日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。

2022.03.24

「小学校文化」に根づいた外国語教育が日本の強み 〜文部科学省 初等中等教育局 視学官 直山木綿子氏インタビュー(後編)〜

,

「小学校文化」に根づいた外国語教育が日本の強み 〜文部科学省 初等中等教育局 視学官 直山木綿子氏インタビュー(後編)〜

文部科学省 直山視学官への取材記事後編です。

 

【目次】

 

英語学習は、日本語学習のためにも有効

―英語という新しい言語に触れることで、日本語にも良い影響があるのではないか、というお話がありました。英語教育の早期化によって、日本語教育(国語)に悪影響があるのではないか、いう不安が出てくることについて、どのように感じられているでしょうか?

私は、日本語に悪影響を及ぼさないと思っています。もし悪影響を及ぼすとしたら、国語の指導方法または外国語の指導方法によほど問題があるときではないでしょうか。ただ、日本は、週1コマや2コマの英語教育くらいで崩れるような国語教育をやっていないはずです。

私は、中学校の授業で教わる国文法がまったくわからなくてはじめは苦労した経験があります。日本語は無意識で話すことができるのに、文法と照らし合わせて考えなければならないとなると、わからなくなってしまうんです。ところが、英文法の勉強はわりと好きでした。数学が好きだったので、英文法も数学と同じようにパズルみたいだなと思いました。

そうすると、国文法もわかるようになっていきました。英文法と国文法を比較することで、「このルールは英語にはないんだ」、「英語ではこういうルールなのに、日本語では違うんだ」というふうに興味をもち、国文法の理解につながったんです。

 

―英文法の学習が国文法の学習に役立ったのですね。

そうなんです。例えば、目の前に一本のペンを出されて「このペンは長いですか?短いですか?」と聞かれたら、何と答えますか?長いか短いかがわかるためには、もう一本別のペンと比べてみることが有効です。あるものを理解するためには、それだけを見ていてもわからない。同じカテゴリのものと比べることで、理解できるんです。

ですから、母語の力をつけるために、同じ「言語」というカテゴリに属する英語と比較させることによって、母語の特徴がよく見えてきます。私は、母語教育のために外国語教育を利用するべきだと思いますし、そうすることで、母語の力も外国語の力もつくと考えています。

国語の指導を経験している小学校の先生は、英語の授業も上手なはずです。

 

―英語という新しい言語に出会って比較することで、いままで無意識に使っていた日本語のルールに気づくことができますね。

そうなんです。例えば、私たちは、プールに入って水に潜ってみると、「普段は無意識に息をしていたんだ」ということに気づきますよね。

母語も一緒です。みんな母語は無意識で話していますよね。でも、母語ではない別の言語に出会うと、母語の良さを改めて感じると思います。日本文化も、海外の文化に出会ってはじめて、その良さを実感することがあるのではないでしょうか。
ですから、日本語の学習に良い影響を与えるような外国語の指導方法やカリキュラムになっていればよいと思います。

 

小学校英語教育のあるべき姿は、子どもたちが答えを出してきた

―小学校英語教育は、まずは小学5・6年生から「外国語活動」を導入したことから始まりましたね。小学校・中学校の先生方はどのような反応だったのでしょうか?

先ほど申し上げたように、子どもたちの視野が広がること、そして、中学校で身につけることになる4技能(聞く・話す・読む・書く)の基礎をつくることに小学校英語教育の意義があると思っています。

でも、私が文部科学省で仕事をするようになってからはじめの約2年間ほどは、小学校に外国語活動が導入されることに対して中学校の先生方からの反発がとても強かったです。

これまで、中学1年生の子どもたちは、キラキラと目を輝かせながら新しく教わる英語の授業を受けていました。これは、中学1年生の授業を担当する教師の特権でもあったからですね。「小学校で間違って覚えた発音を修正するのが大変だ」なんていう声もありました。

でも、この状況に子どもたちが答えを出しました。外国語活動の授業を受けた子どもたちは「英語がとても楽しい」と感じてくれています。そして、英語学習への意欲を高めたままの状態で中学校に入ってくる子どもが多いという成果が認められています。
歌やゲームという触れ方ではありますが、日本語にはない英語特有のリズムやイントネーションを聞く楽しさ、英語の歌をうたえるようになる喜びなどが子どもの態度からわかるようになりました。

そして、その様子を見た小学校の先生方はうれしくなり、小学校の英語教育に積極的に取り組むようになる、という相乗効果が生まれるようになりました。

すると、中学校の先生方からの反発もなくなっていきました。小学校の外国語活動を経験してきた子どもはリズム感がいい、単語をよく知っている、英語をなんとか聞き取ろうとする態度が身についている、という声が聞かれるようになり、中学校の先生の意識が大きく変わったんです。

 

―現場の先生方も、小学校での外国語活動が中学校での英語学習の意欲づけに効果的なことを実感するようになったのですね。では、新しい学習指導要領で、小学3・4年生で「外国語活動」、5・6年生で「外国語科」、と変わったのはなぜでしょうか?

外国語活動では、あくまで慣れ親しませることが目的で、英語の技能を定着させることが第一のねらいではありません。そういう授業を2年間受けた子どもたちは、6年生の後半くらいから「しょうもない(つまらない)」、「やってもやっても忘れちゃうし、なんでこんなことやってるの?」、「また、これやるの?」と言い出すようになったんです。

ザルで水をすくっているように、「やった」、「できた」という実感が手からこぼれ落ちていくような感覚を子どもたちがもっていたんですね。

これは当たり前のことです。抽象思考が発達してきた6年生後半の子どもたちは、「ゲームをして楽しい」だけでは意欲が続かないんです。

いつまでも「慣れ親しむ」ではなくて、「これだけの力をつける」という定着を目的にした教科にしていかないといけない、ということがわかりました。

そこで、小学3・4年生で「外国語活動」、5・6年生で「外国語科」(教科)にしたわけです。教科の場合は、週1コマでは定着が難しいため、週2コマ(年間70時間)になりました。

 

―英語を「教科」にすることによって、学んだことを定着させ、子どもたちに「できるようになった」という実感をもたせることができるのですね。評価をすることにも、そのような効果が期待できるでしょうか?

そうですね。教科であっても、外国語活動であっても「評価」は必要です。ただ、教科と外国語活動では、評価の仕方が違います。

外国語活動の場合は、子どもたち一人ひとりの授業中の様子を見取って、「こんなことをがんばっていました」というような文章記述による評価です。

一方、算数や国語などの教科は、学校によって表し方は、1、2、3というような数値、「よくできる」、「できる」、「がんばろう」ということば、◎、○、△という記号など、違いますが、段階で評価を示します。

英語も教科になると、このような数値等による評価に変わります。もちろん、先生は数値や記号だけではなくて、「知識・技能」、「思考・判断・表現」、「主体的に学習に取り組む態度」という評価の観点(※1)ごとに、何をもっとがんばればよいかを通知表などでしっかり伝える必要があります。

そうすることで、子どもたちは「いま私はこれくらいの力がついているんだ」、「ぼくはここをがんばったら目標が達成できるんだな」と学習状況を理解したり振り返ったりすることができます。

そして、子どもたちが自分の目標に向かってがんばれるようになることを期待していますし、今後はそのような評価の仕方をするようになります。

 

効果的な指導のカギとなる「言語活動」は、小学校教員の得意分野

―限られた授業時数の中でもできる限り効果を高めるために、学校ではどのような工夫が必要でしょうか?

学習指導要領を読んでもらうと、小学校中学年の外国語活動、小学校高学年の外国語科、中学校の外国語科、高等学校の外国語科、この4つすべての目標として共通して記されていることがあります。それは「言語活動を通して」ということばです。

小学校における言語活動とは、実際に英語を使って自分の考えや気持ちを伝え合うことです。先生が “Repeat after me.” と言って子どもたちに繰り返し練習させることは、やってはいけないということではありませんし、言語活動を成り立たせるために練習も必要ですが、それが授業の中心になってはいけません。

 

言語活動の設定に関する図(文部科学省2020)

出典:文部科学省(2020)

 

―「言語活動」において、何が重要でしょうか?

学習指導要領(※2)に記されていますが、言語活動を成り立たせるためには、「コミュニケーションを行う目的や場面、状況など」が必要です。何のために誰に向けてどういう場面・状況で伝え合うのか、ということを授業の中で明確に設定することです。

例えば、先生が「カナダから新しいALTの先生が来るね。初めて海外に行くし、日本語も話せないから、とても不安みたいだよ。だから、日本に来て良かった、東京に来て良かった、って思ってもらえるように、ALTの先生の家族にも安心してもらえるように、この東京のことを紹介しようよ」と子どもたちに話します。これが目的の設定です。

コミュニケーションの相手はALTですね。そして、ALTのために子どもたち一人ひとりが東京紹介のスピーチをする、という場面設定を単元の最後に設けるわけです。

そうすると、子どもたちは1時間目のときから「何を話そうかな」と考え始めます。「ぼくは浅草の浅草寺にしようかな」、「大都市って言われている東京にも自然豊かな場所があることを伝えたい」、「東京は交通網が発達していてすごく便利なことを教えてあげよう」というように、ALTを安心させるために伝えたいことが子どもによって違ってきます。こういうことを自分で考えさせることができるから、コミュニケーションを行う目的や場面、状況などの設定をすることがとても大事なんです。

 

―ただ先生から与えられた英語を真似したり言ったりするのではなく、「何を伝えたいか」を子ども自身に考えさせることが大事なんですね。このような「言語活動」が重要、という考え方は、どのような経緯で出てきたのでしょうか?

従来、中学校や高校 では、文法の解説がメインの授業になっていることがありましたね。先生が文法の説明をする、生徒に十分理解させる、先生のあとについてリピートさせる、練習問題を解かせる、実際に使わせてみる、といった流れです。

もちろん、中学校や高校では文法解説が必要な場面もありますが、小学校では文法解説はしませんし、そもそもそのようなことは求めていません。

ですから、小学校では「まずは使ってコミュニケーションを体験してみよう」という授業スタイルになりました。
小学校では、他教科等も指導している担任の先生が英語を指導していることが多いですね。担任の先生は、常に目の前の子どもたちと一緒に過ごしているので、子ども理解がとても深いです。

小学校の先生は、その子ども理解に基づいて、「こんな活動をしたら算数が嫌いな○○さんも喜んでやるかな」、「このアニメを題材にしたら、社会や国語のときにつまらなそうにしている○○さんも興味をもつだろうな」と考えることがとてもお得意です。

小学校高学年の先生方は、こういう豊かな活動をこれまで外国語活動で実践されてきました。先生方は意識していなかったかもしれませんが、これが自然と言語活動になっていたんですね。ですから、教科になったとしても、中学校でも高校 でもそれを大事にしていこう、ということです。

子どもたちが思わずやりたくなるような活動を、子どもたちが最も興味・関心をもつ題材で、自分の考えや気持ちを伝え合う。そのような言語活動を授業の中心に据えることで、子どもたちがコミュニケーションを図る力をつけていくことにつながります。

これから日本の英語教育は大きく変わっていくだろうと期待しています。

 

先生は「英語を使おうとするモデル」に!親は子どもに教えてもらうスタンスで!

―小学校英語教育について、教員の方々に最も理解してほしい重要な点は、どんなことでしょうか?

英語教育とICT活用は、ほかの教科と比べても、家庭環境によってとても左右されると思っています。

自宅にパソコンがある家庭もあれば、ない家庭もあるように、英語教育に関心がある親御さんや子どもに英語を習わせたりする親御さんもいれば、そうでない親御さんもいますよね。そういう家庭で育ったお子さんは、英語にまったく触れないで小学校に入ってくるわけです。

小学校の先生方には、このことを強く意識してほしいです。このような家庭環境による差が大きくなりやすいから、公教育で英語教育をきちんと保障するわけです。

「英語が苦手なのに教えなければいけないなんて」と思う小学校の先生方がいらっしゃることは重々承知しています。でも、英語が苦手なら、子どもたちと一緒にがんばってほしいんです。

いまは、小学校の先生方には、「英語を使おうとするモデル」になってください、と伝えています。中学校や高校の先生になると、それに加えて、英語のモデルにもならなければいけませんし、小学校の先生にもいずれはそうなってほしいと思います。

でも、いまは小学校英語教育が始まったばかりなので、英語のモデルはデジタル教材やALTの先生、英語が堪能な地域人材におまかせしながら少しずつ自分の英語力をブラッシュアップして、まずは、英語を使おうとするモデルになっていただきたいですね。

―保護者の方々へのメッセージはありますか?

私がやった失敗をしてほしくないですね。私は特に英語教師でしたから、子どもに期待するあまり、家で詰問したり教えたりしようとしていました。そしたら、下の子は英語が大嫌いになってしまいました。逆に、3歳のときに英語のビデオをいやがったので家での英語教育をあきらめた上の子のほうは英語がとても好きになっていま海外にいます。

ですから、子どもが学校で英語を勉強して帰ってきたら、「へー!そんなことを習ったの!」と家庭での話題にして、「お母さんにも教えて」、「お父さんにも教えて」というふうに、子どもに英語を教えてもらうというスタンスがいいと思います。

英語が堪能な親御さんはつい教えたくなるかもしれませんが、「うれしいな!10年くらい経ったらお母さんと英語でしゃべれるようになるかもしれないね!」というふうに余裕をもって接してほしいです。

 

おわりに:「小学校教員が英語を教える」は日本の強み

現状、小学校では、英語授業の7割が主に学級担任によって行われています(文部科学省, 2019a)。英語力に自信がない、英語指導の経験がない学級担任が子どもたちに英語を教える、という状況は、教員にとっても、保護者にとっても、大きな不安要素の一つでしょう。

しかし、直山視学官のお話によると、2011年から全国で実施されてきた小学5・6年生の外国語活動のなかで、学級担任は自然と自らの強みを活かして、英語力に限らない子どもたちの興味・関心・意欲を高める「言語活動」を実施してきた、という実績があります。

その強みとは、学級担任として一日中子どもたちと一緒に過ごすことから得られる「子ども理解」。そして、全教科等を教えて いることによる知識・アイデアの引き出しの多さです。この強みによって、子どもたちが最も興味・関心をもつ題材を、一人ひとりの個性や性格を考慮しながら、子どもの日常生活や他教科の学習内容も含めた幅広い選択肢の中から選ぶことができます。そして、子どもたちが思わずやりたくなるような、自分の考えや気持ちを英語で伝え合う「言語活動」を実践することができます。国語力と英語力の両方を伸ばせるような授業も、小学級担任だからこそ可能なのです。

中学生を対象とした全国調査(文部科学省, 2019b)によると、言語活動を行っている学校と行っていない学校では、「英語の勉強が好き」という生徒の割合に2倍以上の大きな差が出ていることから、いかに英語の指導において言語活動が重要であるかがわかります。

直山視学官は、子どものころの英語との出会い、家庭での子どもたちへの英語教育、中学校教員としての英語指導などといった経験も踏まえ、子どもたちの目線に立った英語指導方法について強い熱意を込めて全国で講演をしていらっしゃいます。

学級担任は、英語力、英語の指導方法、第二言語習得の理論など、英語専科の教師に比べると知識・技能や経験が不足しますし、今後の課題であることは確かです。しかし、「子どもたちの目線に立つ」という点においては、学級担任ほど優れた力を発揮できる人材はいません。直山視学官の想いが一人でも多くの先生方に届き、学級担任が自信をもって英語の授業に取り組めるようになれば、英語が好きな子どもたち、英語を使える子どもたちを今後さらに増やしていくことができるのではないでしょうか。

小学校5・6年生の外国語活動を担当する教師に関するグラフ

 

(※1)該当文献:国立教育政策研究所(2020).「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料 小学校 外国語・外国語活動」.

https://www.nier.go.jp/kaihatsu/pdf/hyouka/r020326_pri_gaikokg.pdf

 

(※2)」該当文献:文部科学省(2017).「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 外国語活動・外国語編」.

https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1387017_011.pdf

 

【取材協力】

直山木綿子氏(文部科学省 初等中等教育局 視学官)

<プロフィール>

文部科学省 初等中等教育局 視学官、および、国立教育政策研究所 教育課程研究センター 研究開発部 教育課程調査官・学力調査官。文部科学省で小学校の外国語教育に関する教材開発や、全国各地での研修・講演などを通じた指導法の普及・推進に取り組んでいる。京都市の公立中学校での英語教諭、京都市立永松記念教育センター(現京都市総合教育センター)での小学校英語のカリキュラム・教材等開発の経験を経て、2009年4月より現職。

 

<小学校英語教育 直山視学官による解説動画>

【なるほど!小学校外国語①】言語活動

 

【なるほど!小学校外国語②】読むこと 書くこと

 

【なるほど!小学校外国語③】学習評価

 

【なるほど!小学校外国語④】教材の活用

 

■関連記事

「小学校文化」に根づいた外国語教育が日本の強み 〜文部科学省 初等中等教育局 視学官 直山木綿子氏インタビュー(前編)〜

小学校英語教育で必要となるALTに関する研究とは〜新型コロナウイルスの影響からの考察〜

 

参考文献

文部科学省(2019a).「令和元年度公立小学校における英語教育実施状況調査」.

https://www.mext.go.jp/content/20200715-mxt_kyoiku01-000008761_4.pdf

 

文部科学省(2019b).「平成31年度(令和元年度)全国学力・学習状況調査の結果(概要)」.

https://www.nier.go.jp/19chousakekkahoukoku/19summary.pdf

 

文部科学省(2020).「なるほど!小学校外国語シリーズ①言語活動」.

https://www.mext.go.jp/content/20200721-mxt_kyoiku01-000008881_1.pdf

PAGE TOP