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2021.06.01

英語学習における正しいリズムの重要性

英語学習における正しいリズムの重要性

言語学習において発音と文法は互いに最も遠いところにあるように感じられるかもしれません。入試などの英語の試験でいわゆる「文法」形式の問題などが一般的だった時代においては特に、発音は全然良くないのに文法問題は得意な(あるいはその逆の)中高生も多かったことでしょう。しかし、文法(語順や文構造)の中には、実は発音(特にリズム)の影響を受けている法則があります。

皆さんの中には something hot や half an hour の語順におかしさを感じたことのある方も多いのではないでしょうか。これらの奇妙な語順は文構造(この場合は修飾—被修飾の関係)よりもリズムの法則が優先された結果によるものです。このように発音と文法の法則が対立した際に発音の法則が優先されることは、様々な言語において観察されます。

今回は日本語と英語において、リズムの法則に誘発されていると思われる文法の例をご紹介し、英語学習におけるリズムの重要性についてお伝えします。

 

【目次】

 

 

日本語のリズムと文法

日本語は大抵いわゆる1文字がリズム上の1つの単位を構成します(Port 1987)。当然のように思われるかもしれませんが、実はこの一致は世界の言語の中でも珍しいものです。例えば英語においては文字数とリズム単位の数に関連性がなく、apple(5文字)もskateboard(10文字)もリズム上は同じ長さを持ちます。

日本語においてこのおおよそ1文字に相当するリズムの単位をモーラ(mora)といいます。「雨(あめ)」は2モーラ、「たまねぎ」は4モーラです。「たまねぎ」が「雨」のおおよそ2倍の長さを持つことは、母語話者なら直感的にわかるはずです。

日本語のリズムにおいては、モーラ2つで構成される「2モーラ」のリズム単位が好まれることがこれまでの研究によって明らかになっています。Poser(1990)によると、人のあだ名を「○○ちゃん」のように言うときに、○○の部分が2モーラ(の倍数)になる傾向があるようです。「アキヒロ + ちゃん」の場合には、「アキちゃん」、「アッちゃん」になることはありますが、「アちゃん」(1モーラ)や「アキヒちゃん」(3モーラ)にはなることはありません。

ちなみに「ちゃん」も3文字ではありますが2モーラなので(チャが2文字なのは表記の問題で、タやチと同じ長さであることは直感的にわかるはずです)、「アキちゃん」や「アッちゃん」はいずれも2モーラの倍数である4モーラです。

奇数モーラの中でも特に1モーラのまとまりが避けられる傾向にあり、そのために以下のa)やc)のように無意味な音が挿入されることがあります。これらの不要な音の挿入は、いわゆる「ら抜き言葉」のような発音の経済性(特にフォーマルでない場面においてなるべく少ない音で同じ意味を表すこと)とは対照的です。

また、ら抜き言葉であれば、日本語学習者に理由をたずねられたときに「その方が楽だから」などの直感的な説明が可能かもしれませんが、上記のような不要な音の挿入の理由は「2モーラリズムを保つため」という日本語のリズムに関する理論を知らなければ説明できないでしょう。

 

a)わる-そう [悪い + そう]  VS  よさ-そう [良い + そう]

b)わる-くて [悪い + くて]  VS  よ-くて [良い + くて] (1モーラのまとまりが許容されている例)

c)うすくち(例: うすくち醤油)) VS  こいくち(例: こいくち醤油)

 

この「不要な音の挿入」に関して重要なのは、その法則が純粋に発音由来であることです。発音の法則も言語学においては広く「文法」の一部として扱われますが、学校英語で習う「動詞の活用」などの文法とはかなり異なったものに感じられるでしょう。

 

英語のリズムと文法

上述したように英語においては文字数とリズムの相関がありません。英語のリズムの最小単位は母音を中心に構成される(正確には、1つの母音とその前後の子音により構成される)音節(syllable)です。1音節の文字数は任意で、straight(8文字)や strike(6文字)も in や on と同様に1音節です。(これらの語における /eɪ/ や /aɪ/ という音は、日本語では2つの母音(母音連続)として扱われますが、英語では1つの母音(二重母音)として扱われます。)

ほとんどの場合、母音の数と音節の数は一致します。English という語は En-glish の2音節ですが(-は音節境界)、母音も “E” と “i” の2つです。Japanese という語は音節(Jap-a-nese)も母音(”a”,  “a”,  “e”)も3つです。(neseの最後のeは表記上は存在しますが発音されません。)

音節の中にはストレス(stress)のあるものとないものがあります。ストレスは強勢アクセントや語アクセントとも呼ばれ、それがある音節は長く強く発音されます。例えば student という語は、stu にストレスがあるため、この音節(もしくは母音/u/)が dent よりも長く強くなります。

英語のリズムはストレスのある音節とない音節の繰り返しなのですが、ストレスのある音節がなるべく等間隔に繰り返されるような調整がなされます。下の例では、Mary の Mar と danc(dance)、stage の3音節がストレスを担います。d)の Mary dancesと e)の Mary has been dancing on the の部分を比べると、ストレス間の音節数はかなり違いますが、ストレスの数はどちらも2つなので、母語話者にとってはどちらも同じくらいの長さに感じられます。e)の方がストレス間の音節数が多い分、各々の音節が短く発話されることが先行研究により示されています(Lehiste 1974, Rakerd et al. 1987)。

 

d) Mar-y | danc-es.

e) Mar-y has been | danc-ing on the | stage.

 

日本語における1モーラのまとまりのように、英語において特に避けられるのはストレスのある音節の連続です。この法則が優先されるために語順が変更されている例の一つは上述した something hot です。

英語は通常、形容詞が1語の場合には「形容詞 + 名詞」の語順になるため、本来であれば hot something の語順になるはずです。(例えば something の部分を別の名詞で置き換えた場合には hot drink のように「形容詞 + 名詞」の語順が適用されます。) ところが、この語順のままだと、いずれもストレスのある hot と some が連続するため、これを避けるためにアクセントのない thing が間に入るように語順が替わっています。

また、もう一つの例として、half an hour は論理的に考えれば a half hour であるはずです。その根拠として one hour and a half の場合には a half という語順になります。この例においても同様に、ストレスのある half と hour の間にan が入ることにより、ストレスの連続を避けています。

 

f) hot some-thing -> some-thing hot

g) a half hour -> half an hour

 

以下のh)とi)の違いも、英文法を学んだこととある方なら疑問に感じられたことがあったのではないでしょうか。以下の赤字部分はいずれも文法的に「不定詞」と呼ばれるものですが、made などの特定の動詞に後続する場合にはh)のように to が省略されます。ところがd)のように受け身表現に続くときには省略されていた to が復活します。これも「ストレスの連続の回避」という考えを用いれば理論的に説明することが可能です。

 

h) Dave made me go.

i) Jane was made to go.

 

i)においては Jane, made, go にストレスがあるので、to がないと made と go におけるストレス連続を避けることができません。一方で、h)においてはすでに me というストレスのない音節があるため、made と go の連続が既に回避されています。(全てのストレスの連続を回避することは不可能なので、Dave と made は連続しています。) h)における me の部分に Jane など1音節の人名が入った場合にはストレスの連続が起こることになりますが、この場所には代名詞が入る場合の方が多いので不定詞の to が省略されるという変化が起こったと考えることができます。

このような理解は少なくとも、典型的に詰め込み式の受験勉強で習う「受け身の場合には原型不定詞でも to が付く」という暗記よりもよほど真実を捉えたものであると言えます。

 

英語学習における正しいリズムの重要性

特に文法に興味をお持ちの方には、上の文章を通して英語を話す上での「正しいリズム」の重要性を感じていただけたのではないかと思います。今回ご紹介したような「リズムの影響を受けて決まっている語順」は、母語話者にとってはふだん何気なく使っているものですが、発音以外の文法を中心に外国語を学習してきた方にとっては例外的に感じられるはずです。では、英語学習者が「正しいリズム」を習得するにはどうすればいいのでしょうか。

一つには知識で補うという方法があるでしょう。昨今の学校英語教育は文法中心にならないような様々な工夫を凝らしていますが、それでも文法を理解させたり練習させたりするのが有効である場合もあります。文法指導の際に、語順や文構造に関連するものだけでなく、発音などと関連する法則を教えることで、正しいリズムと正しい語順の習得に繋がることが期待されます。

また、もっと重要なことは、学習者個々人がリズムをはじめとした英語の正しい発音を身に付けることでしょう。前述したように、母語話者は英語リズムの法則を理論的に理解しているわけではありませんが、hot something という語順がおかしいと直感的に感じることができます。それは、純粋にリズムだけでなく、something hot の語順の方がよく使う(「生起頻度が高い」)という判断によるところもあるかもしれませんが、何れにしても、それまで接してきた表現の量が英語の正確さに影響することは間違いありません。

特に、年齢の低いうちに英語の音声をたくさん聞いておけば、発音に苦手意識を感じることは少なくなるはずです。小さい頃から英語に触れておくことで、母語話者に近い感覚を培うことができ、文法の知識を補えるだけでなく、明示的な文法指導なしでも正確な英語を話したり書いたりすることができるようになる可能性があります。

 

■関連記事

英語学習における、歌が持つ言語学的な効果

 

参考文献

Lehiste, I. (1974). The timing of utterances and linguistic boundaries. Speech and Hearing Science: Selected Readings, 51(6), 20.

https://doi.org/10.1121/1.1913062

 

Port, R. F., Dalby, J., & O’Dell, M. (1987). Evidence for mora timing in Japanese. The Journal of the Acoustical Society of America, 81(5), 1574-1585.

https://doi.org/10.1121/1.394510

 

Poser, W. J. (1990). Evidence for foot structure in Japanese. Language, 78-105.

https://doi.org/10.1353/lan.1990.0031

 

Rakerd, B., Sennett, W., & Fowlerb, C. A. (1987). Domain-Final Lengthening and Foot-Level Shortening in Spoken English. Phonetica, 44, 147-155.

https://doi.org/10.1159/000261791

 

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