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2021.11.01

英語の語彙学習では、日本語との「概念」のずれに注意することが大切 〜同志社大学 赤松教授インタビュー(後編)〜

英語の語彙学習では、日本語との「概念」のずれに注意することが大切 〜同志社大学 赤松教授インタビュー(後編)〜

同志社大学 赤松教授への取材記事後編です。

 

【目次】

 

年齢や英語圏での生活経験によって、母語の影響に違いが出る

―日本人が第一言語である日本語の語彙を学習する場合と、外国語である英語の語彙を学習する場合では、そのプロセスはどのように違うのでしょうか?

子どもの母語習得の場合は、周りの環境や周りの人間とのコミュニケーションから学びます。例えば、抽象語の習得はわかりやすい例ですね。

「友情」は何か、と聞かれてもひと言で説明することは難しいですが、「友情」ということばが使われている場面を通じて、「あ、こういう場面のときには友情ということばを使うんだ」というふうに、肌感覚で概念をつかんでいきます。

でも、外国語の場合は、母語に訳して学びますよね。そうすると、先ほどお話しした通り、その単語が本来もっている意味合いを学ぶ機会を失ってしまうことがあります。

 

―母語習得と外国語習得では、まず「環境」が違うことによって、語彙学習のプロセスが異なるのですね。

語彙学習のプロセスには、環境のほかに、年齢も影響すると思います。

小学1、2年生くらいまでの早期英語教育は、やり方によっては、日本語の影響を受けずにうまく英語の概念を学ぶことができるのではないでしょうか。

小学4年生くらいになると、どうしても頭で考えてしまって、英単語を学んでも、日本語を通しての概念になってしまうので、英語話者の概念とずれてしまうことは避けられないと思います。このずれは、明示的に教えてあげないと学習者は気づけません。

 

―年齢が低いほうが英単語の概念を学習しやすい、ということを示した研究結果はあるのでしょうか?

例えば、英語の場合、数えられる名詞か数えられない名詞か、という判断は日本人にとって難しいのですが、慶應義塾大学の今井むつみ先生(環境情報学部 教授)の研究によると、その感覚は、年齢が上がるとともに日本語の影響が少しずつ出てくる、ということがわかっています。つまり、母語を使う経験の積み重ねによって母語の感覚になっていく、ということです。

また、一般的に、暗示的学習は大人よりも子どものほうが圧倒的に得意だということがわかっています。例えば、職人さんは、親方の技術をことばを通して学習するのではなく、自分で試行錯誤しならが体で覚えますね。これは、暗示的学習です。

外国語学習は早ければ早いほどいい、と言われますが、このように、周りの状況を理屈抜きでなんとか自分なりに理解しようとする、という暗示的学習の力が6歳、7歳くらいまでの子どもにはあるからだと思います。

 

―日本語から影響を受ける程度は、日本の環境で英語を学習した人と、英語圏の環境(日常的に英語にふれる環境)で英語を学習した人では、違いがありますか?

はい、違いがあることは実際に研究(※2) で示されています。

重要な点は、英語力ではなく、海外で英語を使って生活した期間の長さが関連している、ということです。

例えば、アメリカやイギリスで10年〜15年生活したような人と、日本で高いレベルの英語力を身につけた人を比較した実験があります。この二つのグループは、TOEFLやIELTS、語彙テストなどのスコアで見ると、英語力はほぼ同レベルです。でも、英語圏で長く生活した人のほうが英語母語話者に近い感覚を身につけている、ということがわかりました。

英語を使って日々コミュニケーションを行っていると、日本語を介さずに、英語の概念に直接触れる機会がたくさんあるので、英語のネイティブ・スピーカーに近い概念ができあがっていくのではないか、ということです。

 

―そうすると、英語圏での生活は、語彙学習において重要になってくるのでしょうか?

そうですね。英語圏での生活は、英語を通じて、英語の文化を知る、ということですので、とても重要だと思います。

ただし、英語圏での生活は、10年とか15年とか、かなり長い期間でないと、日本で英語を身につけた人との違いは出てこないことがわかっています。3年〜5年くらいの海外生活では、あまり差が出なかったと言われています。

ですから、よほど長期間、英語圏で生活しないと、日本語の影響を受けないレベルまで概念を変化させることはできない、ということですね。

 

―1年くらいの長期留学では到底ネイティブ・スピーカーのような概念は身につけられない、ということですね。

そうですね。もちろん、全員が英語話者と同じ概念を身につける必要はないと思いますが、「単語の意味をわかっているつもりで実はわかっていない」ということは避けたいですね。

英単語を日本語の世界で理解したまま使ってしまうと、英語話者の概念とずれてしまいます。こういうことは、私自身も海外生活で何度も経験しました。

例えば、“on” は「上に」という意味だ、というふうに教えずに、何かにくっついていたら “on” だ、というふうに教えたほうが、英語と日本語の概念の違いでつまずくことは少ないのではないかな、と思います。

ですから、英語学習の初期段階で、教師がどのように英語の概念を教えるか、ということはとても重要です。

 

―英語を高いレベルまで身につけた人の場合、英語の概念が日本語の概念に影響することもあるでしょうか?

影響することもあると思います。イギリスの研究者Vivian Cookによると、一つの言語のみを使っている人と、二つの言語を使っている人では、もっている感覚が違います。一度英語を学んだら、英語を学ぶ前の日本語だけの世界に戻ることはできない、と言われています。

こういう話をすると、「英語を学ぶと日本語が中途半端になるのではないか」と言う人もいますが、英語が日本語の邪魔をすることはありません。

言語に限らず、ある経験をした人と、していない人とでは、感覚が違いますよね。例えば、スキューバダイビングをしたことがある人は海の中の世界を経験しているわけですから、したことがない人とはどこか感覚が違うはずです。また、瞑想を日々している人と、していない人では、物事の感じ方が違ってきます。

それと同じで、英語でコミュニケーションをしたことがある人は、日本語とは違う感覚を見出し、その瞬間から、英語を使ったことがない人とは違う感覚をもつようになると思います。

 

―英語を身につけることで、物事の見方が変わるのですね。

はい。そういう意味では、言語というものをもっと広い視点で見たほうがいいと思います。

言語を学ぶことそのものよりも、言語を通して何を経験するのか、ということが大事です。

早期英語教育でも同じことが言えます。親御さんは、子どもが英語を話せるようになることを望んでいると思いますが、もし途中で英語学習を止めたとしても、小さいころから英語に触れた経験は、そうしなかった人とは違う感覚として残ると思います。

 

効果的な語彙学習とは?

―日本人にとって習得が難しい語彙については、どのような学習方法や指導方法が必要でしょうか?

一般的には、抽象語は、概念のずれが生じやすいです。ですから、先ほど「友情」を例に出しましたが、これはこういう意味だ、と断言することが難しいので、必ずその単語が使われている場面や文脈とともに学ぶことが大切だと思います。

教師は、日本語の意味を与えるだけではなく、「この単語はどういうときに使うと思う?」、「この単語はどういうことを表現していると思う?」と問いかけながら教える必要がありますね。

子どもは、そういう学び方が得意です。ことばで説明しなくても、「こんな感じの意味でしょ?」ということがわかります。小さいころに英語を学ぶ強みはそこにあると思いますね。

 

―抽象的な語彙に関しては、その単語を使うさまざまな場面を提示しながら教える必要がありますね。

そうですね。例えば、その単語を使っている場面を動画で見ながら、「この単語はどういう意味だと思う?」、「この単語を使うとどういう雰囲気になると思う?」と単語の意味を考えさせるようなアプローチが理想的だと思います。

そうすることによって、場面から単語の概念のヒントを抽出する練習になります。

具体的な事物を表す具体語は、英語と日本語の概念のずれがあまりない場合、日本語訳を与えたほうが効率的ですが、日本語を介さずに写真を見せて意味を教えることで、英語の概念が伝わりやすくなりますね。

子どもは、考えることが好きなので、こういう教え方のほうが集中しますね。どれだけ短い時間で記憶に残る教え方をするか、というところが教師の勝負どころなので、「あ!」と自分で気づかせることが大切です。

 

―自分で単語の意味を考えさせるような教え方をしたほうが、記憶にも残りやすいのですね。

記憶は、覚えて、忘れて、思い出して、また忘れて、思い出して、という過程を繰り返すことで定着していきます。

ですから、「思い出す」という行為がとても大事です。あとでその単語の意味を思い出そうとするときには、「あのときにみんなと話し合った、あの単語だ!」というふうに、学習したときにどんなことをしたかということがヒントになります。

ですから、どれだけあとで思い出しやすい場面をつくるかが教えるときに一番重要なことです。

 

―小学1、2年生くらいまでの子どもは、日本語の影響を受けずにうまく英語の概念を学ぶことができるのではないか、というお話がありました。効果的な語彙学習の方法は、やはり年齢によって異なるでしょうか?

そうですね、その人の年齢や英語力によって、効果的な学習方法は変わってきます。

小学2年生くらいまでは、できるだけ語彙の概念を感覚で覚えさせたり、自分で考えさせたりする、という方法が記憶に残りやすいですし、母語の影響を受けにくいです。

それ以上の年齢になってくると、そのような学習方法は逆にフラストレーションが溜まるだけなので、日本語を介して教える(日本語の意味を教える)ほうが効率的です。

そのうえで、日本語と英語で概念のずれがあることがわかっている語彙に関しては、そこに注意を向けさせるような指導方法が必要ですね。

 

―年齢が高い学習者に概念のずれについて教えるときには、どのような指導方法が良いでしょうか?

「こういうふうに概念のずれがあるから覚えておいてね」と説明するのも一つの方法ですが、日本語に訳したときに概念のずれに気づくような例文をいろいろと紹介して、なぜ日本語訳がしっくりこないのか、ということを考えさせる方法は記憶に残りやすいと思います。

語彙を教えるときには、意味を教えるだけで終わるのではなくて、その語彙が使われる状況と一緒に教えることが大切です。そうすると、ある状況に置かれたときに、その状況に必要な知識を思い出すことができます。このような知識は、認知科学の分野で「conditional knowledge(条件的知識)」と呼ばれています。

そして、このような概念のずれを知ることは単なる「知識」なので、「技能」とは異なります。ですから、教わった知識を実際に使ってみるアクティビティをさせることによって、技能につなげることも必要です。

「知識」と「技能」は、常にセットにして教えなければなりませんね。

 

―小学校高学年、中学生、高校生、大学生、というふうに学年が上がっていくと、英語の語彙も難しくなっていくと思います。語彙学習で重要なポイントも変わっていきますか?

学年が上がるにつれて、母語の重要性が増していくと思います。

よく、英語を日本語に訳したときに、その日本語がわからない、ということが起こります。それは、日本語を十分に知らないからですよね。

また、日本語の概念にはない英語独特の表現の場合、しっかりと英語の意味を汲み取って意訳するためにも日本語の力が必要だと思います。

 

おわりに:概念のずれを意識した語彙学習が大切

赤松教授によると、語彙知識には「広さ」、「速さ」、「深さ」という三つの観点があります。

「広さ」は、語彙の多さ。「速さ」は、言いたい単語がすぐに出てくるとか、単語を聞いてすぐに意味が理解できる、といったことです。

「深さ」は、語彙を使いこなせる力です。例えば、自動詞なのか他動詞なのか、数えられる名詞なのか数えられない名詞なのか、といった知識や、この単語はよくこの単語と一緒に使われる、といったコロケーションの知識などが当てはまります。

語彙学習では、「広さ」や「速さ」が注目されることのほうが多いと思われますが、「深さ」の知識は、正確な文法で話すためにも、その語彙がもつ本来の意味内容を理解して使うためにも必要不可欠です。

赤松教授のお話からは、特に、英語の語彙によって表現されている概念、つまり「英語の世界」を理解することは、日本語に訳して語彙を学んでいるだけでは、非常に難しいことがわかります。

日本語訳は、たくさんの英単語を効率的に覚えるためには必要なものであり、日本語を介して英語を学ぶことは必ずしも悪いことではありません。しかし、英語で表現される概念と日本語で表現される概念に違いがある場合、その違いに気づかないままでいると、相手の英語を正確に理解できなかったり、伝えたいメッセージを英語で正確に表現できなかったりする可能性があります。

英語の語彙学習においては、常に日本語との概念のずれに注意を向け、日本語訳だけで理解するのではなく、その語彙が使われる状況や場面と一緒に理解することがとても重要です。

(※2)該当文献①:Akamatsu, N. (2018). The intertwining effects of first language and learning context on the bilingual mental lexicon. In H. K. Pae (Ed.), Writing systems, reading processes, and cross-linguistic influences: Reflections from the Chinese, Japanese and Korean languages (pp. 245-266). John Benjamins.

https://doi.org/10.1075/bpa.7.12aka

 

該当文献②:Cook, V., Bassetti, B., Kasai, C., Sasaki, M., & Takahashi, J. (2006). Do bilinguals have different concepts? The case of shape and material in Japanese L2 users of English. International Journal of Bilingualism, 10, 137–152.

https://doi.org/10.1177/13670069060100020201

 

 

【取材協力】

赤松 信彦教授(同志社大学 文学部英文学科)

同志社大学赤松先生のお写真

<プロフィール>

専門は、心理言語学。ニューヨーク州立大学(教育学研究科)にて修士号を取得、トロント大学(オンタリオ教育研究所 教育学(カリキュラム)研究科)にて博士号を取得。同志社大学 文学部英文学科 助教授、トロント大学 オンタリオ教育研究所 客員教授などを経て、2006年より現職。外国語学習における読解習得や語彙習得のほか、日本人が英語を学ぶ場合、母語である日本語がどのような影響を与えるのか、といったテーマでも研究を行っている。

 

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