日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。
2026.03.30
[左] ポール・ジェイコブス (IBS主任研究員)、[中央] 原田哲男博士(早稲田大学教育・総合科学学術院 教授/IBS学術アドバイザー)、[右] 佐藤 有里(IBS研究員)
ワールド・ファミリー バイリンガル・サイエンス研究所(IBS)は、早稲田大学と共同研究プロジェクトを開始しました。
研究対象は、日本の小学校で実施されているイマージョン教育プログラムです。このプログラムに在籍する児童の教科学習、英語コミュニケーション意欲、および英語力を調べています。
私たちの社会は、学術研究を通して、新しい知識を学んだり変化に適応したりする方法を模索してきました。しかし、その研究成果の多くは、一般の人々や教育現場の先生方にとって、まだ十分に身近なものとは言えません。
今回から公表する研究進捗レポートは、保護者や先生方に研究がどのように進められているのかを身近に感じていただくことを目標としています。誰もが研究について知ることができるようにするためです。バイリンガルの子どもたちの発達について理解を深め、その知見を広く社会と共有することは、IBSの中核となる使命です。
今回より、いくつかの「研究進捗レポート」を公開する予定です。研究の途中経過をみなさんに共有することで、最終的な研究成果をより理解しやすくしたいと考えています。
この研究プロジェクトは、2024年秋に始まりました。開始にあたっては、研究者、小学校、そして教育委員会の間で協議を重ね、研究の範囲が実施可能かどうか、また学校現場で無理なく進められるかを検討しました。
学校と教育委員会は、この研究プロジェクトに積極的に協力する意向を示してくださいました。学校や先生方が実感している前向きな成果が、研究によって客観的に確認されるのかどうかに関心を持っていたからです。なお、本研究は、科学研究費(日本学術振興会)の助成を受けています。
私たちが研究を進めている小学校は、1学年につき、2つのクラスがあります。どちらも一般的な日本の小学校のカリキュラムですが、1つは日本語のみを使って授業を行う通常クラス(以降、通常学級)であり、もう1つは英語も使って授業を行うイマージョン教育のクラス(以降、イマージョン学級)です。
イマージョン教育は、一般的に、授業の50%が外国語で行われるプログラムを指すと考えられています(Baker & Wright, 2021)。世界にはさまざまなタイプのイマージョン教育校がありますが、共通の目標があります。それは、二つの言語で高い言語能力を身につけ、二つの文化を理解できる力を育てること、そして学業面でも成果を上げることです。
今回の研究協力校におけるイマージョン学級では、国語と道徳の授業は日本語、それ以外の教科は英語を使い、文部科学省の学習指導要領に基づいて指導されています(この学校の詳細については、IBSの記事をご参照ください)。
この学校は愛知県の地方都市にあり、日本で初めてイマージョン教育を導入した公立小学校です。2026年3月に卒業する児童たちは、1年生から6年生までイマージョン教育を受けた最初の学年となります。そこで、私たちの研究プロジェクトでは、第一段階として、この6年生を主な研究対象としました。

教師2名によるチームティーチングで指導される6年生の算数授業
研究課題は、以下の3つです。
1. 1年生から6年生までイマージョン学級に在籍している児童の学力(算数・社会・国語)はどのような状況にあるか。
2. 英語でコミュニケーションをとろうとする意欲(Willingness to Communicate)は、イマージョン学級の児童と、通常学級の児童の間で違いはあるのか。また、授業中のどのような体験が、その意欲を高めたり低めたりしているのか。
3. 児童の英語力は、全国平均と比べて、どのようなレベル(低い/同程度/高い)なのか。
誰に協力してもらう?
イマージョン学級に在籍する6年生児童とその先生たちにご協力いただきました。また、イマージョン学級に在籍する4年生・5年生や、通常学級に在籍する生徒からもデータを収集する予定です。
私たちは、アンケート調査、授業観察・録画、生徒や教師へのインタビュー、そして単元テストの結果分析を通して、上記3つの研究課題に取り組みます。また、さまざまな種類のデータを組み合わせて分析する混合法研究(ミックスド・メソッド・アプローチ)として実施されます。
6年生の算数・社会・国語の授業を、2単元ずつ録画します。また、単元テストの結果、児童の振り返りコメント、児童の教科学習に関するアンケートも収集し、児童の学習成果を評価します。

図形に関する算数授業。重要な用語や概念は英語と日本語で書かれている。
英語でコミュニケーションをとろうとする意欲(Willingness to Communicate)を総合的に把握するため、イマージョン学級・通常学級の4年生から6年生までの全児童を対象にアンケート調査を実施します。コミュニケーションをとろうとする意欲は、状況や場面によって変化することが指摘されています(Cao、 2011)。そのため、イマージョン学級6年生の授業を観察するとともに、算数や社会の授業におけるコミュニケーション意欲について児童へのインタビューも行います。
英語力を評価するため、イマージョン学級6年生の児童は、標準化テストであるTOEFL Primaryを受験します。標準化テストであるTOEFL Primaryを受験します。このテストの結果は、同じテストを実施している学校の全国平均と比較することができます。
英語は世界的に広く使われている言語です。そのため、日本政府は長年にわたり、学校の外国語(英語)教育の成果を高めることを重要な課題としてきました。文法知識を暗記することを中心とした学習ではなく、実際に英語でコミュニケーションを行う力がますます重視されるようになっています。
そのため、授業では、児童同士や教師と英語でやり取りをする活動が、これまで以上に重要です。この点に関して、従来の英語教育には限界があります。例えば、教師やほかの生徒と英語でやり取りをする時間は限られていますし、そうしたやり取り活動への意欲を高めることも難しいです。
この課題を解決するため、子どもをインターナショナル・スクールに通わせることを選ぶ保護者もいます。しかし、インターナショナル・スクールはアメリカやイギリスのカリキュラムに基づいており、日本の子どもたちに求められる学力の育成にはあまり重点を置いていません。
日本のイマージョン教育校は、その多くが日本の学習指導要領に沿ったカリキュラムで指導していますが、一般的な日本の学校とは一つ大きな違いがあります。それは、多くの教科が外国語(英語)で教えられているという点です。
英語の授業だけでなく、カリキュラム全体を通じて英語でのやり取りが発生します。ですから、一般的な教育環境よりも、英語でコミュニケーションをとろうとする生徒を育成しやすいはずです。理論的には、このようなイマージョン教育は、子どもたちがこれまで日本語で身につけてきた学習内容や知識を活かしながら、日本語の発達も支えつつ、同時に英語力を伸ばすことを目指しています。
イマージョン教育については、長年にわたり多くの研究が行われてきました。その結果、第二言語の能力、第一言語(母語)の能力、そして学業成績のいずれの面でも、良好な成果が報告されています(Johnstone、 2002)。ただし、こうした成果は、さまざまな要因によって左右されます。たとえば、イマージョン教育を受ける期間の長さ、カリキュラムや指導方法、保護者や地域社会のサポート、そして児童一人ひとりの違いなどです。
保護者や地域の人々からは、共通した懸念が指摘されることがあります。
たとえば、教科の内容が主に英語で教えられる場合、児童がまだ十分に英語に習熟していないと、学習内容の理解に悪い影響が出るのではないか、という疑問です。また、小学校は日本語の読み書きという高度なリテラシーの基礎を築く重要な時期でもあります。そのため、日本語の学習に使える時間が減ってしまうのではないか、という懸念もあります。あるいは、児童の英語力は実際どの程度伸びるのか、という点です。なぜなら、日本語を話す教師や友だち、そして日本語社会に囲まれて生活しているからです。
そこで本研究では、こうした疑問のいくつかに答えることも目的としました。そのため、国語を含む教科学習の成果や英語力の成果を確認します。また、テストの点数だけで評価するのではなく、英語でコミュニケーションをとろうとする意欲がどれくらいあるかも調査します。
IBSでは、本プロジェクトの進捗状況や最新情報についてわかりやすく解説した記事を順次公開していく予定です。この研究活動や最新情報にご興味をお持ちの方は、こちらの記事を随時ご参照ください。
(※1)「第二言語におけるコミュニケーション意欲(Willingness to Communicate)とは、特定の相手と特定の場面において、第二言語を使って会話に参加しようとする意欲を指します(MacIntyre et al.、 2001)。
Baker, C., & Wright, W. E.(2021).Foundations of bilingual education and bilingualism (Seventh edition).Multilingual Matters.
Johnstone, R.(2002).Immersion in a Second or Additional Language at School:A Review of the International Research.Scottish CILT (Centre for Information on Language Teaching).
MacIntyre, P. D., Baker, S. C., Clément, R., & Conrod, S.(2001).WILLINGNESS TO COMMUNICATE, SOCIAL SUPPORT, ANDLANGUAGE-LEARNING ORIENTATIONS OF IMMERSION STUDENTS.Studies in Second Language Acquisition, 23(3), 369–388.
https://doi.org/10.1017/S0272263101003035