日本の子供たちが、英語を身につけて ミライに羽ばたくために。

2023.03.10

第2回メディア向けセミナー「最先端のテクノロジーを活用した英語教育 〜研究者・教師・メディアが共に考える会〜」を開催しました

第2回メディア向けセミナー「最先端のテクノロジーを活用した英語教育 〜研究者・教師・メディアが共に考える会〜」を開催しました

2022年12月6日、ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(以下、IBS)は、メディア向けセミナーを開催しました。テーマは、「最先端のテクノロジーを活用した英語教育」。今回は、教育関係メディアのみなさんと「共に考える」ことを主な目的とし、少人数限定のセミナーとしました。当日の概要をご紹介します。

著者:佐藤 有里

 

実施の背景

IBSは、2022年5月に初の試みとしてメディア向けセミナー「VRやAIを活用した最先端の英語学習法」を開催。ご参加いただいた研究者、メディアのみなさまから大変ご好評をいただいたため、第2回目の実施に至りました。

今回は、前回よりも少人数で開催することにより、研究者や学校教員、メディアが自由に意見を交わしながら英語教育におけるテクノロジーの可能性について議論することを主な目的としました。

 

主なトピック

・英語学習のためにAIスピーキングテストができること、できないことは?

・いまの時代の子どもたちに必要な英語教育とは?ICT活用で何が可能になる?

・小学生のVR英語学習には、どのような効果が期待できる?

 

講演「英会話学習におけるInteLLAの可能性 〜Is she a friend or foe?〜」

早稲田大学 GCS研究機構 知覚情報システム研究所 鈴木 駿吾 次席研究員

鈴木駿吾研究員のプレゼンテーションの様子

早稲田大学では、会話AI技術を使って英語でのインタビューを通して、スピーキング能力を判定するエージェントシステム「InteLLA」(Intelligent Language Leaning Assistant)の実証実験が2022年度から始まっています。その研究代表を務める鈴木研究員からは、第二言語習得の研究成果や技術開発の現状に基づき、以下のようなお話がありました。

・先行研究によると、モノローグに基づくスピーキングテストでは、「やり取り」の力を50%程度しか測ることができない。

・「やり取り」の力を適切に測るためには、一貫した振る舞いをしつつも、学習者に合わせて即興で会話を共同構築できる「話し相手」が必要。

・InteLLAは、この課題を解決できる可能性がある。

・ただし、外国語学習への活用の観点では、人間同様に「やり取り」をするだけは不十分であり、言語形式に焦点を当てた活動と組み合わせるなど教師が考えなければいけないことは多い。

・ICTなどの技術発達に伴い、教師は、「うまく教えること」ではなく、言語学習の本質を踏まえたうえで「うまく技術や道具を活用すること」が重要な役割や能力になるのではないか。

 

講演「ICTが当たり前になった先にある教育」

立命館小学校 正頭 英和 主幹教諭

正頭教諭のプレゼンテーションの様子

正頭教諭は、小学生に人気のゲームMinecraft(マインクラフト)を活用した英語授業を実践し、世界的に高い評価を得ています。グループのメンバーと協力して建造物をつくり、そのために必要な会話をすべて英語で行う、という活動です。教育現場で日々子どもたちの「やる気」について考えてきた経験も踏まえ、以下のようなお話がありました。

・Minecraftの活動は、エデュテイメント(教育×エンターテイメント)。子どもたちは、「恥ずかしい」よりも「楽しい」が勝ち、楽しいことをやるために英語を使おうとする。

・テクノロジーによって知識の差を埋められる現代では、「問題解決力」よりも「問題発見力」が求められる。

・子どもたちの「問題発見」や「やりたい」は、体験から生まれる。学校で学ぶものは、「知識」から「体験」にシフトさせることが必要。

・英語の授業も、調べてみたい、つくってみたい、試してみたいという子どもの欲求を満たす体験が大切。「体験」→「感じる」→「考える」→「表現する」というふうに学びにつながる。

・テクノロジーは、すぐに興味が移り変わる子どもたちに寄り添い、時間と距離の制約を受けることなく、いままで学校が提供できなかったような体験を可能にする。

 

講演「VRを活用した小学生の英語学習」

IBS主任研究員 Paul Jacobs

ポール研究員のプレゼンテーションの様子

IBS主任研究員のJacobsは、斎藤 裕紀恵 准教授(中央大学 国際情報学部)と共同で、小学生のVR英語学習に関するパイロット研究プロジェクトに取り組んでいます。バイリンガルである自分自身の経験と照らし合わせながら、プロジェクトの内容や発見について、以下のような報告がありました。

・小学6年生13名を対象にVR英語レッスンを5回実施。

・海外の先行研究に基づき、その環境に合ったタスクを与える指導方法(例:ホテルのフロントでチェックインをする)を取り入れた。

・現時点では、「子どもは英語を使うことに対する不安が減る」、「教師はタスクをつくりやすい」という効果が期待できる。

・課題は、子どもの集中力に合ったVR空間の設定や使い方、リモート・レッスンにおけるトラブル対応を考えることなど。

・ことばを使って何かを体験することは言語習得において重要。日本でも、VR空間を活用すれば、そのような体験を子どもに提供できる可能性がある。

 

ディスカッション「テクノロジーを活用した英語教育の未来」

テクノロジーを活用した英語教育の未来についてディスカッションする研究者たち

講演のあとには原田哲男教授(早稲田大学/IBS学術アドバイザー)、講演者3名、参加メディア(計4社)によるディスカッションを行いました。講演に関する質疑応答にとどまらず、それぞれの専門性や経験を基にした知見や考察が数多く共有されました。以下、議論の内容を一部ご紹介します。

 

子どもが「英語を学びたい」と思うためには?

・学習のゴール(例:話せるようになる)ではなく、体験のゴール(例:一緒に〜をつくる)が大切。

・英語を話せなくても生きていける子どもにとっては、学習のプロセスを楽しんでいたら英語をいつの間にか学んでいた、という英語教育が必要。

 

子どもが英語嫌いにならないためには?

・英語学習を競争のレースに乗せることは、英語嫌いを生む原因の一つ。好きなことをするために英語を学ぶ、という「好き」のレースに乗せたい。競争の先にあるのは敗北だが、「好き」の先には多様性がある。

・学習の結果だけではなく、プロセスを評価する必要がある。みんなを同じ方法で評価する、標準化されたテストには限界がある。

・親や教師は「〜しなさい」と言うのではなく、子どもの学びに寄り添うことが必要。大人も何か新しいことを学んだり、一緒に学ぶ姿勢をもったりしなければ、学習者に共感できない。仲間の存在が学習の困難を乗り越える力になる。

 

子どもは英語学習によって何を身につけるのか?

・機械翻訳が普及しているいま、情報を英語に変換する能力ではなく、英語を使って人間関係を構築する能力が求められる。

・これからは、協働、異文化理解、多様性、コミュニティなどが英語教育のキーワードになってくる。英語学習は「私たちはなぜことばを使うのか」を考えるきっかけになる。

・家庭や学校、職場のほかにも、世界中にさまざまなコミュニティがある。英語を使ってコミュニティを増やすことは、一つのコミュニティでうまくいかなくてもどこかで生きていける力になる。

 

このように英語教育の未来について考えながら、その未来を実現するためのツールとしてテクノロジーを活用できる可能性について議論されました。

 

おわりに

ディスカッションの最後には、ファシリテーターを務めた原田教授が「教育を変えるためには、親や教師など、大人のマインドセットを変えることが最も大切だと実感しました。研究者、教育者、メディアがもっと協力し合うことで、良い方向に変えていけたらいいですね」と話し、対話の重要性について再認識した貴重な機会となりました。

また、全員が同じテーブルに座って参加することで、研究者、教師、親、子ども、メディア、日本社会、国際社会、モノリンガル、バイリンガルというように、さまざまな視点から多角的な議論ができたと考えられます。

今回ご登壇いただいた鈴木 駿吾 次席研究員(早稲田大学)の研究、正頭教諭(立命館小学校)の授業実践については、IBS研究員によるインタビュー記事を当ウェブサイトに掲載しております。そちらもぜひご覧ください。

 

本セミナーに関するお問い合わせ先:contact@bilingualscience.com

 

<登壇者プロフィール>

■早稲田大学 GCS研究機構 知覚情報システム研究所 鈴木 駿吾 次席研究員(研究院 講師)

鈴木 駿吾 次席研究員のお写真

専門は、外国語教育、第二言語習得。質の高い発話とは何か、第二言語での発話はタスクの難易度や性質に応じてどのように変わるか、第二言語学習者が流暢に話せるようになるためにはどのような言語知識が必要か、といったテーマで研究を行う。英国ランカスター大学にて博士号(言語学)を取得し、2021年より現職。ランカスター大学 言語学部 客員講師、早稲田大学 文学学術院 兼担講師、京都工芸繊維大学 特任専門職 英語テスト プログラム・コーディネーターも務める。早稲田大学 GCS研究機構の語学学習支援プロジェクト「人と共に成長するオンライン語学学習支援AIシステムの開発」にて、能力判定システムの研究開発チームを率いる。同研究チームが開発した「InteLLA」は2021年に世界最大の教育コンテスト「the QS-Wharton Reimagine Education Award」で表彰されている。早稲田大学発スタートアップ「株式会社エキュメノポリス」のリサーチ・サイエンティスト。

 

■立命館小学校 正頭 英和 主幹教諭

正頭英和教諭のお写真

立命館小学校(京都市 京都府)にて、ICTやゲームを活用した英語授業のほか、オンライン授業の仕組みづくりにも取り組む。関西大学大学院にて修士号(外国語教育学)を取得。京都市立公立中学校、立命館中学校・高等学校を経て現職。Minecraftを活用した英語授業の実践が高く評価され、2019年にGlobal Teacher Prize 2019(グローバル・ティーチャー賞)のファイナリスト10名の1人に選出された。教育において際立った貢献をした世界各国の教師に敬意を表して捧げられる賞であり、「教育界のノーベル賞」と呼ばれる。また、人気ゲーム「桃太郎電鉄(桃鉄)」の教育版を学校教育機関に無償提供(2023年より開始)するプロジェクトにプロデューサーとして参加するなど、ICT教育やエデュテインメントの普及に貢献する活動も行っている。

株式会社 Edutainment Education代表取締役。

 

■早稲田大学教育学部・総合学術院 原田 哲男 教授(IBS学術アドバイザー)

■IBS主任研究員 Paul Jacobs

 

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