ワールドファミリーバイリンガルサイエンス研究所

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2021.10.12

英語のコミュニケーションで困った時の対処法〜コミュニケーション・ストラテジーの指導の重要性〜

英語のコミュニケーションで困った時の対処法〜コミュニケーション・ストラテジーの指導の重要性〜

小学校高学年に対して英語の授業が導入されてから1年以上が経ちました。現場の教員たちは未だ戸惑いはあるものの、教材の充実や英語専科教員の配属やAET(注1)、ALT(注2)と担任によるTeam Teacning(ティーム・ティーチング)の普及もあり、児童にとって意味のある状況や場面を設定し、教員と生徒同士、生徒同士の対話を重視した授業が各学校で工夫されて行われ始めています。

(注1)AETとはAssistant English Teacherの略で、英語指導助手などとも呼ばれる。日本人英語教師とチームで英語の授業を行う。

(注2)ALTとはAssistant Language Teacherの略で、外国語を母語としている外国語指導助手のことを言う。各教育委員会から小学校・中学校・高等学校へ、国際理解や発音指導の向上を目的に派遣される (伊達 & 内藤, 2019)。

 

【目次】

 

英語のコミュニケーション中に困る時

しかし、せっかく現実世界で起こりそうな状況や場面設定の中で相手の存在を意識した活動を行っていても、児童が英語のアウトプットをとまどう、拒否してしまう、活動中に黙り込んでしまうということがあります。これにはさまざまな要因があると言われています。

一つ目の要因は、年齢です。小学校低学年の児童は授業中にクラス内で発表をするということ自体に抵抗が少ないことが多く、たとえ英語の活動であっても自分から手を挙げてクラスに意見をシェアすることができます。しかし年齢が上がるにつれて、英語学習においての羞恥心は大きくなっていく傾向があり、人前で英語で発言をすること自体に抵抗感を覚える子もおおいでしょう。これは、集団の中で自分だけが目立つことを嫌う「ピア・プレッシャー」と呼ばれています。たとえ英語で何と言えばいいかわかっていたとしても、黙ってしまったり、「わかりません。」などと答えたりします。

二つ目の要因は、発音指導です。英語学習において日本語と英語の音声の違いに気づき、発音できるようになることはとても重要です。そのため、援護専科教員やAET、ALTなどの働きかけにより以前よりも音声や発音の指導が明確になっています。しかし、指導者は指導の際に注意して避けるべきことがあります。

それは、児童が誤った発音をしてしまった際に訂正をしすぎることです。英語活動の中で児童がコミュニケーションの流れに乗っているときに、過剰に発音を注意してしまうとせっかく児童が自分から言いたいことがあっても、発音を注意されるかもしれないという不安な気持ちからアウトプットするのを拒否するケースがあるそうです。

三つ目の要因は、知らない語彙や表現に出会ったときです。英語を第二言語として学ぶ以上、コミュニケーションの中で知らない単語や表現にであうのはあたりまえのことですよね。大人も子供も関係なく、知らない単語や表現に出会うことで英語の習得は進んでいきます。表現を知らないこと自体は間違ったことではありません((有本, 2000)。

しかし、多くの学習者が会話の最中にわからない単語や表現に出会ったとき、理解したふりをしてしまったり、会話をやめてしまうことをしていないでしょうか。英語を学ぶ小学生がわからない単語や表現に出会い、相手に何と言えばいいのか分からなくなってしまった時、知っているふりをしたり会話をやめてしまったりするのではなく、上手に会話を続ける方法を身につけさせてあげるべきですよね。その対処法は、英語の授業でどの程度指導されているのでしょうか。

 

「コミュニケーション・ストラテジー」とは

わたしたちは英語でコミュニケーションをする際、音声、言語形式、表現、語彙などを選定して会話を行います。まだ語彙力の少ない児童らが授業中に英語を使ったアクティビティに参加する場合、必ずと言っていいほど知らない語彙や表現などに遭遇します。

Faerch & Kipper(1983)とTarone(1989)は、コミュニケーションの最中に問題が発生した場合、コミュニケーション・ストラテジーを活用することが重要だと言います。また、コミュニケーション・ストラテジーを児童の英語学習者にたいして積極的に指導していくことが重要だと言います。

では、コミュニケーション・ストラテジーとは具体的にどんなものなのでしょうか。コミュニケーション・ストラテジーとは、次の4つの機能を持ちます(松倉, 1998)。

1)言い換え「Paraphrase」
言いたい単語や表現が思いつかない時その同意語や類似の概念を表す単語で表現すること。

2)推測「Guessing」
必要な単語や表現が言えない場合、その言葉に代わる単語や他の言語を用いること。

3)遠まわし「Circumlocution」
伝えたいけれど言い方がわからない語彙を絵やジェスチャーなどを使って伝えること。

4)協力「Co-operation」
話し手の問題を聞き手が知り、協力してもらうこと。知ってもらうために話し手は聴き手に何らかの合図を送る。

英語での会話において、会話をあきらめてしまうことや知らない単語を知っているふりをしてしまうことは良い英語習得とはなりませんし、児童らに英語でのコミュニケーションを純粋に楽しんでもらうためには避けなければいけないことです。児童にとって英語のコミュニケーションのお手本である英語専科教員やAET、ALTの存在を生かし、英語活動の中でコミュニケーション・ストラテジーを使う方法を指導するべきではないでしょうか。

 

コミュニケーション・ストラテジーを活用した授業例

ここでは、児童が英語での会話に行き詰ってしまった際に活用できるコミュニケーション・ストラテジーを実際に指導した教員の指導内容とその効果について調査した研究論文を紹介したいと思います。

研究の対象となったのは私立・公立の小学校低・中・高学年の英語の授業10コマです(ALTとJTE(注3)のティーム・ティーチングを含みます)。対象とした10の英語の授業中、ALTとベテランのJTEによって指導されるコミュニカティブな活動の中で、効果的なコミュニケーション・ストラテジーのモデルが提示されていました。中でも児童のコミュニケーション・ストラテジーの育成にとって効果的だと思われるALTとJTEの会話を抜粋します。

(注3)JTEとはJapanese Teacher of Englishの略で、日本人英語教育指導助手のことを言う。学級担任とチームになって英語の授業を行う(原, 2016)。

 

私立小学校5年生「道案内」の内容 (新教材導入)

図1. 私立小学校5年生「道案内」の場面(新教材導入)ALTとベテランJTEのTT(注4)

小学生にとって数字を英語で聞き取り理解することは難しいことです。そこでJTEは、数字の15を指で1と5を見せて児童がわかりやすいよう表現方法を工夫しています。また、小学生にとって地下鉄という意味の「subway」は難しいと判断し、わざと相手に聞き返したり確認をとった態度を見せています。その聞き返しに対してALTはしっかりとジェスチャーを交えて地下鉄を説明してあげています。

ALTとJTEによるコミュニケーション・ストラテジーのデモンストレーションを普段から沢山インプットしている小学生たちは、自分が英語の会話中に困ったときどのように対処すればいいかを把握できます。この研究で対象となった10の小学校の英語の授業を観察したところ、児童のコミュニケーション・ストラテジーを育成すると考えられる教員には以下の特徴がありました。

(注4) TTとは、Team Teaching(ティーム・ティーチング)の略で、数名の教員がチームとなり生徒の習熟度に合わせて主となる担当教員の助力をしながら進める授業の形態のことである(岩田, 2017)。

 

1.JETがALTに対して、児童がわかりにくそうなところをわざと聞き返したり、説明を求めたりしている。

2. 手や動作、顔を使って大げさなジェスチャーを見せる。絵やモノ、映像などの教材を活用する。

3. ティーチャー・トークとして重要な語句や表現はゆっくり、はっきり発音する。

4. 児童の口から自然と英語が出てこない際は、単語の最初の音を聴かせて支援する。

これらを意識してコミュニカティブな英語活動を行うことで、JETやALT自身がコミュニケーション・ストラテジーの使用モデルとなります。そのようなJETやALTの姿を授業中にたくさん見せることで、アクティビティの途中で会話が途切れた際に教員の対処法を思い出し、真似をする児童も出てきたそうです (泉, 2017)。

 

まとめ〜コミュニケーション・ストラテジーの指導の可能性〜

今回のコラムでは、特に小学生の英語の授業において指導が必要とされるコミュニケーション・ストラテジーの重要性と効果的な指導の例を紹介しました。

教科書に書かれている文章のリピートではなく、自分の言葉で伝えたいという思いを育てる英語教育が注目されています。児童が自分の思いを英語で伝える力を育てるためにも、語彙力の不足によって会話が止まってしまった時の対処法や聞き取りができなかった時にもう一度相手に聞き返す方法の指導が重要視されるべきではないでしょうか。

今後の小学校の英語の授業において、このコミュニケーション・ストラテジーの指導が児童らの英語によるコミュニケーション能力育成に大きな影響を与えるのは間違いないでしょう。

 

■関連記事

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参考文献

有本純. (2000). 英語コミュニケーションにおける心理的障壁を除去する為の方略研究. 研究紀要, 1, 147-157.

http://id.nii.ac.jp/1084/00000175/

 

伊達正起, & 内藤元彦. (2019). 中学校における ALT とのティーム・ティーチングを有効にする実践的取り組み. 福井大学教育・人文社会系部門紀要, 3, 31-41.

 

Faerch, C, Kipper, G, 1983. Strategies in Interlanguage Communication. Longman

 

原めぐみ. (2016). 参与観察に基づく小学校外国語活動におけるティーム・ティーチングの実態調査: 学級担任と日本人英語教育指導助手による指導の場合. 研究論集, 103, 109-118.

 

泉惠美子. (2017). 小学校英語における児童の方略的能力育成を目指した指導. 教育実践研究紀要= Journal of educational research, (17), 23-33.

 

岩田聖子. (2017). 開かれた英語教育を目指して: ティームティーチングからコラボラティヴティーチングへ. 基盤教育論集; Bulletin of Institute of Liberal Arts, Otemon Gakuin University, (4), 17-26.

 

松倉信幸. (1998). コミュニケーションのための言語理論と英語教育. 鈴鹿短期大学紀要, 18, 93-103.

 

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