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2021.07.20

子どもがバイリンガルに育つうえで親はどのような手助けをできるのか~Eowyn Crisfield氏インタビュー

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子どもがバイリンガルに育つうえで親はどのような手助けをできるのか~Eowyn Crisfield氏インタビュー

二つ以上の言語を話せる子どもを育てたい、という考え方は、世界中の親たちの間で広まってきています。しかしながら、特に第二言語を話す人々が周りにいない環境では、それは難しいことだとすぐに気づきます。日本は、そのような環境の一つです。英語を第二言語として学ぶことが望ましいとされながらも、一般的な日本の子どもたちは身近な環境で英語を聞く機会があまりありません。

そこで、子どもがバイリンガルに育つうえで親はどのような手助けをできるのか、というテーマについて理解を深めるため、Eowyn Crisfield氏(Oxford Brookes UniversityのTESOLシニア講師)にインタビューを行いました。

Crisfield氏は、2021年に出版された『Bilingual Families: A practical language planning guide』(IBS訳:バイリンガル家庭のための実践的な言語計画ガイド)の著者でもあります。

この本では、同氏が世界各国の家庭や学校に対するコンサルティングを行ってきた経験、そして、自身の3人の子どもをバイリンガルに育てた経験に基づき、バイリンガル子育ての実践的な側面が取り上げられています。

【目次】

 

バイリンガル子育てへの第一歩とは?

まずは、世界各国の家庭と関わってきた豊富なご経験について伺いました。Crisfield氏は、ケニアのマルチリンガル家庭から、国外に住む日本人家庭まで、幅広く関わってきたとのこと。その経験から、どの家庭にとっても、バイリンガル子育てへの第一歩は、バイリンガリズム(二言語使用)に関するしっかりとした情報を得ること、と考えています。

「私たちは、しっかりとした情報がどれほど親御さんの役に立つか、ということを軽視しています。バイリンガルの子どもを育てるのは簡単だという神話がありますが、特定の状況下ではそれは正しいかもしれません。例えば、ケニアでは、さまざまな言語が話されている環境であるため、子どもたちがさまざまな状況で複数の異なる言語を使います。このような家族に家庭内での言語計画の話をすると、彼らは困惑した顔をしますが、それは彼らの状況では必要ないからです。

一方、日本のようなモノリンガル社会では、家族が子どもに第二言語を教えるための計画を立てる必要があります。そのためには、まずしっかりとした情報を得て、親が自分自身と子どもに対して正しい期待をもてるようにすることが大切です。」

 

-バイリンガル子育てに取り組む日本人家庭から相談を受けたご経験からは、どのようなことがわかりましたか?

「国外に住んでいる日本人家庭から相談を受けてきましたが、ほかの多くの国の家庭と比べると、言語維持に対する考え方が大きく異なります。

親御さんは、日本語をしっかりと身につけることを第一に考えている。つまり、母語を守っているのです。ほかの国の人たちは、自分の子どもが英語さえ使えるようになればいいと考えていて、母国語を完全に使いこなせる力を維持する、ということにはあまり関心がないようです。

これは自国を離れて海外で生活している家庭の場合であり、そのような環境では英語のほうが便利だからです。

おそらく、日本社会で能力を発揮して成功するためには、日本人は日本語を完全にマスターしている必要があり、英語を話せるということはおまけであって、必須ではないという認識からきているのでしょう。

また、日本人は日本語を特別に大切にしていることもわかりました。だからこそ、第二言語学習の導入が早すぎると日本語が損なわれるのではないか、と心配する親御さんが多いのかもしれませんね。

 

-バイリンガルの脳内は実際にどうなっているのでしょうか?

「バイリンガルの脳とはどのようなものかを理解することが大切です。多くの親御さんがもつバイリンガル脳のイメージは、二つの風船、つまり英語の風船と日本語の風船が別々になっているというものだと気づきました。

つまり、一つの脳内に二人のモノリンガルが存在している、というふうに見ているのです。でも、私たちの脳の仕組みは実際にそうはなっていません。

ジム・カミングスの「iceberg analogy」(氷山説)(Baker 2011, 165-166ページ参照)をご存知の方もいるかもしれませんね。私たちが言語について知っているすべてのことは水面の下にあり、水面上に出てくるのは日本語か英語です。表面上は二つの別々の言語が見えていますが、水面下では根本的なメカニズムが多くの点で重なり合っています。

二つの風船説のイメージ画像

図1:二つの風船説

 

iceberg analogyのイメージ図

図2:氷山説

 

だからこそ、バイリンガルの人は、モノリンガルの人とは違う言語の使い方を好むのです。言語の熟達度とは関係なく、使い方の違いです。

バイリンガルは、一つの脳内に二人のモノリンガルがいるわけではありません。これは、親御さんにとっては克服しがたいマインドセットですね。

両親・友人との会話や学校で日本語を話す典型的な日本人の子どもたちであれば、週に数時間英語のインプットを受けても、日本語には何の影響もありません。日本語と英語がお互いに影響を与え合う(前述の通り、言語の熟達度には影響しません)としたら、それは、両方の言語が十分に発達したときです。

ですから、英語学習を早くから始めると日本語に悪影響を与えるのではないか、と不安を感じている親御さんや先生には、何も心配する必要はない、ということを伝えたいです。なぜなら、日本の子どもたちは、英語学習にかける時間が十分にはないからです。」

 

英語をインプットするための実用的な方法

―第二言語の習得には言語インプットが重要であることがわかっていますが、日本に住む子どもたちに英語のインプットを提供する方法は限られています。子どもの英語力を育てるために、家庭で英語に触れる機会を上手に設けるには、どのような方法があるでしょうか?

「子どもがかなり小さいころから英語のインプットをしたいと考えているのであれば、英語への感性を育むような、遊びを中心としたコミュニケーション(歌や韻、ゲーム)がいいでしょう。子どもたちは、わずかな時間英語に触れただけでは、すぐに流暢になるわけではありません。

ですから、親御さんは自分が貢献できるところに焦点を当てるべきです。それは、子どもが日本語にはないけれど英語にはある音に敏感になるように、音のレパートリーを増やしてあげることです。

楽しむこと、そして、音を大切にしましょう。そうすれば、年齢が上がったときに英語力が向上するための土台ができます。

私が指導している大学院生の一人は、日本人の英語力とオンラインゲームとの関係について論文を書いていました。彼は、Minecraftのようなゲームをしているときに英語を使っている人のほうが高い英語力をもっていることに気づいたのです。

現代社会の子どもたちは、教室ではなく、世界中のオンラインゲーム・プラットフォームを通じて英語を学んでいます。ゲームをするために英語を使う必要があり、しかもそれが楽しいので、英語のスキルを伸ばすことができます。

その言語を使うモチベーションが高いときに力が伸びるということは明らかですが、日本の教室環境では、実際に英語を使用するための動機づけがほとんどありません。」

 

オンラインゲームのように、子どもたちのコミュニケーション意欲を高めるものを見つけることは、Crisfield氏が多くの親御さんに提案していることです。Crisfield氏は「親御さんはオンラインゲームが効果的だというようなアドバイスを聞きたくないでしょうが、これが現実なのです」と笑いながら話してくれました。

 

-最もおすすめの英語活動について教えてください。

「私が親御さんに一番おすすめしているのは、10代のお兄さん・お姉さんに子どもと英語で遊んでもらうことです。重要なポイントは、ゲームと同じで、子どもが英語を使いたいと感じられるような関わり方である、ということです。小さい子どもは、年上のお兄さん・お姉さんが大好きですから、一緒に英語で遊んでもらうことは、子どもにとって大きなモチベーションになります。

日本のご家庭にとって朗報なのは、彼らが英語のネイティブ・スピーカーである必要はないということです。英語が得意な日本人のティーンエイジャーがいれば、日本人の5、6歳児が英語に好奇心をもち、英語で遊べるように手助けすることができます。

これにより、英語学習に社会的な要素(他者との関わり)が加わり、幼い子どもたちにとって大きなプラスになります。」

 

具体的には、「週に3回、1時間だけ10代のお兄さん・お姉さんにお願いして、英語で絵本を読んだり遊んだりしてもらう」という英語インプット方法がCrisfield氏の提案です。

 

-幼少期における英語活動の目的とは?

「幼少期における英語活動の目的は、子どもたちが英語に対する感性や好奇心を育み、英語を使うことへの動機づけをすることです。学校の英語の授業では、子どもたちが英語を使うために必要なモチベーションが得られないことが多いです。

私がいま指導している日本人の大学院生は、日本の中学校の英語授業におけるトランスランゲージング(※1)の使用についての最終論文を書き上げたところです。彼の研究によると、中学に入学するころには、子どもたちはすでに英語に抵抗を感じているようです。それは、間違った表現を使いたくないからです。

でも、間違った表現をしたくないという気持ちがあったとしても、幼いころから英語に触れ始めて、英語を使いたいという好奇心とモチベーションが育っていれば、たとえ発音を間違えても英語を使おうとするでしょう。」

 

言語政策が実践を導く

―新しい本を出版され、バイリンガル家庭や学校に対するコンサルタント業も成功しているようですね。ほかに何か熱心に取り組んでいるプロジェクトはありますか?

「いまちょうどジャージー島(イギリス)の言語政策を確定しているところです。」

Crisfield氏によると、ジャージー島は、イギリスとフランスの間に位置する島ですが、イギリス領の一部。ジャージー島では、政府が英語とフランス語を使用しており、地元の言語であるジェールリア語も話されています。

子どもが英語を話せない移民労働者も多く存在します。政府はこの多様な人口の構成に対応する言語政策を持っていなかったため、Crisfield氏のチームが数カ月間に渡って言語政策の策定に取り組んできました。このプロジェクトはあと2年で完了する予定です。

 

「 政策がどのように実践(実際の言語使用)に影響を与えるかを見られることは、本当に刺激的です。私たちはよく個人の言語使用にのみ注目しますが、忘れがちなのは政策的な部分です。つまり、言語にはどのような価値があるのか、言語をどのように使うのか、言語がどのように有益であるか、ということについての共通の信念や理解が、私たちを一つにまとめているのです。

例えば、日本には、日本語を話さない移民の人たちが多く存在します。このような家庭は、両親ともに海外出身であったり、片方の親が日本人でもう片方の親が日本人でなかったりします。

日本の学校では、子どもたちの言語、そして、国の言語として日本語が全体的に重要であることを強調しつつ、子どもたちがどのような移民の言語を話していて、それらの言語をどのように尊重するか、ということを認識できるような言語政策を策定することが重要でしょう。

政策は、実践の根幹となるものです。」

 

バイリンガル子育てにとって、研究結果に裏打ちされた情報を十分に得ることが重要

今回のインタビューでは、バイリンガル子育てにおいては、まずは研究結果に裏打ちされた情報を十分に得ることがいかに重要であるかを学びました。重要なポイントは、日本語と英語のバイリンガルは、日本人のモノリンガルとは全く同じではないということです。

沖縄出身の人や関西出身の人は、どちらも標準語(東京弁)を学びますが、その標準語には、それぞれの方言によって多少の違いが出てくるのと同じです。これは、バイリンガルの子どもと同じで、その言語能力が劣っているということではありません。このような違いを受け入れることができれば、言語に関する判断に自信をもつことができます。

Crisfield氏は、英語に自信のない親でも実践できるような有益なアドバイスをしてくれました。幼少期に英語に触れ始めることで、子どもの英語に対するやる気や感覚を養うことができ、それがその後の言語発達の土台となります。

Crisfield氏の新刊『Bilingual Families: A practical language planning guide』(2021年出版)では、バイリンガル子育てに取り組む家庭向けに、家庭での言語計画を作成する方法が説明されています。この本は、母語が社会の少数派言語である国で子どもを育てているバイリンガルの親にとって、最も役立つものです。

このような環境でバイリンガル子育てに取り組んでいる親御さんは、ぜひ以下のリンクからCrisfield氏の著書とブログを見てみてください。

Eowyn Crisfield氏のブログ: https://onraisingbilingualchildren.com/

Eowyn Crisfield氏の著書: https://onraisingbilingualchildren.com/resources/

 

(※1)異なる言語を一緒に使用すること。

 

■関連記事

子どもの英語教育に必要な「モチベーション」 〜Minecraftを活用した授業 立命館小学校 正頭教諭インタビュー〜

 

参考文献

Baker, Colin. 2011. Foundations of Bilingual Education and Bilingualism. 5th ed. Multilingual Matters.

 

Crisfield, Eowyn. 2021. Bilingual Families: A Practical Language Planning Guide. Multilingual Matters.

 

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