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2021.02.02

小学校英語教育で必要となるALTに関する研究とは〜新型コロナウイルスの影響からの考察〜

小学校英語教育で必要となるALTに関する研究とは〜新型コロナウイルスの影響からの考察〜

小学校英語教育ではALT(外国人指導助手)の配置拡大が続いていますが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、海外で採用した人材の入国が遅れています。今回は、ALTが予定通り授業に参加できない、という問題を出発点に、小学校におけるALTの効果について考えます。

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【目次】

 

英語教育改革で需要が高まるALT

日本では、東京オリンピック開催が決まった2013年ごろから英語教育の改革が本格的に進められてきました。小学校でのALT配置拡大はその一つであり(文部科学省, 2013)、ALTの人数は2013年度から2019年度にかけて2倍近くに増加しています。

グラフ ALT活用人数の推移(文部科学省統計データより)

 

文部科学省(2019a)によると、ほとんどの小学校が「教師とのやり取りを児童に示す/やり取り・発表のモデル提示」や「発音のモデル・発音指導」、「児童のやり取りの相手」にALTを活用しており、そのほか「児童の発言や作文等に対するコメント・フィードバック」や「パフォーマンステスト等の補助」をALTが行っている学校も多くあります。

ALTは、本来、授業を担当する教員(学級担任など)の指導を補助する役割を担います。しかし実際には、小学校の場合、3人に1人以上のALTは、授業を自分一人に任されていると感じており、8割を超えるALTが授業の計画・準備の大部分を任されていることが報告されました(上智大学, 2017)。

小学校英語教育では、文部科学省が想定している以上に、ALTが重要な役割を担っていると推測されます。

 

新型コロナウイルス感染拡大による影響

このようにALTの需要が増えているなか、2020年は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、海外で採用したALTの一斉入国が困難となりました。東京読売新聞(2020, December 3)によると、12月初旬時点で、JETプログラム(※1)で来日予定のALT約2100人が着任できていない状況です。

全国の小学校ALTのうち、JETプログラムによるALTが占める割合は約20%であり(文部科学省, 2019a)、それほど多くありません。しかし、その割合は、地域によって大きな差があります。JETプログラムによる外国人人材の要望は、大都市よりも、小・中規模の都市や小さな町・村のほうが多く(CLAIR, 2015)、JETプログラムに頼っている地域ほど影響が大きいと思われます。

例えば、神戸市はそのような地域の一つであり、任期を終えたALTが帰国する一方で9月に入国予定だった新任ALTが来日できず、兵庫県内では2020年5月時点で計409人だったALTが12月には計294人に減りました。再任用や民間派遣で人数を確保しながらも、2021年1月中旬以降に順次来日予定のALT(※2)を100人以上待っている状況です(長谷部, 2020)。

 

グラフ 令和元年度小学校ALTの活用状況

 

表 令和元年度 小学校ALT活用人数に対するJETプログラムALTの割合

 

英語教育におけるALTの効果とは

このようなALT不足に関するニュースでは、学校や教員側が困っている、という視点のものがほとんどであり、子どもたちへの影響については取り上げられていません。英語の授業にALTがいない場合、子どもたちの英語学習にどのような変化が起きるのでしょうか。

英語教育に関する研究分野では、教員やALTの指導の実態や課題、意識調査などの研究は数多くあります。しかし、ALTから子どもたちがどのような影響を受けるか、ALTがいる場合といない場合で学習にどのような違いが出るか、といった子どもの立場に立った研究はなかなか見当たりません。数少ないそのような研究のなかで一つご紹介します。

この研究は、福岡市内の公立小学校85校で行われたものです(阿部, 2008)。対象は、小学3年生〜6年生の約9300人で、学校外で英語を習っている子どもは除外。年間の英語授業時数(※3)とそのうちALTが参加する授業の割合(※4)によってグループ分けし、アンケート調査の回答が比較分析されました。

結果、ALTがほぼ毎回来る学校の児童は、そうでない学校の児童よりも、コミュニケーションへの関心・意欲(※5)が高いことがわかりました。また、ALTが毎回来ない学校の場合、来る頻度が2回に1回程度なのか、3回に1回以下なのか、ということによる影響の違いは見られませんでした。つまり、ALTの参加頻度が少なくても工夫次第で良い効果を生むかもしれない、ということです。

子どもたちの関心や意欲には、授業時数や学年など、ALT以外の要素が影響することも示されましたが、ALTの授業参加は「英語を使って話したい」という気持ちを育てる要因の一つになることがわかります。

公立小学校124校(1年生〜6年生)の学級担任を対象としたアンケート調査(菊田・牟田, 2001)では、ALTが子どもにとって親しみやすい存在になるような指導行動(児童一人ひとりと挨拶する/一緒に歌う/自分のことや自分の国について話す)をとると、活動の楽しさや英語でコミュニケーションを図ろうとする態度につながることが示されました。また、動画を活用した発音指導を試みた研究(藤本ほか, 2007)によると、動画に登場する人物は、他校のALTよりも、慣れ親しんでいる自校のALTが子どもたちに好まれることもわかっています。

ALTの存在がどのように子どもたちの英語学習に影響するかは、まだ広く研究されていないため、はっきりと結論づけることはできません。しかし、ALTへの親近感が英語を学びたい、使いたいというモチベーションを高める可能性は十分あると言えます。

 

小学校英語教育におけるALTの効果を明らかにすることが重要

文部科学省(2020)は、入国の延期によってALTが予定通り授業に参加できない場合は、ALTの配置計画や年間の授業計画を見直すほか、実演の替わりとなる動画の撮影、ビデオ通話などによる遠隔でのティームティーチングや交流、デジタル教材の活用、英語が堪能な地域人材の採用、海外生活・勤務経験者や海外留学生への協力依頼などの対応をするよう周知しています。

2019年度の時点では、ICT機器を活用して遠隔地のALTとのティームティーチングを行ったり、子どもたちが英語を話す人と会話する機会を設けたりしている小学校は全体の2〜3%(文部科学省, 2019a)でした。各地の報道を見ると、今回のALT不足を機に遠隔授業に取り組んでいる地域があり、今後は遠隔授業やICT教育の普及が進むと考えられます。また、ALTが出演する動画を制作したり、国内での人材確保を試みたり、自治体ごとにさまざまな対応が行われています。

しかし、そのような対応を進めると同時に、小学校英語教育におけるALTの効果を明らかにすることは重要だと考えられます。

新型コロナウイルスの影響に限らず、ALTの確保には、人材コストや地理的な困難(過疎地域やへき地など)など、さまざまな障壁があるため、ALTの効果を理解したうえで効率よく配置しなければなりません。また、小学校では、昼食の時間や学校行事などの授業外で子どもたちと英語で会話する機会をもっているALTが9割近くいる(上智大学, 2017)ため、もしこのような関わりによる親近感が子どもたちの英語使用に対する関心・意欲に影響しているとすれば、遠隔授業やICT教育にも限界がある可能性もあります。

ALTの確保が難しい今だからこそ、ALTの良さとは何なのか、ALTにしかできないことは何なのか、学校現場の感覚だけではなく、実証的な研究を行なったうえで考えていく必要があるのではないでしょうか。

 

(※1)総務省、外務省、文部科学省、CLAIR(一般財団法人自治体国際化協会)が運営する語学指導等を行う外国青年招致事業。外国語教育の充実と地域の国際交流推進を図ることを目的とする。地方自治体の要望に基づき、外国語指導助手(ALT)や国際交流員(CIR)、スポーツ国際交流員(SEA)が配置される(CLAIR, 2019)。

(※2)複数回のPCR検査、入国後2週間の隔離生活、オンライン研修などの感染防止対策が行われている(長谷部, 2020)。

(※3)年間30時間以上、16〜29時間(平均20時間程度)、15時間以下の3グループに分けられた。

(※4)ほぼ毎回、ほぼ2回に1回、3回に1回以下の3グループに分けられた。

(※5)アンケートの質問項目は「英語の時間にALTの先生と英語で話したい」、「英語の時間にALTの先生に身振り手振りを使っても話したい」、「英語の時間に友達と英語で話したい」、「英語の時間に担任の先生や他の日本人の先生と積極的に話したい」、「英語の時間に英語で話をすることは楽しい」、「英語の時間以外にも、言葉に関係なく、色々な人と話したい」、「ALTの先生が言っている英語を一生けん命に聴いていると思う」であった。

 

■関連記事

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参考文献

CLAIR(2015).「よくある質問」,『JET PROGRAMME』. Retrieved from

http://jetprogramme.org/ja/nin-pamphlet/

 

CLAIR(2019).「語学指導等を行う外国青年招致事業:JET Programme」. Retrieved from http://jetprogramme.org/wp-content/MAIN-PAGE/COMMON/publications/JETプログラムパンフレット.pdf

 

阿部始子(2008).「小学校英語活動における児童のコミュニケーションに対する認識:年間授業児数とALTの回数の違いが児童の認識に与える影響」.『福岡女学院大学紀要・人学部編』, 18, 25-84. Retrieved from

http://hdl.handle.net/11470/478

 

菊田怜子・牟田博光(2001).「公立小学校の英会話活動において指導行動が及ぼす効果」.『日本教育工学雑誌』, 25(3), 177-185.

https://doi.org/10.15077/jmet.25.3_177

 

上智大学(2017).「小学校・中学校・高等学校におけるALTの実態に関する大規模アンケート調査研究 最終報告書」. Retrieved from

https://www.bun-eido.co.jp/aste/alt_final_report.pdf

 

東京読売新聞(2020, December 3).「英語授業 オンライン講師 小学校、コロナ対策」.『東京読売新聞(夕刊10ページ)』. Retrieved from 日経テレコン.

 

長谷部崇(2020, December 10).「新型コロナ ALT110人、来月から入国 兵庫県内15自治体着任 2週間隔離措置」.『神戸新聞(朝刊25ページ)』. Retrieved from 日経テレコン.

 

藤本義博・宮地功・尾島正敏・Ian McGrath(2007).「小学校英語科の発音練習における動画コンテンツの活用」.『教育システム情報学会誌』, 24(4), 423-428.

https://doi.org/10.14926/jsise.24.423

 

文部科学省(2013a).「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」. Retrieved from

https://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/1343704.htm

 

文部科学省(2013b).「平成25年度 公立小学校における英語教育実施状況調査の結果について」. Retrieved from

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文部科学省(2014).「平成26年度 公立小学校における英語教育実施状況調査の結果について」. Retrieved from

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文部科学省(2019b).「令和元年度「英語教育実施状況調査」の結果について:都道府県別一覧表:ALT活用人数(小中高)及び小学校」. Retrieved from

https://www.mext.go.jp/content/20200715-mxt_kyoiku01-000008761_1.pdf

 

文部科学省(2019c).「令和元年度「英語教育実施状況調査」の結果と今後の取組について」. Retrieved from

https://www.mext.go.jp/content/20200715-mxt_kyoiku01-000008761_1.pdf

 

文部科学省(2020).「小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校における外国語指導助手(ALT)等を活用した学習の確保について」. Retrieved from

https://www.mext.go.jp/content/20200713-mxt_kouhou01-000004520_3.pdf

 

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