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2020.06.05

小学校英語教育:「不安」を「自信」に変える

小学校英語教育:「不安」を「自信」に変える

〜上平井小学校のオンライン研修現場より〜

2020年5月、上平井小学校(東京都葛飾区)で英語教育に関するオンライン研修が行われました。同小学校は、前年度から始めた授業研究の成果・課題をもとに、専門家によるアドバイスを継続的に受ける予定です。

講師を担当する佐藤久美子名誉教授(玉川大学/東京都町田市)へのインタビュー取材により、教員の不安を自信に変えていくことの重要性が明らかになりました。

 

【目次】

 

※写真は実際の研修現場ではなくイメージです。
画像素材:PIXTA

 

「日本語は大丈夫?」という誤解

全学年の児童を対象に2019年度から英語活動・授業を実施しながら研究成果をまとめた上平井小学校(東京都葛飾区)は、佐藤久美子名誉教授(玉川大学/東京都町田市)へ継続的な研修を依頼。2020年5月中旬、長期間の休校が続くなか、その第一回目がオンライン会議で行われました。

子どもの言語獲得・発達を専門とする佐藤教授は、「未就学児のころから英語を始める子どもが増えていますが、日本語に悪い影響が出るのではないかとご心配される方もいますよね」と、日本語習得に関する不安を解消することから研修を始めます。

 

― なぜ冒頭で説明されたのでしょうか?

“2011年に全国で小学校英語が導入される約2年前から各小学校・教育委員会で研修を行ってきましたが、「まだ日本語もしっかりしていないうちに英語を入れると混乱が生じるのではないか」、「日本語の獲得が遅れてしまうのではないか」という意見が最も多かったんです。

そのような考え方はだいぶ払拭されつつありますが、2020年度からは5・6年生で教科化、3・4年生で義務化が始まる、となったとき、ご家庭のお母さまたちも不安が大きいことがわかりました。一番はじめに最も多く飛び出してくる不安なので、いつもこのお話からスタートするようにしています。”

 

佐藤教授は、0歳児から英語学習を始めた子どもとそうではない子どもの言語発達を2013年から長期的に調査。結果、前者の子どものほうが、初めて聞く未知の日本語(例:「みかが」、「ねきねこま」)を反復する力が約3倍高く、語彙力もわずかながら高いことがわかりました。

この理由はまだ明確になっていないものの、佐藤教授は、英語をしっかり聞いて反復する習慣によって短期記憶の一種であるワーキングメモリ(一時的に情報を保持・処理する能力)が鍛えられる可能性がある、と分析しています。さらに、反復力が高ければ語彙力も高いということが先行研究ですでにわかっていることから、未就学期からの英語学習は「日本語に悪い影響を与えるどころか、日本語の反復力、ひいては語彙力にプラスの影響を与えるのではないか」という見解を示しました。

 

―なぜ「日本語は大丈夫?」と考えてしまうのでしょうか?

“小学1年生はまだ日本語が大人のレベルに達していないという前提があるからだと思います。でも、言語の文法能力は6歳くらいで大人と同レベルであり、自分の周囲環境にある母語の音を獲得するのもだいたい1歳までと言われています。

また、日本語と英語は別のものとして考えられる傾向にありますね。でも、言語の獲得過程には共通点がたくさんあります。例えば、3歳くらいの未就学児を調査した私の研究では、日本語の発話量が多い子どもは英語の発話量も多いことがわかりました。

発話量が多ければ、反復力や語彙力も高いという結果も出ています。日本語と英語は、別のものではなくて、同じような過程で獲得が進んでいき、相乗効果があるということが明らかになってきました。”

 

佐藤教授は、中学校から英語学習を始めた経験も「英語は母語を獲得してからでなければ」という考えの根強さに影響しているのではないか、と推測します。未就学児のうちに英語を始める、小学校で英語を学ぶ、ということは経験がないから不安が大きい、経験がないことは自信がもてない、ということです。

研修の現場で学術的な説明をすると「こういう話を聞いたのは初めて」と子どもの言語発達に興味をもつ教員が多い、という佐藤教授の経験談からは、ことばの発達に関する誤解や思い込みを払拭することが、小学校での英語教育に取り組むための第一歩であることが伺えます。

 

 

担任の先生だから良い

この研修で次に強調されたポイントは、「担任の先生だから良い」ということでした。たしかに、小学校で英語の授業を担当する教師の8割以上は学級担任ですが、英語の教員免許状を所有する公立小学校の教員は約6%(文部科学省, 2018a)。

文部科学省は、2014年度の調査で外国語活動の指導や英語力に自信がない教員が半数以上いることを報告しています(文部科学省, 2015a)。2019年度春からは、全国の大学で小学校教員の教職課程内容に「外国語/英語科の指導法」と「外国語/英語科に関する専門的事項」が追加されました(文部科学省, 2019c)が、現役の小学校教員はこのような専門知識をもっていないのです。

佐藤教授は、「英語専科の先生方も増えていますが、やはり担任を経験した英語専科の先生は全然違います」と教員に説明します。例えば、「小学生の子どもたちはどんな場面で英語のone, two, threeを覚えたい、使いたいと思うか?」と考えたときに「給食で残ったものをかぞえるとき」、「運動会の玉入れで赤玉と白玉をかぞえるとき」といった意見は、学校の日常生活や子どもたちの気持ちがわかっていないと出てこない、ということです。

 

―なぜ「担任の先生だから良い」のでしょうか?

“子どもにとっての日常生活の場は、ほとんど学校です。英語を使える学校の場面がわかるのは担任の先生方です。

だから、「先生方は力があるんです」とお話しすると、「そうかも」と思っていただけることが多いです。子どもたちは「英語で野菜の名前を何か言ってごらん」というふうに言われてしまうと、何も思い浮かびません。

でも、担任の先生と子どもたちで「ほら、去年みんなで何を育てたんだっけ?」―「とうもろこし!」―「英語で何て言うの?」―「とうもろこーし?」―「cornだよ!」―「じゃあ言ってみよう」―“Do you like corn?”―“Yes!” というようなコミュニケーションができると、みんなで笑って楽しみながら学べます。”

 

―このような話をしたとき、先生たちはどのように反応されますか?

“とてもうれしそうに「すとんと落ちた」と納得してくださいます。「あ、それなら思いつくかも」、「明日から英語の授業できるかも」と思っていただけるようです。

先生方に自信をもっていただく、ということは常に心がけています。”

 

佐藤教授が見学した他校の授業では、教員の学びが子どもたちの学びに繋がる様子が観察されました。担任の教員がALTからclient(お客さん)、shop keeper(店員)といった単語を教わり、ALTと一緒に何度も発音を練習しながら使いこなせるようになる様子を見た子どもたちは、「“お客さん”の英語の言い方がわかった!」「shop keeperを覚えた!」と授業を振り返っていたのです。

佐藤教授は、「先生だって知らないことはいっぱいあるけれど、練習すればできるようになる」ということを子どもたちに見せた点を評価しています。

 

―先生が「学習」のお手本になるということもあるのでしょうか?

“そうですね。まじめな先生は「全部知ってから教えなくてはいけない」と思っていらっしゃいますが、この子どもたちは勉強の仕方を先生から学べました。先生が恥ずかしがらなければ、子どもたちも恥ずかしがらないで質問できます。

ある学校で「英語は難しい」と先生が何度も言っていた授業の振り返りでは、子どもたちからも「英語は難しい」という感想が出ました。先生方が「英語が大好きになりました」、「意外と英語を話せるようになりました」とおっしゃる学校では、「英語が好き」という子どもの割合が98%になりました。

先生の気持ちは、子どもたちに移るんです。”

 

 

「自由度」で子どもたちの負担を軽く

上平井小学校は、前年度の授業研究で明らかになった課題の一つとして、語彙のインプットを挙げました。子どもたちに「伝えたい気持ちはあるけれど、語彙がないから言えない」という様子が見られたからです。

しかし、一方で、学習が苦手な子どもの支援も課題となりました。佐藤教授は、学習が苦手な子どもたちは「暗記しましょう」という指導方法が重荷となって英語が苦手に感じてしまう可能性があることから、暗記するのではなく「自分が言いたいことを伝える」という目的意識をもたせることに加え、「自由度」が重要であることを説明しました。

英語で活動する際に必ず使わなければならない単語やフレーズ、つまり、一度に覚えなければならないものを最小限に抑え、あとはすでに学んだ表現の中から、あるいは、自分で調べた表現を使って、自由に付け加えて良い、ということです。

 

―「自由度」という考え方はどのように生まれたのでしょうか?

“中学校で口頭表現の授業を熱心に行っている先生方とお話しすると、音読やスピーチなどの授業でも「単語や文法を暗記しましょう」と暗記に重点が置かれているようです。

でも、ある授業では、電話をかけるという場面設定のロールプレイを「“May I speak to Mary, please?”―“Sure.”というやりとりは必ず入れるけれど、その前後は好きにしていいよ」と指導したら、学習が苦手な子どもたちのほうが役になり切って上手にコントをしていて、教室のみんなが笑ったんです。その子どもたちは、うれしくなって自信がついていました。

その後も繰り返し試してみた結果、学習が苦手な子どもたちはロールプレイが好きな傾向にありました。小学校の授業でも、高学年の子どもたちにはものすごい数のフレーズを覚えさせる学校が多かったので、同じような授業をしてみたところ、小学生も中学生と同じような反応をすることがわかったんです。”

 

「自由度」といっても、無計画に指導したり、子どもたちの語彙力を試したりするようなものではありません。例えば、誰かの英語の発言に対して“Wow!”などと英語で返すと、会話のキャッチボールの回数が増えるだけでなく、子どもたちが笑って授業が盛り上がります。

“Oh, do you?”、 “Oh, really?”、 “Me too.”など、いろいろな短いリアクションのフレーズを毎回口に出して練習しておくと、「何でもいいから言ってごらん」というときに言えるようになるのです。また、「どんなことが言いたい?」と子どもたちに聞いておいて「この中から自由に使っていいよ」とあらかじめ準備するなど、「〜は何て言うの?」と想定外の質問をされる教員側の不安を解消する工夫もできます。

佐藤教授は、会話を何往復できたら「よくできました」なのかという評価基準をあらかじめ子どもたちに伝えることも重要だと考えています。最低限できればよいことが少ない量で、かつ、事前にわかっていれば、負担が軽くなります。

さらに、「大変よくできました」を目指して、または、「みんなと違うことをしてみたい」、「おもしろくしたい」という気持ちから、自分で辞書を引いて工夫をしたり、クラスメートが使ったフレーズを真似したりしてがんばる子どもが多く、主体性のある学びになるということです。この「自由度」は、学習が苦手な子どもだけではなく、英語が得意な子どもにもチャレンジする機会を与えることができます。

英語の授業を効果的に行っている学校からは、「ほかの教科でも子どもたちの発言が増えた」、「先生たちの教え方が上手になった」という声が佐藤教授のもとに寄せられます。英語教育への取り組みは、子どもたちの学びの姿勢や教員の指導スキルを向上させるきっかけになるのかもしれません。

 

「不安」を「自信」に変える

教員の不安は、授業の内容や進め方に影響を及ぼす要因の一つであると考えられています(米崎ほか, 2016)。

早期からの英語教育が日本語の発達に悪影響を及ぼすのではないか、英語を教えたことがない自分が授業を担当してよいのか、学習が苦手な子どもたちに負担をかけるのではないか、といったことは、小学校教員が感じる不安の一部にすぎませんが、こういった不安を教員の立場に立って想像し、教員が納得しやすい具体例や学術的根拠を示すことは極めて重要なのではないでしょうか。

上平井小学校は、学年の枠を超えて学校全体で授業研究に取り組もうとしています。佐藤教授は、子どもたちの学年や発達段階に合わせてカリキュラムを組みながら研究していく過程では、「1年生でも意外とできるのではないか?」、「2年生はこれができた」、「じゃあ3年生ならこれくらいできる」、という学びの積み重ねで授業内容や指導方法に自信が出てくると考えています。

このような英語教育への取り組み方は、時間も労力もかかります。しかし、ただ研修を受けて英語指導の知識・技術だけを学ぼうとするよりも、はるかに主体的です。

受け身ではなく、自ら考えて工夫・実践し、自信に変えていく。苦手だった英語を学びながら好きになる。このような教員たちの姿は、子どもたちの英語学習、ひいては、学ぶ姿勢にも良い影響を与えるのかもしれません。

 

 

【取材協力】

・東京都葛飾区立 上平井小学校

 

・玉川大学 佐藤久美子名誉教授

佐藤先生のお写真

 

<プロフィール>

玉川大学大学院教育学研究科(教職専攻)名誉教授・特任教授。

津田塾大学学芸学部卒、同大学院文学研究科博士課程修了。

ロンドン大学大学院博士課程留学。

元NHKラジオ「基礎英語」講師。

専門は英語教育、言語学。2007年度より町田市教育委員会の委託を受け 小学校42校にカリキュラム配信。東京都、板橋区、葛飾区、中央区、千代田区、練馬区、目黒区、 稲城市、国立市、立川市、東村山市、三鷹市、武蔵野市、調布市、京都府など 多くの教育委員会や小学校にて英語研修講師、講演を行い 小中一貫英語教育を推進している。

近年は、幼稚園での英語活動、カリキュラム策定や教員研修も行う。

 

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参考文献

文部科学省(2015a).「平成26年度「小学校外国語活動実施状況調査」の結果について」. Retrieved from

https://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/1362148.htm

 

文部科学省(2018a).「平成30年度 小学校等における英語教育実施状況調査【集計結果】」. Retrieved from

https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/04/17/1415043_07_1.pdf

 

文部科学省(2019c).「平成31年度から新しい教職課程が始まります」. Retrieved from

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoin/1414533.htm

 

米崎里・多良静也・佃由紀子(2016).「小学校外国語活動の教科化・低学年化に対する小学校教員の不安:その構造と変遷」.『小学校英語教育学会誌』, 16(1), 132-146.

https://doi.org/10.20597/jesjournal.16.01_132

 

 

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