日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。

2021.11.18

英語習得のために重要な「学習者」のあり方〜立教大学 新多教授インタビュー(後編)〜

英語習得のために重要な「学習者」のあり方〜立教大学 新多教授インタビュー(後編)〜

立教大学 新多教授への取材記事後編です。

※写真は新多教授が博士号を取得したウォーリック大学(イギリス)のキャンパスの風景です。

【目次】

 

理想的な学習者を育てることはできるのか?

―日本のように、第二言語に触れる機会が学校の授業にほぼ限られる環境では、第二言語学習へのモチベーションにはどのようなことが影響するでしょうか?先生が特に重要だと考えていらっしゃる要素がありましたら伺いたいです。

日本の場合だと、英語に触れる環境が教室の中に限定されてしまいますよね。教室の中でいかに英語を使うコミュニティをつくれるか、ということが大事だと思います。

どういうタスク(※1)をクラスの中で使うか、そのタスクによって英語を使う環境をいかにつくるか、ということが基底になりますね。

ただ、コミュニティというものは、クラスの中だけで終わってしまうものではなくて、その外の世界に広がっていくということが大事です。クラスの外にあるリアルな英語コミュニティ、または留学などによって、クラスで学んだことを実際に使う場を設けることは一つの方法ですね。

最近は、オンラインで海外の子どもたちとつながってバーチャル・コミュニティを用意することもできますよね。

あとは、クラスの中で国連の議会を再現して、生徒たちにいろいろな国の代表を務めさせて議論する、というふうに、Imagined community(想像のコミュニティ)をつくることもできます。

このように、いろいろな媒体を使って、いろいろなタスクを使って、場合によっては教室外とつながって、英語を使ってほかの人たちとつながるコミュニティをつくっていく、ということが大事だと思います。

 

―子どもや学生が理想的な学習者になるために、教師ができることは何でしょうか?

授業の中で教師ができることは、大きく分けて二つあると思います。

一つは、先ほどお話しした、どのようなタスクや課題を準備するか、ということです。

もう一つは、どういう手助けをするか、ということです。これは、scaffolding(スキャフォールディング)と呼ばれていて、日本語では「足場かけ」と訳されます。Scaffoldingは「〜ing」と進行形になっていますが、これはこの概念をぴったり表していると思います。イギリスにいたときに、建物を立てているところをよく見たのですが、そこに組まれていた足場は、毎日そこを通るたびに変わっていました。ビル建設の進行状況に伴って、足場が上や横にずれていったりしていたんです。これがまさにScaffoldingなんです。

授業では、子どもや生徒をよく観察して、いまどういう助けが必要なのかを判断して、適切なチャレンジをできるような状態に環境設定していく、ということですね。

チャレンジというのは、認知的なレベルに合ったものにすることはもちろん大切ですが、モチベーションや自尊心など、非認知的な要素にも配慮したScaffoldingをしていく、ということもすごく大事だと思っています。

 

―子どもの場合、親が家庭でできることは何かありますでしょうか?

家庭の場合も、基本的には同じだと思います。ただ、学校では大勢の子どもたちを相手にしなければいけませんが、家庭では、1対1や1対2の個別的な関わりができますよね。

ですから、目の前の子どもをよく観察して、適切なタスクや課題を与えて、できること、できないことに合わせてScaffoldingをしていけばよいのではないでしょうか。

 

―子どもたちにとっても機械翻訳が身近になってきている今、第二言語として英語を学習することの価値について考えていらっしゃることがありましたら伺いたいです。

英語を流暢に話せるようになることが一番大事だとは思っていません。先日、たまたま書店で手に取った本がとても興味深かったです。「なぜ数学を学ぶのか」ということを説明した本なのですが、答えは、「考える力を身につける」ということでした。英語も同じだなと思いました。

いまは特に変化が激しいVUCA(※2)と呼ばれる時代ですから、何が正解かわからない中で生きていくためには、自分で考える力はすごく大事です。そして、自分のことだけではなく、何が社会の発展のために大事なのかということを考える能力も必要です。こういう力を身につけられる手段の一つが英語を学ぶことなのではないかと思っています。

どれか一つの教科だけではなく、いろいろな教科を通じて、いろいろな角度から、そういう「コンピタンス」を身につけていく、というのが学校教育の場だと思います。

 

―先生は、立教大学の外国語教育プログラムの開発や運営を行っているとのことです。カリキュラム開発において一貫して重要視していることは、どのようなことでしょうか?

英語だけではなく、英語の学びを通じて社会の中で生きていく力、コンピタンスを身につけていく、というカリキュラムにしたいと考えています。

「コンピタンス」とは、日本語も英語も含めたコミュニケーション能力も含みますし、異なる他者への寛容性も含みます。母語だけで生きていると、どうしてもその言語を自由に話せない人に対して優しくなれないけれど、英語を学んでいるとその大変さがわかるので、他者への寛容さが生まれると思います。

また、違う文化の人と協働する力も育まれます。エージェンシーやアイデンティティなども含めて、そういう総合的な力を身につけてほしいと思っています。

 

おわりに:学習者には主体性が重要

英語学習のモチベーションは、さまざまな要因が複雑に影響し合い、常に変化し続けています。よって、どのようにモチベーションを高めるか、ということ以上に、学習者として上がったり下がったりするモチベーションとどのようにうまく付き合っていくか、ということが重要です。

新多教授のお話からは、理想的な学習者のあり方として、いくつかのヒントをいただきました。1)エージェンシー、2)自己調整力、3)相転移、4)振り返る力。

エージェンシーは、自分の学びに対して当事者として責任をもつ力。自己調整力は、計画→観察→自己評価というサイクルでモチベーションや学習を調整する力。相転移は、新たなチャレンジをすることによって次のレベルに上がれる力。そして、振り返る力は、自分の学習状況を深く分析する力。

この4つに共通することは、やはり主体性ではないでしょうか。効果的に英語を学ぶにはどの学校がいいのか、どの教師がいいのか、どの教材がいいのか、といった環境面ばかりに目がいきます。しかし、そればかりに囚われていては、モチベーションが低下したとき、学習がうまくいかなくなったとき、すべて環境のせいにしてしまうでしょう。
一方、主体性をもっている学習者は、うまくいっているときもそうでないときも、常に自分を振り返りながら向上心を保ち、結果的に高い英語力を習得することができるはずです。

そして、エージェンシー、自己調整力、相転移、振り返る力といった能力は、英語学習に限ったものではありません。さまざまな教科にとって重要であり、これからの時代にとって必要不可欠な「自分で考える力」につながります。

英語習得のための「学習者」のあり方を考えることは、学校教育や家庭で育てるべき力について考えることにもなるのではないでしょうか。

 

(※1)例えば、生徒二人がそれぞれ異なる絵を持っていて、お互いに自分の絵を見せずに、どういう違いがあるのかを英語で話しながら見つけていく、というタスクがある。このように、英語を学ぶことそのものを目的にするのではなく、課題に取り組むことを通じて、結果的に英語を使い、英語力が伸びている、ということを目指すアプローチ。Task-Based Language Teaching。タスクには、そのほかにも、プロジェクトやディスカッションなどもある。文法の学習などではなく、まずは意味をコミュニケーションしようとするところからスタートするので、学習者のモチベーションが上がりやすいことがメリットであると考えられている。

(※2)Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)といった特徴をもつ予測不可能な状況

 

【取材協力】

新多 了教授(立教大学 外国語教育研究センター)

新多先生のお写真

<プロフィール>

専門は、第二言語習得。ウォーリック大学(イギリス)大学院応用言語学研究所にて修士号、博士号を取得。名古屋学院大学外国語学部英米語学科 教授を経て、2019年より同大学院の外国語学研究科 特任教授に就任。また、同年より、立教大学 外国語教育研究センター教授、2020年より同センター・センター長を務める。現在、立教大学の英語教育プログラムの開発と運営に取り組んでいる。

・新多教授の著書

新多教授の著書

 

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