ではありません。

ラグビーの共通語として英語が用いられるのはイングランド発祥の競技だからであって、同じ国際試合であっても柔道では日本語が使われています。日本語で行われるとなると日本語が話せない選手に不利であるようにも思えますが、柔道ではジェスチャーを併用することによってコミュニケーションに支障をきたさないようになっていると考えられます。

これらに限らず、世界レベルの試合では競技を問わず選手が審判員とコミュニケーションをとっている姿をよく目にします。また、一流選手は野球やバスケットボールではアメリカ、サッカーやバレーボールではヨーロッパなどのチームに所属することも多く、チームメイトとも英語でコミュニケーションをとることになります。

このように、スポーツは実は英語教育との相性が良く、昨今英語教育界で注目されている内容言語統合学習 (Content and Language Integrated Learning; 以下CLIL)では、歴史や科学などと英語を組み合わせるのと同様に、体育の授業に英語教育を取り入れる試み(本稿では 「CLIL体育」 と称することにします)が注目されています。また、このように英語を用いてスポーツを行う試みは、学校教育だけでなく民間においても徐々に行われるようになってきました。

CLIL体育は英語の授業として有効であるだけでなく、体育教育の効果も高めるという研究結果が報告されています。

 

英語学習意欲の向上

半ば当然ですが、CLIL体育は英語学習に繋がります。例えば Devos(2012)がドイツの高校生を対象に行ったCLIL体育の研究では、ほとんど教師の介入なしに生徒同士のコミュニケーションによって体育が行われていました。

しかしながら、興味深いのは CLIL体育によって単純な英語能力が向上するだけでなく英語学習意欲も向上することが報告されている点です。マレーシアの大学生を対象に行われた CLIL体育の研究(Christopher, Dzakiria & Mohamed 2012)では、ふだんは恥ずかしがって英語を話すことを躊躇する学生がCLIL体育において英語を話すようになり、英語を話すことに対する自信の向上にも繋がったと報告されています。この自信の向上はイギリスにおいてフランス語を用いて行われたCLIL体育においても同様に報告されています(Lamb & King 2020)。

Coral & Lleixà(2016)は、CLIL体育が英語学習の場として効果を発揮する理由の一つとして、指示やコミュニケーションが実際のスポーツの中で行われることを挙げています。英語教育では教材やコミュニケーションが作られたものではなくリアル(authentic)なものであることが効果的な学習のために重要であるとされています。英語学習のために考えられたゲームなどとは違い、実際のスポーツはまさにリアルな英語コミュニケーションの場であるという点において非常に効果的であると言えます。

 

体育教育への肯定的影響

体育の授業で同時に英語を学ぶことは、授業内の体育教育の機会を多少犠牲にするようにも思えますが、実際は CLIL体育において英語学習の相乗効果が生じ、むしろ体育教育に肯定的な影響をもたらした例が報告されています。

スペインで行われた研究(Salvador-García et al. 2022)によると、体育授業におけるMVPA(moderate-to-vigorous physical activity; WHOが週150分以上の実施を推奨する 「中高強度の身体活動」)が、CLILの導入により減少することなく、逆に増加しました。同研究者らはこの理由を、生徒の集中力の向上と教師−生徒間のコミュニケーションの増加によるものだと分析しています。

同研究者らの別の研究(Salvador-García et al. 2020)では、研究対象となったスペインの高校生は体育授業における英語使用を 「ハンディキャップ」 と捉え、それを克服するために生徒同士が協力することにより授業内のコミュニケーションの機会が増加したようです。

しかしながら、Coral & Lleixà(2016)の研究では小学生を対象とした CLIL 体育の失敗例も報告されており、体育教育の観点からは CLIL の導入が必ずしも効果を発揮しないことが伺えます。日本の中学生を対象とした磯村ら(2023)の研究でも、CLIL体育が通常の体育より生徒間の協調を減少させた例が報告されています。

これらの研究結果から、CLIL体育の成功には学習者の英語レベルが関係していると思われます。おそらく体育授業の内容によって CLIL を行うために必要な最低限の英語レベルが存在し、児童生徒の英語レベルがそれを下回る場合にはコミュニケーションを妨げてしまうことが想定されます。

 

楽しみながら英語を学ぶ

ここまで CLIL体育の可能性をご紹介してきましたが、CLIL体育の研究は他の英語教育研究に比べると決して多いとは言えません。また、実際に効果が報告されているのは日本よりも英語使用が一般的なドイツ、スペイン、マレーシアなどの国であることが多いため、それらの研究成果が日本にも同様に当てはまるかどうかはわかりません。

日本人には英語に対する苦手意識があり、実際に、常行・長谷川(2018)や下永田ら(2023)が大学生を対象に行ったCLIL体育に対する意識調査では、特に英語もしくはスポーツに自信のある学生が興味を示した一方で、苦手意識や授業内コミュニケーションに関する不安を口にする学生も少なからずいました。しかしながら、これらの意識調査の結果に反して、日本国内で実際に行われたCLIL体育の実施後アンケートの結果を見ると、英語でスポーツを行うことを日本の児童生徒が肯定的に捉えていることがわかります。

公立中学校の2年生を対象にしたバスケットボールの授業におけるCLILの研究(Ito 2019)では、特に英語が好きではない生徒がCLILを楽しんでいたことが事後インタビューにより示されています。Coral(2013)の研究でも、スポーツ好きであることが英語学習に肯定的な影響を与えることが報告されています。

逆に、磯村(2022)の研究では、体育の授業が特に好きではない生徒がCLILの導入により授業を楽しんでいた例が紹介されています。伊藤(2019)が高専生を対象に行ったバレーボールのCLILでは、授業を楽しんだと回答した生徒のうち、英語が不得意な生徒と体育が不得意な生徒が半数ずつを占めました。

これらの研究結果は、児童生徒が英語かスポーツのどちらかが好きであればCLIL体育を楽しめる可能性を示唆します。

スポーツを通して英語を学ぶことは特に早期英語教育において有効であると考えられます。英語を身近に感じ、遊びの中で英語を学習する機会を与えるという点において、歌やビデオ教材を通して英語を覚えるのと同様の効果が得られることが期待されます。

CLIL では必ずしも英語のみを使わなければならないというわけではなく、授業や教育活動において母語よりも英語の使用を増やすことが CLIL の根本理念です。例えば、スポーツに関する説明は日本語で行い、実際のプレーにおいて英語を使うなど、子どもの英語レベルに応じた CLIL 体育やスポーツ指導における英語使用を行えばよいのです。

こうして考えると日本におけるCLIL体育は中高等学校よりも小学校低学年時や幼稚園、保育園などで導入されることが特に有効かもしれません。近年では AR(拡張現実)を用いたCLIL体育の試み(Fazio & Isidori 2021)なども紹介されており、体育授業やスポーツ指導における英語教育の導入がさらに容易になることが期待されます。早期英語教育を含めた英語教育研究がますます盛んに行われて、スポーツも含めた様々な英語学習の選択肢が身近になることが望まれます。

 

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参考文献

Christopher, A. A., Dzakiria, H., & Mohamed, A. H. (2012). Teaching English through sports: A case study. Asian EFL Journal, 59(4), 20-29.

 

Coral, J. (2013). Physical education and English integrated learning: How school teachers can develop PE-in-CLIL programmes. Temps d’educació, (45), 41.

 

Coral, J., & Lleixà, T. (2016). Physical education in content and language integrated learning: successful interaction between physical education and English as a foreign language. International Journal of Bilingual Education and Bilingualism, 19(1), 108-126.

https://doi.org/10.1080/13670050.2014.977766

 

Devos, N. (2012). Content and language integrated learning in physical education: Evidence for language and content scaffolding during peer interaction. In Learning Autonomy in the English Classroom: Empirical Studies and Ideas for Teachers.

 

Fazio, A., & Isidori, E. (2021). Technology-enhanced learning and CLIL For physical education. eLearning & Software for Education, 3.

DOI:10.12753/2066-026X-21-144

 

Ito, Y. (2019). The Effectiveness of a CLIL Basketball Lesson: A Case Study of Japanese Junior High School CLIL. English Language Teaching, 12(11), 42-54.

 

Lamb, P., & King, G. (2020). Another platform and a changed context: Student experiences of developing spontaneous speaking in French through physical education. European Physical Education Review, 26(2), 515-534.

https://doi.org/10.1177/1356336X19869733

 

Salvador-García, C., Capella-Peris, C., Chiva-Bartoll, O., & Ruiz-Montero, P. J. (2020). A mixed methods study to examine the influence of CLIL on physical education lessons: Analysis of social interactions and physical activity levels. Frontiers in Psychology, 11, 578.

https://doi.org/10.3389/fpsyg.2020.00578

 

Salvador-García, C., Chiva-Bartoll, O., & Capella-Peris, C. (2022). Bilingual physical education: the effects of CLIL on physical activity levels. International Journal of Bilingual Education and Bilingualism, 25(1), 156-165.

https://doi.org/10.1080/13670050.2019.1639131

 

磯村美菜子 (2022) マット運動の授業における CLIL 体育の実践に関する研究 「広島大学中等教育研究紀要」 68巻 87-93

 

磯村美菜子・冨岡宏健・岩田昌太郎・重元賢史・住田哲太朗・齊藤一彦 (2023) 「保健体育科における CLIL 体育の教材開発に関する研究−体育実技の授業実践を通して−」 広島大学 学部・附属学校共同研究紀要 50巻 30-37

https://doi.org/10.15027/53767

 

伊藤耕作 (2019) 「高専 1 年生に対する体育 CLIL の可能性 (2)―英語を使用したバレーボールの授業を事例として―」 大学英語教育学会中国・四国支部研究紀要 16巻 139-156

 

下永田修二・谷藤千香・岩井幸博・杉山英人・佐野智樹・小泉岳央 (2023) 「大学スポーツ科目において英語を用いた実技を行うことに対する学生の意識について」 千葉大学教育学部研究紀要 71巻 79-89

 

常行・長谷川雅世 (2018) 「大学体育における学生のニーズに関する研究−英語による CLIL 導入の可能性に着目して−」 高知大学教育学部研究報告 78 187-192

 

 

 

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