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2022.07.06

VRを活用した英語教育に期待される効果や未来〜中央大学 斎藤准教授インタビュー(後編)〜

VRを活用した英語教育に期待される効果や未来〜中央大学 斎藤准教授インタビュー(後編)〜

中央大学 斎藤准教授への取材記事後編です。

著者:佐藤有里

 

【目次】

 

英語教師にとってのVR活用の課題やメリット

ーVRを実際に外国語教育に活用するときには、どのような課題がありますか?

例えば、Oculus Quest 2(Meta社が開発したVRヘッドマウントディスプレイ)は4万円くらいなので、授業に参加している学生たち全員に用意するとなると費用面の難しさがありますね。

使うときにはその人のFacebookアカウントでログインしなければならないので、授業内で「じゃあ次は〜さんが使いましょう」というふうに一つの機器を使い回すことはなかなか難しいです。ですから、やはり人数分を用意するのがいいのかなと思います。

また、immerseの場合はVR空間に同時に入れる人数が8名までなので、どのように英語の授業で使うかという運用面の課題はありますね。ただ、私の部屋で8人の学生に指導している間に、待機ルームでほかの8名が自分たちでコミュニケーションをしてもらう、という方法もできるのかなと考えています。

VR酔いをしてしまったり、ヘッドマウントディスプレイが重いと感じたりする学生もいるので、課題はありますが、VRにはいろいろな可能性を感じています。

 

ー英語を教える教師にとって、VR活用は特にどのようなメリットがあるでしょうか?

ゼミの3年生がVR空間での授業を設計して2年生に英語を指導するプロジェクトを行ったのですが、VRを教育実習に活用するといいのではないかという考えがあって研究しています。

私自身もそうだったのですが、先生がVR授業を体験していないことには、VRの可能性は見えないと思うからです。

もし、教える側になってVRを使った英語授業をすることで、自分自身のスピーキング力が上がったり、クラスルーム・コントロールができるようになったりする、ということがわかれば、教育実習でVRを活用する、という提言ができるのではないかと考えています。

 

―たしかに、VRを使えば、実際に英語を使って英語を教える予行練習もできますね。

今日ゼミの学生が行っていたVR授業を見ていても、「〜しなさい」といった指示をするためのことばや励ましのことばをたくさん使っていました。

生徒という立場だと受け身になってしまいますが、教師役になることで自分から発言したり質問したりすることになるので、英語の使い方が変わります。

そのような体験をすることによって教師になるための準備になるのではないでしょうか。今後は、会話分析によって、先生役として参加した学生はスピーキング力が伸びたかどうか、といったことも見ていきたいですね。

VR空間でアバターを使って授業をすると、先生の外国語不安、つまり、自分の英語力に対する不安が低減することにもつながるのではないかと思います。

斎藤ゼミの3年生がVR空間での英語授業を設計して2年生に指導するプロジェクト

斎藤ゼミの3年生がVR空間での英語授業を設計して2年生に指導するプロジェクト

画像提供:斎藤 裕紀恵 准教授(中央大学 国際情報学部)

 

VRを活用した「グローバル・コミュニケーション・ツールとしての英語」の習得

―VRは、課題は多いものの、外国語教育においてさまざまな効果や活用法が期待できることがわかりました。先生はCEFR(※9)についても研究していらっしゃいますが、国際的な視点で考えると、VRなどの新しいテクノロジーにはどのような価値があると思われますか?

複言語主義、複文化主義に基づくCEFRは、言語教育はコミュニケーションのツールを身につけて異文化を理解するためのものであり、それが平和教育につながる、という理論が出発点になっています。

私自身も、語彙力を増やす、文法をマスターする、ということに主眼が置かれるのではなく、英語を使ってコミュニケーションをして世界の人とつながっていってほしいという想いをもって英語を教えてきたので、このコンセプトにとても惹かれてCEFRについても長年研究しています。

ウクライナで起きている現状もありますし、これから英語教育はどのようなものにしていくべきか、ということをすごく考えているのですが、グローバル・コミュニケーション・ツールとしての英語(English as a tool for global communication)を学んでほしいという思いがますます強くなっています。

VRなどのEdTechは、そのような英語を身につけることを可能にする一つの方法だと考えています。

 

―「グローバル・コミュニケーション・ツールとしての英語」とは、どのような英語力でしょうか?

欧州評議会(Council of Europe)が出している「English Profile Studies」の中で論文(※10)を書いたのですが、グローバル・コミュニケーション・ツールとしての英語は何かと言うと、

“The ability in English to think critically and objectively, and to convey thoughts and ideas in an organized manner through pair work, discussion, and presentation as well as the ability in English to understand and convey other cultures as well as our own cultures.”

「英語で批判的・客観的に考え、ペアワークやディスカッション、プレゼンテーションで考えや意見を整理して伝える力、および、英語で自分自身の文化もほかの文化も理解して伝える力。(IBS訳)」

です。異文化理解が必要ということで、学生たちには、批判的・客観的に考える力をペアワークやディスカッション、プレゼンテーションを通じて身につけてほしいと思っています。

 

―異文化理解を促進するために必要な英語力ということですね。

これは、CEFRの考えが基になっています。CEFRは、2018年に補足版(※11)、2020年に完成版(※12)が発表されて、その中でmediation(メディエーション)、つまり、仲介する力の必要性が強調されています。

補足版の発表後に開催されたカンファレンス(国際会議)に参加したのですが、英語などの異なる言語を使って国と国の対話を促進したりすることがこれからはますます必要になる、と言われていました。例えば、日本の学生がアメリカに行ったら、日本の代表として、日本側の意見を伝える役割を果たしながら仲介する力が必要、ということですね。

こういう時代だからこそ、学生たちには英語を学ぶ意味をもう一度考えながら、英語を使っていろいろな国の人とつながったり、問題について一緒にディスカッションをしたり、考える力を身につけたりしてほしいと思っています。

 

―具体的には、どのようにVRを活用できるでしょうか?

まずは、自分のゼミや担当している授業の学生たちと海外の大学の学生たちをつなげて、COIL(※13)のような協働作業をしたりする機会をつくりたいと考えています。

例えば、去年と今年は、ミシガン州立大学(アメリカ)の学生とZoomでつながってテレコラボレーション(地域や国境を超えて複数の教室をつなげる取り組み)をしてきたのですが、Zoomの代わりにVRを使うことができます。

異なる国の学生たちが同じ場面を見て共感したり考えたり、一緒に話し合ったり、お互いの文化を理解したりするような異文化理解教育をVR空間の中で実現できれば、自分がこれまで研究してきたCEFRの考え方と、いま新たに研究しているVRを活用した英語教育をつなげることができるのではないかと思っています。

VRには、「楽しい」ということはもちろんですが、実際にそこにいるような感覚や、離れている人同士であっても一緒に何かをしている感覚を味わえる、という特性があるので、この特性を活かしたいですね。

 

―VRを活用すれば、異文化理解教育においても新たな可能性が広がるのですね。

私は、英語教育は世界の人々とコミュニケーションできるようにするためのものだと考えていますし、世界で働くためには現状を理解していなければいけないので、英語教育と異文化理解を切り離したくないですし、切り離せないと思っています。

VRなどのEdTechを使って英語を学ぶことによって、平和について考える機会を増やしたり、自分でアクションをとったりすることができるようになってほしいです。

EdTechのような新しいテクノロジーは、このような英語を学ぶ意義につなげる形で活用していきたいと考えています。

イメージ画像|Rを活用すれば、異文化理解教育においても新たな可能性が広がる

 

おわりに:VR活用で「英語教育」と「異文化理解教育」をつなげられる可能性も

2020年、文部科学省は、大学教育のデジタル化を推進する計画「Scheem-D(スキームD)」を発表しました。デジタル技術を活用して授業の価値を最大化しようとする教員と技術者(企業)がマッチングし、実際の授業で効果を検証しながら知見を蓄積していくための計画です。

このデジタル技術には、VRも含まれており、「現場実習、実験に近い経験を行える授業」が可能になると考えられています(文部科学省, 2020)。

このように、VRは注目が高まっているEdTechであり、外国語学習における効果についてもさまざまな研究が行われています(斎藤, 2021)。しかしながら、日本ではそのような研究がまだ少なく、斎藤准教授はこの分野における第一人者の一人です。

斎藤准教授によると、VR空間での英語学習は、アバターを使うことで英語を積極的に話せる、学習することばが使われる場面をリアルに体験することで記憶に残るなど、さまざまな効果が期待できます。
さらに、海外の人々と同じ空間にいるような感覚で協働する機会をつくれる、というVRの利点は、国際的に見ても大きな価値があります。異なる言語・文化的背景をもつ人々が同じ目的に向かって話し合いながら協力する、という体験が、外国語を使って考えたり議論したりする力だけではなく、お互いを理解し合おうとする姿勢につながる可能性があるからです。

VRは単に英語を使うシミュレーション体験やゲーム感覚で学ぶ体験を提供するだけではなく、英語教育と異文化理解教育をつなげられる可能性も秘めていることがわかりました。

なお、外国語教育におけるVR活用については、海外でも大学生を対象とした研究が多く、おそらくヘッドマウントディスプレイの使用に年齢制限(例:Meta社のMeta Questは13歳以上が対象 )があることも影響し、子どもを対象とした研究は少ない状況です(Jacobs, 2022)。VRが子どもの健康や発達に与える影響について明らかにすることも今後の課題となっています。

 

(※9)Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessmentの略。外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枠。20年以上にわたる研究を経て、2001年に欧州評議会が発表した、外国語の学習者の習得状況を示す際に用いられる枠組み。語学シラバスやカリキュラムの手引きの作成、学習指導教材の編集、外国語運用能力の評価のために、透明性が高く、わかりやすい、包括的な基盤を提供するもの(Council of Europe, 2001; 文部科学省, 2018)。

 

(※10)Saito, Y. (2017). Developing a portfolio for English as a tool for global communication. In F. O’Dwyer, M. Hunke, A. Imig, N. Nagai, N. Naganuma, & M. G. Schmidt. (Eds.), English Profile Studies 6: Critical, constructive assessment of CEFR-informed language teaching in Japan and beyond (pp. 292-302). Cambridge University Press.

 

(※11)Council of Europe (2018). Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment: Companion volume with new descriptors.

https://rm.coe.int/cefr-companion-volume-with-new-descriptors-2018/1680787989

 

(※12)Council of Europe (2020). Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment: Companion volume.

https://rm.coe.int/common-european-framework-of-reference-for-languages-learning-teaching/16809ea0d4

 

(※13)Collaborative Online International Learningの略。海外の学生などとオンラインで協働しながら学習する教育プログラム。

 

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【取材協力】

斎藤 裕紀恵 准教授(中央大学 国際情報学部)

中央大学 国際情報学部 斎藤 裕紀恵 准教授のお写真

<プロフィール>

専門は、言語学、英語学、外国語教育。言語教育政策や第二言語習得理論、語用論、EdTech(Education & Technology)を研究テーマとしている。中央大学の斎藤裕紀恵ゼミの学生を対象に、VR英語教育・学習プラットフォーム「immerse」を使って、CEFR(外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枠)に沿ったVR英語授業の効果を検証中。Immerse社のStrategic Advisor(戦略アドバイザー)を務め、Facebook(現Meta)社の「XRプログラム・研究基金」からも研究支援を受けている。コロンビア大学ティーチャーズカレッジで修士号(英語教授法)、テンプル大学で博士号(応用言語学)を取得。早稲田大学や明治大学、獨協大学での講師などを経て現職。

 

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参考文献

Council of Europe (2001). Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment. Cambridge University Press.

https://rm.coe.int/1680459f97

 

Saito, Y. (2021). Potential and Challenges of the Use of VR in English Education. KOTESOL Proceedings 2021. https://koreatesol.org/sites/default/files/pdf_publications/KOTESOL.Proceedings.2021.pdf

 

斎藤 裕紀恵(2021).「EdTechの現状と展望:VR, AR, AI技術の英語教育への応用」.『国際情報学研究』, 1, 63-78.

http://id.nii.ac.jp/1648/00012924/

 

文部科学省(2018).「各資格・検定試験とCEFRとの対照表」.

https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11293659/www.mext.go.jp/b_menu/houdou/30/03/__icsFiles/afieldfile/2019/01/15/1402610_1.pdf

 

文部科学省(2020).「大学教育のデジタライゼーション・イニシアティブ(Scheem-D)〜Withコロナ/Afterコロナ時代の大学教育の創造〜」.

https://www.mext.go.jp/content/20200622-mxt_senmon01-000008059_4.pdf

 

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