日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。
2023.09.15
ALT(Assistant Language Teacher)が日本の小中高に配置されてから30年近くが経とうとしています。現在もALTの需要が加速する中、特に英語が教科化された小学校での需要が大きく、多くの場合、小学校では担任とALTのティーム・ティーチング体制がとられているといいます。
このコラムでは、小学校におけるALT活用の歴史と現状を振り返りつつ、小学校教員とALTが2人体制で行うティーム・ティーチングにおける課題とその具体的な解決案を提案していきます。小学校で英語の指導を担当する小学校教員たちが自信を持ってALTとの授業に臨むためのヒントとなれば幸いです。
※画像はティーム・ティーチングのイメージです。
【目次】
英語教育関連のお仕事をされている方、実際に教員として公立学校で働いている方、お子さんが日本の公立学校で教育を受けている方はALTという単語を耳にしたことのある方が多いのではないでしょうか。ALTとはAssistant Language Teacherの略で、日本語では外国語指導助手とも呼ばれており、文部科学省によって2002年に初めて日本の公立小学校に導入されて以来、文科省による英語教育改革などの影響でその需要は増え続けています。
これまで日本の公立学校に派遣されたALTたちは主に、「語学指導等を行う外国青年招致事業」通称「JETプログラム (※1)」を通して派遣されてきました。ALTの導入の経緯と歴史を紐解くため、まずはこのJETプログラムとはどんな事業なのかを見ていきましょう。
JETプログラムとは、外務省、文部科学省、総務省、一般財団法人自治体国際化協会(CLAIR)の協力のもと、地方自治体が実施しているもので、海外から青年を招き、地方の教育委員会や全国の小・中・高等学校で国際交流業務と外国語教育のために働く機会を提供しています。これにより、地域レベルでの国際化を目指すことが目標とされています。実はプログラム自体は1987年に開始されており、2023年7月1日時点で世界78カ国から7万7千人以上が参加しているそうです(JET Programme https://jetprogramme.org/ja/about-jet/)。
JETプログラムの参加者は、①ALT(外国語指導助手)、② CIR(国際交流員)、③ SEA(スポーツ国際交流員)のうちいずれかの職種を選択し、来日しています。どの職種も地域への外国語教育の普及と国際化の促進を目標としています。このコラムでは主に、このJETプログラムによって来日したALTたちの現状や、小学校教員とのティーム・ティーチングを行う取り組みや今後の課題について紹介していきます。
図1 JETプログラムへの参加者(JET Programme https://jetprogramme.org/ja/about-jet/)
ALTの小学校での主な役割は、学級担任または教科等担当教員とのティーム・ティーチングを行うことです。ALTは基本的に学級担任や担当教員の指導のもと、授業に関わる補助をすることが求められます。以下、詳しい業務内容を見ていきましょう(文部科学省, 2011年)
① 授業前:学級担任または担当教員が作成した指導計画書や学級指導案に基づき、授業の打ち合わせを行い教材作成等を補助する
・ 授業の目的やめあてを理解し、指導内容を理解する
・ 指導の手順、役割の分担
・ 教材の準備やその補助
② 授業中:学級担任や担当教員の指導のもと授業を補助する
・ 活動についての助言、説明
・ ロールプレイなどによる例の提示
・ 音声、表現、文法等についての助言
・ 生徒との会話
・ 母国の文化や言語についての情報シェア
③ 授業後:学級担任または担当教員とともに業務に関する評価をし改善点について話す
小学校の担任教員や担当教員とALTとのティーム・ティーチングの業務内容を理解したところで、ここからは実際に担任教員や担当教員とALTが業務を行う上で発生することの多い課題について取り上げていきたいと思います。これまでに報告されている課題を知り、その原因を探ることは今後のALTと担任・担当教員間のティーム・ティーチングの質を上げるために重要なことです。
佐田久(2020)は公立小学校において、特別な配慮を要する児童に対するALTによる支援の実態と課題について調査を行っています。公立小学校には一定数、言葉の発達に遅れのある児童やコミュニケーションが苦手な児童が在籍しています。母国語の発達にも課題が残る中、外国語の学習や学習環境は心理的にさまざまな影響を及ぼすだろうと考えられます。集団行動やコミュニケーションを避けようとする特性のある児童にとって、英語の授業内で積極的に会話をすることが難しい場合もあります。一方で、英会話中の体験や非言語コミュニケーション(表情やジェスチャーなど)によるやりとりが彼らの成長につながることもあります。配慮の必要な児童たちが英語を学ぶことについての課題も残る中、ALTとのコミュニケーションには児童が成長する可能性がありますし、これからも特別な配慮の必要な児童とALTとの関わりは増加していくでしょう。
JETプログラムの一環で来日し、公立学校に派遣されているALTたちは来日後に研修を控えており、その研修中にALTとして活動する際の支援、指導方法、メンタルサポートのシステムなどを学ぶ機会などが与えられます。しかし、特別な配慮を必要とする児童への指導方法や関わり方に特化した研修はなく、配属校からの助言や一緒に授業を行う担当教員との連携に委ねられていると言います。
佐田久(2020)が調査対象としたALTは、男女比はほぼ5:5であり、年齢は23歳以上55歳以下です。ALTとしての勤務歴は3ヶ月〜22年と多岐に渡りますが、対象者のほとんどが1年〜3年以内だったということです。出身国はフィリピンが36.7%、アメリカ・オーストラリア・カナダのなどの英語圏が60%以上を占めています。
調査対象であったALTの全ての人が発達障害についての各用語への認識があり、発達障害・自閉スペクトラム症・ADHDを「知っている」と答えたそうです。しかし、自分の担当クラスに発達障害の児童が在籍しているALTに、担任やJETから事前説明があったか聞いてみると「滅多にない」と「全くない」と答えたALTが38%もいることがわかりました。
このような状況の中で、ALTたちに対して「気になる子」が在籍している授業で困っていることを自由記述で回答を求めると、以下のような回答が得られました。
・ゲームや活動などで周囲についていけない様子であること
・活動自体が理解できず参加できない様子で、小さな虫に夢中になっていたり、自己のルールにこだわり、一定の場所から離れなかったりする。
・授業に参加してくれない児童にペアワークを促すのが難しい
・障害のためなのか、単なるいたずらなのか判断しにくい
・ゲームに競い合ってしまう
・英語を話さない担当教員と日本語を話さない自分(ALT)が子供達の支援について話すことが難しい
・支援が必要な児童についての説明がないため、自分でADHDかどうか、他の障害がある のかどうか想定して関わっている
大谷(2009)の研究では、人口20万人を超えるA市に勤務するALT10名を対象に、ALTとして勤務をする上で満足している点、困難に感じている点についてアンケート調査を行いました。
調査対象となったALT10名のうち、勤務年数1年もしくは2年のALTがそれぞれ2名、3年のALTが6名でした。
以下、表1にはALTとして勤務する上で満足している点に関するアンケート結果、表2には困難に感じている点についての結果を掲載しました。
表1 ALTとしての満足感の主要な項目(大谷, 2009)
表2 ALTとしての困難点の主要な項目(大谷, 2009)
表1のALTとして満足と感じている点に関する回答からは、中学校で勤務するALTからは主に「生徒と関わる時間を楽しんでいる」ということに関する記述が多い一方、小学校勤務のALTからは「児童の英語学習に対する積極性」に関する記述が多いことがわかります。中学校のALTからは回答されなかった点としては、「担任や担当教員が授業の主導権を握るよりも、ALTに任せる部分が多い(ALTが授業をつくる)」がありました。中学校のALTは授業を丸投げされているとは感じていないようです。
表2のALTが感じている困難な点についての回答からは、以下のことが明らかとなりました。中学校の授業に関しては、教科書や文法、書くこと、暗記中心の授業によるスピーキング、コミュニケーション活動の不足への疑問やテープレコーダー代わりとしてのALTの活用が指摘されています。また、教員に関しては、打ち合わせ時間の不足や時間割・学校行事の伝達不足など「教員とALTのコミュニケーション不足」が困難な点だとわかります。
一方、小学校のALTからは授業内容に関するコメントが多く得られました。「フォニックスが必要なのではないか」「アルファベット学習の充実が求められる」「英語ノートに執着している」等について指摘されていることから、文部科学省が提示する指針についてALTがどのくらい理解できているか、その指針や趣旨について教員とALTがどのように相互理解を図るかが課題となりそうです。教員に対しては、担任の授業への積極的な参加が求められていることがわかります。「教室の後ろに立っている」「授業に関わらない」「黙って教室を出ていく」等のコメントが見られました。
以上、特別な配慮を要する児童に対するティーム・ティーチングに関する課題と、小学校外国語活動におけるALTの活用に関する課題を紹介してきました。ここからは、これらの課題とどのように向き合っていくべきか、その解決策について考えていきたいと思います。
まず、特別な支援を必要とする児童へのティーム・ティーチングに関する課題の解決について見ていきましょう。この調査に参加したALTら本人が自ら実践している授業での工夫は以下の通りです。
・課題を出すときは、彼らがゆっくりと取り組めるよう工夫している。例えば、時間を多めに与えたり、一度に与えるのではなく1つ達成したら次、というように様子を見ている。
・他の児童と同じように接している。
・特別支援教員や教育支援員といった加配の教員が入ってくれた時は、彼らに接し方を確認している。
・課題にできるだけ参加するように促している
・ゲームに負けて泣いてしまったり参加できなくなってしまう子は一時授業から離したりする。
このように、ALT自らが率先して特別な配慮の必要な児童に工夫をして接しているものの、やはり担任や学校、JETプログラムなど外部からの支援や研修が必要とされています。平成19年から特別支援教育が本格的にスタートしてからは、学校教育における発達障害支援が進んでいます。ALTによる支援の必要な児童への接し方についても、多職種が連携して子供たちを支援する仕組みが必要となっていくでしょう。具体的には、英語が堪能な特別支援コーディネーター、スクールカウンセラーなどが教室の中に介入するなどの対策が必要となるでしょう。
続いて、小学校外国語活動におけるALTの活用に関する課題に対する解決策について、先行研究から考えてみましょう。池田(2009)は、ティーム・ティーチング(通称TT)を成功させる上で大切にしたいポイントを紹介しています。それは、以下の3点になります。
1. 足場がけに伴う時間的、精神的余裕の醸成
2. 指導案に関する担任とALTとの意思統一
3. 担任とALTとの異文化相互理解
ティーム・ティーチングの成功例を分析したところ、管理職や英語担当教員が積極的に担任とALTの話し合いができる機会をセッティングしたり、時間的な余裕を保証することが最も重要であると明らかになったそうです。その際に、担任とALTが一緒に指導案やスクリプトを予習することでその日の授業内容と目標をしっかりと理解しあっていました。
また、この機会が良い契機となり、クラス運営や注意しなければいけない児童への対応に関してもお互いに共有することができるそうです。したがって、ティーム・ティーチングを成功させるためには、担任とALTのお互いが教育に対する信念や教育経験を含めた異文化理解をお互いにし合うことが大切だとわかります。
このコラムではここまで、小学校外国語教育におけるALTの役割とティーム・ティーチングを行う上での課題、そしてその解決策について取り上げてきました。いかがでしたでしょうか?
児童が異文化に触れ、海外への興味を広げるための足場がけとしての役割が大きいALTですが、担当教員や担任とのティーム・ティーチングを行う際の課題も残されていることがわかりました。今後ますますALTの需要が増える中、ALT自身がしっかりと自分が担当するクラスの実態や児童の特性を理解した上で、担当教員や担任とコミュニケーションをする時間を確保することが重要となります。さらに、管理職や英語担当教員、そして特別支援コーディネーターやスクールカウンセラー、JETプログラム参加者など、さまざまな職種が介入することが、ティーム・ティーチングの成功の秘訣だとわかりました。
(※1)語学指導等を行う外国青年招致事業 (The Japan Exchange and Teaching Programme ) の略称。地方自治体が総務省、外務省、文部科学省及び一般財団法人自治体国際化教会 (CLAIR)の協力のもとに実施している。
■関連記事
池田真生子.(2009). ALT とのティーム・ティーチングを支えるもの: 小学校英語におけるケース・スタディ. 小学校英語教育学会紀要, 9, 47-54.
https://doi.org/10.20597/jesjnl.9.0_47
JET Programme The Japane Exchange and TeachingProgramme「JETとは」(2023年8月24日取得)
https://jetprogramme.org/ja/about-jet/
文部科学省(2011)「(別紙) 文部科学省が一般的に考える外国語指導助手(ALT)とのティーム・ティーチングにおけるALTの役割」(2023年8月31日取得)
https://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/1304113.htm
文部科学省 「参考資料集」(2023年8月31日取得)
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/04/17/1415043_06_1.pdf
仲沢淳子, 狩野晶子. (2022). 小学校英語教育における ALT の役割の変遷─ 小学校教員へのアンケート調査結果分析より─. 紀要.
大谷みどり, 築道和明. (2009). 小学校外国語活動における ALT の活用の在り方に関する基礎的研究—ALT に対する予備的調査を通して—. 島根大学教育学部紀要 (教育科学), 43, 21-29.
https://ir.lib.shimane-u.ac.jp/6980
Pearce, D. (2021). 隠された多様性―非英語圏出身の外国語指導助手 (ALT) とのティーム・ティーチング. 言語文化研究, 9, 1-26.
佐田久真貴, Chua Karen. (2020). 特別な配慮を要する子どもへの ALT による支援の実態と課題─ 公立小学校 ALT へのパイロット調査結果─.
http://hdl.handle.net/10132/18920