日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。

2023.08.09

英語を学んでいる日本人もバイリンガル? 〜Blake Turnbull講師インタビュー(後編) 〜

英語を学んでいる日本人もバイリンガル?  〜Blake Turnbull講師インタビュー(後編) 〜

大谷大学(京都府)のBlake Turnbull(ブレイク・ターンブル)講師へのインタビュー記事後編です。

 
【目次】

 

効果的なトランスランゲージングにするためには?

―トランスランゲージングの考え方や授業実践は、とても興味深いですね。でも、きっと先生のところにはいろいろな質問が寄せられていると思います。例えば、生徒に両方の言語を使う自由を与えると、結果的に強いほうの言語しか使わなくなってしまうのではないでしょうか?

何よりもまず、トランスランゲージングは戦略的で、かつ目的意識をもっていなければいけません。仕組みが整っていない状態で、ただ「どんな言語でも使っていい」と教師が言うだけでは不十分です。教師は、単に物事を簡単にするためというよりも、学習目標をよりよく理解し、事実上のエマージェント・バイリンガルとして学ぶためなのだ、ということを生徒たちが理解するように、すべての言語資源を使う理由を説明することができます。そうすることで、生徒たちは「学習を簡単にする」ためのものというよりも、全体的な言語発達に役立つツールとして日本語を捉えるようになります。

生徒たちの成長には、教師だけではなく、当事者である生徒自身も責任や役割を持って関わるべきです。そして、生徒たちは、なぜ単に永遠の「言語学習者」としてではなく、エマージェント・バイリンガルとして、自分が持っている言語レパートリーをフルに活用する権利があるのかを理解するべきです。

 

―日本では、子どもたちに与えられる英語のインプットの量はもともと限られています。トランスランゲージングのような実践は、すでに不足している英語のインプットをさらに奪うことにならないでしょうか?

この疑問は、おそらく、トランスランゲージングが最も大きく誤解されている批評の一つだと思います。つまり、トランスランゲージングは目標言語に浸らせることから遠ざかってしまう、という批評ですね。でも、トランスランゲージングの重要な要素の一つは、実に体系的でなければならない、という点です。教師は、(多くの言語教育プログラムで必要とされる評価を目的として)英語に焦点を当てた時間や活動を用意するべきですが、同時に、トランスランゲージングを自由にできる時間も確保するべきです。簡単なことではありませんが、もし教師が授業内でそれらをバランスよく割り当てることができれば、生徒の役に立つでしょう。

 

―日本の生徒は、教師やクラスメートとのやりとりではなく、教科書や映像などの教材が主な英語インプットになっていることが多いですよね。その点を考えると、トランスランゲージングによって英語のインプットが減ってしまう、ということはあまりないかもしれませんね。英語力があまりない教師でも、このテクニックを使えますか?

教室でトランスランゲージングを実践するにあたって、教師が両方の言語に堪能である必要はありません。実際、完全にモノリンガルの教師であっても、トランスランゲージングを実践することができます。この場合、トランスランゲージングを実践する理由を説明したあと、どの言語を使うか、というコントロールを生徒たちに少し譲って、生徒たちは自らの学びをサポートするために自分が知っている言語を使ってくれるはずだ、と信じなければなりません。もし、教師がすべてを理解して生徒たちをコントロールする必要があると感じるのであれば、トランスランゲージングのアプローチはその教師や生徒たちにとってうまくいかないでしょう。

トランスランゲージングは、生徒が自分の経験や言語を活用して、自らの学びをサポートしやすくします。そのため、生徒たちがそれぞれの言語をリソースとして使ってお互いに関わり合い、共に学ぶ場(「トランスランゲージング・スペース」と呼ばれる)をつくることが不可欠です。

日本では、従来よりも低年齢である小学3年生から英語が必修科目になったので、教師はこれまでやったことのないことをやらなければならなくなりました。これは簡単なことではありません。だからこそ、もしトランスランゲージングを授業に役立てるのであれば、教員の養成課程に組み込む必要があると思います。そうすることで、教師は、授業で英語だけを使うことに苦手意識を持つのではなく、もっと安心して母語である日本語を使い、戦略的かつ有意義な方法で教室での学びをサポートできるようになるでしょう。

 

―先生の授業でこのような実践をしたとき、良い効果が見られたことはありますか?

自分の授業でトランスランゲージングを実践していますが、それが生徒のためになっていることは確かだと思います。修士課程と博士課程では、トランスランゲージングが英語授業でのリーディングとライティングをどのように手助けするか、ということを研究しました。どちらの研究でも、学生たちがリーディングやライティングのタスクにどう取り組むか計画する段階(例:何を書くか考えたり話し合ったりする活動)でトランスランゲージングの方略を使って学んだほうが、より理解(読解力)が深まり、より質の高い文章を書けることが示されました。

 

―子どもの場合は、トランスランゲージングをどのように当てはめて考えることができますか?

日本ではほとんどの場合、大学生になった時点で、「自分はバイリンガルではない」と思い込んだまま20年近くを過ごしてきたことになります。それはアイデンティティの問題であると同時に、実用上の問題でもある。教室内で英語を使うだけでは、生徒たちに実社会に出る準備をさせているとは言えないと思います。日本の子どもたちは、エマージェント・バイリンガルとして、成長するにつれて、さまざまな文脈で日本語や英語を使う機会を持つようになります。授業は、そのようにあらゆる言語能力を使う練習を小さいころからできるように手助けする機会です。、子どもたちは、その練習を通じて、自分が持っている知識を最大限に活用し、将来の仕事、旅行、人間関係に結びつく日々の生活に活かすことができるようになります。

 

日本の外国語教育で当たり前になることを願って

―今後は、どのような研究プロジェクトに取り組みたいと思っていますか?

現在は、トランスランゲージングがさまざまな文脈における日本人学生のアイデンティティや感情にどのような影響を与えるか、ということに興味を持っています。英語を学んでいる日本人学生が、自分をバイリンガルだと思えるようになれば、それはアイデンティティの変化です。アイデンティティの変化は、感情(自分や世界をどう見るか)の変化につながります。そのような変化が彼らにプラスに作用するのか、マイナスに作用するのかを調べてみたいですね。

また、トランスランゲージングがいつか日本の外国語教育で当たり前のものになることを願って、日本の文脈におけるトランスランゲージングの効果を裏づける実証的な証拠をより多く提示すること、そして、トランスランゲージングに関する教師トレーニングがもっと行われるように提唱することにも力を注いでいます。

 

おわりに:バイリンガル・コミュニティの一員として

最終的には、生徒が自分自身をどう見ているかが重要です。外国語の授業にトランスランゲージングを取り入れるには、教室での実践を外面的に変化させることと同じくらい、生徒たちに自分自身のバイリンガリズムを内面的に理解させることが必要です。

もし生徒が自分をバイリンガルだと認識していなければ、トランスランゲージングの手法を効果的に使うことは難しいかもしれません。そのため、「バイリンガルとは誰のことなのか」という概念を変えること、そして日本の生徒たちが、自分も幅広いバイリンガル・コミュニティの一員であると認識できるようにすることが重要なのです。

この考え方が定着すれば、生徒たちが自分の言語資源一式をフル活用できるように手助けすることは、学習や言語発達全般に役立つだけではなく、生徒の多言語性を肯定することにもなります。その多言語性は、生徒が教室を離れて自分の人生を歩む際にも、一人ひとりのニーズに応じて伸ばすことができます。

 

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【取材協力】

大谷大学 国際文化学部 講師 Blake Turnbull(ブレイク・ターンブル)博士

ブレイク・ターンブル先生のお写真

<プロフィール>

京都大学にて外国語習得・外国語教育論の博士号、ニュージーランドのオタゴ大学にて応用言語学(英語教育)の修士号を取得。主な研究テーマは、外国語教育におけるバイリンガリズム。特に、教師と学習者のトランスランゲージング実践について研究している。そのほか、言語学習者と教師がバイリンガルについてどのような信念を持っているか、学習者がどのようなアイデンティティを持っているか、日本の英語教育における新たな進歩などについて調査している論文や学会発表がある。

https://www.otani.ac.jp/kyouin/sfpjr7000000v8mr.html

 

■関連記事

あなたにとって「バイリンガル」とは何ですか?

 

参考文献

García, O. (2009). Bilingual education in the 21st century: A global perspective. Malden, MA: Wiley & Blackwell.

 

García, O., & Li, W. (2014). Translanguaging: Language, bilingualism and education. Basingstoke, UK: Palgrave Macmillan.

 

Grosjean, F. (2010). Bilingual: Life and reality. Cambridge, UK: Harvard University Press.

 

Lewis, G., Jones, B., & Baker, C. (2012) ‘Translanguaging: origins and development from school to street and beyond’, Educational Research and Evaluation, 18(7), 641–654.

https://doi.org/10.1080/13803611.2012.718488

 

Turnbull, B. (2018) ‘Reframing foreign language learning as bilingual education: epistemological changes towards the emergent bilingual’, International Journal of Bilingual Education and Bilingualism, 21(8), 1041–1048.

https://doi.org/10.1080/13670050.2016.1238866

 

Turnbull, B. (2020). Beyond bilingualism in Japan: Examining the translingual trends of a ‘monolingual’ nation. International Journal of Bilingualism, 24(4), 634–650.

https://doi.org/10.1177/1367006919873428

 

Turnbull, B. (2021) ‘Am I bilingual? Reporting on the self-reflections of Japanese EFL learners’, International Journal of Bilingualism, 25(5), 1327–1348.

https://doi.org/10.1177/13670069211019467

 

 

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