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日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。

2020.11.16

実社会での英語の使い方が身につくCLIL教育~上智大学 池田教授インタビュー~(後編)

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実社会での英語の使い方が身につくCLIL教育~上智大学 池田教授インタビュー~(後編)

「CLIL(内容言語統合型学習)」に関する、池田真教授(上智大学)への取材記事後編です。

【目次】

 

「考えながらアウトプット」が英語を使う力になる

このように、CLIL授業でインプットされる英語は、「生徒に考えさせる」内容であり、それが実際のコミュニケーションと同じような英語の使い方を引き出します。池田教授は、日本人が英語を使えない原因は、英語を学ぶときに「考える」プロセスが抜けているところにある、と話します。

 

―なぜ英語学習で「思考力」が重要なのでしょうか?

CLILでは、新しい内容を英語で学び、考え、話し合い、表現する、ということをやりますが、これは、社会に出てからの英語の使い方とまったく同じなんです。例えば、業界の最新の製品についてインターネットで情報を集めて、英語でいろんな国の人たちと新しい商品の比較について議論をして、商品をプレゼンテーションして売り込む、というような使い方ですね。

ただ覚えた単語や表現を使って練習したり試験問題を解いたりするときは、頭の使い方が全然違います。

CLIL授業では、「こういう設定で会話しましょう」という無理やりなことは必要なくて、教科的な内容を学ぶために英語でやりとりする必然性が生まれます。実生活でのことばの使い方を教室の中で実現しようとするものなんです。

 

―たしかに、英語で “One, Two, Three…”と数字の言い方だけを学んでも、実生活で数字を使うとなると、頭の中で計算をしたり、いろいろなことを考えたりしながら話さなければならないので難しいことがありますね。

そうですよね。学んだことを再現しやすいのは、最初に習得したときと状況が似ているか、学習時に用いたような思考力を使うときである、と言われています。これは、「転移適切処理(Transfer-appropriate processing)」という有名な仮説です。英語を学ぶときには、英語を使うときと同じような思考力を使うことが大事なんです。

日本人は英語で話すことがなかなかできないと言われますが、脳の働きが「これって英語で何て言うんだっけ?」という言語的なものでかなり占められてしまっていて、「考える」ということに脳をうまく使えないからです(下図の左側)。

CLILの授業で英語を学んだ人(下図の右側)は、思考を使った言語活動をしょっちゅうしているので、実際に社会に出て英語を使うときにも、「内容」と「思考」と「言語」をバランスよく使えるようになります。これが、第二言語を習得させるうえで一番重要なCLILのメリットであり、従来の英語教育と一番違う点ですね。

 

伝統的学習者とCLIL学習者の相違イメージ

 

日常生活で使う英語や文法も自然に学べる

CLIL授業では、インプットでもアウトプットでも「考える」プロセスが入っていることによって、実生活と同じような英語の使い方ができることがわかります。池田教授によると、この「考える」プロセスのなかで、従来の授業で扱われてきたような、身近なものの名前や文法知識も自然に身につけることができます。

 

―教科を英語で学びながら、日常生活で使う英語も身につけられるのでしょうか?

身につけられますね。CLILの授業では、教科書に書いてあるような内容や概念をどのように日常生活に応用するか、ということを考えさせます。すると、教科的な英語と日常的な英語が自然に頭の中に入ってきます。

例えば、高校1年生の「科学と人間生活(Science and Human Life)」というCLIL授業を行いました。教科的な英語は、conduction(伝導)、convection(対流)、radiation(輻射)といった、熱の伝わり方に関するものです。

ただ英語で理科を教える授業なら、こういうことばかりを学びます。でも、CLILの授業では、エアコンや灯油ストーブ、ホットカーペット、床暖房などがどの熱伝導の仕組みを使っているかを調べさせたり、それぞれの暖房器具の長所・短所を比較させたり、自分だったらどの部屋にどの暖房器具を置くか考えさせたりします。このときに出てくる英語は、日常的な単語や表現ですよね。

 

―文法はどのように学ぶことができますか?

例として、ドイツで行われた地理のCLIL授業を紹介します。教科書には、イギリス(UK)の4つの国(イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランド)の首都ごとに、平均気温や降雨量などのデータが英語で書いてあります。

生徒には、この実際の気象データと英語の原級(例:〜is as warm as〜)、比較級(例:〜is warmer than〜)、最上級(例:〜is the warmest)を使って、地域による気候の違いを表現させます。さらに、その地域の緯度や高度、海流など、気候の違いが生まれる理由を考えさせます。これは、文法学習と教科学習の融合です。

 

―文法も十分学習できるのですね。

そうですね。実生活と結びつければ、文法も学習できます。現行の中学2年生用の検定教科書には、私がつくった日本の歴史を英語で学ぶページがあります。

まずは、英語で書かれた年表を読みます。年表では、歴史上の出来事が現在形で表現されますね。生徒は、それを基に、歴史上の人物が何をしたのかを動詞の過去形を使って表現します。最後には、歴史上の人物を一人選んで調べて、いつ生まれていつ亡くなって、その人物の影響は何かということを説明する「談話」をつくります。

すると、過去形の規則活用・不規則活用も歴史の知識も頭の中に入ってきます。自分で考えて表現しているからです。

 

―CLILの授業を受ける生徒は、文法への苦手意識も変わってくるのでしょうか?

「文法をやっている」という意識がないと思います。文法は、内容を理解したり表現したりするために必要なものになってくるからです。

最近の教科書は、文法をあまり意識させないようにつくってあるのですが、結局、授業では「今日は現在完了形をやります」という感じになってしまうんですよね。

CLILの授業では、普通の英語の授業よりも楽しい、と言う生徒が多いと思いますし、先生もけっこう楽しむんですよね。英語を教科的な内容と結びつけると、先生も教えるのに熱が入って、それはやっぱり生徒にも伝わります。

日本の先生たちは世界的に見て、すごく良心的で熱心な、指導に長けている方が多いと思います。ですから、そういう先生たちがCLILの授業のやり方を身につけると、ますます良い先生になります。

 

小学生以降は、何か一つでも英語で学ぶ体験を

一般的に、「授業で学ぶ英語」と「実生活で使う英語」に差があることは、英語を使えるようにならない原因の一つとして指摘されることが多く、生徒が興味・関心をもちやすいテーマ、身近な場面設定や話題を扱うことが以前よりも重視されるようになってきました。

しかし、CLILでは、そこからさらに一歩踏み込んで、「授業での英語の使い方」と「実生活での英語の使い方」の差、という問題を解決できます。その差とは、授業で英語を聞く/話す/読む/書くときに「思考」が抜けているにもかかわらず、いざ社会に出て英語を使うときには、英語以外のさまざまな知識や思考力を同時に働かせなければならない、ということです。

CLILは、「最新の英語教育方法」と紹介されることが多いですが、池田教授はCLILをスマートフォンに例えます。スマートフォンは、携帯電話、インターネット、デジタルカメラ、音楽プレイヤーなど、従来から存在していたテクノロジーを一つにまとめて便利にしたもの。CLILも同様で、すでに実践されている別々の理論や指導方法を一つにまとめて、学習効果や教育の質を最大限に高めようとするものなのです。

よって、CLILについて知ることは、一部の私立学校などだけではなく、すべての学校、教員、保護者にとって有益だと考えられます。

大学の授業も仕事もオンラインでできることがわかってきたいま、海外に出なくても、英語で専門的な知識を学んだり使ったりする場面がますます増えるかもしれません。すでに高校の英語教育では、例えば、地理歴史科の学習内容(例:地球環境問題、資源・エネルギー問題など)に関する英文を読んだり、その内容について議論したりして、英語で課題解決できる力を育てることが求められています(文部科学省, 2018)。

池田教授は、そのような現状や将来を見据えて「小学生以降は何か一つでも英語で学ぶ、ということを強くおすすめします」と話します。小さいころから英語で学んで考える体験をしておくことは、ただ英語にふれる機会を増やすだけではなく、グローバル社会で実際に英語を使う力につながるからです。

これからは、高校や小・中学校でも、英語だけではなく、そのほかの教科やさまざまな内容を英語で教えられる教師も必要になってくるのではないでしょうか。

 

<取材協力>

池田真教授(上智大学 文学部英文学科 同学科長)

池田先生のお写真

<プロフィール>

英語学(特に英文法史)と英語教育(特にCLIL)を専門とし、日本におけるCLILの指導方法、教員養成・研修、教材開発に関する研究や実践をヨーロッパの専門家と協力して進めている。日本CLIL教育学会 副会長。

 

■関連記事

実社会での英語の使い方が身につくCLIL教育~上智大学 池田教授インタビュー~(前編)

 

「東京英語村」に取り入れられるヨーロッパの外国語教育

 

参考文献

Ikeda, M (2019). ‘CLIL in comparison with PPP: A revolution of ELT by competency-based language education’ in Reinders, H., Ryan, S. & Nakamura, S. (Eds.), Innovation in language teaching and learning: The case of Japan, Cham, Switzerland: Palgrave Macmillan, pp. 23-45.

 

Webb, S. and Nation, P. (2017). How Vocabulary is Learned. Oxford Handbooks for Language Teachers.

 

日本CLIL教育学会(2017).「CLILとは」. Retrieved from

https://www.j-clil.com/clil

 

文部科学省(2017).「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 外国語活動・外国語編」. Retrieved from

https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1387017_011.pdf

 

文部科学省(2018).「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 外国語編」. Retrieved from

https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/28/1407073_09_1_1.pdf

 

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